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領地経営編①
領主、娘とお出かけ
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シャーロット・オールポート。
わたくしの名前。
久しく誰も呼んではくれなかった名前。
亡くなったお母様は「愛しい娘」と……でも、それは嘘だった。
新しく母になった人は冷たい目で「邪魔者」と嫌った。
同じく義妹となった少女からは「お義姉様」と呼ばれたが、いつも嘲笑混じりで悲しい気持ちになった。
傍にいたメイドのマリーとメイが下働きになってしまい会えなくなって、母親代わりのライラも夜中にこっそりとしか会えなくなってしまった。
「シャーロットお嬢様」と呼ばれても、そこには主人家の者と使用人の壁がある。
わたくしを「シャーロット」と呼んでくれるのは婚約者のギデオン様しかいなくなってしまった。
それなのに……。
「シャーロット、なぜもっとモニカに優しくできないんだ? なんて嫌な女だ」
「シャーロット、お前みたいな奴と結婚するなんて、僕は世界一不幸だと思わないか? せめてお前がモニカのように優しくて美しかったなら」
ギデオン様はいつの間にか義妹のモニカを愛し、わたくしを嫌うようになった。
彼の口から「シャーロット」と呼ばれると、胸が苦しくて涙が出るほど辛かった。
お父様……、お父様はよくわからない?
お母様とは仲が悪いらしい? 二人が顔を合わせているところを見たことがないわ。
時折、お母様がお父様の執務室の扉を何度も叩いていたことがあったけれど、その扉が開くことはなかったもの。
わたくしも幼いときから、お父様のお姿はほとんど見たことがないの。
動くのにも難儀する体形のせいでお外に出られないのかしら?
声をかけてもらうこともないから、その声すらどんな声なのかわからないわ。
だから、「シャーロット」とお父様に呼ばれた記憶がないの。
あの日、お父様の執務室に呼ばれて、お義母様とモニカ、いつの間にか執事長になっていたコーディと冷たい態度のメイドたちに囲まれて、ギデオン様は憎々し気に見てくるだけで助けてはくれないし、お父様とは目すらも合わなかった。
ギデオン様に告げられた身に覚えのないモニカへの罪状と婚約破棄。
もう、ダメ。この家からも追い出されて、わたくしはどうすればいいの?
とにかく婚約破棄に関してはリトルトン侯爵夫妻も交えて話し合いが必要と、暫しの時間の猶予が与えられたけれど、家族から使用人からも見捨てられたわたくしを助けられる人なんていない。
憂鬱な気持ちでお父様の執務室に再び訪れたら……すべてが一変してしまった!
「シャーロットちゃん」
柔らかい声で優しく呼ぶその人。
わたくしのお父様。
セシル・オールポート伯爵。
「シャーロットちゃん」
わたくし……初めてお父様の、家族の優しさに触れました。
わたくし付きのメイドのマリーとメイが戻ってきてくれて、温かくて美味しい食事とキレイで上質な服、広くて日当たりのいい部屋とかわいい家具。
もう、涙を拭いてわたくしもオールポート伯爵家のために頑張らないといけないわ!
お父様のために。
シャーロットちゃんが馬車に酔ってしまったので、途中にある廃教会に立ち寄って休憩を取ることにした。
同行しているメイドのマリーにミント水を用意するように命じたら、ものすごく胡散臭そうにジロジロと頭の天辺から突き出た腹、足先まで見られた。
くっ、メイドたちの態度が改善しなくて辛い。
「廃教会? 建てられてからまだそんなに経ってないだろう?」
赤味を帯びたレンガ造りのちんまりとした教会。十人程度で祈祷席が埋まる広さ、天井の絵画は宗教画ではなく色彩鮮やかな花々で埋め尽くされいる。
椅子もそうだが、調度品はどこかメルヘンチックで、ドイツの田舎にあったら観光客が喜びそうな佇まいだ。
ちなみにこちらの世界でも教会のシンボルは十字架なので、ドドーンと屋根に掲げられていた十字架が見えたから、ここが教会だとわかったのだ。
でもさ、まだ使えるよここ。あれか? 立地場所が悪いのか?
「……人家もないところに建ってるもんな」
ボソッと呟いた俺の声に、ベンジャミンとディーンが反応する。
シャーロットちゃんやマリー、クラークは納得顔をしているのに……なぜだ?
ハッ! とイヤなことに気づく。ええーっ、ここなんか出るとかないよな?
俺は怪談やホラー系はダメなんだが……この世界にもそういう類のものってあるのかな?
想像したら怖くなってきたので、そろそろ出発したいのですが?
「シャ、シャーロットちゃん、気分はどうかな?」
お父様はこの教会がホラーの舞台なら、早く離れたいです。
「大丈夫です。少しラクになりました。マリーの話ではもう少しでお父様が視察される場所に着くとのことですもの、移動しても平気ですわ」
なんて、いい子!
