転生したら悪役令嬢の白豚パパでした！？～うちの子は天使で元恋人は最強騎士です？オーラを見極め幸せを掴め！～

緒沢利乃

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領地経営編③

領主、別の山を登る

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今日もいい天気だなぁーっ。

う～んと体を伸ばして、俺はとびっきりの笑顔をクラークに向けた。クラークは、昨日は一日中、役所の書類をかき回し、逃げ出した職員が横領していた証拠とか、発掘量の虚偽報告書とか、恥ずかしい恋文とかを見つけ出す作業に従事していた。
夜は夜で、これからの事務処理に暗澹たる様になっていたのを、俺に呼び出されて「魔石が出た」の報告に阿鼻叫喚。嬉しくて？　泣き崩れていた。
なんか、殺す気ですか？　とおもしろくないジョークを呟いていたので、事実は小説よりも奇なりとばかりに魔獣のタロウとハナコの話もしてあげた。
クラーク、口から魂を飛ばしていた。

そこへ、トドメとばかりに王国騎士団のお相手を頼みました。俺たちは騎士団が到着する前にひとっ走りクエットリ山まで行ってくるから。そこにも魔石があったら、ヴァゼーレは魔石鉱山の町として栄えることができる。いやぁ、ますますクラークは忙しくなるなぁ。
え？　だから、殺す気はないよー、やだなぁー。
あ、タロウとハナコの討伐は無しの方向で話が決まったから、騎士団には誤魔化しておいてね。

朝、恨みがましい目のクラークに見送られて、俺とラスキン博士は馬車に乗り込む。しばらく馬車で移動したあとは、昨日と同じく山道を輿に乗って移動だけどね。
先頭はレナードで俺の馬車の周りにはブランドンが率いるハーディング家の騎士たち。後ろにハリソンとオールポート家の騎士。メイは御者席に座っています。

「ハナコが気にしていたクエットリ山。何かあるのでしょうかなぁ」

「魔石が出ればいいけど。あ、魔石のことはヴァゼーレの人間とハリソンやうちの騎士たちには内緒な。ぬか喜びさせたくないし、ハリソンたちは酒が入ると口が軽いからなぁ」

「わかっておりますよ。宝石に比べれば価値は低いが、生活には欠かせないものは魔石。魔石鉱山があれば領地で飢える者も減りましょう。なんせ。魔石が掘れなくなっても、使い終わった空の魔石を置いておけば、また復活するのですし」

「そうだよなぁ。エコエネルギーだよなぁ」

うっかりと前世のことをポロポロと口から零してしまったが、ラスキン博士はコテンと首を傾げただけで追及はしてこなかった。やっべぇ。

ここがクエットリ山か……。

朝食を食べたあと、馬車で気持ちよく揺られ、うとうととしてしまったが、気持ちを引き締めていくぞ！　……って輿に乗っているから恰好はつかないんだけど。

昨日、登った山よりも傾斜がキツいのか、輿が斜めになり転げ落ちないように縁にしっかりと掴まっている白豚。ひぃーっ、キツいよおおおぉぉぉぉっ。
輿を担ぐ鉱山夫たちはご機嫌に鼻歌交じり登っていくが、少しは領主に気を遣って！　輿の棒を肩に担げばいいもんじゃないのよ。ちゃんと水平になるようにしろよっ。

ブランドンが「うぎぎぎぎっ」となっている俺を心配してオロオロとしているが、転げ落ちたら拾ってくれ。頼みます。

「はあ、はあ、はああああぁぁっ。よかった、無事に着いた」

パンパカパーン！　無事にクエットリ山鉱山口に到着です。いや、マジで。冗談じゃなく、二、三回は転がったからね？　危なかったからね？　君たちも額の汗を気持ちよく拭いてないで反省して！

「じゃあ、昨日と同じくディーンとメイ、ブランドンとハーディング家の騎士たち。そして、ハリー。坑道の中に入るぞ！」

体全身で同行を拒否しているハリーにパチンとウィンクして、俺たちは楽しい坑道ウォーキングだ。

「セシル様。俺らはここら辺で遊んで……あ、違った見張りしてますんで」

「ハリソン。遊んでもいいが酒飲むなよ」

お前、屋敷に帰ったらベンジャミンを交えて主人の護衛の心得の一から十までみっちりと再教育してやるからな！

「領主さん。俺らは適当にしてるんで」

「わかった。好きにしろ。タロウとハナコが来たら下手に手を出すなよ。この山の確認に来ただけですぐにお暇するって伝えておけ」

俺の指示にハリソンとレナードが嫌な顔をして無言で拒否る。なんでだ？　タロウとハナコが来ても剣を向けるなよ。お前らだって命がけの討伐になるんだろう？
コテンと首を傾げる俺に、ラスキン博士がふおっほっほっと笑ってハリソンたちの心の内を暴露してくれた。

「こいつらは、タロウとハナコに人のように話かけるのが躊躇われるのじゃろう。安心せい、セシル様。タロウとハナコが来たら、ワシが相手をしてやろう」

フンガーフンガーッと鼻息荒い爺に迫られるタロウとハナコが不憫な気もするが、まあいいか。

「んじゃ、ラスキン博士のこと、ちゃんと守ってくれよ」

魔獣に興奮したお爺ちゃんは何をやらかすか目が離せないからな。ハリソンとレナードが片手を上げ了承の合図を見届け、俺たちは坑道の中へと入っていった。
おいこら、ハリー。どさくさに紛れて逃げようとすんな。ちゃんと先導して案内してくれよ。

「ん？」

「どうしました？」

「いや……昨日もこんなカンジだったけ？　なんか山の雰囲気が違うっていうか……」

項の辺りがチリチリする気がする。静かすぎる山の雰囲気が昨日の山とは違う気がする。でも、それが示すものはなんだ？　わからない……でも、何かが違う気がするんだ。

俺はグルリと辺りを見回すが、サヤサヤと風に揺れる木々は穏やかで、木々の隙間から齎される陽光は眩しくて、自分だが感じる危機感に首を捻ることしかできなかった。

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