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領地経営編③
領主、危険な二人きり
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宝石を採掘していた山で今度は魔石が採れるようになりました。
簡潔に報告したのだが、めちゃくちゃ驚かれたし、レナードには首元をがっしりと掴まれてガクガクと揺さぶられた。
く……くるちい。
「やめなさい。大丈夫か、セシル」
セシル君の元カレが甲斐甲斐しく俺の背中を摩ってくれるけど、疚しい気持ちはないよね? こんな白豚に昔の恋情があふれ出してきてないよね? 俺としては脂肪がたっぷりのった柔らかい背中は触り心地満点だと自負しているけれども。
「だ、大丈夫だ」
よしっ! さりげなく俺とルーカス副団長の間にディーンが入り込んだ。偉いぞ、ディーン。あと、ハリソンはその興奮している中年を抑えておきなさい。
「詳しく調査をして、埋蔵する魔石の質が基準をクリアしていけば、このヴァゼーレは魔石鉱山の町として残すことができる」
少し町は変えるけどね。あの来訪者を威圧する鉄門と門番も、商人や魔獣研究者が出入りしやすいようにします。でも、盗賊とかが押し入ってきても怖いから、ちゃんと検閲所と門兵は置くようにするよ。門兵というか、ヴァゼーレに駐屯する騎士たちの目星も付いてることだしね。
「ここでしか生きられられない領民たちの生活の立て直しも考える」
あとで、クラークと相談するけど、まずはマトモな文官を派遣しますよ。ヴァゼーレの町の代官もね。魔石鉱山以外の仕事として、ちょうど魔獣研究所ができるわけだし、細々とした仕事が発生しそう。それに魔石といえば魔道具! これからは商業ギルドに採掘したものすべてを丸投げすることはないから、個別ルートの売買として魔道具職人たちを取り込むつもりだ。そうしたらヴァゼーレに魔道具職人の工房が建つ。人が増えれば健全な宿場も必要になるし、飯屋や生活用品も必要になってくる。
「つまり、ここはヴァゼーレという町になる。鉱山夫たちを中心にしていた今までとは違う、雑多な人たちが行き交う町になる」
「町が……。じゃあ、俺たちは、また山に入って仕事ができるのか?」
俺はコクンと頷いた。はっきりとは答えない。
いやぁ、だって……レナードたちは今までどおり鉱山夫としては生きられないからねぇ……。ふふふ、ここまできたら付き合ってもらうぞ、元傭兵たちよ!
ちなみに、ここの鉱山は冬の間はお休みだったみたい。雪も降るしね。鉱山夫たちは町でダラダラと過ごすか、儲けた金を持って故郷に帰るかしていたらしい。
だったら、調査が済んで魔石の採掘が始まる春までの間は、特に例年と変わりなく過ごしてもらえばいいってことか。うん、レナードたちはハリソンに頼んで屋敷まで連れていくけどね。
「タロウとハナコ。俺たちは自分の住処に帰る。次は雪が融けるころに会おう」
「アオン」
「ガフッ」
俺の眼を見てしっかりと返事するタロウとハナコ。やっぱり、こっちの言っていること理解してんな。すごいな、狼。マジで神獣扱いして、町に祠か神社でも建てるか? 町おこしの観光土産として狼クッキーとか狼のイラスト入りのTシャツとか売るか?
「セシル様。口から欲望がダダ漏れですよ」
ディーンの指摘に俺は慌てて両手で口を覆ったのだった。
タロウとハナコが山に帰り、俺からレナードたちを勧誘する命を受けたハリソンは上機嫌で酒場へと姿を消し、俺からヴァゼーレの町の再開発の夢想を聞いたクラークは白目を剥いてぶっ倒れた。お前にやれって命じてないだろうがっ。ちゃんと人材を揃えてから着手するよ。
ディーンは熊野郎に薙ぎ払われたときに打ち付けた体に痛みが出て、薬を飲んで寝ている。
ラスキン博士はブランドンを連れて、魔獣研究所建設予定地を見つけてくると町へ行ったきりだ。ありゃ、どこかで酒盛りしてんな。
俺は怒涛の魔獣問題が片付いて、ほぉーっとひと息……月夜を眺めに庭に出てきたんだけど……なんで会っちゃうのかなぁ、セシル君の元カレに。
「こんばんは」
「……こんばんは」
俺、この人に記憶がなくなったこと悟られたらダメなんだよね? ついでに異世界産の魂が呼び戻されていることも内緒。……ええーっ、なにを話したらいいんだよ。ここで、ハイサヨナラって去ったら印象悪いし……って、もう最悪の印象を持たれているんだった!
