7 / 161
第一章 出会い編
第4話 出涸らし令嬢、森で迷子に出会う②
しおりを挟む
『この人は果たして、本当に人間なのだろうか?』
それが、樹々の中から己の前に突如姿を現した男へのシェイラの最初の感想だった。
本人が聞けばきっと『失礼な!』と文句とともに憤慨しそうな些か失礼なコメントであるが、おそらく街の人間にこの人を初めて見た感想は?聞いても自分と同じ答えが返ってくるのでは、とも思ってしまったが。
そんな感想を真先に思うほどに、男の姿は美しかったのだ。
湖の湖面と同じく柔らかく光を反射する白銀の長い髪。
前髪の合間から覗く意志の強そうなキリリとシャープな線をもった眉と、長い睫毛に覆われた切れ長の深蒼の瞳。
スッと通った高い鼻と、薄すぎず厚すぎず、絶妙なバランスを保った形良い唇は何故か今少し開かれている。
かなり背も高く、足が長い。それで体が貧相なら一気にバランスを崩しそうなものだが見たところ全体にしっかりと、それでいて程良く筋肉がついて厚みが厚みがあるのがマントの上からでも分かる為かなりバランスが良い。
(これは……。あの人達がこの場にいたならきっと奇声のような珍妙な黄色い声を上げて飛びつきそうだわ)
そんなことを益体もなく考えてしまう程の堂々たる美丈夫。
見惚れていたのだが、どうやら相手にはそう映らなかったようで。
『何者だ』
ビロードのようなマントが揺れ、シェイラは初めて男が帯剣していることに気付いたが、その手が剣にかけられかけられた言葉に驚き…そうして若干気分を害した。
驚いたのは、その男が発した言葉がこの国の言葉ではなく、主に帝国やその近隣国でも一部使われているルキア語だったから。
そして気分を害したのは…ー
『初めて、それもこのようなところであった無防備且つ曲がりなりにも女性に対して。
ご立派な剣にお手をかけられ脅すようにお声を掛けられる貴方様はさて、それこそ“ナニ様”なのでしょう?』
『…』
『きっとさぞかしご立派で高貴な身分のお方なのでしょう(ほんと偉そうですね)
ええ、そうに違いありませんわ、何せアルギス語が主のトリアドス王国領地内で出会った人間に対してかけられたお言葉がルキア語!(自国の言葉しか認められないとでも?郷に行ってはなんとやら、他国に足を踏み入れる際にその主国語の簡単な挨拶すら出来ないとは)
さぞ御身の母国語に誇りを持っていらっしゃるのでしょう!(お里が知れますわね)』
『……!!』
これでもかと矢継ぎ早にまくしたて(酷い副音声付き)無駄ににっこりと微笑んだシェイラに、眇めていた両眼を見開いて男性は固まった。
ボロを着込んだ赤茶けたボサボサ頭の女に母国語でこれでもかと言い返され、余程衝撃を受けたのだろう。
口元を右手で覆い微かに体を震わせているのは侮辱を受けたとでも感じて怒っている故なのだろう、
そうに違いない!
しかし自身が取った発言に後悔なしさぁ文句があるならどうぞですわ!!と笑顔の下で大いに開き直ってるシェイラに対し、男が再び言葉を発した。
『……先ほどからの発言から鑑みるに、つまり俺の態度や発言が不満で不愉快、と?』
『まぁ!そんな不満で不愉快だなどと(分かってるじゃない)!
私は素晴らしい身なりの高貴なお方には私など理解の及ばない崇高なこだわりをお持ちなのではと愚考しての発言ですわ(本当に高貴な身分なら挨拶における一般常識くらい承知済みでは)?私の発言にご不快を感じられたのなら謝罪いたしますわ(こんな小娘の嫌味くらいで切れるほど安い神経してませんよね?)』
『…そう、か。いや、……うむ…』
(あら私ったらまたもや副音声が。少々言い過ぎましたかしら?)
