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第二章  帝国編

第15話  消える侍女の噂②

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side:ザムア



結局のところ、本当に亡霊の仕業だったのか。
いなくなった女性達はどこへ行ってしまったのか。

そんな考えを不安とともにぐるぐると脳内で再生し続けていたら、
気がついた時にはあれほどいた候補者達も、そのお付きの侍女たちも、
ほとんどが後宮から去っていた。
自分の部下である筈の女官達も、
ほとんどが退職するか移動願いを出して去ってしまい、
手元には僅か数名を残すばかり。

(折角女官長への大出世この地位を確立をしたと思っていたのに……!
何故か給料も下がってしまったし、噂のせいで!!)


後宮を舞台に、女性達を影から牛耳るリーダーを狙っていたのに、
これほどまでに人がいなくては牛耳るも何もない。
寧ろただの一女官と変わりがないではないか、と悪態を吐きながら、
夜の後宮内を見回りする。


(噂の亡霊とやらも出てくるなら出てきなさい!!
もしもただの誰かの悪戯だったなら承知しないわ!!)


足音荒く廊下を歩くザムアであったが、
流石に空虚な空間と化した場を真夜中に一人で見回るのは少しばかり不安もあった。
その僅かに湧き上がる恐怖心と不安を吹き飛ばそうと
わざと足音を立てて歩いていると。



ぎぃぃぃぃいいい……………


数歩先にある、空になった筈の部屋の扉が軋みを上げてゆっくりと開いた。

(かかか風よ!!き、きっと昼間換気の為に開けた窓が開きっぱなしでそれで!!)


先ほどまで勇ましかった足取りを抜き足差し足へと変えて、
扉へと近づいていく。

(大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫………)

ガクガクと足を震わせながら開いた扉の端にしがみつき、恐る恐る中を覗くと……


(!!!)

ゴクリ……


覗いた部屋の中、三日月の僅かな光に照らされて。
侍女服に身を包んだ女性がポツリと佇んでいた。
後ろ向きで立っている為に顔は確認できず、
しかし姿勢良く立つその姿は、後宮で長年勤めた侍女のそれであった。


『う、そ……。
そ、そうよ、ききききっといなくなったっていう子のだ、だ、誰かでしょ!!』


足が震えてその場から動けないながらも必死に自分を奮い立たせて声を上げる。


『ななななんとかい、い、言いなさいよぉ!!』


どもりながら大声を発した甲斐があったのか、それとも発してしまったからなのか。
ぴくり、とその侍女(?)の肩が動き、ゆっくり。
本当にゆっくりとザムアのいる方に向けて身体の向きを変え始めた。


『ッッひっ!?』


ゆっくり ゆっくりと向きを変え、そうしてその顔がこちらを向く寸前でー…


その侍女は、消えた。


何の前兆もなく、何かを語ったわけでもなく。
まるで幻を見ていたかのように呆気なく、消えてしまった。

ポカン…と束の間その場で呆けていたが、
すぐに正気を取り戻すとはは………と笑いがこみ上げてきた。


『そうよ、……そうよ!亡霊なんているわけない!!
ふふっきっと噂を気にしすぎて錯覚を……』

そう言って笑いながら扉を閉めようとした時、ふと室内の床が目に入った。

床は何故か濡れていて、足の跡が付いている。

『……は、は……え』


笑い飛ばした筈の恐怖が戻ってくる。

何で床に水で濡れているのか。
いや、果たしては水なのか。
月明かりはあるといっても全てを照らしているわけではない。
床にしても薄暗い中、僅かに濡れている、
足の跡が付いているように見えるといった程度。
だからあれが真実水であるとは言い切れないのではないか?
だとしたらあれはー……


怖いのに、足が言うことを聞いてくれない。
見たくないのに、床から目が離せない。

硬直したまま床を見つめ続けていた結果ー。
を目にすることになった。

ズズ………
ズズズ……


音とともに床の足跡が、
まるでこちらに伸びてくる。

ズズズ……
ズズ…… ズズ………


どんどん
どんどん音も足跡もザムアへと近づいてくる。


(あ、ああ………!!)


最早声を発することも出来ずガタガタと震えるばかりの自分の元に、
遂に到達した。


はぁぁぁぁぁ………………


頬を人間の息のような、生暖かい風が撫でたのを感じたが最後、
ザムアの意識は暗転した。





翌日

早朝に仕事を始めた女官の一人が、
空室の前で姿勢良く仰向けに気を失っている女官長を発見した。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※次回更新は16時頃を予定しています。
お楽しみに~(*´∇`*)
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