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ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。

第6話 ぶらり途中下車できない旅

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駅に着くと目の前にあったのは蒸気機関車であった。
この世界は水を使った技術が色々とあるのかな?
駅の案内板も水手紙と同じような仕組みを利用したスクリーンになっている。
文字を表示する技術としてよく使われているみたいだな。
ふむ、コレは割とワクワクする。

「魔法使いさんの切符も買って来たわよ~。
出発は今から10分後くらいね。
はやめに乗り場に向かいましょう?」
「そうだな。乗り遅れたりするとまた色々と面倒な気もするしね。」

俺は二人に先導してもらいながら、駅構内を歩き発着場に向かう。
この世界については知らないことばかりだからな。
知らない土地でもスマホがあればなんでもわかる俺の世界とは違う。
賢者のブレスの力があれば簡単に知識を得れるのかも知れないが、そこはなんとなくあまり頼りたくなかった。
こいつは俺に知識を与えすぎる気がした。
どうやら、この世界には色々種族による言語や方言のようなものもあるらしい。
今の俺にはその全ての知識があの時に一瞬で書き込まれた。
脳みそが焼き切れるくらいの情報量とはよく言ったもんだ。
あの晩はあまりにひどい頭痛でよく眠れなかった。
どうやら、ギベオンやモルダバイトにある石酔いという現象もこの世界ではかなりガッツリとパワーアップするようだ。
こんなもん、知識が欲しいからと毎回使ってたらそのうち脳みそがぶっ壊れる。

「魔法使いさんは昨日はよく眠れました?」
「いや、あんまり…。実を言うと一階の食堂の長椅子ソファーで寝ていたんだがあまりにひどい頭痛により寝付けなくてね…。
電車乗ってる間に寝ておこうかなーと…。」

妹ちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
この子は多分、今の俺の状態は自分のせいなのではとか思ってしまうようなタイプなんだろうな…。

「ひとまず、少し寝れば多少は体調も戻ると思う。悪いけど目的地に着いたら起こしてくれないかな?」
「わかりました!お任せください!」
「はは、頼りにしてるよ。」

到着した電車に乗り込み、座席に座ると俺は早速窓側に頬杖をついて眠り始めた。
流石に色々とあって疲れた…。
いまいちこの世界も夢なのかどうかよくわからん…。
まぁ、夢なら今度こそ目を覚ましたタイミングで覚めるだろう…。
仮に本当に異世界だって言うにしてもあまりにも俺に都合よく出来過ぎてる気もする。
まるで、神さまが初めから決めた運命の上にでも、無理やりはめ込んで来たような感覚を感じるくらいだ…。
まぁ、そうだな…。本当に異世界と認めざるを得ないなら持ってるアイテムたちの研究や、新アクセの作成も楽しいかもだな…。
この世界にしか無いものを使ってステキなアクセを…。

いろいろ思案しているうちに俺の意識は落ちていった。
夢の中で寝て、更に夢を見るなんて経験もゼロでは無い。
だが、こんだけ夢から覚めないなら、目覚めた俺は知らない天井でも見る羽目になりそうだ。

…………

周りが騒がしい…。
やはり病院の中か…。
やはり、どうやら俺は熱中症でぶっ倒れてそのまま入院でもしたのだろう…。

「おい、坊主!聞こえねぇのか!おきやがれ!」

口の悪い医者だな…。ぶっ飛ばすぞ…。

「あぁ…?っせぇな…。今起きるから黙ってろクソが…。」

俺は寝起き姿を誰かに見られたり、ましてや話しかけられるのが一番嫌いなのだ。
クソイラつきながらゆっくりと目を開けて前を見る。
髭面のクマみたいな屈強な医者がいる。
いや、違う。
医者がこんなきったねぇボロ布を身につけてるわけがない。
おいおいおい。まだ俺の夢は覚めないのか…。

「おうおうおうおうにいちゃん。人質も取られてるってのに余裕だなぁ~?ああん?とりあえず、金目のものだしな!
ここは電車の中だ!逃げ場はねぇぜ!」
「やかましい…。縛(ばく)。」
「あ…?何わけわかんねぇこといってんだオメェ?ふざけてっとお前からころ…なんだ…?体の動きが鈍い…?」

ふむ…。寝ながら考えていたが、この世界では俺が身につけてるパワーストーンの力や意味合いが大幅に強化されるらしい。
それならば霊力が向上するなら使えるかもと思ったが、当たりだった。

俺はオカルト好きでもあるのだ。
その中で覚えたのが真言や陰陽道系の術の一部。

今こいつの動きを止めたのは

「縛。縛。縛。不動縛。」

人差し指と中指を使って結ぶ検印を相手に向けて唱える。
完全に相手の動きが固まる。

「それではここで遺言をどうぞ。」
「な、ななななんだおまえぇ…こえぇよぉおお!」
「ごめん、俺この世界の仕組みわかってないから聞きたいだが、犯罪者ってのはどうやって処理すればいいんだ?」

クマみたいなおっさんをどかして人質にされていた二人を遠ざけて聞いてみる。

「他者の命を奪ったものは基本的には死罪。それ以外は奴隷紋を刻む事が許されるから奴隷にして道具のように使うか、労働させるか。裁くのは基本的には各ギルドのギルドマスターだよ。
裁かれたあとは、被害者側がどう罪を償わせるかを決める権利を有するっていう決まり。」

ほうほう。

「で、お前はどうなりたい?」
「せめて命だけは…。たのむ…。」
「わかった。じゃ、あとでこんな事した理由だけは話してくれ。あと、あんたの仲間は?」
「運転室に向かっている筈だ。
刃物は向けても人は殺すなとは言ってある。」
「わかった。」

