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陰謀編 社交シーズン春②
伯爵、プレイステッド家のやらかしを知る
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軽い気持ちで参加した春の夜会で、恐ろしいバケモノと遭遇した俺は、ぐったりと草臥れた風体で馬車を下りた。行きはライオネルが用意した盛装に上機嫌の鼻歌交じりで出かけ、帰りはゾンビ状態で戻ってきた俺の姿に、さすがのヴァスコも片目だけピクリと動かして驚いていた。
夜会が開かれた広間の近くに用意されていた従者の部屋で、のんびりと食事を楽しんでいたディーンも事情を知らないので、馬車の中で俺の様子にオロオロとしていた。……説明したくない。あんなおっかないバケモノの話なんてしたくない。できれば忘れたい。俺とは関係のないこととして蓋をしておきたい……。でも、あの野郎、俺に領地経営の話を聞きたいとか絡んできたから、ひょっとしてお付き合いをしないとダメなのかも……。
うっ……想像したら吐きそうになった。
決して、夜会で出された軽食を食いすぎたからではない!
「大丈夫ですか、セシル様?」
馬車から下りるときヴァスコも手を貸してくれた。ディーンとヴァスコに抱えられるようにして屋敷へと入る。うむ……シャーロットちゃんは明日お友達のお茶会にお呼ばれしているから早寝しているだろう。パパンの情けない姿は見ないでくれ。
よっこいしょっと。
はああぁぁぁぁぁっ。我が家のソファーに座って、ようやく深く息が吸える。ディーンがヴァスコに事情聴取されているが、そいつは何も知らないぞ。フーフーと出された紅茶をちびっとずつ飲む。……甘くしよう。そうしよう。今日はチートディーと決めたから、問題ない、問題ない。
砂糖をドプドプと紅茶にぶっこんでグビグビと飲むと、脳みそに糖分が補充されたからか、大事なことを思い出した。
「ヴァスコ。プレイステッド家から手紙がきたらハーディング侯爵家に回してくれ。特に訪問の要望には応えないように! 代理の者が来たら窓口はすべてハーディング侯爵家だと伝えて追い返せ」
「……は?」
ディーンとヴァスコが揃ってこちらに向き、首をコテンと傾げる。プレイステッド辺境伯家はオールポート伯爵家よりも家格は高いが、兄上が間に立ってくれると請け負ってくれたからには、全力でそれに乗っかる! あんな奴と二度と会いたくないやい!
「夜会で会ったんだよ、プレイステッド辺境伯家の息子に。……う~んと、ラファエルって名前だったか?」
「現プレイステッド辺境伯の二子、ラファエル・プレイステッド様ですか? それはまぁ……セシル様は運がいいのか、悪いのか……」
ヴァスコの同情の眼差しに俺の背中はゾクッとした。え? なに? やっぱり、あいつ……ものすごく悪い奴なの?
ラファエル・プレイステッド。
奴こそがヴァスコが転職先にプレイステッド家を候補に挙げた理由だった。つまり、トラブルの種でありドロドロ愛憎劇の主役の一人である。
「プレイステッド辺境伯家への就職を考えたのは、ウェントブルック辺境伯家と同じ理由です」
スチャッと胸に手を当てて澄まし顔で話すヴァスコ。ウェントブルック辺境伯家の問題ってなんだっけ? ルイス殿の腹黒さは身内であれば頼もしく感じるはずだし……はて?
「セシル様。もう忘れちゃったんですか? ウェントブルック辺境伯家の問題ってルーカス副団長のことでしょう?」
「ん? あ……ああ、継承の魔道具の件か!」
ポンッと手のひらを拳で叩いて俺は声を上げた。移転の魔道具を使用する許可だけじゃなく、王家に絶対の忠誠を誓える当主を選択すべく用いられる魔道具。野心があったり浅慮だったりすると魔道具に選ばれることはないという、つまり余程アレじゃなければ選ばれるという魔道具。先代ウェントブルック辺境伯は、その魔道具を嫡男ルイス殿だけでなく、ルーカスにも使用してしまった。結果、二人ともが継承の魔道具に選ばれるという混乱を齎した。
同じ理由……って、プレイステッド辺境伯家も嫡男だけでなく、ラファエルにも魔道具を使用したのか? それで、ルーカスのように選ばれてしまったと?
