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第一章 出会い編
第51話 大夜会⑦〜愚者は観客の中で滑稽に踊る(後)〜
しおりを挟む※ルード視点です。
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side:ルード
「臭い」
しん……と辺りが静まり返ったことに気付いてはいるが、知ったことか。
掴まれた腕を振り払い、その部分を埃と臭いを落とすようにパンパンと手で叩く。
振り払った勢いでミラベルとやらが床に転がったが、正直どうでもいい。
………臭すぎるのだ。
鼻を襲う、頭から浴びたように強烈に香る甘ったるい香水の臭いも。
けばけばしい品の欠片もない衣装に身を包んだ二人が
近すぎる距離で話す度にかかる息の臭いも。
ここまでくるといっそ、この女達の存在自体が腐臭を発しているように感じる。
それ程に、臭いと。
(腐り物如きが、俺の最愛を見下すなど。分を弁える事も知らん愚物が)
おまけに何だ、人の腕を勝手に掴んだ挙句にその腐臭漂う身体をよりにもよってシェイラの前で押し付けやがって。
調査でも、シェイラ本人の話からも、救い難い愚物であることは分かっていた筈だが……ここまで常識を知らんとは。全くもって度し難い連中だ。
(……これらに9年間も妻娘だと名乗られていたかと思うとあの男に少し、同情するな)
俺の発した侮蔑の言葉を受け止め切れないのか、二人は親子揃ってポカン…と口を開けて固まっている。
漸く小煩い声を聞かずにすみ、ちょうど良いと笑顔で続けることにした。
「常識を持ち合わせていないらしい人間に何を言ったところで無駄かも知れんが。
まず初めに言っておくことがあるとすれば、目上の人間が名乗るまで口を聞かぬが社交場の常識。
確か、レイランドルフ伯爵夫人とその娘と言ったな?
俺はお前達に名乗っていない。
それなのに馴れ馴れしくも延々と俺の名を呼び話しかけた末に、パートナーを伴っている俺に向かってファーストダンスをねだった挙げ句、許可無くカリス皇帝たる俺の腕を掴むなど、無礼も甚だしい」
「「ッッな!!?」」
「?何を驚いている?……ああそうだ、常識がないんだったな。ついでに言えば品も無い。
剣の達人は使う剣を選ばない、という言葉を知っているか?
アレは間違いでな、達人ほど己に合った剣を吟味し正しく選ぶ。だからこそ達人たり得るのだ。
社交の達人が貴族だとして……
つけ過ぎた鼻につく香水に品性のかけらも感じられない衣装。
それらを吟味の果てに選んだお前達を、果たして貴族と呼ぶべきなのか…甚だ疑問だ」
「「……!!」」
小さい声で、夜の蝶の方が余程上手く装う(娼婦以下のセンス)だとロザベラに付け加えた批評にブルブルと小刻みに震えて二人は俯く。
辺りからはクスクスと二人を嗤う声が細波のように響き、きっと屈辱感で一杯になっていることだろう。
余りにもな自爆具合に肩透かしを食らった気分に陥った俺はもうこのくだらない親子との下らない会話に早々ケリをつけることにした。(ー…要するに歯応えがなさ過ぎて白けたのだ)
視界の端に例の記者がいることを確認することも忘れない。
「……いや、待て。レイランドルフ。
シェイラ嬢と同じ家名だが……。
シェイラ嬢、この国にレイランドルフという伯爵家は二つあるのか?」
「……いいえ、ございませんわ陛下。
この国でレイランドルフ伯爵家といえば、我が父が当主を務める家のみでございます」
「すると…この二人は宰相殿の奥方と君の姉妹だと?
だとしたら言い過ぎたことを謝罪しよう」
(さぁシェイラ 言ってやれ)
笑顔の下でそう促すと。
ほんの一瞬、見ているだけで良いなどと言っておいて、仕方のない人ですねと微苦笑を浮かべたシェイラは笑顔を消して告げた。
「いいえ。
そちらのお二人は私の母と姉妹ではありません」
ザワ…!!
周囲が騒めく中、一層深く嗤う。
さぁ、全てを元に…。
この滑稽な舞台の幕引きをしようか、シェイラー…
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