胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

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第一章

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病室に入ったは良いが、鉄堅とお母さんがなにかもめているのを察して、葉月は明らかにまずいという顔をした。親子のやり取りを見るのはルール違反だ。

「すみません、俺、また来ます」
「待って!! 帰らないで葉月ちゃんっ」
「え……」

引き返そうと背を向けた葉月は、ビクッと動きを止めた。今、鉄堅が名前を呼ばなかったか?

たまたまだろうか。
ゆっくりと振り返る。鉄堅と目が会った。

鉄堅が包帯だらけの手を伸ばす。

「行かないで葉月ちゃん」
「……」
「誕生日プレゼント、ありがとう大事にする」
「て、鉄堅あなた、もしかして思い出したの!? 」

お母さんが驚いて問うが、鉄堅は葉月を見たままで、微かに頷く。

「少しだけ、でも、解る、葉月ちゃんのこと」
「ああっ、良かった、良かったわ、葉月ちゃん、来てやって、お願い、ほらこっちに」

固まっている葉月の手をお母さんが引いて、ベットの横の椅子へ葉月を座らせた。

2人が無言で見つめ合う横で母が良かった良かったと、鉄堅の足を擦ってる。

「葉月ちゃん、あの、来るなって言ってごめん、ね、僕、どうかして……た」

鉄堅が喋り終わらないうちに、葉月は、ガバッと鉄堅に抱き付いた。少し、傷が傷んだけれど、鉄堅も包帯だらけの身体で、葉月を抱き締めた。

何かを言わなきゃと思うのに、言葉が出てこない。
ただ、腕の中の葉月の事が愛しくて、それだけが心から溢れて、たまらず、身体を抱き締めた。

ひっしりと抱き合う2人をみて、母が無言で、席を立ち、パタパタと外へ出ていった。二人っきりにしてくれたのだ。

鉄堅は、自分にしがみついている葉月の頭を優しく撫でた。

「葉月ちゃん、ごめんね、あの、せっかく誕生日に会おうって言ってくれたのに」
「……」

ふるふると腕のなかで葉月が頭をふる。視線が合わなくて、合わせたいけど、葉月は鉄堅の胸にしがみついたままで、何も言わない。

「怒ってるの?」
またふるふる。

「もう、僕のこと嫌になった?」
ふるふる。

「じゃぁ、まだ好きでいてくれる?」
こくり。

頷く頭に、そっとキスをした。愛しくて、愛しくてたまらない。

「愛してる。大好きだよ、葉月ちゃん、ずっと一緒にいて、これからもずっと」
こく、こく、こくと何度も何度も葉月が頷く。

「いる、ずっと」
かすれた小さな声で、葉月が答えた。





鉄堅は、自分の胸にしがみついている葉月の顔を見たくて、覗き込むが、葉月はふるふるして顔を見せてくれない。

「葉月ちゃん?」
「まって、今なんも言えない」

胸が一杯で、言いたいことも話したいこともいっぱいあるのに、想いが上手く言葉にならない。ただ、離れたくなかった。

「うん、そうだね何を話して良いかわからないね、嬉しいとかごめんとか色んな感情がぐちゃぐちゃだ。記憶……全部を思い出せた訳じゃないんだ所々だけ、欠片が頭の中にあっちこっち有ってそのどれにも葉月ちゃんがいて、それが僕の核なんだって解ったんだ」

柔らかな髪を愛おしく撫でながら、切々と自分の今の状態を話す。万全な訳じゃない、普通じゃない、でも、腕の中のこの人だけは大切だって解る。

「葉月ちゃんに関すること全部を思い出したいけど……上手く繋がらないんだ、頭のなか、おもちゃ箱がひっくり返ったみたいで、正しい位置がわからなくて」
「良いよ、思い出さなくても、昔の俺、お前に優しくなかったし、忘れて良いよ、好きなことだけ覚えてて、それだけもう忘れないで」

ぐずるみたいな声で、願う言葉は、なんて可愛いのだろうと思った。

「どんな葉月ちゃんもきっと好きだったよ」
「そんなことない、俺、悪かったから……だから、バチが当たったんだと思ったよ、お前を大切にしなかったから、神様が俺なんかには勿体無いって取り上げたんだと思った、ごめんね、鉄堅」
「なんで謝るの、何も謝る事なんかないよ、謝らないで」

どんなに強く抱き締めても足りない気がした。深く心が繋がっていると思うのに、まだ遠い。少しでも離れたらこの気持ちがまた消えてしまうのではないかとそれだけが怖かった。

「日記をつけてればよかったな」

ぽそりと、鉄堅がそう言うと、葉月は確かにと笑った。

「でも、お前、付けてそうだけどな……家に有るんじゃない? 俺のでよければ、アルバムとか明日持ってこようか?」
「えっ! そ、それは是非っ!」

小さい頃の葉月ちゃんの写真が見れるってことだよね?それは見たい。めちゃくちゃ見たい。

「ぷっ、良いよ、俺の写真にはだいたいお前が写ってるんだ、いっつもペアにされててさ、ただ俺は全然可愛くないよ、そっぽ向いてる写真ばっかり、お前はちゃんと前向いてきちんと写ってて、可愛かったよ」
「最近見たの?」
「え……あ、まぁ、たまたま、ちょっとだけ」

急に耳を赤くする、葉月が無性に可愛い。

「お前と撮った写真……昔のしか無かったから」
「葉月ちゃん!」
「まって、今、俺の顔絶対に赤いから、こっち見るな」
「見たい、見せて」
「やだって、ばか」

両手で挟んで無理やり顔を上に向けた。間近で、潤んだ瞳の葉月の顔は、朱く火照っていて、恥ずかしそうに長い睫毛がふるふると揺れてる。

可愛い唇がばかって動いて、あまりに可愛くて思わず、自分の口でふさいだ。

葉月ちゃんはビクッと身体を揺らしたけど、そのままでいると、次第にふにゃりと力が抜けた。

短いファーストキスをして、その後もう一度、見つめあって、キスをした。

真っ赤な葉月ちゃんを見つめながら、何回も、何回もこれからたくさんこんな風に触れいたいと思った。

「俺、キスとか……初めて」
「僕も……あ、いや」
「エ?」

葉月の瞳が急に三角になる。

「なに? お前誰とキスしたんだよ」
「や、そ、それは、葉月ちゃんとだけど」
「え?いつ」
「赤ちゃんの時……保育園で」
「それ、ノーカンだから」
「ええっ! でも」
「俺が覚えてないからノーカンなの! 今のがファーストキス! ってか、何でそんなのは覚えてるんだよ!!バカ」
「あ、ええっと、ふと今、思い出して」
「ぷっ、本当お前ってば、変なやつ」

葉月がぷハハッって、笑うから、鉄堅もつられて笑った。甘酸っぱい初めてのキスは、葉月と鉄堅の共有の記憶として、心に刻まれた。

きっと、今日を忘れない。甘やかな、二人だけの秘密として。

かくして、胎児の頃からの長い長い片想いは、ようやく成就した。記憶が有ろうとなかろうと、どうしようもなく惹かれるのだと、恋をしてしまうのだと、愛しいと思う想いは消えなかったのだと……二人静かに抱き合い、心のなかに幸せが満ち溢れた。もう気持ちを疑ったりしない、離れたりしない。ただ、そばにあれることをお互いがこの上なく──幸せだと思うのだった。








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