全ルートで死ぬはずの公爵令嬢に転生したら、いないはずの双子の弟がいるんだけど!?

のち

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ルネ2





「……ねえ、教えてよ、母さんを殺したのは……あなたなの?」

 熱を帯びた声が、静寂を切り裂いた。
 赤い瞳がまっすぐにキャロラインを捉える。
 ルネの周囲には揺らめく炎。空気を焦がし、ゆっくりと燃え広がる熱が、室内の温度をじりじりと押し上げていた。壁に掛かった絵画が波打ち、床に落ちた布が焼け焦げる。
 焦げた匂いが鼻を突き、汗がにじむほどの暑さ。それでもキャロラインは微動だにしなかった。

「……どうしてそんなことを聞くの?」

 微笑むキャロラインの唇が、ゆっくりと形を作る。
 それはまるで、慈母のような、優しく穏やかな微笑みだった——だが、ルネは気づいていた。その奥に潜む冷徹な光を。

「答えてよ……!」

 ルネの声が震える。
 怒りなのか、悲しみなのか、それとも——怖いのか。
 彼は一歩踏み出し、拳を握りしめる。その瞬間——キャロラインの指がわずかに動いた。

 ゆらり、と。

 赤黒い霧が、彼女の足元から広がる。
 まるで生きているかのように、ゆっくりと形を変えながら、床を這い、家具の隙間を抜け、空間全体に染み渡っていく。

「——本当に、知りたいの?」

 囁く声は、甘やかで、それでいて冷たい。
 ルネの目が、キャロラインの腕に向いた。
 薄い肌に、無数の細い傷が刻まれている。赤い血が滲み、滴るように流れていた。それが、霧へと変わっていく。

 ——毒。

「この毒はね、ただの毒じゃないのよ?」

 キャロラインが指先を軽く振ると、霧が応えるように蠢いた。
 それはまるで、彼女の意思そのもののように動く。

(さっき、熱で吹き飛ばしたはずなのに!)

 ルネの周囲を囲むように、じわじわと広がっていく。
 彼は息を止めた。

 ——遅かった。

 鼻腔に入り込んだ霧が、喉を焼くような痛みをもたらす。

「——っ……!」

 咳き込んだ瞬間、視界がぼやけた。
 手足が重い。呼吸が浅くなる。
 頭が、ぼんやりしていく。
 キャロラインの声が、どこか遠くで響く。

「この毒は、相手の生命力をじわじわと奪うの。苦しむこともなく、ただゆっくりと衰弱していく……まるで眠るようにね」

 楽しげに囁く声が、耳の奥に響いた。

「あなたの母親も、こうして——」

 ——母さんも。

 ルネの意識が、一瞬にして引き戻された。

「やめろ……!!」

 爆ぜる炎。
 赤々と燃え上がり、熱風が吹き荒れる。
 焼けるような熱が、キャロラインの毒を吹き飛ばした。
 毒霧が浄化されるように消えていく。
 ルネの瞳が紅く輝く。
 息を荒げながら、炎の中で彼は叫んだ。

「僕の母さんを……あんたが……!」

 キャロラインは、そんな彼を見つめ——やがて、ふっと微笑んだ。

「……ふふ、すごいわね」

 まるで、期待通りだとでも言うように。

「やっぱりあなたは……オルコット家の、エヴァレットの子なのね」

 ルネの胸がざわめいた。

(……エヴァレット?)

 聞き覚えがある。

 ——生前、母が眠りながら時折口にしていた名前。

(まさか……僕の、父さん……?)

 動揺する彼の前で、キャロラインは再び毒を操る。

「さあ……もっと私を楽しませてちょうだい?」

 赤黒い霧が再び膨らむ。
 ルネの体が、本能的に警鐘を鳴らした。

 けれど、毒が彼を包もうとした、その時——

「……そこまでだ」

 低く、重い声が、空気を断ち切った。

 ——バンッ!!!

 扉が強引に開かれた。
 冷たい空気が流れ込む。
 キャロラインの動きが、止まる。
 
 そして、そこに立っていたのは——

 一人の男。
 鋭い眼差し。整った顔立ち。

 そして何より——

(……僕に、似てる……?)

 ルネの胸がざわめいた。
 初めて見るはずなのに、どこかで知っているような気がする。
 鏡の中の自分を、大人びさせたような顔。
 男は冷たくキャロラインを見据え、ゆっくりと言った。

「キャロライン、お前の好きにはさせない」

 その声に、ルネの心臓が強く鳴る。

(……もしかして、この人が……)

 彼は、息を呑み——

 男を、見つめた。

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