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社交シーズン春①
伯爵、商業ギルドを知る
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「創作料理すぎる?」
「はい。俺はハーディング侯爵家タウンハウスの料理人でしたが、料理長とは反りが合わなくて。特に昔ながらのメニューに拘るところが……」
少々年配ではあるが料理の腕はしっかりとしたハーディング侯爵家の料理長は、基本に忠実な頑固親父タイプだった。
俺の父であるハーディング前侯爵もわりと似たタイプだから、料理長の作る料理に文句はなかった。
ただ、兄のパートナーは新しいモノ好きな流行に敏感な方。
この若い料理人を気に入ってはいたが、そこで表面化する新旧対決。ギスギスする使用人たちの関係に頭を悩ました兄上は、ちょうど弟が人材枯渇に困っていると知り、この若い男を寄越してきたと。
「まあ、基本は基本で作れるんだろう? だったら季節ごとのメニューとか、旬の食材を使った旬尽くしとか、いろいろやってみたら?」
違う、俺は本当に何気なく言っただけなんだ。自由にやっていいけど、美味しいものを作ってねというエールのつもりだったんだ!
まさか、俺の言葉にインスピレーションを受けた男が身を乗り出して、唾を飛ばして「もっと詳しく」と求めてくるなんて思ってなかったんだ!
「……セシル様」
「すまん。謝るから……ちょっと助けて!」
俺へと近づいてくる男の顔を押さえてるけど、こいつグイグイくるよーっ。
結局、ヴァスコがベリッと迫る男を剥がしてくれた。その後はそれぞれの研修場所へと移動させ、夜会が終わったら一緒にオールポート領へ帰ることにした。
その日の昼過ぎに屋敷にやってきたトビーとリタが目を丸くして俺の姿を見るぐらいには、疲れたよ……。
しかし、トビーも厨房に入るなり、俺に「飾るとはどういうこと?」「カラメルソースってなに?」と質問責めにし、、そこにタウンハウスの料理長まで乗っかってきて俺は逃げられず、キラキラしたハーディング侯爵家の元料理人にまで捕まった。
あのな! 俺はサラリーマンだったの! 料理人だったわけじゃないのよ。そんなに料理に詳しくないし、レシピも覚えてないの!
ただ……世界でも有数なグルメ食がある国の出身だからな……なんでもない一言がとんでもない結果を生み出すんだよなぁ。
ベンジャミンにも怒られちゃったし……俺が教えたあれやこれが商業ギルドの管轄だと指摘も受けた。
「商業ギルド?」
なんだその、異世界ファンタジーによくあるネーミングは?
そんな組合があるの? この世界に? 他にもあるのか? 白豚は記憶がない設定なんだから、そういうことは最初にちゃんと教えておけよっ。
商業ギルドとは、新しい魔道具や商品、とにかく売れるものや広く流布するものを把握し管理する組合である。
……なんだろう? 特許庁的な役目もある? 知的財産も守る?
ベンジャミンが頭に角を生やしてガミガミと俺に小言を繰り返すのは、この商業ギルドでの登録を済ませていないうちに俺がボロボロとアイデアを口から零すからである。
登録するアイデア? と首を傾げれば、トビーに話した「菓子をデコレーションする」ことだった。
ついでにあの料理人に話した「季節を意識したメニュー」や「同一の食材を使ったコースメニュー」も登録対象になるらしい。
ええーっ、前の世界ではどこの飲食店でもホテルのレストランでも当たり前にありましたけど?
「いいから、申請書を書きなさい」
「ふわい」
ブツブツ文句を言いながらも羽ペンを走らせますよ。朝も早くからディーンが王都の商業ギルドで貰ってきた登録用の申請書。
「申請者の名前は共同にしたいなぁ。俺だけじゃなくてトビーとあの若い料理人も」
「いいのですか? 他者が真似した場合のロイヤリティが分配となりますが?」
俺はうんうんと頷く。俺のアイデアは前の世界の当たり前であって、この世界でそれらを大きく飛躍させるのは彼らだからね。
「それに、西側領地の産業が動き出せば、それらも商業ギルドに登録しないとダメだろう?」
カイコから糸、絹糸が撚れるようになったらラスキン博士と俺の共同名義で登録して、染色とか、他の技術が活かせたらそれも誰かと共同名義にしよう。
ああ、製糸関係は俺じゃなくシャーロットちゃんの名義にしようかな?
こうして、新しい領民たちとあーでもないこーでもないと未来のオールポート領都クレモナの商業地区発展の議論を交わし、新しい料理の試食をさせ、接客のいろはを叩きこんだ。
あ、叩きこんだのはヴァスコとベンジャミンが中心です。いい飴と鞭でした。
この二人の教育方法はよく見て覚えていてほしい。
昔の人の言葉で「やってみせ 言うて聞かせて させてみせ ~」と続く言葉がある。
社員教育でもよく聞く言葉ではあるが、実際の上司が体現してくれているのを見たことがない。
運よく俺の上司はこの格言通りの人だったので、俺もそうありたいと心がけていた。
ヴァスコとベンジャミンも、さすが今までに何人もの使用人を教育指導し育ててきた傑物だ。
彼ら新人も、この格言を胸にいずれ自分が教え導く部下や見習いたちを育ててほしいものである。
さて、俺は明日の夜会に備えて育てすぎた体のお肉を絞ってきますかね。
☆☆☆☆☆☆
エール、ありがとうございます!