「ウェントブルック家の不幸は先代辺境伯……正しくは辺境伯ではなくその伴侶ですが、剣術以外は狭量な男だったこと。プレイステッド家は、先代が頭の弱い娘を娶ったことです」
ヴァスコはふぅーっと息を吐いたあと、プレイステッド辺境伯家とラファエルのことを教えてくれた。
その前に、ウェントブルック辺境伯のやらかしに、継承の魔道具って王家に忠誠誓えれば頭が足りなくてもいいのかと鼻で笑っていたが、どうやらウェントブルック辺境伯家として継承の魔道具に認められたのはルーカスの母親だったらしい。血筋は母親が正統で、やらかした父親は縁戚。腕っぷしだけを認められて女辺境伯様と婚姻できたが、魔獣討伐で前に出るのは父親だったため、周りに辺境伯だと誤解されていたらしい。でも、本当は辺境伯の夫で婿入り。そんなこんなで鬱憤が爆発して犠牲になったのがルーカスだ。
じゃあ、プレイステッド辺境伯家の先代の奥さんがやらかして犠牲になったのがラファエルなのか? あいつは犠牲者を量産しても自分が犠牲になるようなタマではないと思っていたが……。
「プレイステッド家としては交易を重視して、ある特産品で儲けている島国の貴族と婚姻を結ぶことになったのですが……。その娘が絵に描いたような我儘娘でしてね」
その娘はラファエルの祖母になる。とにかく贅沢好きで派手好きだったそうだ。こちらの国のマナーも拙く表に出せないため、社交はさせていなかったが、それを哀れに思ったのが間違いだった。商会や裕福な平民、芸術家との交流は好きにさせていた。ちやほやとしてくれるそれらに惑わされ、金を湯水のように使い、あげくには辺境伯の領地まで切り売りされた。
「……とうとう、領地の隅で幽閉されることになったのです」
……とんでもねぇ、奥様だな。
夜会が開かれた広間の近くに用意されていた従者の部屋で、のんびりと食事を楽しんでいたディーンも事情を知らないので、馬車の中で俺の様子にオロオロとしていた。……説明したくない。あんなおっかないバケモノの話なんてしたくない。できれば忘れたい。俺とは関係のないこととして蓋をしておきたい……。でも、あの野郎、俺に領地経営の話を聞きたいとか絡んできたから、ひょっとしてお付き合いをしないとダメなのかも……。
うっ……想像したら吐きそうになった。
決して、夜会で出された軽食を食いすぎたからではない!
「大丈夫ですか、セシル様?」
馬車から下りるときヴァスコも手を貸してくれた。ディーンとヴァスコに抱えられるようにして屋敷へと入る。うむ……シャーロットちゃんは明日お友達のお茶会にお呼ばれしているから早寝しているだろう。パパンの情けない姿は見ないでくれ。
よっこいしょっと。
はああぁぁぁぁぁっ。我が家のソファーに座って、ようやく深く息が吸える。ディーンがヴァスコに事情聴取されているが、そいつは何も知らないぞ。フーフーと出された紅茶をちびっとずつ飲む。……甘くしよう。そうしよう。今日はチートディーと決めたから、問題ない、問題ない。
砂糖をドプドプと紅茶にぶっこんでグビグビと飲むと、脳みそに糖分が補充されたからか、大事なことを思い出した。
「ヴァスコ。プレイステッド家から手紙がきたらハーディング侯爵家に回してくれ。特に訪問の要望には応えないように! 代理の者が来たら窓口はすべてハーディング侯爵家だと伝えて追い返せ」
「……は?」
ディーンとヴァスコが揃ってこちらに向き、首をコテンと傾げる。プレイステッド辺境伯家はオールポート伯爵家よりも家格は高いが、兄上が間に立ってくれると請け負ってくれたからには、全力でそれに乗っかる! あんな奴と二度と会いたくないやい!
