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領地経営編②
領主、文通友達ができる
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兄上は、キュートな内装のお店でデコった美味しいスイーツを満喫し、トレヴァー君も珍しい物を見れてシャーロットちゃんと仲良くなってご満悦でハーディング領へと帰っていった。
ま、イライアス様はドレスのモデルとしてシャーロットちゃんを勧誘して、創作意欲が刺激されてよかったんじゃないの? ついでに領都クレモナの空き店舗を埋める人を紹介してくれたけど。
その人は針子さんだった。イライアス様が自分のドレス作りの助っ人として重宝していたらしい。
でもその人の希望は、貴族相手ではなく庶民の服を作ること。ほとんどの平民は古着を利用していて、特別な日以外は新しい服を買ったり、ましてオーダーメイドで作るなんてことはしない。
だけど、その針子は庶民でも手にすることができる服を作ることが夢なんだって。
「だからさ、その子の資金稼ぎにその店で服を売らせてよ」
「……その場所だと、下位貴族又は裕福な平民相手の店になりますよ? 平民相手なら噴水広場近くの場所がお勧めですが?」
俺としては、プリマヴェーラ通りの店は棲み分けをしたいので、ハイソな区画に親しみやすい店は……ちょっと?
トビーの店も一階は敷居が低いから、平民でも焼き菓子やらプリンは購入できるが、二階のフロアで飲食するには少々お代が高い。
「ああ、いいよ。既製服だけどそれなりのものを下位貴族たちに売りつける店にするから」
食えない笑顔でそう宣うイライアス様に、俺の顔も引き攣るよ。
「イライアス。ちゃんと説明してあげてくれ。セシル、そう警戒しないでほしい。その針子が望む店を開くには資金が足りない。そのため資金稼ぎに貴族や裕福な者を相手にした店を営みたいというわけだ」
庶民向けの店とは、お値段が手頃な店という意味だ。そのためには、ほどほどのレベルの布や糸を大量に仕入れて値段を下げ、針子の人数を絞るか反対に大勢雇い、沢山の服を売りさばくことが必須。
開店資金として仕入れ金と針子の給与が割り増しで必要ってことかな?
「はあ……。いいですけど。でも、資金が集まったらどうするんです?」
庶民向けの店にチェンジされても困るし、閉店するにもタイミングが悪いと困るのですが? そう、たとえば社交シーズンで貴族がオールポート領を行き来するときに店を畳まれたら困ります。
「そのときは、僕が出資してでも店は維持させるよ。その代わり二店舗目もクレモナに店を出すから、セシルも協力してくれると嬉しいな」
「……」
それは、二店舗目の店の賃貸料を勉強しろってことですね。なんてこったい、弟に激甘な兄上のパートナーが激渋な商売人だったよ。
俺が沈黙していると、焦った兄上がイライアス様に何かを耳打ちしているがイライアス様の表情が変わることはない。
「……いいでしょう。その庶民向けの店も気になりますし。そうですね……いずれ糸や布はサレルノで生産されますから、そちらとの取引を考えてくださいね。安価な服だったら、型紙を魔道具仕様にして大量に布を断裁するとか、布を縫う魔道具を作るか……ふむ」
前の世界だったら機械化されていた作業だもの。こちらでは魔道具で代用できる作業もあるのでは? 大量生産が可能になれば値段だって安くなる薄利多売が目指せる。
「とっても気になることを言い出したね。その方法は試す価値があるな」
「あと、サレルノでは染色も研究するつもりです。トレンドカラーとか口コミで流行らして儲けようとか思ってます。そのときはイライアス様もご協力ください」
流行に敏感な貴族子女に顔が広いイライアス様が「今年の流行りは〇〇色です」と吹聴して、剰えその色のドレスをデザインしてくれれば、こっちの思い通りだ!
「ちっ。これから帰るのに、興味深い話を持ちかけやがって」
「へ?」
そのあと、やや乱暴に襟元を掴まれて文通を約束させられた。俺と最愛の人との絡みに嫉妬して兄上まで懇願してきたが、今までもお仕事のお手紙はやりとりしてたでしょ、兄上!
