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後日談(最終話):君へ一生涯の幸在らんことを
しおりを挟む最終話、お楽しみください!
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(side:アドゥルフ王太子)
獣人国ビルストで開かれた、とある高位貴族家の盛大なパーティー。
パーティーを開催したのは侯爵家、どうやら後継が当主を継ぐその披露目らしい。
主役の新当主と親しげに話す、2人の人物。
1人は大柄な獣人男性。
周囲の話を聞くに、彼はここ、獣人国の守護神と称される将軍閣下らしい。
彼は話に花を咲かせる隣の女性の肩を愛しげに抱いている。
そして彼に肩を抱かれている、その女性はーー。
「……彼の話は、真実だったか……」
「………殿下」
「止せ。今はしがない何処ぞの子爵家子息とその従者、そうだろう?」
「はい……」
自国の騎士団長の言を鋭く嗜めると、
再度女性に目をやる。
美しい。
本当に、美しい女性だった。
獣人男性の髪色と同じドレスを上品に着こなし、
乳白色の肌に長く艶やかな黒髪が映え、眩しい。
正しく可憐なその人間の女性は、
かつての自身の婚約者。
婚姻を目前にして自ら罪人へと落とし、死へと追い詰めてしまった。
いや、公には死んだとされている、かつての愛しの君。
決して彼女の視界に入ることのないよう配慮しつつも、
決して目が離せない。
…………
……………
数年前、他国へと貿易交渉に派遣していた自身の部下が興奮したように私に告げた。
曰く、
“死んだ筈の王太子殿下の婚約者を、獣人国で見かけた”と。
無論、その話は私と私の周りにいるものを騒然とさせた。
しかし私は、すぐさま見間違いであると断言した。
他人の空似であったのだと。
そう断じなければ、心が揺らぎそうだったから。
2度に渡る王族の婚約者が絡んだ不祥事。
そこから発生する王族への不信感を払拭する為、
私にはすぐさま国内貴族女性の婚約者ができた。
彼女を王族名簿に永久登録したことで生涯独身を示したつもりだったが、
王太子という地位がそんなに甘いはずもない。
それはそれ、王太子妃はすなわちのちの王妃、国母となる。
存在が不可欠な以上、その婚約を受け入れる他なかった。
実際、新たに婚約者となったその女性はよく私を支えてくれている。
しかし、間もなく正式に婚姻の段になった時に耳に届くことになったその情報は、
今の私にとって、絶対に真実だと述べてはいけないもの。
してしまったら最後、誰も幸せになどならないのが、分かりきっている。
(彼女が死んだとされてもう年単位で時が経っている。
もし生きていたとして、それでも母国へ戻らなかったということは…)
彼女は伯爵家令嬢である自分の死を受け入れたということ。
新しい人生を、歩き始めたということ。
最早私の隣に彼女の席はなく、
彼女もきっと望まない。
ひたすらそう自分に言い聞かせ、無事に婚約者と結婚した。
……………
…………
それでも。
王太子として政務に忙殺される中、それでも時折彼女の姿を思い出す。
鮮明に、時を経る毎に尚鮮やかに。
(これが、未練というものなのだろうか。
なんとも女々しい男だな、私は)
次第に自嘲する卑屈な笑いが増えた私を、かつて彼女の護衛をしていた騎士団長は案じた。
そして伝を辿り、獣人国の侯爵家が開催するパーティーに身分を隠して参加することを勧めてきたのだ。
もしも彼女がそこに参加することがあらば、一瞬でも見ることが叶うかもしれない、と。
そして見ることが叶ったのなら、キッパリと未練を断ち切るべきだとも。
悩み悩んだ末、やはり私は彼女に会いたいと。
彼の提案を受け入れた。
表向き獣人国の視察として。
裏では彼女を一目見るために、私は政務を宰相に任せ、獣人国へと旅立った。
※ ※ ※
そして今、視界の中で幸せそうに微笑む彼女の姿に、胸が痛く締め付けられた。
自分以外に肩を抱かれ
見知らぬ人々と幸せそうに笑う彼女にーー。
「ああ、やっと……」
やっと、未練が断ち切れる。
そんな安堵感からか、
「殿っ…」
気が付けば涙が頬を伝っていた。
「ああ、すまない。つい、な」
急ぎ涙を拭き取り、心配をかけたと従者に扮した彼に微笑めば。
「……よかったですね」
ぽつりと一言。
その言葉に、ああ、この男も俺と同じだったのかと。
彼女の死に、存在に同じく囚われていたのだと唐突に理解した。
時同じくして、吹っ切れたのだとも。
「……そうだな」
帰るぞ
一言そう呟くと、彼女に背を向けて会場を後にするべく歩き出す。
会場を出る寸前、一度振り返り。
かつて心から愛した愛しの君へーー、この場より言葉を贈ろう
「君へ、一生涯の幸在らんことを」
一瞬彼女がこちらへ視線を向けた気がして慌てて自称従者殿と貴族家を後にした私は。
とても晴れやかな笑顔を浮かべていたそうなーー
終 わ り
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これにて物語は完全に完結です。
ご愛読、誠にありがとうございました!!
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コメントありがとうございます!
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楽しませて頂きました。
ありがとうございました(*^^*)
こちらこそお読み頂き光栄です!
楽しんでもらえたという一言だけで、作者は頑張れる生き物です(*´꒳`*)
これからも懲りずに読んでやって下さい♪