プレゼント・タイム

床田とこ

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【37-29】

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 自分を見ているようだと思った。
 疑問を持たない限り、強く拒絶したりはしない。検証結果や推論に基いて、最低限のリターンを返す。

「私、お父さんにすごく似てると思う」
「なんだ、唐突に」
「思わない?」
「ああ。思う」

 父が小さく笑みを溢した。珍しいかも。
 馬鹿馬鹿しい話に、たまにこんな顔をする。




「……お母さんが死んでさ、お父さんは、悲しかった?」
「ん。十年以上前の話だ」

「そうだけど。聞きたい」
「ああ、そうだな。悲しかったな」

「悔しかった?」
「そうだな」

「……怒った?」
「ん、いや怒らない」

「どうして? おじいちゃん達にも責められて、研究もできなくなって、その後もいっぱい苦労したよね?」
「ああ。でも怒りは無いな。だいたい何に怒るっていうんだ」

「……運命とか、世間とか、私とか」
「どれも悪くない。仕方ない。そうなるべくして、なった事。それだけの事だ」



 父はブレない。
 感情的になるところを、私は見たことがない。
 一貫性があり、言う事を訂正したり謝ったりすることも殆ど無いと思う。

 最後の「それだけの事だ」が特別な響きを帯びていて、父っぽいなと思う。

 テレビのニュースは、今日は小声で台風被害からの復興のニュースを伝えている。無感情で事実のみを伝える男性キャスターの姿が、今の父と被った。
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