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陰謀編 社交シーズン春②
伯爵、変わらぬ朝の風景
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白豚に平穏な日々が戻ってきたみたいです。
オールポートの屋敷での生活……平和だ。朝食前のウォーキングも爽やかな風を浴びてウキウキモードで楽しめる。かなり、体が絞れてきたので、ジョキングに変えてもいいかも。
あーっ、ウェントブルック辺境伯の城で受けた地獄の走り込みの記憶が甦ってきちゃったよ……。魔獣を追い立てることもできる訓練犬、ドーベルマンみたいな大型犬に追い駆けられながら走る、城の広い裏庭。あの裏庭でドーム球場の何個分あるのよ?
嫌な記憶を払うためにも、ちょっと休憩。よっこいしょと座ったベンチからは、我がオールポート伯爵家の騎士たちが模擬刀で訓練の様子が見える。俺のウォーキングに付き合うのに飽きたディーンが交っているな。けけけ、ボコボコにされてしまえ。
そのディーンが用意した清潔なタオルで汗を拭き、冷たさの残るレモン水で喉を潤す。……ディーンの奴め、完璧な休憩スタイルだ。褒めてやろう、くっそう。
俺は白豚からは脱却しつつあったが、それでも分厚い脂肪に覆われている体を持て余していた。ゆっくりダイエットを自分に許していたが、いつかはキツイ運動メニューを組み込まないとなぁと思いながらも後送りにしていたのだ。
そ、それをウェントブルック辺境伯に訪れた際、当主のルイス殿の好意で騎士団の訓練に参加することになり、見事、豚の着ぐるみが脱げました。……でも、まだぽっちゃりだけど。オールポートの屋敷に戻って、部屋着から運動着、夜着まで服のサイズが合わなくて困ってしまった。ダボダボなんだもん。ふふふっ、嘘、嘘。困ってないよん、嬉しかったよーっだ!
服のサイズ直しはライラが頑張ってくれて、新調する正装などはライオネル氏に依頼した。採寸に来たライオネルの驚いた顔に、俺はフフンと鼻高々に笑って迎えてやったわ。ただなぁ、ライオネルの裁縫の腕は確かなんだが……趣味がなぁ。
「セシル様。こちらのフリルはお付けしましょうか? あ、レースがいいですか? 色はやっぱりピンクですよね!」
「いや、フリルもレースもいらん。色は無難な茶系にしろ」
目をキラキラして提案してきたすべてを冷たく却下してやると、ライオネルは「よよよ」と床に倒れて涙を流す。面倒な奴だなぁ、こいつ。
「ピンクかわいいのに」
「俺にかわいいはいらん。お前の作ったオーバーオールで十分だ。あれだって、恥ずかしかったんだぞ」
着るつもりはなかったがヴァゼーレで着てしまったのは、俺の唯一の汚点である。汚点はいっぱいあるが、唯一と称したほうがカッコイイ。
「あのピンクのオーバーオール、素敵だったでしょう? あの後、セシル様のイメージでこんなの作っちゃいました!」
はい、と満面な笑顔で渡された名刺大の紙には……白豚、子豚。ピンクのオーバーオールを着た白い子豚が描かれていた。なんじゃこりゃ!
あまりのショックに紙を持つ手をプルプルと震わしている俺。それに気づくこともなく、うっとりとヤバイことを話し始めるライオネル。もう、俺の執務室はカオスである。
「この子豚ちゃんを、セシル様がおっしゃっていた、ゆるきゃら? にして、店のあちこちに貼っています。なんだったら子ども服に刺繍しています! 大反響なんですよ」
ライオネルはキャッキャッと楽しそうに、これからの構想をマシンガントークするが、待て待て! 子豚イラストのエプロンはいい。タオルもいい。抱き枕も許そう。だが、下着はやめれ。下着に豚はやめてくれええぇぇぇぇっ。
「節度を持って! 節度を持って、集客に効果があるなら認めるから、せめて節度を……」
ぐぎぎぎっと俺の中の大事なところを削りながらライオネルに申し出ると、奴はあっさりと爆弾を落とした。
「え? この子豚ちゃんはケイシーちゃんが認めてクレモナ商店街のマークになってますよ? トビー君のお店にもヘクター君のパンにも、あちこちのお店で飾られたりデザインに入れたりしてますよ?」
「…………」
そんなこと……領主の俺は知らなかったんだが?
はっ!
しまった、休憩中につい嫌な記憶を呼び起こしてしまった。というか、俺には嫌な記憶しかないのか? もっと楽しい記憶とか嬉しい記憶とか……。う~ん、やっとルーカスのストーカー行為から逃げられたぐらいか?
ルーカスには、とにかくセシル君の記憶が戻るまで待つようにと説得したあと、奴は仕事もあり王都で別れた。もう、オールポートには来ないと思う。なんか、最後のほうでごちゃごちゃと言っていたが、来ないと思う。来ないといいな。
理人も今生では諦めるように言い聞かしたし、これで俺の異世界ライフに憂いなし! ……でもない。つい先日、シャーロットちゃんがちょびっと、ほんのほ~んのちょびっと意識している男の身上調査の報告書が上がってきた。
……ものすごく好青年だった! 知ってたけど、俺の見た「気」もそうだったから知ってたけどーっ。過去もキレイだし、ご家族も素敵だし。素行に問題はないし能力は優秀で性格がいいなんて……なにかの罠か?
しかも次男。婿入りに最適な次男。本人もシャーロットちゃんに好意を寄せている。イケメンなのに女の子慣れしていない不器用系。
み、認めないわけにはいかない。二人の婚約を~っ。悔しいーっ。
思わずタオルの端を噛んでギューイしていて、気がついた。
「俺の自称護衛はどこいった?」
あれれ? ハリソンの姿が見えないな。あれ? あいつ、いつからいなかったけ?
