出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第一章  出会い編

第41話  大夜会前々日①〜あの日〜

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『シェイラ様見てくださいまし!!やっとドレスが仕上がって届きましたわ!!』

『このようなギリギリになったこと、大変申し訳なく思います!』

『さぁさ、本番は明後日でしてよ皆さん!シェイラ様のお衣装含め当日の最終チェックに入りますわ、シェイラ様もお覚悟なさいましな!!』

『さぁ!』 『さぁ!』 『さぁ!』


『『『シェイラ様!!!』』』

『……お手柔らかにお願いしますわ』


ついぞ最近まで馴染みのない化粧品や香り高い香水。
輝かしい光を放つ宝石で誂えられた耳飾りやネックレスなどの装飾品の数々。
磨き抜かれ艶やかに存在を主張するヒールの靴。
染色された上等な絹でできたマーメイドラインのドレスに至っては、
細やかな刺繍を施された胸元の黒に近い紺色からグラデーションで次第に空色へ、足元を隠す裾にはルードの髪と同色の銀色の絹糸で美しいレースがあしらわれている。
継ぎ目も無く、一枚の布でできたといって過言ではないその美々しい逸品が、他ならぬ自分のために用意された物だと聞かされたところで、まるで信じることができない。

そんな、この上なく贅を尽くした品々を前に、先ほどから動揺を隠せない。
王城の客室で何故か参加する本人以上の盛り上がりを見せている侍女達に引きつった笑みを浮かべながら、何故こうなった、とシェイラは心中で独りごちる。


事の発端はそうー…



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「『大夜会』にパートナーとして出てくれるな、シェイラ?」

「は?」


父と思わぬ突然の再会を果たした翌日。
他国の王侯貴族用に用意された部屋の中でも一等豪華に設えられた部屋に呼び出され、与えられた別室から侍女共々足を運んだシェイラは、部屋の現主人であるルードから開口一番そう告げられた。

確かにカリス帝国からの訪問者である彼が、1週間後に催されるその大夜会に出席するために入城したことも、またそれが自国でどういった集まりであるかを事前に聞いていたシェイラにとって、彼がそれに出席する事の必然性は理解できる。
しかし何故自分が彼のパートナー、しかもそれが既に決定事項かのように語られているのか咄嗟に思い至ることが出来ず、つい間の抜けた返事を返してしまった。


「私が、ルードのパートナー……、ですか?」

「ああ、そうだ。あれは俺のように招待された皇族や王侯貴族以外、この国全ての貴族が例外なく参加が必須のものだからな、当然宰相殿の娘であり且つ伯爵家の一員であるシェイラも参加しなければならないだろう?」

「いえそれはわかるのですが、陛下……ルードのパートナーとして参加、というのは」


如何なものか、と続けようとした自分にへにゃりと眉を下げて切なげに見つめ、


「……俺とでは、嫌なのか?」

「っ……!い、いえ…そんなことは」

「であれば問題ないな」


頼りなげなその表情に、何故かきゅんっと心臓を鷲掴みされた気分に陥ったシェイラは、反射的にそう返したが、途端しれっと返してきたルードに目を白黒させる。
しかしながら答えてしまっておいてなんだが、分不相応過ぎる、と再び思い直す。
数多いる一貴族同士で未だ未婚の男女であれば、純粋にその場限りのパートナーとして通ることも多いが、国挙げての催事。
ましてや一国の皇帝、しかも独身のルードの隣に立つという事であれば話はまるで違う。

ー婚約者。もっと言ってしまえば、次期皇妃と周囲に見做されるのだから。


やはり父と参加することを告げて丁重にお断りしようと口を開くより先に、
掛けていた椅子から立ち上がったルードはシェイラの目の前まで歩みを進めー…



徐に片膝を立てて跪いたのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


※仕事につき、更新遅れました!
そして続きます♪(´ε` )
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