胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

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第二章

80 いつか

鉄堅と葉月は、すっかり長居してしまった風呂から上がり、ほかほかとする身体で部屋に戻ってきた。

「あっちーっ、アイス食おっと」

葉月が、さっそく冷蔵庫からアイスを取り出す。程好く溶けたシャーベットに木のスプーンが簡単に入る。シャリっと聞くだけで体温が下がりそうな音を立てて口に一匙運んだ。

「んま。オレンジシャーベット正解だったな、なぁ、おーい、鉄堅っ、おいって」
「え? あ、うん、そうだね」

「何をぼんやりしてるんだよ、疲れたのか?」

葉月が木のヘラを歯で噛みながら喋る。その心配そうな顔に、鉄堅はふるふると首を振った。

「いや、疲れてないよ大丈夫……ちょっと考え事してた」
「何を考えてたんだ?」

何気ない質問の返答につまる。

「何って……別に」
「は? 考え事してたんだろ? なんだよ、また俺に言えないこと? なに? お前、また変なことかんがえてるんだろ、シャーベットは……ムラムラしないよな?」
「え? あぁ、うん、シャーベットは別に」
「お前のスイッチがまじわからん」

葉月が鉄堅のムラムラポイントが解らずに、またシャーベットを食べ出す。鉄堅は、その葉月の姿をぼんやりと見ながらシャーベットを口に含んだ。冷たくて美味しいはずなのに、何だかあまり味がしなかった。

どうにもぼんやりしている鉄堅を、不思議そうにみていた葉月が、食べ終わったカップをポッイッと捨てて、ベッドに座っている鉄堅ににじり寄った。

「早く食っちゃえよ」
 
のろのろとシャーベットを食べている鉄堅にもたれかかってきて、猫みたいで可愛い。

「うん」
「なんか、へこむ要素あった? 俺はあの人達と話できて嬉しかったよ?」
「いや、へこんでなんかいないよ……ただ、そのいつか……もしの話なんだけど、もし、葉月ちゃんが妊娠したら……怖いなって」
「は? なにそれ」

葉月の目がつり上がる。鉄堅が食べきったシャーベットのカップを取り上げて、ぽいっとゴミ箱へ投げた。ちょっとだけ汁が飛んだのでふかなきゃと思って身体を起こそうとしたら、ドサッと葉月に上に乗られた。

「?……ど、どうしたの? 葉月ちゃん」
「お前、子供要らないとかいう人なの?」
「エッ!」
「俺が妊娠したら、要らないとかいうの?」

鉄堅に馬乗りになって、見下ろす葉月の瞳に涙がたまる。

「ちょ、葉月ちゃん」
「お前がしたいって言うからしたのに、なんでそんなこと言うんだよ」

したって! 何を?……と、鉄堅は思ったが、おそらく昨晩の行為のことを言っているのだろう。葉月ちゃん!あれじゃぁ、まだ妊娠なんて全然しないけど!

だが、今、それを訂正するのは違う気がする。

「違うよ葉月ちゃんっ! 子供が要らないなんて思わな……い」

思わないが、葉月が危険にさらされるなら、それは、望めない。

「思ってるだろ」
「っ」

何か誤解が生じている、いま、訂正しないとヤバイ気がする。

「子供欲しいよ、さっきの家族すごく素敵で、羨ましかった」
「じゃぁなんで怖いんだよ」
「葉月ちゃんが危険になるからだよ! それ以外ないでしょ、男性オメガの妊娠は、女性オメガよりも危険なんだ、もし……葉月ちゃんに何かあったら……って」

こんな怖いこと他にない。想像するだけで、胸が潰れそうなのに、現実におこったら……でも、付き合う先に、いつかくる選択肢だって知ってるから。
馬乗りになって、目を釣り上げてた葉月がべちゃっと、鉄堅に覆い被さってきた。

「ばかだな、その為に医者にいくんだろ」

葉月のその言葉に鉄堅は目を見開いた。その為に医者に行く……その通りだ。安全に産めるように、週に何度も検査して、エコーでみて、心音を聞いて色んな技術が開発されて命を大切に繋いできた。絶対なんてないけれど。それでも確率の上がるあらゆることをやってくれる。

「そ……そうだね、うん、その通りだ」
「安心しろよ、うちは安産家系らしいから」
「そうなの?」
「うん、だからそんなに一人で悩むな」

「う……うん」

葉月の心臓の音が直接聞こえる。力強い心拍に、さっきまで怖くて怖くてたまらなかった心が、癒されていく。

「葉月ちゃん、大好きだよ、いつか」
「うん」

いつか。そう遠くない未来に、僕たちは番になって、結婚して、そして子供をもって、生きていくんだ。

その晩、鉄堅と葉月はお互いを抱きしめたまま、満たされた気持ちのまま、寝むった。


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