「はい。俺はハーディング侯爵家タウンハウスの料理人でしたが、料理長とは反りが合わなくて。特に昔ながらのメニューに拘るところが……」
少々年配ではあるが料理の腕はしっかりとしたハーディング侯爵家の料理長は、基本に忠実な頑固親父タイプだった。
俺の父であるハーディング前侯爵もわりと似たタイプだから、料理長の作る料理に文句はなかった。
ただ、兄のパートナーは新しいモノ好きな流行に敏感な方。
この若い料理人を気に入ってはいたが、そこで表面化する新旧対決。ギスギスする使用人たちの関係に頭を悩ました兄上は、ちょうど弟が人材枯渇に困っていると知り、この若い男を寄越してきたと。
「まあ、基本は基本で作れるんだろう? だったら季節ごとのメニューとか、旬の食材を使った旬尽くしとか、いろいろやってみたら?」
違う、俺は本当に何気なく言っただけなんだ。自由にやっていいけど、美味しいものを作ってねというエールのつもりだったんだ!
まさか、俺の言葉にインスピレーションを受けた男が身を乗り出して、唾を飛ばして「もっと詳しく」と求めてくるなんて思ってなかったんだ!
「……セシル様」
「すまん。謝るから……ちょっと助けて!」
俺へと近づいてくる男の顔を押さえてるけど、こいつグイグイくるよーっ。
結局、ヴァスコがベリッと迫る男を剥がしてくれた。その後はそれぞれの研修場所へと移動させ、夜会が終わったら一緒にオールポート領へ帰ることにした。
その日の昼過ぎに屋敷にやってきたトビーとリタが目を丸くして俺の姿を見るぐらいには、疲れたよ……。
しかし、トビーも厨房に入るなり、俺に「飾るとはどういうこと?」「カラメルソースってなに?」と質問責めにし、、そこにタウンハウスの料理長まで乗っかってきて俺は逃げられず、キラキラしたハーディング侯爵家の元料理人にまで捕まった。
あのな! 俺はサラリーマンだったの! 料理人だったわけじゃないのよ。そんなに料理に詳しくないし、レシピも覚えてないの!
ただ……世界でも有数なグルメ食がある国の出身だからな……なんでもない一言がとんでもない結果を生み出すんだよなぁ。
ベンジャミンにも怒られちゃったし……俺が教えたあれやこれが商業ギルドの管轄だと指摘も受けた。
「商業ギルド?」
なんだその、異世界ファンタジーによくあるネーミングは?
そんな組合があるの? この世界に? 他にもあるのか? 白豚は記憶がない設定なんだから、そういうことは最初にちゃんと教えておけよっ。
商業ギルドとは、新しい魔道具や商品、とにかく売れるものや広く流布するものを把握し管理する組合である。
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ベンジャミンが頭に角を生やしてガミガミと俺に小言を繰り返すのは、この商業ギルドでの登録を済ませていないうちに俺がボロボロとアイデアを口から零すからである。
登録するアイデア? と首を傾げれば、トビーに話した「菓子をデコレーションする」ことだった。
ついでにあの料理人に話した「季節を意識したメニュー」や「同一の食材を使ったコースメニュー」も登録対象になるらしい。
ええーっ、前の世界ではどこの飲食店でもホテルのレストランでも当たり前にありましたけど?
「いいから、申請書を書きなさい」
「ふわい」
ブツブツ文句を言いながらも羽ペンを走らせますよ。朝も早くからディーンが王都の商業ギルドで貰ってきた登録用の申請書。
「申請者の名前は共同にしたいなぁ。俺だけじゃなくてトビーとあの若い料理人も」
「いいのですか? 他者が真似した場合のロイヤリティが分配となりますが?」
俺はうんうんと頷く。俺のアイデアは前の世界の当たり前であって、この世界でそれらを大きく飛躍させるのは彼らだからね。
「それに、西側領地の産業が動き出せば、それらも商業ギルドに登録しないとダメだろう?」
カイコから糸、絹糸が撚れるようになったらラスキン博士と俺の共同名義で登録して、染色とか、他の技術が活かせたらそれも誰かと共同名義にしよう。
ああ、製糸関係は俺じゃなくシャーロットちゃんの名義にしようかな?
こうして、新しい領民たちとあーでもないこーでもないと未来のオールポート領都クレモナの商業地区発展の議論を交わし、新しい料理の試食をさせ、接客のいろはを叩きこんだ。
あ、叩きこんだのはヴァスコとベンジャミンが中心です。いい飴と鞭でした。
この二人の教育方法はよく見て覚えていてほしい。
昔の人の言葉で「やってみせ 言うて聞かせて させてみせ ~」と続く言葉がある。
社員教育でもよく聞く言葉ではあるが、実際の上司が体現してくれているのを見たことがない。
運よく俺の上司はこの格言通りの人だったので、俺もそうありたいと心がけていた。
ヴァスコとベンジャミンも、さすが今までに何人もの使用人を教育指導し育ててきた傑物だ。
彼ら新人も、この格言を胸にいずれ自分が教え導く部下や見習いたちを育ててほしいものである。
さて、俺は明日の夜会に備えて育てすぎた体のお肉を絞ってきますかね。
☆☆☆☆☆☆
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