「夜会で会ったんだよ、プレイステッド辺境伯家の息子に。……う~んと、ラファエルって名前だったか?」
「現プレイステッド辺境伯の二子、ラファエル・プレイステッド様ですか? それはまぁ……セシル様は運がいいのか、悪いのか……」
ヴァスコの同情の眼差しに俺の背中はゾクッとした。え? なに? やっぱり、あいつ……ものすごく悪い奴なの?
ラファエル・プレイステッド。
奴こそがヴァスコが転職先にプレイステッド家を候補に挙げた理由だった。つまり、トラブルの種でありドロドロ愛憎劇の主役の一人である。
「プレイステッド辺境伯家への就職を考えたのは、ウェントブルック辺境伯家と同じ理由です」
スチャッと胸に手を当てて澄まし顔で話すヴァスコ。ウェントブルック辺境伯家の問題ってなんだっけ? ルイス殿の腹黒さは身内であれば頼もしく感じるはずだし……はて?
「セシル様。もう忘れちゃったんですか? ウェントブルック辺境伯家の問題ってルーカス副団長のことでしょう?」
「ん? あ……ああ、継承の魔道具の件か!」
ポンッと手のひらを拳で叩いて俺は声を上げた。移転の魔道具を使用する許可だけじゃなく、王家に絶対の忠誠を誓える当主を選択すべく用いられる魔道具。野心があったり浅慮だったりすると魔道具に選ばれることはないという、つまり余程アレじゃなければ選ばれるという魔道具。先代ウェントブルック辺境伯は、その魔道具を嫡男ルイス殿だけでなく、ルーカスにも使用してしまった。結果、二人ともが継承の魔道具に選ばれるという混乱を齎した。
同じ理由……って、プレイステッド辺境伯家も嫡男だけでなく、ラファエルにも魔道具を使用したのか? それで、ルーカスのように選ばれてしまったと?
「ウェントブルック家の不幸は先代辺境伯……正しくは辺境伯ではなくその伴侶ですが、剣術以外は狭量な男だったこと。プレイステッド家は、先代が頭の弱い娘を娶ったことです」
ヴァスコはふぅーっと息を吐いたあと、プレイステッド辺境伯家とラファエルのことを教えてくれた。
その前に、ウェントブルック辺境伯のやらかしに、継承の魔道具って王家に忠誠誓えれば頭が足りなくてもいいのかと鼻で笑っていたが、どうやらウェントブルック辺境伯家として継承の魔道具に認められたのはルーカスの母親だったらしい。血筋は母親が正統で、やらかした父親は縁戚。腕っぷしだけを認められて女辺境伯様と婚姻できたが、魔獣討伐で前に出るのは父親だったため、周りに辺境伯だと誤解されていたらしい。でも、本当は辺境伯の夫で婿入り。そんなこんなで鬱憤が爆発して犠牲になったのがルーカスだ。
じゃあ、プレイステッド辺境伯家の先代の奥さんがやらかして犠牲になったのがラファエルなのか? あいつは犠牲者を量産しても自分が犠牲になるようなタマではないと思っていたが……。
「プレイステッド家としては交易を重視して、ある特産品で儲けている島国の貴族と婚姻を結ぶことになったのですが……。その娘が絵に描いたような我儘娘でしてね」
その娘はラファエルの祖母になる。とにかく贅沢好きで派手好きだったそうだ。こちらの国のマナーも拙く表に出せないため、社交はさせていなかったが、それを哀れに思ったのが間違いだった。商会や裕福な平民、芸術家との交流は好きにさせていた。ちやほやとしてくれるそれらに惑わされ、金を湯水のように使い、あげくには辺境伯の領地まで切り売りされた。
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……とんでもねぇ、奥様だな。
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