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領地経営編②
領主、大聖堂?へ
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教会本部でもそれなりに力を持つリベリオ大司教様は、とにかく職場見学したいとのことで、和やかな朝食後にお出かけをすることにしました。
シャーロットちゃんは、自分が教会の担当をするからと珍しく興奮して同行を求めてきたから許可したけど……人見知りなのに大丈夫かな?
今回はディーンではなくベンジャミンに付いてきてもらう。司祭が派遣できなかったことで、激務を長年背負ってきたシスターたちのオールポート伯爵家への嫌悪がどの程度溜まっているかわからないのに、肝心の俺が記憶がなくて対応が不誠実に見えたら大事になってしまう。
領民たちには、奥さんを避けるために太って引きこもりになっていた領主より、執事長のベンジャミンのほうが顔は知られているし信頼度も高いだろう。
ディーンは少し拗ねていたが、そんなに仕事がしたいなら騎士の訓練にでも参加してこい。
各々、準備を整えて屋敷のエントランスに集合したのだか……ええ?
「ベンジャミン」
「はい」
「護衛の騎士としてハリソンたちがいるのは理解した」
「はい」
「……なんで、シャーロットちゃんの隣に騎士の恰好をしたメイがいるの?」
勇ましく髪を結い上げ騎士服を着て、腰には細い長剣を佩いているけども。
「セシル様。すみませんが、シャーロット様の専用護衛騎士、我が娘のメイでお願いします」
ハリソンの軽い調子の宣言に、俺は目を丸くして叫んだ。
「ええーっ! だ、大丈夫なのか?」
つい、メイのことを心配して出た言葉が、当人には実力不足を心配された言葉だと思ったらしく、ギンッと人を殺せそうな強い視線を向けられてしまった。
「お嬢様は必ずお守りいたします」
「え……いや、そうだけど。メイが怪我することもあるんだぞ?」
この世界で女性は貴重なのだから、別に騎士なんて危ない職業に就かなくても、今まで通りメイドでいいじゃん。
俺がメイの心配をしているとわかったら、彼女は頬を少し赤く染め、それでも凛々しく「大丈夫です」と答えた。
うん……本人がいいならいいけどぉ。俺はチラリと父親であるハリソンの顔を窺い見ると、彼はニッカリと笑って応えた。
「んじゃ、どうか娘をよろしくお願いします」
ぺこっと軽く頭を下げるとリベリオ大司教様と従者のピッポが驚いた顔で俺を見る。ま、伯爵がわざわざ使用人や騎士に頭を下げるなんてしないよね。命令して当たり前。むしろ使ってやって感謝しろっの世界だもんね。
でも、俺は無理です。前の世界の常識が抜けないし、自分の大事な娘を命がけで守ってくれる人に尊大な態度は取れません。取りたくないし。
「ホッホッホッ。やはり、セシル様は面白い御方ですなぁ」
リベリオ大司教様がニッコリ微笑んでいましたが……なんとなく含みがあるセリフに聞こえたのは俺だけかな?
ガタガタと馬車に揺られること暫し。
相変わらず俺の馬車を牽く馬は、俺が誰かと馬車に乗ろうとすると、ウルウルと悲壮な瞳で訴えてくる。わかっている。俺は一人で乗りますよっ。
そして辿り着いた大聖堂前。既に招集連絡済のクラークもいたけど……、大聖堂? これが? 大聖堂なの?
「普通の教会じゃん」
あ、ヤベぇ。ポロッと口から正直な感想が漏れちゃったよ。
「……おはようございます、セシル様。そうなんです……大聖堂と呼び名は壮大なのですが……佇まいは平凡な教会なのです」
朝から意気消沈しているクラークに、俺はなんとも言えない。す、すまないな。自領の教会なのに、正直に感想を言い過ぎた。
俺とクラークの間に微妙な空気が流れたところ、リベリオ大司教様の「ホッホッホッ」というどこぞの黄門様みたいな笑い声が被さってくる。
「このロンバル大聖堂は建物ではなく、女神様の像に由来があるのですよ。確かに、ちと古くなっていますがね」
リベリオ大司教様はピッポを後ろに従え、スタスタと歩いて教会の中へと入っていってしまった。
「お父様?」
「ああ……俺たちも入ろう。ベンジャミンとハリソンも一緒に頼む」
シャーロットちゃんにはマリーが付いているが、当然のようにメイも一緒に付いてくる。
「女神像って、女神信仰なの?」
こそっとベンジャミンに耳打ちすると、ベンジャミンにはギョッと驚かれたが、俺の記憶喪失設定を思い出し、痛ましそうな視線を寄越してきた。
「そんなこともおわかりにならないとは……」
「いいから、教えろ」
この世界は多神教らしい。上位神である女神フローラを信仰している国が主で、あとは島国だったら海神とか、農作が盛んな場所では農耕神とかを併せてお祈りする。オールポート領では女神様で、南領では農耕神、東領では山神を信仰しているんだって。
しかし……木造の教会はどこを歩いてもギシッギシッと軋む音がして、白豚はちょっと怖いんだが……。
教会の中、祈祷室には左右に長い椅子が並び天井は高かった。その天井に描かれた宗教画も教会同様に古く色褪せている。ちょうど女神像の背面の上部の窓からステンドガラスのような色付きガラス越しに陽光が注ぎ、祈禱室を現実から離れた場所に演出しているみたいだ。
その女神像を挟むように黒いシスター服を着た女性二人が、仁王像の如く立ち、明らかに俺を強く睨んでいる気がする。
ううっ、やっぱり帰ってもいいかな?
