転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~

緒沢利乃

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社交シーズン秋①

伯爵、ドッキリされる

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ガタンゴトンと馬車がようやく止まった。

前回よりは快適な馬車の旅だったが、シャーロットちゃんにとっては初めての遠出になるため、こまめに休憩をとり進んできた。

夏から秋に変わる時期のため日の入りが早くなり、オールポートの王都屋敷に着いたときには、赤い夕暮れから紺色の夜空へと美しいグラデーションが広がりつつある。

「お帰りなさいませ、セシル様」

屋敷のエントランスで出迎えてくれたのは、王都屋敷の執事ヴァスコだ。ピシッと執事服を着こなし、優美な礼で主人である俺を気持ちよく迎えてくれた。

「また、世話になる」

うむ、と威厳たっぷりに頷くと、ヴァスコの後ろに誰かがいる? いや、いるよ。王都屋敷で働いてくれている使用人たちが。
そうじゃなくて……見知った顔がいるのよ。しかも、ここにいないだろう人たちが?

「なにしてんの、ラスキン博士と薬師の婆さん」

「遅かったですな、セシル様」

「お主の体が重くて馬車が走らんのだろう。はよ、痩せ」

うるせー、婆さん。
それよりも、なんでいるの? ここ、王都だよ?

「フフフ。驚きましたか、セシル様! お二人が王都に行きたいと申し出られたので、俺がこちらへ来る手配をいたしましたーっ」

むふんっと鼻の穴を広げているのはディーンだ。お前、主人にも内緒で何してんの?

「そりゃいいけど、お前、報告は?」

「セシル様を驚かそうと、お二人には先発の荷物と一緒に移動していただきましたーっ」

「はぁ?」

何、お前? 主人である俺へのドッキリで黙ってたの?

ディーンのお茶目な悪戯心に、はあ~っと頭を押さえる俺には、ディーンの親父であるベンジャミンの張り付いた笑顔が見える。あれ、怒っているぞ。

「そうですね。たいへん驚きました。まさか、こちらにもご連絡がないとは」

「へ?」

ベンジャミンとは反対方向からブリザードが……って、ヴァスコが、ヴァスコがニッコリ笑顔なのに目が凍てつく冷気を湛えているぞーっ。

「あっ……」

しまった、みたいな顔をしてもダメだ、ディーン。大人しく躾られろ。ベンジャミンよりもヴァスコの躾のほうが厳しい予感がするけどな。

「コホン。ヴァスコよ、ディーンは後で好きにしてくれ。それよりも、会うのは初めてだよな? おいで、シャーロットちゃん。ほら、このかわいい子がシャーロットちゃんだ! 次期伯爵のシャーロット・オールポートだ。王都滞在中はよろしくな!」

俺に両肩を包まれてグイッとヴァスコの前に立たされたシャーロットちゃんは、オドオドと左右に視線を泳がせたあと、スーッと背筋を伸ばし、ヴァスコに、オールポートの使用人たちに挨拶をする。

「わ、私がシャーロット・オールポートです。その……王都は初めてなので、いろいろと教えて……ね?」

使用人に対して「教えてください」と謙った言葉を使おうとしたのだろう、クラリッサ女史ではなくレックスからギロリと睨まれて、言葉尻を変えていた。

どんまーい!

ディーンの奴を締め上げたい気持ちもあるが、とりあえず夕食の時間まで休んでいよう。
あ、俺は執務室に連れて行かれるのね? はいはい、わかりました。

シャーロットちゃんは、マリーと一緒に屋敷の中へと入っていく。その後ろに付いていくメイの騎士姿に、王都屋敷のメイドたちが二度見していた。そうだよね、メイが春にこの屋敷に来たときは、メイドだったもん。いまはシャーロットちゃんの専属護衛騎士です。


















「驚いたか、セシル様」

ニシシと人の悪い顔で笑うラスキン博士に、ぶーっと口を尖らせて文句を言う。

「そりゃ、驚いたよ。王都に行く前に挨拶したときも何も言ってなかったし。むしろ新しいカイコの飼育小屋に夢中だったでしょ?」

「ハハハ。あの飼育小屋はいい! ハーディング侯爵様が下さった温度調節の魔道具もありがたいっ」

……兄上。絶対に俺が申請した以上のお金を投資しているよね? それで借金が膨れ上がるのは勘弁してほしいのだが……大丈夫?

「あたしゃ、王都に調べものと新人薬師たちの教本を揃えにきたのさ」

フーフーとカップの紅茶に息を吹きかけ冷ましている婆さん。猫舌か?

「調べもの?」

「セシル様がこの爺に布の染色の相談をしているつーからね。薬師の中にも染色に使えそうな植物に詳しい奴がいるから、聞き出そうと思って」

婆さんがサレルノのことを思って行動をしてくれているのだろうけど……なんとなく相手の薬師に同情したくなるのはなんでだろう……。婆さん、頼むから穏便に話を聞いてくれよっ。オールポート領の評判を下げないでくれ。

「昔馴染みに会いに王都にきたのはこっちも同じ。隠居している知り合いにサレルノへの移住を勧めてやろうと思ってな」

「ラスキン博士。サレルノはこれから発展させていくつもりだけど、博士の昔馴染みって高名な学者さんでしょ? さすがにそれは……」

「バカいうな。あの地はおもしろい。まずはカイコと綿花、亜麻にカラーシープで糸の生産と織物、布。染色技術の開発の余地もある。そして果樹と薬草園と連作障害用の芋の栽培。その他にも何か考えているんだろう?」

ラスキン博士の期待する眼に、つい調子にノって応えてしまう。

「あ~、果物が手に入るならジャムとかの加工品かなぁ。そのための甘味として養蜂とか。あと、子どもを預かる間、遊びながら教育させるのもいいかなぁとか」

知育玩具とかあるじゃん。絵本を読むだけでも文字の勉強になるし。歌を歌ったり楽器に触れてみたり。絵を描くのも情操教育だよねぇ。

「ほら、やっぱり。セシル様は面白いことを考えておる」

フフフとラスキン博士は楽しそうに微笑んだ。
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