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風呂から出ると、直ぐに葉栗が依ってきて、ぐっと顔を寄せて、また首筋の匂いを嗅がれた。何なんだよもう。まだ裸なんだぞ、寒いよ。そんなにアルファの匂いって、他のアルファには嫌な匂いなのかな? てか、そもそも本当に葉栗はアルファなんだろうか。
「なぁ、葉栗はアルファなの?」
「は? 今頃?」
めちゃくちゃ目を見開いて、信じられないって顔をしてる。あーーなんか、すまん。確かに今頃だわ。ブスッとした顔で、葉栗は頷いた。
「そうだよアルファだよ、俺、なるに、言ったと思うけど」
「あ、そうだっけ、あはは」
「笑って誤魔化そうとするな、それより誰と会ってた」
またそれか。雪夜君の事、流石に弟に話すのもどうかな、義理の兄がアルファを金で買いに行ってきたなんて、聞かされたら大激怒しそうだよな、こいつ、なんかやたらと昔から潔癖症というか、喧嘩腰でくるし、めんどくさい。ここは、適当に誤魔化しておこう。
「大学の友達だよ」
「友達……そいつ、なるの事知ってるの?」
僕がオメガだって、知ってるかだと? 知ってたら何なんだよ、また黙ってろって言うのか。もう、一緒に暮らしてないんだし、どうでもよくない? 僕が家を出る理由、オメガだって、急に母親が言い出して、お前に悪影響だからって追い出されたんだよ。必死で隠していたこと全部無駄だった。なんのためにいつも寂しく一人でいたと。でも、家をでてよかったよ、オメガであることもうこの部屋の中だけは隠さなくてすんだから。
「知ってる」
「何で喋ったんだよ、そんな個人的なこと」
「別に良いだろお前に関係ないんだから」
「俺が同じ大学に行くのに?」
そうか、確かに。同じ大学の兄が男オメガなんてバレたら、葉栗の人間関係に皹がはいるのか? 関係無くもないか。嫌なら何だって同じ大学にしたんだよ。なんで一緒に住もうなんて思うんだよ。もう関わらなければ良いのに、そしたら僕も関わらないのに。家賃だって光熱費だって全部僕が自分ではらってるんだ。もう、家に何も迷惑をかけてないはずなのに。
いつも、いつまでも惨めな気持ちになる。
「大学……の人じゃないから大丈夫」
「は? じゃぁ誰と」
「誰とでも良いだろ」
「良くないって言ってんだよ、相手はアルファなんだろ?何かあったらどうするんだよ」
「どうもしないよ、なにもないよ、僕の勝手な片思いなんだから、何かあるならあって欲しいくらいだ、でも、あるわけ無いだろ、誰が好き好んで僕の相手をするんだよ、もういいか、寒い」
葉栗の手を振り切って、部屋のドアを乱暴に閉めた。部屋の中にある鞄が光ってるような気がして、ふらふらと近づいて、抱き締めた。
そうだよ、僕の一方的な片思いだよ。一生で一度の恋だよ。報われないって解ってる恋だよ。でも、想うくらいいいじゃん。迷惑だって死ぬほど解ってるよ。たった一度しか会ったことないけど、もうこの先あの人以上に好きになる人なんかいないって解るんだ。不思議だけど、魂まるごと奪われたみたいな恋なんだよ。それなのに、あの人は、男オメガが……苦手なんだ。僕が不幸そうな顔でうろうろしてたら、あの人が苦しむから、目障りだから、あと一度会うだけで、あきらめるんだ。
「でも、好きなんだ、ごめんなさい」
ぽろっと涙がでた。雪夜君の、泣かないでって、優しい声が聞こえるような気がした。
鞄を開けて、名刺を取り出す。裏に書かれた手書きの数字の羅列を指先でなぞる。
「090########」
