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第二章 帝国編
第39話 消えたシェイラ①
しおりを挟むside:ガド
『それで。わざわざ場所を変えてまで一体なんの話があると言うんですか?
ガルディアス騎士団長殿?』
渋るモリーを居室から連れ出し、現在空室である侍女の控え室へと場所を変えた俺。
部屋へと入るなり厳しい眼差しを向けられはははっと無意味な笑いをあげてしまったのは、目の前の侍女の形相が予想以上に怖かったからとは口が裂けても言えそうにないが。
兎も角、自分は聞くべきことと言うべきことを早急に告げて退散あるのみ!
そう自分に気合を入れて声を上げる。
『さっきも言っただろうが、陛下のご命令ってやつだ。
2日前の件、黙ってたことを話してもらおうか』
陛下直属として仕える人間が、その陛下本人に隠し事は良くないだろうが。
そう言外に告げれば、目前の侍女頭がちっと小さく舌打ちをしたのを耳で捉えた。
『あの小賢しい影……
こそこそと嗅ぎ回っただけでなく告しやがりましたわね…(小声)』
『……お~い、全部聞こえてんぞ。
てかやっぱり影に口止めしてたのかよ』
『そうですが何か』
(影が2日も報告を怠るなんて変だと思ったぜ……なんて言って口止めしたのやら)
ルードが直々につけた影にこの侍女殿は何をしてくれてんだと呆れた眼差しを送れば、開き直ったように無表情で答える面の皮の厚さ。
侍従は主人に似ると言うが、この太々しさは果たして似たのかそれとも生来の……などと考えつつ、彼女が口を開くのをじっと待つ。
やがて根負けしたのか、はぁぁ…と深いため息とともに2日前の詳細を明かしたモリー。
話を聞くにつれて渋くなりそうな表情をどうにか堪えて
何故報告を止めたのかを聞くと、単にシェイラ嬢がそう望んだからだと言う。
『嬢ちゃんがそう言ったからといって、お前さんが俺らに何も報告をしなかったり影に口止めするのは違うだろうよ……』
『ですが、このところ陛下が大変お疲れなのをシェイラ様も酷く気にしておられてまして…。何もなかったことだし、余計な気苦労をかけるくらいなら……と強く仰ったものですから私としては……』
『素直にその言葉に従った、と』
『ええ。それにリオン殿下は兎角野心などから遠い方と記憶していたものですから。
下手に疑心に惑わされるよりは、と』
『はぁぁ……。
まぁ、仔細は分かった。が、
わざわざ場を移したのも、嬢ちゃんじゃなくってお前さんに話があるといったのもそのリオン殿下について注意すべき点が発覚したからなんだよ』
『っ!!………それは、どういう……』
『時間もそうないから手短に言わせてもらうとだな』
そこまで話したところで、ガタン!!と部屋の外から何かが倒れる音を俺とモリーは同時に捉えてハッと振り向く。
素早く控え室から飛び出て辺りを窺うが、人の気配はしない。
廊下を人が通ればすぐにわかるよう予め扉を少し開けていた為、誰かがここを通過して奥の居室へ行った可能性はない。ー…魔法でも使わない限りは。
だとすれば物音はどこから?
とてつもなく嫌な予感を覚えてシェイラのいる居室へ走る。
同じくモリーも後ろから追走して扉にたどり着き、急ぎ部屋の鍵を確認する。
『鍵は!!?』
『かかったままです!』
つまりは正面からの侵入はあり得ない。とすれば。
(くそっ!!無事でいてくれよ嬢ちゃん!!)
こんなに焦るくらいなら最初からシェイラの目の前で話せば良かったと臍を噛みつつ、モリーが解錠するのを待つ。
すぐに解錠は成され、部屋へと二人して雪崩れ込めばー…
『っシェイラ様!!?返事を…!返事をして下さいまし……!!』
『……おいおい、嘘だろ……』
室内には倒れた椅子が虚しく床に横たわるばかりで、
肝心の彼女・シェイラの姿はどこにもなかった。
(影に説教垂れてる場合じゃねぇだろ、俺……)
死にそうな顔で室内中を探し回るモリーを茫然と眺めつつ、
酷い失態…ルードになんと報告したものか、と頭を抱えるガドだった。
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