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恋愛編② ウェントブルック領
セシル、荷造りする
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……で、まったく不本意だが、俺はセシル君の元カレの実家、ウェントブルック領へ行くことになってしまった。マジか……。
ヴァゼーレの魔石鉱山、魔獣研究所、魔道具師の町と、発展する条件が怖いぐらいに揃ったけれども、一番の問題は魔獣であるタロウとハナコの処遇だ。もちろん、魔獣研究の第一人者であるラスキン博士の説得が功を奏し、ヴァゼーレの守り神、神獣としてその生存を許されることがほぼ決定している。しかし、ここで高いハードルが俺に襲い掛かる。そう……同じく魔獣に詳しいウェントブルック家からの許可状の提出。ウェントブルック家のルーカスが認めているが、辺境伯自らが署名した正式文書じゃないとダメなんだよなぁ。
つまり……俺はこの許可状をお願いするためにウェントブルック家を訪れる……ということにする。本当は、オールポート家の庇護下にあるラスキン博士の養い子であった青年を魔獣研究所の所長に勧誘するために行くのだ。俺は行かなくてもいいんじゃ? と切実に思ったが、転移の魔道具を使用するためにオールポート伯爵である俺の同行が必須なのでしょうがない。あ~しょうがない、しょうがない。ちっくしょうめ!
「セシル様、文句を言いながらウッキウキで荷物詰めてませんか? そもそも荷物をまとめるのは俺の仕事ですが……」
今回の旅も俺と同行決定のディーンがトランクに荷物を詰めながら、俺へいらん一言を投げる。そんなバカな! 俺が見知らぬ土地に行くことに浮かれているだと?
「……まぁ、こんなことでないと辺境領地に足を運ぶこともないからな」
興味本位です。魔獣がたくさん出没するのは怖いが、屈強な辺境伯騎士団が討伐してくれるだろうし、ルーカスが俺を見捨てるワケがない。俺はともかく、この体は愛しのセシル君の体だからな! ちょっと、ちょびっと、肥えてはいるが、痩せれば麗しのセシル君のはずだ!
「しかし……本当にシャーロット様もお連れするのですか? 危険では?」
「俺だってそう思ってるわ! でもシャーロットちゃんが折れないのよ。なんで今回はあんなに頑固なんだろう? 反抗期だったらショックで俺は死ねる……」
確かに俺はシャーロットちゃんと離れ離れになることを憂えてルーカスに文句を言ったが、あいつがそのまま真に受けてシャーロットちゃんをウェントブルック行きに誘うとは思わないだろう? しかもシャーロットちゃんが絶対に一緒に行くと主張するとは、俺だけでなくベンジャミンもライラもびっくりだ!
マリーやメイの説得にも応じず、お騒がせラスキン博士の「いいではないか」という無責任な一言で同行が決まってしまった。
「シャーロットちゃんの護衛にメイ。使用人枠でマリー。留守番はノーマンとライラ。……で、この仔をどうするかだが……」
難しい顔をした俺とディーンの足元には、カシカシと後ろ足で首を掻く魔獣の仔狼リヒトが座っている。
「この仔も留守番では? 連れていったら即座に討伐対象として剣を向けられますよ?」
ディーンの心配もわかる。しかし……こ奴を連れていきタロウとハナコの無害をウェントブルック辺境伯様にアピールするという技もある。本音は、俺がいなくなったらリヒトは絶対に追い駆けてくる。その騒ぎを想像しただけで全身の血が引くわっ。
ひょいとリヒトの後ろ首を摘まみ、顔と顔を見合わせて問いかける。
「リヒト……お前もウェントブルックまで一緒に行くか?」
「ガウッ!」
はい、同行決定です。
「まずは王都まで行き、タウンハウスに一泊です。その際に目を通してほしい書類があるとヴァスコから伝言がございました。翌日、王族の方との謁見もなく、そのままウェントブルックまで転移する予定です」
出発前日の夜。改めてスケジュールの確認をベンジャミンとしているが、俺はギリギリまで仕事かよっ。ま、王族と顔を合わせることなく出発できるのはよかった。おっさん王子が出てきたらどうしようかと思った。あいつ……「私も行く!」とか言い出しそうだもん。
「馬車は俺で一台。シャーロットちゃんとラスキン博士で一台。馬は……ハリソンとレナード、メイで三頭か。本当に馬車も馬もそのままで転移できるのか?」
「私は経験はございませんが、ルーカス様がそのようにおっしゃっていました。いざとなったら騎士団が転移できるのですから、馬車も馬も転移できるのでは?」
俺の疑問に涼しい顔でベンジャミンが答える。ルーカスに対しては罪悪感があるのかとっても丁寧な対応をするベンジャミンだが、必要な聞き取りは行っているらしい。
「……シャーロットちゃん、やっぱり一緒に行くつもりか?」
渋い顔でコクリと頷くベンジャミンに、俺は腹の底から息を吐いた。そうか……。俺のせいで、ウェントブルック家の皆さんに虐められなければいいが。そして、俺のことも虐めないでくれ。俺はセシルだけど、セシル君ではないし、セシル君だって裏切ったのは本意ではない。どっちかというと被害者である。
「まさか、問答無用で斬りかかってきたりしないよね?」
約一年かけて精進してきたダイエットで白豚を脱却しつつある俺だけど、まだ機敏な動作はできない。しかも平和ボケしていた世界からきた俺の魂では、目の前の危険から身を庇うことすらできないだろう。
「そのときは私たちが盾になりますが……。ですが杞憂だと思われます。あのルーカス様がそんな暴挙を許すとも思えません」
「……あれ、そんなに強いの?」
「この国、最強の騎士でございます」
マジか……。セシル君の元カレのスペックが凄すぎる。なのに、あいつは白豚の手を握ることに必死すぎる。
ヴァゼーレの魔石鉱山、魔獣研究所、魔道具師の町と、発展する条件が怖いぐらいに揃ったけれども、一番の問題は魔獣であるタロウとハナコの処遇だ。もちろん、魔獣研究の第一人者であるラスキン博士の説得が功を奏し、ヴァゼーレの守り神、神獣としてその生存を許されることがほぼ決定している。しかし、ここで高いハードルが俺に襲い掛かる。そう……同じく魔獣に詳しいウェントブルック家からの許可状の提出。ウェントブルック家のルーカスが認めているが、辺境伯自らが署名した正式文書じゃないとダメなんだよなぁ。
つまり……俺はこの許可状をお願いするためにウェントブルック家を訪れる……ということにする。本当は、オールポート家の庇護下にあるラスキン博士の養い子であった青年を魔獣研究所の所長に勧誘するために行くのだ。俺は行かなくてもいいんじゃ? と切実に思ったが、転移の魔道具を使用するためにオールポート伯爵である俺の同行が必須なのでしょうがない。あ~しょうがない、しょうがない。ちっくしょうめ!
