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婚約破棄編
白豚、過去を知る
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さて、俺が記憶喪失で何がなんだかわからないただの白豚だということがみんなに理解してもらえたので、本題です。
「婚約破棄、ですか?」
ベンジャミンが目を見開いて俺の言葉を繰り返す。
気のせいか若い女二人がギリギリと鋭い視線をこちらへと向けてくる。
これが殺意か……俺ってば殺される?
「う、うん。でも、長女? の婚約者を次女の婚約者にするってどうなの?」
ベンジャミンから自分の基本情報を教えてもらったけど、俺は貴族の当主らしい。
このだらしなくも不甲斐ない俺はいったいどこの誰なんでしょう? と尋ねた答えがこれだ。
「……伯爵?」
俺は、伯爵様らしい。領地持ちの。あんまり広くない領地だけど、王都からも近く、肥沃な土地と鉱山がある豊かな領地だという。
うーむ、このカラフルな髪や瞳の色から日本じゃねぇなと感じてはいたが、外国のしかも貴族社会ってだけでも受け入れがたいのに、領地持ちって俺が領地経営しなきゃダメじゃん。
本当に、この白豚が貴族?
そして貴族の子供の婚約ってそんな簡単に変更できないでしょ?
婚約は契約なんだから、社畜営業の俺にとって契約なんて最重要案件だよ。
それなのに内容をコロコロと変えられたらやってられないって。
「……ふーっ。まずシャーロット様は長女であり唯一の跡取りです」
「……へ?」
あのガリガリに痩せた美少女ちゃんが唯一の跡取り?
なら、あのニセ乳と下品ママは? 俺の奥さんで娘じゃないの?
「す、すみません。せ、説明をお願いします」
ペコリと頭を下げたつもりだが、脂肪で埋まった首ではどこまで下げられたことか……。
それでも、下働きの面々からは息を呑む音が聞こえた。
今は亡き前妻、サンドラさんはオールポート伯爵家の一人娘だった。
つまり、この伯爵家は奥さんの家で、俺は隣の領地のハーディング侯爵家の次男で婿入りだ。
二人の間に生まれたのが、あのガリガリ美少女のシャーロット・オールポートちゃん、十四歳。
そして、奥さんのサンドラが事故で亡くなって、後妻としてこの屋敷に乗り込んできたのがあの下品ママとニセ乳娘。
「ん?ニセ……ゴホンゴホン。あー、次女のモニカは連れ子?」
俺の子供じゃないじゃーんと、嬉しくてちょっと浮かれた声で尋ねたら、ベンジャミンから絶対零度の視線で射抜かれた。
ビュルルルル……寒いっ。
「モニカ様は間違いなく旦那様の子供だそうです。町の飲み屋で知り合い一夜を共にしたらしいですよ」
「ええーっ。ちゃんと調べたら違うんじゃねぇの?」
DNA検査とかちゃんとしようよ。
「……必要ないと拒否されたのは旦那様です」
「……すみません」
覚えてません! えー、今からでも遅くないから調べよう……いや、待てよ。
「今、あのモニカが俺の子供じゃないとわかったら、婚約破棄が白紙になっちまう。そうするとあのニヤけた野郎とシャーロットちゃんの婚約が維持されてしまう」
むむむ、あのニヤけたスケベ野郎とシャーロットちゃんを結婚させるのは、ちょっと嫌。
この体の持ち主であるセシルの記憶はないし、もしかしたら意識だけ別人なのかもしれないけど、俺の娘なら幸せな結婚をしてほしい。
「旦那様はシャーロット様の婚約に反対なのですか?」
ベンジャミンからの問いかけに俺は頷くと、正直な気持ちを吐露した。
「あのニヤけ野郎は信用できん。そもそも後妻? とあの娘もなんだか好きになれない。シャーロットちゃんは……なんであんなに瘦せているんだ? 跡取り娘なら、もっと大事にされているはずなのに」
彼女の境遇に思わず涙目になり鼻水を啜りながら言葉を紡ぐと、殺意マンマンな女二人が立ち上がり怒鳴った。
「「旦那様のせいでしょが!」」
え? 俺が何かしましたか?
……何もしてませんでしたーっ!
もうもう、記憶を失くす前の俺、この白豚ちゃんは何を考えていたの?