俺の視線を受けてマリーが無表情で頷く。
冷たいなー、この子は……くすん。
「では、出発しよう!」
この教会のことをベンジャミンとディーンに詳しく聞こうと思ったけど、怖い話だったらイヤだから、もう気にしないようにしよう。
そうしよう。
このときの俺の判断は、その後ずっと俺を悩ますことになる。
わたくしの名前。
久しく誰も呼んではくれなかった名前。
亡くなったお母様は「愛しい娘」と……でも、それは嘘だった。
新しく母になった人は冷たい目で「邪魔者」と嫌った。
同じく義妹となった少女からは「お義姉様」と呼ばれたが、いつも嘲笑混じりで悲しい気持ちになった。
傍にいたメイドのマリーとメイが下働きになってしまい会えなくなって、母親代わりのライラも夜中にこっそりとしか会えなくなってしまった。
「シャーロットお嬢様」と呼ばれても、そこには主人家の者と使用人の壁がある。
わたくしを「シャーロット」と呼んでくれるのは婚約者のギデオン様しかいなくなってしまった。
それなのに……。
「シャーロット、なぜもっとモニカに優しくできないんだ? なんて嫌な女だ」
「シャーロット、お前みたいな奴と結婚するなんて、僕は世界一不幸だと思わないか? せめてお前がモニカのように優しくて美しかったなら」
ギデオン様はいつの間にか義妹のモニカを愛し、わたくしを嫌うようになった。
彼の口から「シャーロット」と呼ばれると、胸が苦しくて涙が出るほど辛かった。
お父様……、お父様はよくわからない?
お母様とは仲が悪いらしい? 二人が顔を合わせているところを見たことがないわ。
時折、お母様がお父様の執務室の扉を何度も叩いていたことがあったけれど、その扉が開くことはなかったもの。
わたくしも幼いときから、お父様のお姿はほとんど見たことがないの。
動くのにも難儀する体形のせいでお外に出られないのかしら?
声をかけてもらうこともないから、その声すらどんな声なのかわからないわ。
だから、「シャーロット」とお父様に呼ばれた記憶がないの。
あの日、お父様の執務室に呼ばれて、お義母様とモニカ、いつの間にか執事長になっていたコーディと冷たい態度のメイドたちに囲まれて、ギデオン様は憎々し気に見てくるだけで助けてはくれないし、お父様とは目すらも合わなかった。
ギデオン様に告げられた身に覚えのないモニカへの罪状と婚約破棄。
もう、ダメ。この家からも追い出されて、わたくしはどうすればいいの?
とにかく婚約破棄に関してはリトルトン侯爵夫妻も交えて話し合いが必要と、暫しの時間の猶予が与えられたけれど、家族から使用人からも見捨てられたわたくしを助けられる人なんていない。
憂鬱な気持ちでお父様の執務室に再び訪れたら……すべてが一変してしまった!
「シャーロットちゃん」
柔らかい声で優しく呼ぶその人。
わたくしのお父様。
セシル・オールポート伯爵。
「シャーロットちゃん」
わたくし……初めてお父様の、家族の優しさに触れました。
わたくし付きのメイドのマリーとメイが戻ってきてくれて、温かくて美味しい食事とキレイで上質な服、広くて日当たりのいい部屋とかわいい家具。
もう、涙を拭いてわたくしもオールポート伯爵家のために頑張らないといけないわ!
お父様のために。
シャーロットちゃんが馬車に酔ってしまったので、途中にある廃教会に立ち寄って休憩を取ることにした。
同行しているメイドのマリーにミント水を用意するように命じたら、ものすごく胡散臭そうにジロジロと頭の天辺から突き出た腹、足先まで見られた。
くっ、メイドたちの態度が改善しなくて辛い。
「廃教会? 建てられてからまだそんなに経ってないだろう?」
赤味を帯びたレンガ造りのちんまりとした教会。十人程度で祈祷席が埋まる広さ、天井の絵画は宗教画ではなく色彩鮮やかな花々で埋め尽くされいる。
椅子もそうだが、調度品はどこかメルヘンチックで、ドイツの田舎にあったら観光客が喜びそうな佇まいだ。
ちなみにこちらの世界でも教会のシンボルは十字架なので、ドドーンと屋根に掲げられていた十字架が見えたから、ここが教会だとわかったのだ。
でもさ、まだ使えるよここ。あれか? 立地場所が悪いのか?
「……人家もないところに建ってるもんな」
ボソッと呟いた俺の声に、ベンジャミンとディーンが反応する。
シャーロットちゃんやマリー、クラークは納得顔をしているのに……なぜだ?
ハッ! とイヤなことに気づく。ええーっ、ここなんか出るとかないよな?
俺は怪談やホラー系はダメなんだが……この世界にもそういう類のものってあるのかな?
想像したら怖くなってきたので、そろそろ出発したいのですが?
「シャ、シャーロットちゃん、気分はどうかな?」
お父様はこの教会がホラーの舞台なら、早く離れたいです。
「大丈夫です。少しラクになりました。マリーの話ではもう少しでお父様が視察される場所に着くとのことですもの、移動しても平気ですわ」
なんて、いい子!
俺の視線を受けてマリーが無表情で頷く。
冷たいなー、この子は……くすん。
「では、出発しよう!」
この教会のことをベンジャミンとディーンに詳しく聞こうと思ったけど、怖い話だったらイヤだから、もう気にしないようにしよう。
そうしよう。
このときの俺の判断は、その後ずっと俺を悩ますことになる。
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