こうして、ハーディング一家は騒がしく帰っていった。
今度会ったときは、ちゃんとイライアス様の「気」を確認しようと俺は決意した。
兄上たちが帰り、その日の夕食はシャーロットちゃんと二人だけなのがちょっと寂しく感じた。いつも二人だったのにね、なんとなく寂しくなってペラペラと一人で喋ってしまったよ。
マナー違反と叱るはずのレックスとクラリッサ女史は、本日は家庭教師がお休みのため不在なのだ。
「あ……そういえば」
とりとめなく口を動かしていて気づいたが……オールポート領の東側領地って鉱山があったよな。しかも宝石が埋蔵している鉱山が。
「はい、そうです」
俺の質問にベンジャミンは頷き、今でも特に問題なく宝石が掘り出されていると教えてくれた。
「じゃあ、なんで宝飾品を扱う店がないんだ? 元々店はあったがコーディたちに追い出された?」
「いいえ。クレモナに宝飾品を扱う店はありませんでした。オールポート領で産出された宝石の原石はすべて王都へ運ばれます」
「えーっ、ここで加工はしていないのか?」
せっかく宝石が掘れるんだから、自分とこで加工研磨して売ればいいのに。
「……加工できるものと研磨できるもの、そして宝飾品をデザインするものがおりません」
「マジか……」
ここにきてまた技術者不足だよ。もったいなーい!
「王都への売買は商業ギルドが関わっていますから、今さらこちらで加工するからと売買する宝石を減らすことはできませんよ? 鉱山から宝石が掘れなくなったら別ですが」
「うう~ん。でも売れないような小さいものとかあるだろう?」
クズ石扱いの小さい原石があれば、ちょっとしたアクセサリーにするとかドレスとかの飾りに使うとか、いろいろと用途はあるでしょ?
「……小さい石などは鉱山に捨てて置かれていると思います」
ベンジャミンが変な顔をしているのは、俺が変なことを言い出したと思っているからだ。失礼な! むしろ、金になる石を捨てておくお前たちの感覚が怖いわっ。
「いずれ、東側の領地にも視察に行かないとなぁ……」
そうしてクズ石をゲットして、小金を稼いでやる!
フッフッフッと俺が不敵に笑っていると、ベンジャミンが胡散臭そうに主人を見て呟いた。
「鉱山……山歩きですからね。それまでに頑張って痩せてください」
くっそおおおおおおぉぉぉぉっ!
見てろよっ、白豚は見事に痩せて大天使にジョブチェンジしてやるぅぅぅぅぅぅっっっっ!
☆☆☆☆☆
エール、いいね!、お気に入り登録、ありがとうございます!
GW連休明けで気力が落ちていますが、皆さまもお体に気を付けてください。
更新頑張ります!
ま、イライアス様はドレスのモデルとしてシャーロットちゃんを勧誘して、創作意欲が刺激されてよかったんじゃないの? ついでに領都クレモナの空き店舗を埋める人を紹介してくれたけど。
その人は針子さんだった。イライアス様が自分のドレス作りの助っ人として重宝していたらしい。
でもその人の希望は、貴族相手ではなく庶民の服を作ること。ほとんどの平民は古着を利用していて、特別な日以外は新しい服を買ったり、ましてオーダーメイドで作るなんてことはしない。
だけど、その針子は庶民でも手にすることができる服を作ることが夢なんだって。
「だからさ、その子の資金稼ぎにその店で服を売らせてよ」
「……その場所だと、下位貴族又は裕福な平民相手の店になりますよ? 平民相手なら噴水広場近くの場所がお勧めですが?」
俺としては、プリマヴェーラ通りの店は棲み分けをしたいので、ハイソな区画に親しみやすい店は……ちょっと?
トビーの店も一階は敷居が低いから、平民でも焼き菓子やらプリンは購入できるが、二階のフロアで飲食するには少々お代が高い。
「ああ、いいよ。既製服だけどそれなりのものを下位貴族たちに売りつける店にするから」
食えない笑顔でそう宣うイライアス様に、俺の顔も引き攣るよ。
「イライアス。ちゃんと説明してあげてくれ。セシル、そう警戒しないでほしい。その針子が望む店を開くには資金が足りない。そのため資金稼ぎに貴族や裕福な者を相手にした店を営みたいというわけだ」
庶民向けの店とは、お値段が手頃な店という意味だ。そのためには、ほどほどのレベルの布や糸を大量に仕入れて値段を下げ、針子の人数を絞るか反対に大勢雇い、沢山の服を売りさばくことが必須。
開店資金として仕入れ金と針子の給与が割り増しで必要ってことかな?