「つまり、俺は前妻とは政略結婚で愛はなくほぼ放置。生まれた娘であるシャーロットちゃんに対しても関心はなくほぼ無視。押しかけてきた女とその子供も反論することなく受け入れた後は、その女の好き勝手を許す……というかまったく興味なし。俺は領主の仕事もほぼ放棄して、差し出された書類にサインするだけ」
鬼の形相の女二人からの説明を復唱すると、ベンジャミンたちが何度も頷いた。
俺って……俺ってどクズじゃん。
「それで、後妻がこのオールポート家を乗っ取るために姉の婚約者を自分の娘の婚約者にする画策を施していると。……婚約者が代わったら家継げるの?」
そんな簡単な話なの?
「いいえ。ただの嫌がらせか……。万が一シャーロット様がお亡くなりになったときに乗っとるつもりでは?」
「はあ? あの子はまだ若いでしょうが? ちょっと痩せすぎだけど、死ぬなんて……。え? もしかして病気?」
そういえば、俺の最初の奥さんも早死だもんね、事故死だけど。
「……自分の子供、モニカ様を跡継ぎにするため、シャーロット様のお命を狙っているのです。奥様は今までにも様々な嫌がらせをシャーロット様にしています」
「食事を抜く」
「使用人の仕事を押し付ける」
「ドレスや宝石を取り上げる」
「使用人でも住まない屋根裏部屋に押し込める」
「うわ……」
それって虐め? ドアマットヒロインってやつじゃないか。
ああ、だから着ているドレスはどこか草臥れていたし、指の先は荒れていたんだ。
折れそうなほど細い体に、手入れされていない髪の毛。
それって、あの派手なメイドと陰険執事もグルだよな?
「前の奥さんのときの使用人ってどうしたんだ? 彼らならシャーロットちゃんの味方になってくれると思うけど?」
正統な跡取りはシャーロットちゃんなんだし、昔からオールポート家に仕えている使用人たちはシャーロットちゃんの味方でしょ?
あの派手メイドと陰険執事は下品ママが連れてきた仲間だろう。
「ん?」
ベンジャミンたちが半眼で俺を見ているんだが?
「コホン。その昔ながらの使用人が今、旦那様の前にいる下働きの者たちです」
……ええーっ!
「婚約破棄、ですか?」
ベンジャミンが目を見開いて俺の言葉を繰り返す。
気のせいか若い女二人がギリギリと鋭い視線をこちらへと向けてくる。
これが殺意か……俺ってば殺される?
「う、うん。でも、長女? の婚約者を次女の婚約者にするってどうなの?」
ベンジャミンから自分の基本情報を教えてもらったけど、俺は貴族の当主らしい。
このだらしなくも不甲斐ない俺はいったいどこの誰なんでしょう? と尋ねた答えがこれだ。
「……伯爵?」
俺は、伯爵様らしい。領地持ちの。あんまり広くない領地だけど、王都からも近く、肥沃な土地と鉱山がある豊かな領地だという。
うーむ、このカラフルな髪や瞳の色から日本じゃねぇなと感じてはいたが、外国のしかも貴族社会ってだけでも受け入れがたいのに、領地持ちって俺が領地経営しなきゃダメじゃん。
本当に、この白豚が貴族?
そして貴族の子供の婚約ってそんな簡単に変更できないでしょ?
婚約は契約なんだから、社畜営業の俺にとって契約なんて最重要案件だよ。
それなのに内容をコロコロと変えられたらやってられないって。
「……ふーっ。まずシャーロット様は長女であり唯一の跡取りです」
「……へ?」
あのガリガリに痩せた美少女ちゃんが唯一の跡取り?
なら、あのニセ乳と下品ママは? 俺の奥さんで娘じゃないの?