頭の中でグルグルと考えている俺の顔を見て、ルーカス副団長はその麗しい顔を綻ばせた。うっ、美しい! ん? でも、なんか……。
「セシル。本当に怪我はしていないかい?」
「あ? ああ、俺は大丈夫だ。従者が守ってくれたからな」
本来はハリソンが守るべきだったが、あいつは野生の獣狩りに夢中だった。ちっ、ベンジャミンに言いつけて減給にしてやる。
トスンと俺の隣の座り、ニコッと笑顔を向ける王国騎士団の副団長、え? お前そんなにフレンドリーな気質で副団長なんて勤まるの?
あとで聞いたのだが、ルーカス副団長は表情筋が死んでいて無表情がスタンダードなクールなお人らしい。どこが?
「俺たちが到着するのが遅くなり、申し訳ない」
しょぼーんと俯く美丈夫に俺は慌てて両手を左右に振り、気にしていないと言い募る。
「いやいや。魔獣が出るのはわかっていたのに、騎士団の到着を待たずに山に入ったのはこっちだから。魔石の調査を優先したこっちの責任だから!」
やーめーてーっ。セシル君の元カレにはこっちが山盛りの罪悪感を抱えているんだから、頭を上げてーっ。
ちょっと待て。この二人きりの空間、どうすんだよっ。このまま二人で朝まで語りつくせってか?
無理無理、むーりー。バレるって。俺がセシル君の記憶がないってバレるって。
あと、こいつ。いくら昔の恋人相手だからって、トロリと甘い視線で俺を見るな! お前、眼の病気? 今の俺は白豚だぞ? 俺は立派な白豚伯爵様なんだぞーっ。
簡潔に報告したのだが、めちゃくちゃ驚かれたし、レナードには首元をがっしりと掴まれてガクガクと揺さぶられた。
く……くるちい。
「やめなさい。大丈夫か、セシル」
セシル君の元カレが甲斐甲斐しく俺の背中を摩ってくれるけど、疚しい気持ちはないよね? こんな白豚に昔の恋情があふれ出してきてないよね? 俺としては脂肪がたっぷりのった柔らかい背中は触り心地満点だと自負しているけれども。
「だ、大丈夫だ」
よしっ! さりげなく俺とルーカス副団長の間にディーンが入り込んだ。偉いぞ、ディーン。あと、ハリソンはその興奮している中年を抑えておきなさい。
「詳しく調査をして、埋蔵する魔石の質が基準をクリアしていけば、このヴァゼーレは魔石鉱山の町として残すことができる」
少し町は変えるけどね。あの来訪者を威圧する鉄門と門番も、商人や魔獣研究者が出入りしやすいようにします。でも、盗賊とかが押し入ってきても怖いから、ちゃんと検閲所と門兵は置くようにするよ。門兵というか、ヴァゼーレに駐屯する騎士たちの目星も付いてることだしね。
「ここでしか生きられられない領民たちの生活の立て直しも考える」
あとで、クラークと相談するけど、まずはマトモな文官を派遣しますよ。ヴァゼーレの町の代官もね。魔石鉱山以外の仕事として、ちょうど魔獣研究所ができるわけだし、細々とした仕事が発生しそう。それに魔石といえば魔道具! これからは商業ギルドに採掘したものすべてを丸投げすることはないから、個別ルートの売買として魔道具職人たちを取り込むつもりだ。そうしたらヴァゼーレに魔道具職人の工房が建つ。人が増えれば健全な宿場も必要になるし、飯屋や生活用品も必要になってくる。
「つまり、ここはヴァゼーレという町になる。鉱山夫たちを中心にしていた今までとは違う、雑多な人たちが行き交う町になる」
「町が……。じゃあ、俺たちは、また山に入って仕事ができるのか?」
俺はコクンと頷いた。はっきりとは答えない。
いやぁ、だって……レナードたちは今までどおり鉱山夫としては生きられないからねぇ……。ふふふ、ここまできたら付き合ってもらうぞ、元傭兵たちよ!