目の前のお方の体の震えが尋常ではなくなってきましたわ、もしや怒りで震えていたのではなく何か持病でもお持ちだったのか。それならば言い過ぎたこと反省せねば、と些か見当違いの見解を脳内で繰り広げているシェイラの前で。
『……くっっもう、駄目だっっ……。耐えられない……っっ!!』
『……あの、もしやどこかお加減でも悪』
『『ぶはっっ!!!』』
「は?」
『『あっははははははははははははははっっ!!!!』』
真昼の『迷いの森』に、爆笑が響き渡った。
それが、樹々の中から己の前に突如姿を現した男へのシェイラの最初の感想だった。
本人が聞けばきっと『失礼な!』と文句とともに憤慨しそうな些か失礼なコメントであるが、おそらく街の人間にこの人を初めて見た感想は?聞いても自分と同じ答えが返ってくるのでは、とも思ってしまったが。
そんな感想を真先に思うほどに、男の姿は美しかったのだ。
湖の湖面と同じく柔らかく光を反射する白銀の長い髪。
前髪の合間から覗く意志の強そうなキリリとシャープな線をもった眉と、長い睫毛に覆われた切れ長の深蒼の瞳。
スッと通った高い鼻と、薄すぎず厚すぎず、絶妙なバランスを保った形良い唇は何故か今少し開かれている。
かなり背も高く、足が長い。それで体が貧相なら一気にバランスを崩しそうなものだが見たところ全体にしっかりと、それでいて程良く筋肉がついて厚みが厚みがあるのがマントの上からでも分かる為かなりバランスが良い。
(これは……。あの人達がこの場にいたならきっと奇声のような珍妙な黄色い声を上げて飛びつきそうだわ)
そんなことを益体もなく考えてしまう程の堂々たる美丈夫。
見惚れていたのだが、どうやら相手にはそう映らなかったようで。
『何者だ』
ビロードのようなマントが揺れ、シェイラは初めて男が帯剣していることに気付いたが、その手が剣にかけられかけられた言葉に驚き…そうして若干気分を害した。
驚いたのは、その男が発した言葉がこの国の言葉ではなく、主に帝国やその近隣国でも一部使われているルキア語だったから。
そして気分を害したのは…ー
『初めて、それもこのようなところであった無防備且つ曲がりなりにも女性に対して。
ご立派な剣にお手をかけられ脅すようにお声を掛けられる貴方様はさて、それこそ“ナニ様”なのでしょう?』
『…』
『きっとさぞかしご立派で高貴な身分のお方なのでしょう(ほんと偉そうですね)
ええ、そうに違いありませんわ、何せアルギス語が主のトリアドス王国領地内で出会った人間に対してかけられたお言葉がルキア語!(自国の言葉しか認められないとでも?郷に行ってはなんとやら、他国に足を踏み入れる際にその主国語の簡単な挨拶すら出来ないとは)
さぞ御身の母国語に誇りを持っていらっしゃるのでしょう!(お里が知れますわね)』
『……!!』
これでもかと矢継ぎ早にまくしたて(酷い副音声付き)無駄ににっこりと微笑んだシェイラに、眇めていた両眼を見開いて男性は固まった。
ボロを着込んだ赤茶けたボサボサ頭の女に母国語でこれでもかと言い返され、余程衝撃を受けたのだろう。
口元を右手で覆い微かに体を震わせているのは侮辱を受けたとでも感じて怒っている故なのだろう、
そうに違いない!
しかし自身が取った発言に後悔なしさぁ文句があるならどうぞですわ!!と笑顔の下で大いに開き直ってるシェイラに対し、男が再び言葉を発した。
『……先ほどからの発言から鑑みるに、つまり俺の態度や発言が不満で不愉快、と?』
『まぁ!そんな不満で不愉快だなどと(分かってるじゃない)!
私は素晴らしい身なりの高貴なお方には私など理解の及ばない崇高なこだわりをお持ちなのではと愚考しての発言ですわ(本当に高貴な身分なら挨拶における一般常識くらい承知済みでは)?私の発言にご不快を感じられたのなら謝罪いたしますわ(こんな小娘の嫌味くらいで切れるほど安い神経してませんよね?)』
『…そう、か。いや、……うむ…』
(あら私ったらまたもや副音声が。少々言い過ぎましたかしら?)
目の前のお方の体の震えが尋常ではなくなってきましたわ、もしや怒りで震えていたのではなく何か持病でもお持ちだったのか。それならば言い過ぎたこと反省せねば、と些か見当違いの見解を脳内で繰り広げているシェイラの前で。
『……くっっもう、駄目だっっ……。耐えられない……っっ!!』
『……あの、もしやどこかお加減でも悪』
『『ぶはっっ!!!』』
「は?」
『『あっははははははははははははははっっ!!!!』』
真昼の『迷いの森』に、爆笑が響き渡った。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー
「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」
微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。
正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる