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第二章 帝国編
第8話 表と裏
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※途中、視点が切り替わります。
ルード→ガド
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
side:ルード
『待て!ー…待ってくれ、リオン』
『………義兄上……』
緑光宮を出て白磁宮への道すがら、
どうにかリオンに追いつくことのできた俺は、彼の背に向かって声をかける。
一拍の間を置いて振り向いた義弟の目は、今にも涙が溢れそうなほどに潤んでいた。
こちらを向いた目は、しかしすぐに決まり悪げに下を向いてしまう。
『申し訳ございません、ベルナード義兄上。
本当…情けないですよね、もういい歳なのにこんなことくらいで落ち込むなんて…』
『お前が謝ることではないぞ?
あれは……。
あの女が狭量なだけだ。
飛び入りとはいえ、家族が茶会に参加することにあんなに目くじらを立てる方が間違っているのだ。
ましてやリオンのような優しい俺の弟をな』
『ベルナード義兄上…』
俺の弟、と言われたことに反応してはっと顔を上げたリオンを安心させるように微笑むと、
側に寄ってこら、と頭を軽く小突く。
『俺のことは兄さんと呼べと、今まであれほど言ってきたではないか』
『あ、え、…でも……あ痛っ!?』
『でもも何もない!
……ったく、変に遠慮せずに二人の時ぐらいそう呼んでくれ。
今では俺達はたった二人の兄弟なんだからな、ん?』
わかったか?と小突いたその手で頭を撫でると、
遠慮気味に眉を下げていたリオンがふにゃりと笑みを浮かべた。
『はい……わかりました兄さん。
これでいい、ですか?』
『…ああ、それでいい。
それでこそ俺の弟だ』
(……可愛いものだな、弟というのは)
他の兄弟とは生前、こんな些細な触れ合いや会話すらなかったことを思えば、リオンとのやり取りはルードに酷く面映ゆいものであるように感じられた。
ふっと笑って暫く頭を撫で続けていたが、
クシュン!!とリオンがくしゃみをしたことで現実に立ち返る。
『っと、悪い。
外での長居は止した方が良さそうだ。
俺はこれから執務に戻るがお前はどうする。いっそ執務室に来るか?』
『ふふっ。兄さんこそ気を使いすぎですよ?
まだ大丈夫ですけど、念の為に今日は自室に帰って休むことにします。
心配症な兄さんをこれ以上心配させないためにも、ね』
『くく…そうだな、その方がいい。
何かあったら気にせず執務室まで来い。
話ぐらいいくらでも聞いてやる』
クスクスと喉で笑うリオンとこの場で別れることにした俺は、白磁宮の執務室へと足を向ける。
『兄さん』
『……ん?』
『落ち着いたら義母上が言っていた兄さんの良い人、僕にも紹介してくださいね』
『ああ。
母上はともかく、お前ならすぐに紹介しても構わんのだがな』
『ふふふ!楽しみにしていますね!!』
そんな会話をして、今度こそ俺とリオンは別別にその場を後にしたのだった。
………………………………………………………………………………
side:ガド
お茶会では遠巻きに護衛をしていた俺は、リオン殿下を追って駆け出したルードを慌てて追った。
俺はルードについては長年の付き合いもありよく知っているが、
病弱な末の皇子として有名で、公の場に滅多に出てきたことのないリオン殿下のことは殆どと言っていいほどに知らない。
知っていたのはその容姿の特徴くらいだ。
病弱の名に相応しく線の細い皇子は酷く中性的で、
ルードのような男性的な骨太さが一切ない。
ただ、気になったのは先ほどの表情……。
(……笑っていた、よな……?)
レムリア正皇妃に叱責されて場を立ち去る際。
ルードが追う気配を見せるや、歩き去る彼の口元は確かに笑んでいたのだ。
どう考えても笑う場面でなし、不自然極まるその表情に訳もなく心の騒ついた俺は、
気配を消したままルードの後を追うことにした。
ルードとリオン殿下は白磁宮の裏口付近で話をしていた。
漏れ聞く会話から察するに、落ち込んでいるリオン殿下をルードが励ましているようで、ルードが彼をたった二人の兄弟だと告げると心から嬉しそうに笑み崩れているのが見て取れた。
ほのぼのとした兄弟のやり取りに、やはり自分が感じた先ほどの違和感と彼の笑みは見間違いや勘違いの類いだろうとほっと胸を撫で下ろした。
二人が会話を終えて別れるのを見て、
そのままルードと合流しようと足を進めようとした俺はしかし、再び足を止めてしまった。
(は………?)
白磁宮内へと去りゆくルードの背中を見つめていたリオン殿下の顔は。
先ほどの柔らかな笑顔ではなく、表情そのものが抜け落ちていた。
ー…完全なる無表情。
到底、先ほどまで“兄さん”と親しみを込めて呼んでいた相手に向ける表情ではない。
ざわり……と再び心が騒つく。
人形めいた無表情でルードの去っていった白磁宮を見つめ、何事かを呟く。
その呟きは小さすぎて俺の耳に届くことはなかったが、
色のない眼差しはそのまま、その口元が弧を描いたのを見た瞬間ー
俺はそれに酷い嫌悪感を抱いてしまった。
その後自身も部屋へと帰るために白磁宮へと入っていったリオン殿下を見届けて、
ようやく俺は身体の硬直を解いた。
彼がどんな人物かを俺は知らない。
ルードの親しげな態度からも可愛い弟と認識しているのがよく分かる。
柔らかそうな茶色の髪、愛らしい中性的な顔立ち。
華奢で小柄な身体は庇護欲をそそるだろう。
しかし俺には、彼が庇護されるべき小動物のようなか弱い人物には、最早見えなかった。
表では愛らしく心根の優しい病弱な青年。
然りとてその裏にはー…
(ルードに向けた視線といい……。
こりゃあちっとばかし、注意をしておかなきゃならんな)
折角国に帰還したと思えば、嬢ちゃんのことといい色々と忙しくなりそうだ。
また自身の休暇が遠のいたように感じた俺は、ガシガシと短く硬い髪を掻き乱してルードの待つ執務室へと歩みを進めるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※次回更新は21時頃を予定しております!!
ルード→ガド
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side:ルード
『待て!ー…待ってくれ、リオン』
『………義兄上……』
緑光宮を出て白磁宮への道すがら、
どうにかリオンに追いつくことのできた俺は、彼の背に向かって声をかける。
一拍の間を置いて振り向いた義弟の目は、今にも涙が溢れそうなほどに潤んでいた。
こちらを向いた目は、しかしすぐに決まり悪げに下を向いてしまう。
『申し訳ございません、ベルナード義兄上。
本当…情けないですよね、もういい歳なのにこんなことくらいで落ち込むなんて…』
『お前が謝ることではないぞ?
あれは……。
あの女が狭量なだけだ。
飛び入りとはいえ、家族が茶会に参加することにあんなに目くじらを立てる方が間違っているのだ。
ましてやリオンのような優しい俺の弟をな』
『ベルナード義兄上…』
俺の弟、と言われたことに反応してはっと顔を上げたリオンを安心させるように微笑むと、
側に寄ってこら、と頭を軽く小突く。
『俺のことは兄さんと呼べと、今まであれほど言ってきたではないか』
『あ、え、…でも……あ痛っ!?』
『でもも何もない!
……ったく、変に遠慮せずに二人の時ぐらいそう呼んでくれ。
今では俺達はたった二人の兄弟なんだからな、ん?』
わかったか?と小突いたその手で頭を撫でると、
遠慮気味に眉を下げていたリオンがふにゃりと笑みを浮かべた。
『はい……わかりました兄さん。
これでいい、ですか?』
『…ああ、それでいい。
それでこそ俺の弟だ』
(……可愛いものだな、弟というのは)
他の兄弟とは生前、こんな些細な触れ合いや会話すらなかったことを思えば、リオンとのやり取りはルードに酷く面映ゆいものであるように感じられた。
ふっと笑って暫く頭を撫で続けていたが、
クシュン!!とリオンがくしゃみをしたことで現実に立ち返る。
『っと、悪い。
外での長居は止した方が良さそうだ。
俺はこれから執務に戻るがお前はどうする。いっそ執務室に来るか?』
『ふふっ。兄さんこそ気を使いすぎですよ?
まだ大丈夫ですけど、念の為に今日は自室に帰って休むことにします。
心配症な兄さんをこれ以上心配させないためにも、ね』
『くく…そうだな、その方がいい。
何かあったら気にせず執務室まで来い。
話ぐらいいくらでも聞いてやる』
クスクスと喉で笑うリオンとこの場で別れることにした俺は、白磁宮の執務室へと足を向ける。
『兄さん』
『……ん?』
『落ち着いたら義母上が言っていた兄さんの良い人、僕にも紹介してくださいね』
『ああ。
母上はともかく、お前ならすぐに紹介しても構わんのだがな』
『ふふふ!楽しみにしていますね!!』
そんな会話をして、今度こそ俺とリオンは別別にその場を後にしたのだった。
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side:ガド
お茶会では遠巻きに護衛をしていた俺は、リオン殿下を追って駆け出したルードを慌てて追った。
俺はルードについては長年の付き合いもありよく知っているが、
病弱な末の皇子として有名で、公の場に滅多に出てきたことのないリオン殿下のことは殆どと言っていいほどに知らない。
知っていたのはその容姿の特徴くらいだ。
病弱の名に相応しく線の細い皇子は酷く中性的で、
ルードのような男性的な骨太さが一切ない。
ただ、気になったのは先ほどの表情……。
(……笑っていた、よな……?)
レムリア正皇妃に叱責されて場を立ち去る際。
ルードが追う気配を見せるや、歩き去る彼の口元は確かに笑んでいたのだ。
どう考えても笑う場面でなし、不自然極まるその表情に訳もなく心の騒ついた俺は、
気配を消したままルードの後を追うことにした。
ルードとリオン殿下は白磁宮の裏口付近で話をしていた。
漏れ聞く会話から察するに、落ち込んでいるリオン殿下をルードが励ましているようで、ルードが彼をたった二人の兄弟だと告げると心から嬉しそうに笑み崩れているのが見て取れた。
ほのぼのとした兄弟のやり取りに、やはり自分が感じた先ほどの違和感と彼の笑みは見間違いや勘違いの類いだろうとほっと胸を撫で下ろした。
二人が会話を終えて別れるのを見て、
そのままルードと合流しようと足を進めようとした俺はしかし、再び足を止めてしまった。
(は………?)
白磁宮内へと去りゆくルードの背中を見つめていたリオン殿下の顔は。
先ほどの柔らかな笑顔ではなく、表情そのものが抜け落ちていた。
ー…完全なる無表情。
到底、先ほどまで“兄さん”と親しみを込めて呼んでいた相手に向ける表情ではない。
ざわり……と再び心が騒つく。
人形めいた無表情でルードの去っていった白磁宮を見つめ、何事かを呟く。
その呟きは小さすぎて俺の耳に届くことはなかったが、
色のない眼差しはそのまま、その口元が弧を描いたのを見た瞬間ー
俺はそれに酷い嫌悪感を抱いてしまった。
その後自身も部屋へと帰るために白磁宮へと入っていったリオン殿下を見届けて、
ようやく俺は身体の硬直を解いた。
彼がどんな人物かを俺は知らない。
ルードの親しげな態度からも可愛い弟と認識しているのがよく分かる。
柔らかそうな茶色の髪、愛らしい中性的な顔立ち。
華奢で小柄な身体は庇護欲をそそるだろう。
しかし俺には、彼が庇護されるべき小動物のようなか弱い人物には、最早見えなかった。
表では愛らしく心根の優しい病弱な青年。
然りとてその裏にはー…
(ルードに向けた視線といい……。
こりゃあちっとばかし、注意をしておかなきゃならんな)
折角国に帰還したと思えば、嬢ちゃんのことといい色々と忙しくなりそうだ。
また自身の休暇が遠のいたように感じた俺は、ガシガシと短く硬い髪を掻き乱してルードの待つ執務室へと歩みを進めるのだった。
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※次回更新は21時頃を予定しております!!
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