ちなみに、ここの鉱山は冬の間はお休みだったみたい。雪も降るしね。鉱山夫たちは町でダラダラと過ごすか、儲けた金を持って故郷に帰るかしていたらしい。
だったら、調査が済んで魔石の採掘が始まる春までの間は、特に例年と変わりなく過ごしてもらえばいいってことか。うん、レナードたちはハリソンに頼んで屋敷まで連れていくけどね。
「タロウとハナコ。俺たちは自分の住処に帰る。次は雪が融けるころに会おう」
「アオン」
「ガフッ」
俺の眼を見てしっかりと返事するタロウとハナコ。やっぱり、こっちの言っていること理解してんな。すごいな、狼。マジで神獣扱いして、町に祠か神社でも建てるか? 町おこしの観光土産として狼クッキーとか狼のイラスト入りのTシャツとか売るか?
「セシル様。口から欲望がダダ漏れですよ」
ディーンの指摘に俺は慌てて両手で口を覆ったのだった。
タロウとハナコが山に帰り、俺からレナードたちを勧誘する命を受けたハリソンは上機嫌で酒場へと姿を消し、俺からヴァゼーレの町の再開発の夢想を聞いたクラークは白目を剥いてぶっ倒れた。お前にやれって命じてないだろうがっ。ちゃんと人材を揃えてから着手するよ。
ディーンは熊野郎に薙ぎ払われたときに打ち付けた体に痛みが出て、薬を飲んで寝ている。
ラスキン博士はブランドンを連れて、魔獣研究所建設予定地を見つけてくると町へ行ったきりだ。ありゃ、どこかで酒盛りしてんな。
俺は怒涛の魔獣問題が片付いて、ほぉーっとひと息……月夜を眺めに庭に出てきたんだけど……なんで会っちゃうのかなぁ、セシル君の元カレに。
「こんばんは」
「……こんばんは」
俺、この人に記憶がなくなったこと悟られたらダメなんだよね? ついでに異世界産の魂が呼び戻されていることも内緒。……ええーっ、なにを話したらいいんだよ。ここで、ハイサヨナラって去ったら印象悪いし……って、もう最悪の印象を持たれているんだった!
頭の中でグルグルと考えている俺の顔を見て、ルーカス副団長はその麗しい顔を綻ばせた。うっ、美しい! ん? でも、なんか……。
「セシル。本当に怪我はしていないかい?」
「あ? ああ、俺は大丈夫だ。従者が守ってくれたからな」
本来はハリソンが守るべきだったが、あいつは野生の獣狩りに夢中だった。ちっ、ベンジャミンに言いつけて減給にしてやる。
トスンと俺の隣の座り、ニコッと笑顔を向ける王国騎士団の副団長、え? お前そんなにフレンドリーな気質で副団長なんて勤まるの?
あとで聞いたのだが、ルーカス副団長は表情筋が死んでいて無表情がスタンダードなクールなお人らしい。どこが?
「俺たちが到着するのが遅くなり、申し訳ない」
しょぼーんと俯く美丈夫に俺は慌てて両手を左右に振り、気にしていないと言い募る。
「いやいや。魔獣が出るのはわかっていたのに、騎士団の到着を待たずに山に入ったのはこっちだから。魔石の調査を優先したこっちの責任だから!」
やーめーてーっ。セシル君の元カレにはこっちが山盛りの罪悪感を抱えているんだから、頭を上げてーっ。
ちょっと待て。この二人きりの空間、どうすんだよっ。このまま二人で朝まで語りつくせってか?
無理無理、むーりー。バレるって。俺がセシル君の記憶がないってバレるって。
あと、こいつ。いくら昔の恋人相手だからって、トロリと甘い視線で俺を見るな! お前、眼の病気? 今の俺は白豚だぞ? 俺は立派な白豚伯爵様なんだぞーっ。
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