転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~

緒沢利乃

文字の大きさ
173 / 234
恋愛編② ウェントブルック領

セシル、求婚される

しおりを挟む
ゴクリと唾を飲み込んで緊張を和らげ、いざリヒトと真面目に話をしようとしたら、トントンと扉がノックされた。
誰だよっ、今夜は一人で静かにウェントブルック領最後の夜を過ごしたいって言ったよね? ディーンにちゃんとみんなに伝えてね、ってお願いしたでしょう?

ブスッと膨れっ面で自ら部屋の扉を開けると、そこには見慣れた鎧姿でも騎士服姿でもない、白いシャツの前ボタンを幾つか外し、黒いスラックスを履いたルーカスが立っていた。

「セシル」

「うぐっ! な、なんだっ、お前。もう夜だぞ! 寝る時間だぞ!」

俺は咄嗟に扉から二、三歩離れて防御のため体の前で右腕を曲げる。す、少しでもこいつと距離を取らねば、襲われるぅぅっ? いやでもなぁ、俺もまだ白豚が抜けきってないしな? そんな魅力はないかもな!
でも、こんな夜に訪ねてきた時点で、お前は怪しい……。なんの用だよ。

「明日にはオールポートに帰るんだろう? 俺も王都へと戻る。少し散歩しないか?」

「はあ?」

最後の夜にお前と二人っきりで散歩だと? なんだ、その甘いシチュエーションは。断ろう、スッパリと断ろうとしたけれど、奴の捨て犬又は雨の日のずぶ濡れの子犬みたいな眼に言葉が詰まる。

そして、まんまと庭に連れ出される俺。ぐぐっ、俺ってやつは……。
























今日は月がまん丸でキレイだなぁ。

ルーカスの先導でウェントブルック辺境伯の城の庭をぽてぽてと歩く。月の明かりに照らされた庭はほんのりと明るく優しい緑の葉をさわさわと風にそよがせている。星の明かりもキレイだが、今日はひと際月が明るい気がした。

ルーカスは後ろを歩く俺を気にしつつゆっくりと足を進め、庭の奥にあるトピアリーに囲まれたガセボへと案内する。ガゼボの椅子に座りキョロキョロと周りを見渡す。俺の名前だけ護衛には期待していないが、ルーカスの護衛としてウェントブルック辺境伯の騎士たちがどこかにいるはずだ。たとえいなくても。巡回している騎士がいるだろう。
ただ、俺がルーカスからの被害を訴えても取り合ってもらえるかどうか。ここは奴のテリトリーだからな。うん、最大限の警戒をしておこう。それに……俺もルーカスに釘を刺したいことがあった。

「セシル。まさか魔獣騒ぎに巻き込んでしまうとは思わなかった。危険な目に遭わせてしまい申し訳ない」

ペコリと頭を下げるルーカス。俺は月の明かりに輝くルーカスの黒髪、旋毛をじっと見つめた。

「構わない。それよりこっちも感謝する。無事に許可状が王家に届き、タロウとハナコがヴァゼーレの神獣として認められそうだ」

ルイス殿が許可状と一緒に神獣認可するようにお言葉を添えてくれたらしく、概ね順調にタロウとハナコの神獣キャンペーンが進みそう。なんとなく、ルイス殿にお礼を伝えると「将来の嫁のために尽力しました」とかアピールされそうだったから、ルーカスに言っておく。ルイス殿にもよろしく伝えてくれ。

「……それでね、セシル。記憶のない君に、求めていいのか迷ったんだけど……」

たぶん、ものすごいイケメン。国で五本の指に入るイケメンで高位貴族の出身で最強の騎士。性格も物腰が柔らかで紳士、ケチをつけるところが見当たらないハイスペック男子……ってこいつも三〇代のおっさん予備軍じゃないか!
そのスーパーイケメンが、白豚を前にもじもじしている。かーっ、鬱陶しい! 男ならハッキリ言いやがれ!

「俺と……ルーカス・ウェントブルックと婚約してもらえないだろうか」

「っ! そ、それは……」

断る! 拓海おれとしては断るの一択なのだが、この体はセシル君のものである。前世の自我である俺が表面に出てきている今が異常事態なのであって、本来は天使が成長して白豚と化したセシル君が決めることだ。んで、たぶん……セシル君でもこの求愛は断るだろうなぁ……。

セシル君はルーカスを結果的に裏切ってしまったこと。娘までもうけてしまったこと。罪悪感に責め苛まれて生きてきたんだろう。本来なら、オールポート前伯爵たちと毒親ママンに嵌められた時点で、ハーディングの父上と兄上に助けを求めればよかったのだ。

でも……知られたくなかったのかな? ルーカスに、愛する人に、薬を盛られて裏切ってしまったことと子どもができてしまったことを。だから、自分に差し伸べられた救いの手を取らず、オールポートの屋敷に閉じこもり、すべてを諦めてしまったんだ。いや、もしかしたら……セシル君はまでを終えたら自分の人生をやり直すつもりだったのかもしれない。

それが……シャーロットちゃんの結婚だ。それは彼女の幸せを無視した行動だけど、きっとセシル君はシャーロットちゃんが結婚して伯爵位を継がせたらオールポートの屋敷を出るつもりだったのだろう。そのあとはハーディング家に戻るのか、ルーカスの元に戻るつもりだったのか、静かに姿を消すつもりだったのかはわからない。
セシル君が生きる希望、最後の縁だったその未来予想図が崩れたとき、セシル君の魂はヒビ割れ、俺という異世界産の魂がひょっこりと顔を出したのでは? と疑っている。

ここまでダラダラと物思いに耽ってしまったが、つまるところ……どう返事したらセシル君の正解だが、わからないんだよおおぉぉぉぉぉっ!
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

森で助けた記憶喪失の青年は、実は敵国の王子様だった!? 身分に引き裂かれた運命の番が、王宮の陰謀を乗り越え再会するまで

水凪しおん
BL
記憶を失った王子×森の奥で暮らす薬師。 身分違いの二人が織りなす、切なくも温かい再会と愛の物語。 人里離れた深い森の奥、ひっそりと暮らす薬師のフィンは、ある嵐の夜、傷つき倒れていた赤髪の青年を助ける。 記憶を失っていた彼に「アッシュ」と名付け、共に暮らすうちに、二人は互いになくてはならない存在となり、心を通わせていく。 しかし、幸せな日々は突如として終わりを告げた。 彼は隣国ヴァレンティスの第一王子、アシュレイだったのだ。 記憶を取り戻し、王宮へと連れ戻されるアッシュ。残されたフィン。 身分という巨大な壁と、王宮に渦巻く陰謀が二人を引き裂く。 それでも、運命の番(つがい)の魂は、呼び合うことをやめなかった――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...