「はあ……。いいですけど。でも、資金が集まったらどうするんです?」
庶民向けの店にチェンジされても困るし、閉店するにもタイミングが悪いと困るのですが? そう、たとえば社交シーズンで貴族がオールポート領を行き来するときに店を畳まれたら困ります。
「そのときは、僕が出資してでも店は維持させるよ。その代わり二店舗目もクレモナに店を出すから、セシルも協力してくれると嬉しいな」
「……」
それは、二店舗目の店の賃貸料を勉強しろってことですね。なんてこったい、弟に激甘な兄上のパートナーが激渋な商売人だったよ。
俺が沈黙していると、焦った兄上がイライアス様に何かを耳打ちしているがイライアス様の表情が変わることはない。
「……いいでしょう。その庶民向けの店も気になりますし。そうですね……いずれ糸や布はサレルノで生産されますから、そちらとの取引を考えてくださいね。安価な服だったら、型紙を魔道具仕様にして大量に布を断裁するとか、布を縫う魔道具を作るか……ふむ」
前の世界だったら機械化されていた作業だもの。こちらでは魔道具で代用できる作業もあるのでは? 大量生産が可能になれば値段だって安くなる薄利多売が目指せる。
「とっても気になることを言い出したね。その方法は試す価値があるな」
「あと、サレルノでは染色も研究するつもりです。トレンドカラーとか口コミで流行らして儲けようとか思ってます。そのときはイライアス様もご協力ください」
流行に敏感な貴族子女に顔が広いイライアス様が「今年の流行りは〇〇色です」と吹聴して、剰えその色のドレスをデザインしてくれれば、こっちの思い通りだ!
「ちっ。これから帰るのに、興味深い話を持ちかけやがって」
「へ?」
そのあと、やや乱暴に襟元を掴まれて文通を約束させられた。俺と最愛の人との絡みに嫉妬して兄上まで懇願してきたが、今までもお仕事のお手紙はやりとりしてたでしょ、兄上!
こうして、ハーディング一家は騒がしく帰っていった。
今度会ったときは、ちゃんとイライアス様の「気」を確認しようと俺は決意した。
兄上たちが帰り、その日の夕食はシャーロットちゃんと二人だけなのがちょっと寂しく感じた。いつも二人だったのにね、なんとなく寂しくなってペラペラと一人で喋ってしまったよ。
マナー違反と叱るはずのレックスとクラリッサ女史は、本日は家庭教師がお休みのため不在なのだ。
「あ……そういえば」
とりとめなく口を動かしていて気づいたが……オールポート領の東側領地って鉱山があったよな。しかも宝石が埋蔵している鉱山が。
「はい、そうです」
俺の質問にベンジャミンは頷き、今でも特に問題なく宝石が掘り出されていると教えてくれた。
「じゃあ、なんで宝飾品を扱う店がないんだ? 元々店はあったがコーディたちに追い出された?」
「いいえ。クレモナに宝飾品を扱う店はありませんでした。オールポート領で産出された宝石の原石はすべて王都へ運ばれます」
「えーっ、ここで加工はしていないのか?」
せっかく宝石が掘れるんだから、自分とこで加工研磨して売ればいいのに。
「……加工できるものと研磨できるもの、そして宝飾品をデザインするものがおりません」
「マジか……」
ここにきてまた技術者不足だよ。もったいなーい!
「王都への売買は商業ギルドが関わっていますから、今さらこちらで加工するからと売買する宝石を減らすことはできませんよ? 鉱山から宝石が掘れなくなったら別ですが」
「うう~ん。でも売れないような小さいものとかあるだろう?」
クズ石扱いの小さい原石があれば、ちょっとしたアクセサリーにするとかドレスとかの飾りに使うとか、いろいろと用途はあるでしょ?
「……小さい石などは鉱山に捨てて置かれていると思います」
ベンジャミンが変な顔をしているのは、俺が変なことを言い出したと思っているからだ。失礼な! むしろ、金になる石を捨てておくお前たちの感覚が怖いわっ。
「いずれ、東側の領地にも視察に行かないとなぁ……」
そうしてクズ石をゲットして、小金を稼いでやる!
フッフッフッと俺が不敵に笑っていると、ベンジャミンが胡散臭そうに主人を見て呟いた。
「鉱山……山歩きですからね。それまでに頑張って痩せてください」
くっそおおおおおおぉぉぉぉっ!
見てろよっ、白豚は見事に痩せて大天使にジョブチェンジしてやるぅぅぅぅぅぅっっっっ!
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