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第一章 出会い編
第36話 入城と謁見
しおりを挟む予期せぬ人間を目撃したことですっかり萎縮していたシェイラだが、ルードから安心するよう声やコートをかけてもらい、城にたどり着く頃には以前と変わらない落ち着きを取り戻していた。
「大丈夫か、シェイラ」
「はい、ご心配をおかけしました。私ったら駄目ですわね。ほんの少し見かけただけだというのに」
何をそんなに怯えているんだかと自嘲気味に己を笑ってみるが、ルードは笑わず真面目な顔で小さく頷いてくれた。
「自分を奮い立たせて気丈に振る舞うのもシェイラのいいところだ。それはお前の魅力の一つでもあるし、俺も好ましく思うが。無理だけはするな。
今まで散々我慢してきたのだろう?
これから大変なことはいくらでもあるし、この後も然り。だから気を抜ける今、この馬車の中だけでも弱音を吐いておくといい。
幸い良い聞き役が目の前にいるのだから」
そうだろう?と一転悪戯っぽく笑う彼の言葉や姿がシェイラに肩の力を抜かせた。
「……ありがとう」
小さく、本当に小さな声で、シェイラは目の前の優しい男に礼を言った。
城はもう、目の前だ。
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side:ルード
城に到着して手続きを済ませて後、すぐさまこの国の王との謁見に臨んだ。
その際シェイラには手筈通り侍女達とともに準備と称して俺が割り当てられた他国の王族用の部屋にて待機してもらった。
わざわざ煩わしいだけの謁見などで疲労した彼女をこれ以上疲れさせたくはなかったし、何よりあの男の事もある。領主の補佐役としてこの城に出入りできるあの男がすでに王都入りを果たしている以上、いつ城内に入ってくるのかわかったものではない。
泳がせると決めた以上、出来うる限り鉢合わせる可能性を潰しておくに越したことはないのだ。
儀礼通りの入場、儀礼通りの挨拶。
全て儀礼通りに進むこのまこと面倒この上ない挨拶をさっさと終えて、部下の報告を待ちつつシェイラを部屋でのんびりと口説きたい。
笑顔の下でつらつらとそんな願望に思いを寄せていた罰が当たったのか。
「ついてはどうであろう、ベルナード殿。友好を更なる深きものとするためにも一席設けたい。
別室にて旅の話なども含めて、交流を深めようではないか」
自分たちには話し合いが必要だろう?と強い視線を送ってくる王に、
にこやかに笑んで「是非もありません」と告げる以外にこの場を退場できる術もなく。
退場の挨拶の前にトリアドス王が発した提案(という名の強制参加事案)によって
俺の願望は脆くも散ったのだった。
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