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第一章 出会い編
閑話 思わぬ騒動と訪問者
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ートリアドス王国 王城・執務室ー
『昼過ぎ、カリス帝国の客人と共に城を後にしたこの国の宰相、ロイド・レイランドルフが戻らない』
仕事を多く取り仕切っているあの男の行方が不明だとの知らせを受け、
執務室で書類と格闘していたこの国の王、クルゼイ・リグ・トリアルドは頭を抱えていた。
仕事は迅速丁寧で(一見)人当たりも優しいあの男は宰相という役にあるにしては人気・人望がある。
故に王自身も含めて、彼に頼り、仕事を詰め込んで無理をさせていた事は否めない。
何せこの9年、彼は一度たりとも領地へ帰れていないのだから。
そんな、この国一忙しいと言っても過言ではない男が、姿を消した。
これはただ事ではない
そう城の者達も思ってはいるも騒ぎになっていないのはー…
彼が姿を消したのが、カリス帝国の客人と一緒に行動してからであるからだ。
カリス帝国は大国……ましてやその皇帝自ら現在友好の名目でこの国を回っている。
さらに言えば、日程からいって今丁度滞在しているだろう領地が、他ならぬレイランドルフ領であること。何かしら関わりがあるにしても、下手に突いて関係に亀裂が生じるのは、と危惧する声も多く。
そう手を拱いている内に、もうすでに丸1日が経過してしまった。
溜まっていく尋常でない量の書類がより男の不在を煽り、職務にも支障がかなり出ている。
クルゼイは、もう騒ぎにしないよう臣下を抑えるのに限界を感じていた。
(客人の乗ってきた馬は未だ馬舎にいる、ということは未だこの王都にいる筈。いっそ、騎士達を動かして密かに捜索させるしか…)
そんなことに考えを巡らせていたからだろうか。
部屋の中にもう一人、自分以外の人間の姿があることに気づくのが、一瞬遅れた。
『ー……トリアドス王国国王、クルゼイ・リグ・トリアルド様とお見受けいたします』
「っ何者だ!!」
『どうかあまり大きな声や音を立てませんよう…。
私はただの仲介にして伝達役に過ぎず、切り捨てられたところで我が主人にも貴方様にも益はありませんゆえ』
ルキア語で話しかけてきたことから予想はついたが、それでもクルゼイは確認せざるを得なかった。
「何者か、と聞いているのだが?……もう一つ問うなら、我が国の宰相を貴方方の遣わした客人がどうしたのかも付け加えさせてもらおうか」
『これは失礼を。
私はカリス帝国・皇帝陛下直属の“影”。この度、ロイド・レイランドルフ伯爵について、急ぎ情報の共有及び、問題への早急な対処を相談する場を取り付けたくこの場に参った所存』
「情報の共有?問題のへの対処?何を言っている。
…問題というのは、この国の重要な役職にある者を勝手に連れ出し、今の今まで音沙汰もないことではないか!」
なにがしらの場を持ちたいというのであれば、ちゃんと手順を踏み且つ本人を連れてこい!というクルゼイの静かな恫喝に、しかし男は無表情を崩すことがない。
『事が、伯爵とその御息女の命に関わる問題、であってもですか?』
「!!どういう事だ!貴方方は彼に何を」
『何もしていない、というべきではないかもしれませんが。
強いて言えば、貴方様が『客人』と呼ぶあの方が、伯爵が長年苦しめられてきた呪いから遠ざけ救った、としか。それ以上の詳細をこの場で話す権限を私は持ち合わせておりませんし、いつまでも押し問答を続けていられるほど私も暇ではありません』
「………っ。」
話し合いの場を持つのか、持たないのか。はっきりしろと無感情に告げられ、言葉を詰まらせる。
正直クルゼイには何がどうなっているのか皆目検討がついていなかったが、話し合いの場を望むということは、ロイドは少なくとも生きていることになる。
「……本人の無事な姿と詳細な事の説明がもらえるならば、席を設けよう」
『承知。追って時間や場所についてお伝えにあがります。
それまではどうか今まで通り、お騒ぎになりませんよう』
騒ぎ立てればこの話は無しだと言わんばかりに言い残し、影は姿を消した。
まるで最初からそこに誰も存在しなかったように。
(レイランドルフ卿……一体何が主の身に起きたというのだ)