「す、すみません。せ、説明をお願いします」
ペコリと頭を下げたつもりだが、脂肪で埋まった首ではどこまで下げられたことか……。
それでも、下働きの面々からは息を呑む音が聞こえた。
今は亡き前妻、サンドラさんはオールポート伯爵家の一人娘だった。
つまり、この伯爵家は奥さんの家で、俺は隣の領地のハーディング侯爵家の次男で婿入りだ。
二人の間に生まれたのが、あのガリガリ美少女のシャーロット・オールポートちゃん、十四歳。
そして、奥さんのサンドラが事故で亡くなって、後妻としてこの屋敷に乗り込んできたのがあの下品ママとニセ乳娘。
「ん?ニセ……ゴホンゴホン。あー、次女のモニカは連れ子?」
俺の子供じゃないじゃーんと、嬉しくてちょっと浮かれた声で尋ねたら、ベンジャミンから絶対零度の視線で射抜かれた。
ビュルルルル……寒いっ。
「モニカ様は間違いなく旦那様の子供だそうです。町の飲み屋で知り合い一夜を共にしたらしいですよ」
「ええーっ。ちゃんと調べたら違うんじゃねぇの?」
DNA検査とかちゃんとしようよ。
「……必要ないと拒否されたのは旦那様です」
「……すみません」
覚えてません! えー、今からでも遅くないから調べよう……いや、待てよ。
「今、あのモニカが俺の子供じゃないとわかったら、婚約破棄が白紙になっちまう。そうするとあのニヤけた野郎とシャーロットちゃんの婚約が維持されてしまう」
むむむ、あのニヤけたスケベ野郎とシャーロットちゃんを結婚させるのは、ちょっと嫌。
この体の持ち主であるセシルの記憶はないし、もしかしたら意識だけ別人なのかもしれないけど、俺の娘なら幸せな結婚をしてほしい。
「旦那様はシャーロット様の婚約に反対なのですか?」
ベンジャミンからの問いかけに俺は頷くと、正直な気持ちを吐露した。
「あのニヤけ野郎は信用できん。そもそも後妻? とあの娘もなんだか好きになれない。シャーロットちゃんは……なんであんなに瘦せているんだ? 跡取り娘なら、もっと大事にされているはずなのに」
彼女の境遇に思わず涙目になり鼻水を啜りながら言葉を紡ぐと、殺意マンマンな女二人が立ち上がり怒鳴った。
「「旦那様のせいでしょが!」」
え? 俺が何かしましたか?
……何もしてませんでしたーっ!
もうもう、記憶を失くす前の俺、この白豚ちゃんは何を考えていたの?
「つまり、俺は前妻とは政略結婚で愛はなくほぼ放置。生まれた娘であるシャーロットちゃんに対しても関心はなくほぼ無視。押しかけてきた女とその子供も反論することなく受け入れた後は、その女の好き勝手を許す……というかまったく興味なし。俺は領主の仕事もほぼ放棄して、差し出された書類にサインするだけ」
鬼の形相の女二人からの説明を復唱すると、ベンジャミンたちが何度も頷いた。
俺って……俺ってどクズじゃん。
「それで、後妻がこのオールポート家を乗っ取るために姉の婚約者を自分の娘の婚約者にする画策を施していると。……婚約者が代わったら家継げるの?」
そんな簡単な話なの?
「いいえ。ただの嫌がらせか……。万が一シャーロット様がお亡くなりになったときに乗っとるつもりでは?」
「はあ? あの子はまだ若いでしょうが? ちょっと痩せすぎだけど、死ぬなんて……。え? もしかして病気?」
そういえば、俺の最初の奥さんも早死だもんね、事故死だけど。
「……自分の子供、モニカ様を跡継ぎにするため、シャーロット様のお命を狙っているのです。奥様は今までにも様々な嫌がらせをシャーロット様にしています」
「食事を抜く」
「使用人の仕事を押し付ける」
「ドレスや宝石を取り上げる」
「使用人でも住まない屋根裏部屋に押し込める」
「うわ……」
それって虐め? ドアマットヒロインってやつじゃないか。
ああ、だから着ているドレスはどこか草臥れていたし、指の先は荒れていたんだ。
折れそうなほど細い体に、手入れされていない髪の毛。
それって、あの派手なメイドと陰険執事もグルだよな?
「前の奥さんのときの使用人ってどうしたんだ? 彼らならシャーロットちゃんの味方になってくれると思うけど?」
正統な跡取りはシャーロットちゃんなんだし、昔からオールポート家に仕えている使用人たちはシャーロットちゃんの味方でしょ?
あの派手メイドと陰険執事は下品ママが連れてきた仲間だろう。
「ん?」
ベンジャミンたちが半眼で俺を見ているんだが?
「コホン。その昔ながらの使用人が今、旦那様の前にいる下働きの者たちです」
……ええーっ!
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