1つ1つ数字を覚える。ここに電話をかけたら、あの優しい声が何時でも聞ける。電話を発明した人に感謝したい。この1つ1つの番号が、僕のあの人への縁だ。何度も何度も数字を反芻した。死んでも忘れない、来世まで覚えていたい。
「なぁ、葉栗はアルファなの?」
「は? 今頃?」
めちゃくちゃ目を見開いて、信じられないって顔をしてる。あーーなんか、すまん。確かに今頃だわ。ブスッとした顔で、葉栗は頷いた。
「そうだよアルファだよ、俺、なるに、言ったと思うけど」
「あ、そうだっけ、あはは」
「笑って誤魔化そうとするな、それより誰と会ってた」
またそれか。雪夜君の事、流石に弟に話すのもどうかな、義理の兄がアルファを金で買いに行ってきたなんて、聞かされたら大激怒しそうだよな、こいつ、なんかやたらと昔から潔癖症というか、喧嘩腰でくるし、めんどくさい。ここは、適当に誤魔化しておこう。
「大学の友達だよ」
「友達……そいつ、なるの事知ってるの?」
僕がオメガだって、知ってるかだと? 知ってたら何なんだよ、また黙ってろって言うのか。もう、一緒に暮らしてないんだし、どうでもよくない? 僕が家を出る理由、オメガだって、急に母親が言い出して、お前に悪影響だからって追い出されたんだよ。必死で隠していたこと全部無駄だった。なんのためにいつも寂しく一人でいたと。でも、家をでてよかったよ、オメガであることもうこの部屋の中だけは隠さなくてすんだから。
「知ってる」
「何で喋ったんだよ、そんな個人的なこと」
「別に良いだろお前に関係ないんだから」
「俺が同じ大学に行くのに?」
そうか、確かに。同じ大学の兄が男オメガなんてバレたら、葉栗の人間関係に皹がはいるのか? 関係無くもないか。嫌なら何だって同じ大学にしたんだよ。なんで一緒に住もうなんて思うんだよ。もう関わらなければ良いのに、そしたら僕も関わらないのに。家賃だって光熱費だって全部僕が自分ではらってるんだ。もう、家に何も迷惑をかけてないはずなのに。
いつも、いつまでも惨めな気持ちになる。
「大学……の人じゃないから大丈夫」
「は? じゃぁ誰と」
「誰とでも良いだろ」
「良くないって言ってんだよ、相手はアルファなんだろ?何かあったらどうするんだよ」
「どうもしないよ、なにもないよ、僕の勝手な片思いなんだから、何かあるならあって欲しいくらいだ、でも、あるわけ無いだろ、誰が好き好んで僕の相手をするんだよ、もういいか、寒い」
葉栗の手を振り切って、部屋のドアを乱暴に閉めた。部屋の中にある鞄が光ってるような気がして、ふらふらと近づいて、抱き締めた。
そうだよ、僕の一方的な片思いだよ。一生で一度の恋だよ。報われないって解ってる恋だよ。でも、想うくらいいいじゃん。迷惑だって死ぬほど解ってるよ。たった一度しか会ったことないけど、もうこの先あの人以上に好きになる人なんかいないって解るんだ。不思議だけど、魂まるごと奪われたみたいな恋なんだよ。それなのに、あの人は、男オメガが……苦手なんだ。僕が不幸そうな顔でうろうろしてたら、あの人が苦しむから、目障りだから、あと一度会うだけで、あきらめるんだ。
「でも、好きなんだ、ごめんなさい」
ぽろっと涙がでた。雪夜君の、泣かないでって、優しい声が聞こえるような気がした。
鞄を開けて、名刺を取り出す。裏に書かれた手書きの数字の羅列を指先でなぞる。
「090########」
1つ1つ数字を覚える。ここに電話をかけたら、あの優しい声が何時でも聞ける。電話を発明した人に感謝したい。この1つ1つの番号が、僕のあの人への縁だ。何度も何度も数字を反芻した。死んでも忘れない、来世まで覚えていたい。
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