常に自分を陰ながら支えてきてくれた忠臣の大事に、そして何も理解せず全てに置いて後手に回っている無力な王である自分の不甲斐なさに、クルゼイは静かに唇を噛んだ。
『昼過ぎ、カリス帝国の客人と共に城を後にしたこの国の宰相、ロイド・レイランドルフが戻らない』
仕事を多く取り仕切っているあの男の行方が不明だとの知らせを受け、
執務室で書類と格闘していたこの国の王、クルゼイ・リグ・トリアルドは頭を抱えていた。
仕事は迅速丁寧で(一見)人当たりも優しいあの男は宰相という役にあるにしては人気・人望がある。
故に王自身も含めて、彼に頼り、仕事を詰め込んで無理をさせていた事は否めない。
何せこの9年、彼は一度たりとも領地へ帰れていないのだから。
そんな、この国一忙しいと言っても過言ではない男が、姿を消した。
これはただ事ではない
そう城の者達も思ってはいるも騒ぎになっていないのはー…
彼が姿を消したのが、カリス帝国の客人と一緒に行動してからであるからだ。
カリス帝国は大国……ましてやその皇帝自ら現在友好の名目でこの国を回っている。
さらに言えば、日程からいって今丁度滞在しているだろう領地が、他ならぬレイランドルフ領であること。何かしら関わりがあるにしても、下手に突いて関係に亀裂が生じるのは、と危惧する声も多く。
そう手を拱いている内に、もうすでに丸1日が経過してしまった。
溜まっていく尋常でない量の書類がより男の不在を煽り、職務にも支障がかなり出ている。
クルゼイは、もう騒ぎにしないよう臣下を抑えるのに限界を感じていた。
(客人の乗ってきた馬は未だ馬舎にいる、ということは未だこの王都にいる筈。いっそ、騎士達を動かして密かに捜索させるしか…)
そんなことに考えを巡らせていたからだろうか。
部屋の中にもう一人、自分以外の人間の姿があることに気づくのが、一瞬遅れた。
『ー……トリアドス王国国王、クルゼイ・リグ・トリアルド様とお見受けいたします』
「っ何者だ!!」
『どうかあまり大きな声や音を立てませんよう…。
私はただの仲介にして伝達役に過ぎず、切り捨てられたところで我が主人にも貴方様にも益はありませんゆえ』
ルキア語で話しかけてきたことから予想はついたが、それでもクルゼイは確認せざるを得なかった。
「何者か、と聞いているのだが?……もう一つ問うなら、我が国の宰相を貴方方の遣わした客人がどうしたのかも付け加えさせてもらおうか」
『これは失礼を。
私はカリス帝国・皇帝陛下直属の“影”。この度、ロイド・レイランドルフ伯爵について、急ぎ情報の共有及び、問題への早急な対処を相談する場を取り付けたくこの場に参った所存』
「情報の共有?問題のへの対処?何を言っている。
…問題というのは、この国の重要な役職にある者を勝手に連れ出し、今の今まで音沙汰もないことではないか!」
なにがしらの場を持ちたいというのであれば、ちゃんと手順を踏み且つ本人を連れてこい!というクルゼイの静かな恫喝に、しかし男は無表情を崩すことがない。
『事が、伯爵とその御息女の命に関わる問題、であってもですか?』
「!!どういう事だ!貴方方は彼に何を」
『何もしていない、というべきではないかもしれませんが。
強いて言えば、貴方様が『客人』と呼ぶあの方が、伯爵が長年苦しめられてきた呪いから遠ざけ救った、としか。それ以上の詳細をこの場で話す権限を私は持ち合わせておりませんし、いつまでも押し問答を続けていられるほど私も暇ではありません』
「………っ。」
話し合いの場を持つのか、持たないのか。はっきりしろと無感情に告げられ、言葉を詰まらせる。
正直クルゼイには何がどうなっているのか皆目検討がついていなかったが、話し合いの場を望むということは、ロイドは少なくとも生きていることになる。
「……本人の無事な姿と詳細な事の説明がもらえるならば、席を設けよう」
『承知。追って時間や場所についてお伝えにあがります。
それまではどうか今まで通り、お騒ぎになりませんよう』
騒ぎ立てればこの話は無しだと言わんばかりに言い残し、影は姿を消した。
まるで最初からそこに誰も存在しなかったように。
(レイランドルフ卿……一体何が主の身に起きたというのだ)
常に自分を陰ながら支えてきてくれた忠臣の大事に、そして何も理解せず全てに置いて後手に回っている無力な王である自分の不甲斐なさに、クルゼイは静かに唇を噛んだ。
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