出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

文字の大きさ
47 / 161
第一章  出会い編

閑話  思わぬ騒動と訪問者

しおりを挟む
ートリアドス王国 王城・執務室ー




『昼過ぎ、カリス帝国の客人と共に城を後にしたこの国の宰相、ロイド・レイランドルフが戻らない』


仕事を多く取り仕切っているあの男の行方が不明だとの知らせを受け、
執務室で書類と格闘していたこの国の王、クルゼイ・リグ・トリアルドは頭を抱えていた。

仕事は迅速丁寧で(一見)人当たりも優しいあの男は宰相という役にあるにしては人気・人望がある。
故に王自身も含めて、彼に頼り、仕事を詰め込んで無理をさせていた事は否めない。
何せこの9年、彼は一度たりとも領地へ帰れていないのだから。
そんな、この国いち忙しいと言っても過言ではない男が、姿を消した。

これはただ事ではない

そう城の者達も思ってはいるも騒ぎになっていないのはー…
彼が姿を消したのが、カリス帝国の客人と一緒に行動してからであるからだ。

カリス帝国は大国……ましてやその皇帝自ら現在友好の名目でこの国を回っている。
さらに言えば、日程からいって今丁度滞在しているだろう領地が、他ならぬレイランドルフ領であること。何かしら関わりがあるにしても、下手に突いて関係に亀裂が生じるのは、と危惧する声も多く。

そう手をこまねいている内に、もうすでに丸1日が経過してしまった。
溜まっていく尋常でない量の書類がより男の不在を煽り、職務にも支障がかなり出ている。

クルゼイは、もう騒ぎにしないよう臣下を抑えるのに限界を感じていた。
(客人の乗ってきた馬は未だ馬舎にいる、ということは未だこの王都にいる筈。いっそ、騎士達を動かして密かに捜索させるしか…)

そんなことに考えを巡らせていたからだろうか。
部屋の中にもう一人、自分以外の人間の姿があることに気づくのが、一瞬遅れた。


『ー……トリアドス王国国王、クルゼイ・リグ・トリアルド様とお見受けいたします』

「っ何者だ!!」

『どうかあまり大きな声や音を立てませんよう…。
私はただの仲介にして伝達役に過ぎず、切り捨てられたところで我が主人にも貴方様にも益はありませんゆえ』


ルキア語で話しかけてきたことから予想はついたが、それでもクルゼイは確認せざるを得なかった。


「何者か、と聞いているのだが?……もう一つ問うなら、我が国の宰相を貴方方の遣わした客人がどうしたのかも付け加えさせてもらおうか」


『これは失礼を。
私はカリス帝国・皇帝陛下直属の“影”。この度、ロイド・レイランドルフ伯爵について、急ぎ情報の共有及び、を相談する場を取り付けたくこの場に参った所存』

「情報の共有?問題のへの対処?何を言っている。
…問題というのは、この国の重要な役職にある者を勝手に連れ出し、今の今まで音沙汰もないことではないか!」

なにがしらの場を持ちたいというのであれば、ちゃんと手順を踏み且つ本人を連れてこい!というクルゼイの静かな恫喝に、しかし男は無表情を崩すことがない。


『事が、伯爵とその御息女の命に関わる問題、であってもですか?』

「!!どういう事だ!貴方方は彼に何を」

『何もしていない、というべきではないかもしれませんが。
強いて言えば、貴方様が『客人』と呼ぶあの方が、伯爵がから遠ざけ救った、としか。それ以上の詳細をこの場で話す権限を私は持ち合わせておりませんし、いつまでも押し問答を続けていられるほど私も暇ではありません』

「………っ。」


話し合いの場を持つのか、持たないのか。はっきりしろと無感情に告げられ、言葉を詰まらせる。

正直クルゼイには何がどうなっているのか皆目検討がついていなかったが、話し合いの場を望むということは、ロイドは少なくとも生きていることになる。


「……本人の無事な姿と詳細な事の説明がもらえるならば、席を設けよう」

『承知。追って時間や場所についてお伝えにあがります。
それまではどうか今まで通り、お騒ぎになりませんよう』


騒ぎ立てればこの話は無しだと言わんばかりに言い残し、影は姿を消した。
まるで最初からそこに誰も存在しなかったように。


(レイランドルフ卿……一体何が主の身に起きたというのだ)
常に自分を陰ながら支えてきてくれた忠臣の大事に、そして何も理解せず全てに置いて後手に回っている無力な王である自分の不甲斐なさに、クルゼイは静かに唇を噛んだ。
しおりを挟む
感想 608

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー 「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」 微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。 正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

処理中です...