オールポートの屋敷での生活……平和だ。朝食前のウォーキングも爽やかな風を浴びてウキウキモードで楽しめる。かなり、体が絞れてきたので、ジョキングに変えてもいいかも。
あーっ、ウェントブルック辺境伯の城で受けた地獄の走り込みの記憶が甦ってきちゃったよ……。魔獣を追い立てることもできる訓練犬、ドーベルマンみたいな大型犬に追い駆けられながら走る、城の広い裏庭。あの裏庭でドーム球場の何個分あるのよ?
嫌な記憶を払うためにも、ちょっと休憩。よっこいしょと座ったベンチからは、我がオールポート伯爵家の騎士たちが模擬刀で訓練の様子が見える。俺のウォーキングに付き合うのに飽きたディーンが交っているな。けけけ、ボコボコにされてしまえ。
そのディーンが用意した清潔なタオルで汗を拭き、冷たさの残るレモン水で喉を潤す。……ディーンの奴め、完璧な休憩スタイルだ。褒めてやろう、くっそう。
俺は白豚からは脱却しつつあったが、それでも分厚い脂肪に覆われている体を持て余していた。ゆっくりダイエットを自分に許していたが、いつかはキツイ運動メニューを組み込まないとなぁと思いながらも後送りにしていたのだ。
そ、それをウェントブルック辺境伯に訪れた際、当主のルイス殿の好意で騎士団の訓練に参加することになり、見事、豚の着ぐるみが脱げました。……でも、まだぽっちゃりだけど。オールポートの屋敷に戻って、部屋着から運動着、夜着まで服のサイズが合わなくて困ってしまった。ダボダボなんだもん。ふふふっ、嘘、嘘。困ってないよん、嬉しかったよーっだ!
服のサイズ直しはライラが頑張ってくれて、新調する正装などはライオネル氏に依頼した。採寸に来たライオネルの驚いた顔に、俺はフフンと鼻高々に笑って迎えてやったわ。ただなぁ、ライオネルの裁縫の腕は確かなんだが……趣味がなぁ。
「セシル様。こちらのフリルはお付けしましょうか? あ、レースがいいですか? 色はやっぱりピンクですよね!」
「いや、フリルもレースもいらん。色は無難な茶系にしろ」
目をキラキラして提案してきたすべてを冷たく却下してやると、ライオネルは「よよよ」と床に倒れて涙を流す。面倒な奴だなぁ、こいつ。
「ピンクかわいいのに」
「俺にかわいいはいらん。お前の作ったオーバーオールで十分だ。あれだって、恥ずかしかったんだぞ」
着るつもりはなかったがヴァゼーレで着てしまったのは、俺の唯一の汚点である。汚点はいっぱいあるが、唯一と称したほうがカッコイイ。
「あのピンクのオーバーオール、素敵だったでしょう? あの後、セシル様のイメージでこんなの作っちゃいました!」
はい、と満面な笑顔で渡された名刺大の紙には……白豚、子豚。ピンクのオーバーオールを着た白い子豚が描かれていた。なんじゃこりゃ!
あまりのショックに紙を持つ手をプルプルと震わしている俺。それに気づくこともなく、うっとりとヤバイことを話し始めるライオネル。もう、俺の執務室はカオスである。
「この子豚ちゃんを、セシル様がおっしゃっていた、ゆるきゃら? にして、店のあちこちに貼っています。なんだったら子ども服に刺繍しています! 大反響なんですよ」
ライオネルはキャッキャッと楽しそうに、これからの構想をマシンガントークするが、待て待て! 子豚イラストのエプロンはいい。タオルもいい。抱き枕も許そう。だが、下着はやめれ。下着に豚はやめてくれええぇぇぇぇっ。
「節度を持って! 節度を持って、集客に効果があるなら認めるから、せめて節度を……」
ぐぎぎぎっと俺の中の大事なところを削りながらライオネルに申し出ると、奴はあっさりと爆弾を落とした。
「え? この子豚ちゃんはケイシーちゃんが認めてクレモナ商店街のマークになってますよ? トビー君のお店にもヘクター君のパンにも、あちこちのお店で飾られたりデザインに入れたりしてますよ?」
「…………」
そんなこと……領主の俺は知らなかったんだが?
はっ!
しまった、休憩中につい嫌な記憶を呼び起こしてしまった。というか、俺には嫌な記憶しかないのか? もっと楽しい記憶とか嬉しい記憶とか……。う~ん、やっとルーカスのストーカー行為から逃げられたぐらいか?
ルーカスには、とにかくセシル君の記憶が戻るまで待つようにと説得したあと、奴は仕事もあり王都で別れた。もう、オールポートには来ないと思う。なんか、最後のほうでごちゃごちゃと言っていたが、来ないと思う。来ないといいな。
理人も今生では諦めるように言い聞かしたし、これで俺の異世界ライフに憂いなし! ……でもない。つい先日、シャーロットちゃんがちょびっと、ほんのほ~んのちょびっと意識している男の身上調査の報告書が上がってきた。
……ものすごく好青年だった! 知ってたけど、俺の見た「気」もそうだったから知ってたけどーっ。過去もキレイだし、ご家族も素敵だし。素行に問題はないし能力は優秀で性格がいいなんて……なにかの罠か?
しかも次男。婿入りに最適な次男。本人もシャーロットちゃんに好意を寄せている。イケメンなのに女の子慣れしていない不器用系。
み、認めないわけにはいかない。二人の婚約を~っ。悔しいーっ。
思わずタオルの端を噛んでギューイしていて、気がついた。
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あれれ? ハリソンの姿が見えないな。あれ? あいつ、いつからいなかったけ?
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