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陰謀編 社交シーズン春②
伯爵、夜会で恐怖する
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王宮の夜会会場となっている広間に入るとき、門を守る騎士に二度見され、入場する貴族の名前を呼ぶ係の使用人は俺の顔と名簿を何度も視線を往復させていた。
ふふふっのふーっだ! どうだ、俺の痩せた姿は! まだ休日のお父さんのような腹だが、ぷくぷくの手足やパンパンの頬っぺたはかなり減って別人のようだろう?
俺の名前が呼ばれても注目する人はいなかったが、スルスル―ッと人の間を縫って移動する俺の姿に、紳士は口を開けたマヌケ面、淑女は扇で口元を隠すのを忘れて目もガン開きになった。わーはははははっ、いい気分だぜ。
俺より爵位が高い兄上とイライアス様の登場はまだ先なので、俺はフラフラと軽食が用意されているテーブルへと向かう。ダイエット中ではあるが、チートディーも必要である。今日が俺のチートディーだ! 今、決めた。王宮の高レベルな料理アーンド盛り付けを堪能して、オールポート伯爵領に持ち帰らないとな! あー、勤勉な伯爵様は忙しい、忙しい。どれ、食べようかなっ。
長いテーブルに真っ白なテーブルクロス、その上に置かれた美味しそうな料理。うん? スイーツ系はないな……もう少し後で出てくるかな? 鮮やかな料理に目移りしていると、ボソボソと人の内緒話が耳に入ってくる。誰だ? やっぱり食い気には勝てないとか、すぐにまた醜く太るって言った奴は! ギロリと眼光鋭く噂していた集団を睨むと、蜘蛛の子を散らすようにサァーッといなくなる。ちっ、これだから陰湿な貴族社会ってやつはよーっ。気分が悪いぜ。
「こらこら。そんな顔をしないんだよ。せっかく家畜から人へとレベルアップしたのだから」
クスクスと苦笑して酷いことを言い放つのは兄上の愛妻? イライアス様だ。もちろん妻をエスコートする兄上も一緒にいる。兄上は俺の悪口を言っていた輩をじぃっと見つめていた。弟大好き兄上だから、きっとあいつらに仕返しするため目に焼き付けているのだろう。よし、やっておしまいなさい!
「ほら、陛下たちが登場するから、軽食を摘まむのは後にしなさい」
イライアス様の言葉に俺は口を尖らして渋々フロアの中央へと移動する。前回は陛下に直接ご挨拶をしたが、今回はいいよね? 俺はたかが伯爵だし。兄上も今回はイライアス様をエスコートしているしね。俺の中では王冠被った知らないおっさんよりも、夜会で出される料理に興味津々です!
げっぷ。
た、食べ過ぎたかも……。いつもはバランスの取れた食事としつこいぐらいの咀嚼で満腹にしていたのだが、華美で贅沢を主とした料理にモグモグし過ぎるとマナーが悪いと思われるため早食いになり……壁に置かれた椅子に座ってグロッキー。はぁぁぁぁっ、そんなに量は食べてないのにお腹が苦しいぃぃぃっ。ライオネルの奴め、サイズピッタリにズボンを縫うなよ……ああ、アジャスター付のズボンが欲しい……。
「なにをやっている、セシル?」
「あ、おっ……ゲホッゲホッ」
あっぶねぇぇぇぇぇぇぇっ、本人を前にして「おっさん王子」呼ばわりするところだった。
俺の前で偉そうに立っているのはこの国の第二王子、ダドリー殿下だ。セシル君の同級生で当時は交流がなかったみたいだが、俺には絡みたがる寂しん坊である。お前が送ってくる手紙で、引出が一つ潰されたんだぞ? しかも内容は日常のたわいないことばかりで、重要度はゼロだ。王族から手紙をもらったら返事しないわけにいかないから、俺とおっさん王子は文通友達になってしまった。なんて、迷惑な。
「コホン。ちと食休みだ」
