転生したら悪役令嬢の白豚パパでした！？～うちの子は天使で元恋人は最強騎士です？オーラを見極め幸せを掴め！～

恋愛編② ウェントブルック領

セシル、巻き込まれる運命

屋敷に戻れと騎士モードのルーカスに命じられた俺だけど、同じく魔獣との遭遇に心躍ったラスキン博士が森に入っており見捨ててはいけないし、そのラスキン博士の養い子の消息もわからないままで帰るのも気が引ける。
ディーンとベンジャミンも強く意見を言ってこないことをいいことに、俺は暫しウェントブルック辺境伯騎士団の野営地で時間を潰した。俺たちの護衛で残っているウェントブルック辺境伯の騎士たちもいるから心強い。

え？　ハリソンたちはどうしたって？　はーははははっ、あいつら意気揚々ともう一度森の中へ入っていきやがった。だ・か・ら、お前は俺の護衛だって言ってんだろう、バカハリソンめ！

「オールポート伯爵。こちらの魔獣をご覧ください。ただ角が生えただけではありません」

暇つぶし……ではなく、好意一〇〇％で魔獣の説明をしてくれる騎士さん。君は真面目だなぁ。しょうがない、俺も付き合ってあげよう。

「ヴァゼーレで覚醒した熊の魔獣を見た。そのときは角が生えてきただけだったが……そういえばあいつ、腕が六本あったな？」

魔獣化はただ体がデカくなるのではない？　タロウとハナコはデカくなっていたが……他にも変化があったのかな？

「腕が六本に増えているのは珍しい変化です。魔獣化には段階があると考えられています。まずは体が大きくなる。爪や牙が生える又は鋭くなる。そして体内に取り込んだ魔素のせいか、魔法を行使できるようになる。この魔法を行使できるようになった個体には、腕が増える足が増える、羽が生えるなどの身体的特徴がみられます」

「ふ～ん」

あの熊野郎は魔法が行使できたな。タロウとハナコも使えたはずだ。ん？　リヒトも使えたっけ？

「さらに狂暴になるとこうして角が生えます。一本角の場合が多いですが稀に二本角の場合もあります」

この馬は一本角がユニコーンのように額がニョッキリと生えている。ちなみに生えた角の本数で力が変わるとかはないらしい。

「……この馬型魔獣は、蹄が大きく変形し角が生え、狼と同じく牙が生えています。あと……尻尾の毛が固く、まるで鉄の針のように鋭い。体毛も鋼色で本来の毛色ではないですね」

真面目な騎士さんは馬の天辺から足の先まで観察し、なにやらメモを取っている。ウェントブルック辺境伯の騎士たちは四六時中、魔獣と対峙しているので、その情報をまとめるべく討伐した魔獣はつぶさに観察するそうだ。
この騎士……ヴァゼーレの魔獣研究所に転職しないかな？


























馬型魔獣の解剖講義が終わるころ、ルーカスを先頭に森に入った面々がぞろぞろと戻ってきた。ハリソンとレナードが満足そうなのは、さらに馬型魔獣を二頭倒してきたからであろう。
ラスキン博士も目を蘭々と輝かせて戻ってきた、元気な爺さんだよ。頼むから大人しくしててくれ。

どうやら、ここの野営地にいた騎士たちは馬型魔獣の出没に被害が出ないよう別の場所へ移動していたみたいだ。ちょうど、その連絡と俺たちは行き違っていたらしい。ラスキン博士の養い子とのご対面は後日にお預けとなってしまった。早くオールポートに帰りたいのにぃ。

ルーカスはとにかく兄上の辺境伯様に馬型魔獣の報告がしたいと、そのまま馬に乗って出発。俺たちも馬車で追い駆けた。行きとは違うスピードの馬車に俺は必死で乗っていたよ。油断すると、この体はあっちにコロコロ、こっちにコロコロしちゃうからね。

「ん？　あの馬は何かおかしいのか？」

ウェントブルック辺境伯家の客人である俺たちは、城塞と言っていい城に戻ってきてお茶を飲んでゆっくりと休んでいた。ウェントブルック辺境伯領に出没した魔獣のことは、辺境伯様たちで解決してください。俺、知らねぇ～っと。

「ふむ、セシル様。魔獣は魔素を体内に取り込んだ獣がなるとお教えしましたな？　つまり魔獣とは、元々はあの場所に生息していた獣である。しかしながら、ウェントブルック辺境伯の森に馬が生息していたとは聞いたことがない」

「はぐれ馬とか？　迷子馬とか？　あと、隣の領地の馬が野生化して森にいたとか？」

前世の世界では馬は飼育していたから、野生の馬ってなんだよ？　と思うが、この世界では野生の馬がいるかもしれない。

「ありゃ野生ではないし、飼われていた馬なら飼い主のところへ戻るぐらいの知性はありますよ。意図して馬を放つ……いや、しかし……」

「あのさ、魔獣がいるってわかっている森の中に馬を放つって……それって考えたくないけど、飼い主が始末しようとして捨てたんじゃないの？」

動物愛護の精神が微塵も感じられないが、なにかの理由で馬が飼えなくなったのかもしれない。……いや、でもこの世界の移動手段って馬だから、売ればいい値段になったかも？　はて？　じゃあ、なぜあの場所に馬が？

「そうですじゃ。なぜあの場所に馬がいたのか……」

「ああ……。あんな森の中に放置したら、下手したら魔獣化する危険性があるのに。しかも実際に魔獣化したし……」

「それだっ！」

「うおっ！」

なんだよ、爺さん。急に大きな声を出すなよ、びっくりするだろう？　驚いて、膝に抱いていたお風呂上りのリヒトを放り投げるところだったぜ。

「セシル様。これはウェントブルック辺境伯を狙った悪事かもしれませんぞ。誰かが故意に馬の魔獣を作り出したかもしれません」

「はあぁ？」

なんで、そんな面倒なことをするんだよっ。そして、なんで、俺がウェントブルック辺境伯領に来たときに事件が起きちゃうんだよ！
いーやーだーっ！　巻き込まれたくなーいっ！

俺はリヒトの体をギュッと抱きしめて、いやいやと頭を横に振り続けた。