「セシル様、文句を言いながらウッキウキで荷物詰めてませんか? そもそも荷物をまとめるのは俺の仕事ですが……」
今回の旅も俺と同行決定のディーンがトランクに荷物を詰めながら、俺へいらん一言を投げる。そんなバカな! 俺が見知らぬ土地に行くことに浮かれているだと?
「……まぁ、こんなことでないと辺境領地に足を運ぶこともないからな」
興味本位です。魔獣がたくさん出没するのは怖いが、屈強な辺境伯騎士団が討伐してくれるだろうし、ルーカスが俺を見捨てるワケがない。俺はともかく、この体は愛しのセシル君の体だからな! ちょっと、ちょびっと、肥えてはいるが、痩せれば麗しのセシル君のはずだ!
「しかし……本当にシャーロット様もお連れするのですか? 危険では?」
「俺だってそう思ってるわ! でもシャーロットちゃんが折れないのよ。なんで今回はあんなに頑固なんだろう? 反抗期だったらショックで俺は死ねる……」
確かに俺はシャーロットちゃんと離れ離れになることを憂えてルーカスに文句を言ったが、あいつがそのまま真に受けてシャーロットちゃんをウェントブルック行きに誘うとは思わないだろう? しかもシャーロットちゃんが絶対に一緒に行くと主張するとは、俺だけでなくベンジャミンもライラもびっくりだ!
マリーやメイの説得にも応じず、お騒がせラスキン博士の「いいではないか」という無責任な一言で同行が決まってしまった。
「シャーロットちゃんの護衛にメイ。使用人枠でマリー。留守番はノーマンとライラ。……で、この仔をどうするかだが……」
難しい顔をした俺とディーンの足元には、カシカシと後ろ足で首を掻く魔獣の仔狼リヒトが座っている。
「この仔も留守番では? 連れていったら即座に討伐対象として剣を向けられますよ?」
ディーンの心配もわかる。しかし……こ奴を連れていきタロウとハナコの無害をウェントブルック辺境伯様にアピールするという技もある。本音は、俺がいなくなったらリヒトは絶対に追い駆けてくる。その騒ぎを想像しただけで全身の血が引くわっ。
ひょいとリヒトの後ろ首を摘まみ、顔と顔を見合わせて問いかける。
「リヒト……お前もウェントブルックまで一緒に行くか?」
「ガウッ!」
はい、同行決定です。
「まずは王都まで行き、タウンハウスに一泊です。その際に目を通してほしい書類があるとヴァスコから伝言がございました。翌日、王族の方との謁見もなく、そのままウェントブルックまで転移する予定です」
出発前日の夜。改めてスケジュールの確認をベンジャミンとしているが、俺はギリギリまで仕事かよっ。ま、王族と顔を合わせることなく出発できるのはよかった。おっさん王子が出てきたらどうしようかと思った。あいつ……「私も行く!」とか言い出しそうだもん。
「馬車は俺で一台。シャーロットちゃんとラスキン博士で一台。馬は……ハリソンとレナード、メイで三頭か。本当に馬車も馬もそのままで転移できるのか?」
「私は経験はございませんが、ルーカス様がそのようにおっしゃっていました。いざとなったら騎士団が転移できるのですから、馬車も馬も転移できるのでは?」
俺の疑問に涼しい顔でベンジャミンが答える。ルーカスに対しては罪悪感があるのかとっても丁寧な対応をするベンジャミンだが、必要な聞き取りは行っているらしい。
「……シャーロットちゃん、やっぱり一緒に行くつもりか?」
渋い顔でコクリと頷くベンジャミンに、俺は腹の底から息を吐いた。そうか……。俺のせいで、ウェントブルック家の皆さんに虐められなければいいが。そして、俺のことも虐めないでくれ。俺はセシルだけど、セシル君ではないし、セシル君だって裏切ったのは本意ではない。どっちかというと被害者である。
「まさか、問答無用で斬りかかってきたりしないよね?」
約一年かけて精進してきたダイエットで白豚を脱却しつつある俺だけど、まだ機敏な動作はできない。しかも平和ボケしていた世界からきた俺の魂では、目の前の危険から身を庇うことすらできないだろう。
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