いま動いたらどこかのボタンが飛んでいってしまいそうなほどの満腹感。兄上とイライアス様は二人の世界でダンスに興じているので、俺はここでしばらく休みたい……わかったらどっか行け。お前がいると俺まで目立つわ。
「しかし……ずいぶん痩せたな。これならセシルだと判別できるぞ。……まだ太ましいが」
「放っておけ。ここからは、ただ痩せるだけでなく、見栄えのよろしいスタイルになるよう計算する必要があるのだ」
プイッ。こいつ……人を褒めるなら褒めるだけで止めておけよ。なんで余計な一言を入れちゃうの? それはデリカシーがない奴と女の子に嫌われるぞ、気をつけろ。俺も前世では姉と妹に散々注意されたが治らなかった。つい、口から漏れ出ちゃう、本気、本心がねぇ。
「ふむ、学生時代のセシルに戻るか……。では秋の夜会では旧友たちがうるさいだろうな」
アッハハハと気持ちよく笑ってくれるが、姿形が変わったぐらいで無視したり蔑視した奴らなど旧友でもなんでもないから、俺は気にしない。スルーしてやる、完全無視だ、この野郎。記憶が戻ったセシル君が友達が一人もいないことに愕然とするかもしれないが、元々引きこもりで友達ゼロにしたのはセシル君だし、そこは諦めてもらおう。
「失礼。もしかして……オールポート伯爵殿ですか?」
おっさん王子の後ろから耳に心地よい低めの声をかけられた。誰ぞ? もしかして旧友って奴か? おっさん王子が振り向くとチラリとその人物の姿が目に映った。
「これはこれは、プレイステッド家の……。まさか春の夜会に参加されると思わなかった」
「ええ。しばらく我がプレイステッド家は夜会に不参加だったもので、今回は私が参加いたしました。久しぶりの王都で心が躍るようでございます」
……な、なんだそいつ。ぞわわわわと背中と腕に寒気が走る。目を逸らしたいのにその人物の姿に魅入られたように動かせない。
「ダドリー殿下はオールポート伯爵殿とお知り合いでしたか?」
「ああ……学園で一緒だった」
そいつと何気なく会話を続けているおっさん王子の鈍さに舌打ちをしたい気持ちだが、俺は何もできないでいた。
だ、誰だ、こいつは?
ふふふっのふーっだ! どうだ、俺の痩せた姿は! まだ休日のお父さんのような腹だが、ぷくぷくの手足やパンパンの頬っぺたはかなり減って別人のようだろう?
俺の名前が呼ばれても注目する人はいなかったが、スルスル―ッと人の間を縫って移動する俺の姿に、紳士は口を開けたマヌケ面、淑女は扇で口元を隠すのを忘れて目もガン開きになった。わーはははははっ、いい気分だぜ。
俺より爵位が高い兄上とイライアス様の登場はまだ先なので、俺はフラフラと軽食が用意されているテーブルへと向かう。ダイエット中ではあるが、チートディーも必要である。今日が俺のチートディーだ! 今、決めた。王宮の高レベルな料理アーンド盛り付けを堪能して、オールポート伯爵領に持ち帰らないとな! あー、勤勉な伯爵様は忙しい、忙しい。どれ、食べようかなっ。
長いテーブルに真っ白なテーブルクロス、その上に置かれた美味しそうな料理。うん? スイーツ系はないな……もう少し後で出てくるかな? 鮮やかな料理に目移りしていると、ボソボソと人の内緒話が耳に入ってくる。誰だ? やっぱり食い気には勝てないとか、すぐにまた醜く太るって言った奴は! ギロリと眼光鋭く噂していた集団を睨むと、蜘蛛の子を散らすようにサァーッといなくなる。ちっ、これだから陰湿な貴族社会ってやつはよーっ。気分が悪いぜ。
「こらこら。そんな顔をしないんだよ。せっかく家畜から人へとレベルアップしたのだから」
クスクスと苦笑して酷いことを言い放つのは兄上の愛妻? イライアス様だ。もちろん妻をエスコートする兄上も一緒にいる。兄上は俺の悪口を言っていた輩をじぃっと見つめていた。弟大好き兄上だから、きっとあいつらに仕返しするため目に焼き付けているのだろう。よし、やっておしまいなさい!