シャーロットちゃんは、自分が教会の担当をするからと珍しく興奮して同行を求めてきたから許可したけど……人見知りなのに大丈夫かな?
今回はディーンではなくベンジャミンに付いてきてもらう。司祭が派遣できなかったことで、激務を長年背負ってきたシスターたちのオールポート伯爵家への嫌悪がどの程度溜まっているかわからないのに、肝心の俺が記憶がなくて対応が不誠実に見えたら大事になってしまう。
領民たちには、奥さんを避けるために太って引きこもりになっていた領主より、執事長のベンジャミンのほうが顔は知られているし信頼度も高いだろう。
ディーンは少し拗ねていたが、そんなに仕事がしたいなら騎士の訓練にでも参加してこい。
各々、準備を整えて屋敷のエントランスに集合したのだか……ええ?
「ベンジャミン」
「はい」
「護衛の騎士としてハリソンたちがいるのは理解した」
「はい」
「……なんで、シャーロットちゃんの隣に騎士の恰好をしたメイがいるの?」
勇ましく髪を結い上げ騎士服を着て、腰には細い長剣を佩いているけども。
「セシル様。すみませんが、シャーロット様の専用護衛騎士、我が娘のメイでお願いします」
ハリソンの軽い調子の宣言に、俺は目を丸くして叫んだ。
「ええーっ! だ、大丈夫なのか?」
つい、メイのことを心配して出た言葉が、当人には実力不足を心配された言葉だと思ったらしく、ギンッと人を殺せそうな強い視線を向けられてしまった。
「お嬢様は必ずお守りいたします」
「え……いや、そうだけど。メイが怪我することもあるんだぞ?」
この世界で女性は貴重なのだから、別に騎士なんて危ない職業に就かなくても、今まで通りメイドでいいじゃん。
俺がメイの心配をしているとわかったら、彼女は頬を少し赤く染め、それでも凛々しく「大丈夫です」と答えた。
うん……本人がいいならいいけどぉ。俺はチラリと父親であるハリソンの顔を窺い見ると、彼はニッカリと笑って応えた。
「んじゃ、どうか娘をよろしくお願いします」
ぺこっと軽く頭を下げるとリベリオ大司教様と従者のピッポが驚いた顔で俺を見る。ま、伯爵がわざわざ使用人や騎士に頭を下げるなんてしないよね。命令して当たり前。むしろ使ってやって感謝しろっの世界だもんね。
でも、俺は無理です。前の世界の常識が抜けないし、自分の大事な娘を命がけで守ってくれる人に尊大な態度は取れません。取りたくないし。
「ホッホッホッ。やはり、セシル様は面白い御方ですなぁ」
リベリオ大司教様がニッコリ微笑んでいましたが……なんとなく含みがあるセリフに聞こえたのは俺だけかな?
ガタガタと馬車に揺られること暫し。
相変わらず俺の馬車を牽く馬は、俺が誰かと馬車に乗ろうとすると、ウルウルと悲壮な瞳で訴えてくる。わかっている。俺は一人で乗りますよっ。
そして辿り着いた大聖堂前。既に招集連絡済のクラークもいたけど……、大聖堂? これが? 大聖堂なの?
「普通の教会じゃん」
あ、ヤベぇ。ポロッと口から正直な感想が漏れちゃったよ。
「……おはようございます、セシル様。そうなんです……大聖堂と呼び名は壮大なのですが……佇まいは平凡な教会なのです」
朝から意気消沈しているクラークに、俺はなんとも言えない。す、すまないな。自領の教会なのに、正直に感想を言い過ぎた。
俺とクラークの間に微妙な空気が流れたところ、リベリオ大司教様の「ホッホッホッ」というどこぞの黄門様みたいな笑い声が被さってくる。
「このロンバル大聖堂は建物ではなく、女神様の像に由来があるのですよ。確かに、ちと古くなっていますがね」
リベリオ大司教様はピッポを後ろに従え、スタスタと歩いて教会の中へと入っていってしまった。
「お父様?」
「ああ……俺たちも入ろう。ベンジャミンとハリソンも一緒に頼む」
シャーロットちゃんにはマリーが付いているが、当然のようにメイも一緒に付いてくる。
「女神像って、女神信仰なの?」
こそっとベンジャミンに耳打ちすると、ベンジャミンにはギョッと驚かれたが、俺の記憶喪失設定を思い出し、痛ましそうな視線を寄越してきた。
「そんなこともおわかりにならないとは……」
「いいから、教えろ」
この世界は多神教らしい。上位神である女神フローラを信仰している国が主で、あとは島国だったら海神とか、農作が盛んな場所では農耕神とかを併せてお祈りする。オールポート領では女神様で、南領では農耕神、東領では山神を信仰しているんだって。
しかし……木造の教会はどこを歩いてもギシッギシッと軋む音がして、白豚はちょっと怖いんだが……。
教会の中、祈祷室には左右に長い椅子が並び天井は高かった。その天井に描かれた宗教画も教会同様に古く色褪せている。ちょうど女神像の背面の上部の窓からステンドガラスのような色付きガラス越しに陽光が注ぎ、祈禱室を現実から離れた場所に演出しているみたいだ。
その女神像を挟むように黒いシスター服を着た女性二人が、仁王像の如く立ち、明らかに俺を強く睨んでいる気がする。
ううっ、やっぱり帰ってもいいかな?
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