「ほら、陛下たちが登場するから、軽食を摘まむのは後にしなさい」
イライアス様の言葉に俺は口を尖らして渋々フロアの中央へと移動する。前回は陛下に直接ご挨拶をしたが、今回はいいよね? 俺はたかが伯爵だし。兄上も今回はイライアス様をエスコートしているしね。俺の中では王冠被った知らないおっさんよりも、夜会で出される料理に興味津々です!
げっぷ。
た、食べ過ぎたかも……。いつもはバランスの取れた食事としつこいぐらいの咀嚼で満腹にしていたのだが、華美で贅沢を主とした料理にモグモグし過ぎるとマナーが悪いと思われるため早食いになり……壁に置かれた椅子に座ってグロッキー。はぁぁぁぁっ、そんなに量は食べてないのにお腹が苦しいぃぃぃっ。ライオネルの奴め、サイズピッタリにズボンを縫うなよ……ああ、アジャスター付のズボンが欲しい……。
「なにをやっている、セシル?」
「あ、おっ……ゲホッゲホッ」
あっぶねぇぇぇぇぇぇぇっ、本人を前にして「おっさん王子」呼ばわりするところだった。
俺の前で偉そうに立っているのはこの国の第二王子、ダドリー殿下だ。セシル君の同級生で当時は交流がなかったみたいだが、俺には絡みたがる寂しん坊である。お前が送ってくる手紙で、引出が一つ潰されたんだぞ? しかも内容は日常のたわいないことばかりで、重要度はゼロだ。王族から手紙をもらったら返事しないわけにいかないから、俺とおっさん王子は文通友達になってしまった。なんて、迷惑な。
「コホン。ちと食休みだ」
いま動いたらどこかのボタンが飛んでいってしまいそうなほどの満腹感。兄上とイライアス様は二人の世界でダンスに興じているので、俺はここでしばらく休みたい……わかったらどっか行け。お前がいると俺まで目立つわ。
「しかし……ずいぶん痩せたな。これならセシルだと判別できるぞ。……まだ太ましいが」
「放っておけ。ここからは、ただ痩せるだけでなく、見栄えのよろしいスタイルになるよう計算する必要があるのだ」
プイッ。こいつ……人を褒めるなら褒めるだけで止めておけよ。なんで余計な一言を入れちゃうの? それはデリカシーがない奴と女の子に嫌われるぞ、気をつけろ。俺も前世では姉と妹に散々注意されたが治らなかった。つい、口から漏れ出ちゃう、本気、本心がねぇ。
「ふむ、学生時代のセシルに戻るか……。では秋の夜会では旧友たちがうるさいだろうな」
アッハハハと気持ちよく笑ってくれるが、姿形が変わったぐらいで無視したり蔑視した奴らなど旧友でもなんでもないから、俺は気にしない。スルーしてやる、完全無視だ、この野郎。記憶が戻ったセシル君が友達が一人もいないことに愕然とするかもしれないが、元々引きこもりで友達ゼロにしたのはセシル君だし、そこは諦めてもらおう。
「失礼。もしかして……オールポート伯爵殿ですか?」
おっさん王子の後ろから耳に心地よい低めの声をかけられた。誰ぞ? もしかして旧友って奴か? おっさん王子が振り向くとチラリとその人物の姿が目に映った。
「これはこれは、プレイステッド家の……。まさか春の夜会に参加されると思わなかった」
「ええ。しばらく我がプレイステッド家は夜会に不参加だったもので、今回は私が参加いたしました。久しぶりの王都で心が躍るようでございます」
……な、なんだそいつ。ぞわわわわと背中と腕に寒気が走る。目を逸らしたいのにその人物の姿に魅入られたように動かせない。
「ダドリー殿下はオールポート伯爵殿とお知り合いでしたか?」
「ああ……学園で一緒だった」
そいつと何気なく会話を続けているおっさん王子の鈍さに舌打ちをしたい気持ちだが、俺は何もできないでいた。
だ、誰だ、こいつは?
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