俺は犯罪クマさんを、その辺で怯えてた乗務員にきつく縛らせて運転室に向かう。
運転室に着くと運転手達が刃物を向けられていた。
トレインジャックさせて何をどうするつもりだったのかはまぁあとで聞こう。

「なんだぁてめぇ?殺されたいのか?」
「縛。」
「あ?うぐ!なんだ!体の動きが鈍い!」
「縛。縛。不動縛。」
「あが、うご、けねぇ…。」

先程と同じくその辺にいた乗務員に縛らせて引きずり回してコイツらのボスがいた客車へ移動する。
こうして、トレインジャック事件はあっさりと解決した。

客室に戻りトレインジャック犯のボスのクマの前に他のクマを突き出す。

「おい、クマ。オメェだよ髭面のクマ。
見るからにオメェしかクマっぽいの居ないだろクマ。仲間はこれで全員か?」
「は、はい…。全員です…。」
「おっけ。えーと、とりあえず駅に着いたらギルマスに突き出す。
そのあとは…。俺が決めていいことになるのか…?」
「被害者の次に優先される権利者は捕まえた人だからそうなると思う。
奴隷が欲しくて犯罪者を捕まえる!って言う人も居るから、犯罪者が少ないのもこの国の売りでもあるよ。」

なるほどねぇ…。ただそうなると残ってくるのは最強犯罪者集団とかになりそうな気が。

「とりあえず、君らの話聞かせてよ。
理由なしでこんなことしないだろ?」
「お、おう…。実はな…。俺ら3人は仕事の同僚だったんだ。」
「なるほど、で、3人ともクビになったからその腹いせに派手な犯罪でも起こして、会社の役員連中困らせて、挙句身代金とかも貰っちゃおう的なあれ?」
「あい…。まさにその通りで…。
乗客リストに仕事場の偉いさんの娘が乗ってたんでな…。怒りに任せて…つい…。」
「そっか。クマも大変だったんだな…。」
「いやまぁそうなんだけどよ…。お前さん、信じるのか?」
「嘘でもほんとでもぶっちゃけどっちでもいいよ。お前らになんかしてやろうとか思ってないし。」
「本気で言ってるのか…?俺らはもう失敗した時点で奴隷としてクソみたいな仕事させられるのも覚悟してたんだぜ?」
「要するに転職先があればいいんだろう?見た目的に肉体労働とか得意?」

3人とも自慢の筋肉を見せようと縄で縛られている状態でふん!っと筋肉を隆起させてくる。

「おう、鍛え上げた自慢の筋肉だ。任せてくれ。」
「車掌さん、コイツらの今後はアンタに任せたよ。荷物運びとかの仕事でもあげて雇ってあげてよ。」

クマと子グマと中グマ(大きさ的に)と車掌が驚愕の表情でこっちを見てくる。

「えぇ!?良いんですか?
最近はこんな簡単に捕まる犯罪者も減ってきてるのに…。コイツら雑魚雑魚の雑魚ですよ?いや、あなたがつよいのかもですが…。
ひとまずお言葉に甘えますが、とりあえず奴隷期間は…?」

雑魚雑魚の雑魚という言葉に屈強な見た目のクマが失意の表情を浮かべている。

「奴隷期間?そんなのも決めれるんだ?」
「えぇ。もちろん、犯罪の重さに応じた上限はありますが…。」
「3ヶ月でいいんじゃない?試用期間ってことで。
そこでまともに仕事できなかったらそれは仕方ないコイツらが悪い。」
「えぇ…。短すぎますよ…?普通はこのような犯罪なら3年くらいです。」
「やる気はありそうだし、いい労働力になるならいいんじゃない?」
「そうですね…。君たち、この人に感謝しなさい!ひとまずギルドでの裁判が終わったら明日にでも働いてもらうからね!」

ニコッと俺に笑いかける車掌。
コレでよかったかい?って意味もありそうな良い微笑みだった。

まぁなんやかんやの一悶着はあったが、無事?俺たちは中央皇国に到着した。
中央皇国に着いてすぐ、俺たちは予定通りギルドに向かい、まずはギルマスにクマさんズを引き渡して来た。

「魔法使いさん、些か優しすぎない…?
車掌さんも言ってたけど普通なら3年は奴隷契約で無報酬かつ最低限の食事で労働させるものよ。
アレだけのことをしてるんだし…。」
「仮に優しすぎたとしても、俺は彼らの人生を救いたいと思った。それだけだよ。
まだまだ彼らはやり直せる領域にいた。
俺はそれに協力しただけだ。」
「ひとまず、東の魔女さんか西の国のギルマスさんからの水手紙が来てるかどうかの確認は後になりかねないですね…。
予想外のことがありましたし…。」
「こればかりは仕方ないさ…。
トレインジャックなんて普通ありえない事だとは思うけど…。」

ここのギルドも作りは西の大国と同じみたいだ。
一階には大きな食堂があるみたいだったので、ひとまずそこで昼飯でも食べながらゆっくりとギルマスか東の魔女からの連絡を待とうと言う事になった。

「しかし、クマさんたちの裁判っていつ終わるんだろうな…。それが終わらないと水手紙見れないよな?」
「そうだね…。アレはギルマスにしか本来見る権利はないから…。
うーん、ひとまず早くても1時間はかかるかなと思う。」
「とりあえずご飯たべましょう!魔法使い様!」
「そだね。俺もなんか無駄に腹減って来たよ…。」

しかし、咄嗟の思いつきの事でやってみたとは言え、この世界における俺の作ったものが与える力はかなりの物のようだ。
一度どれにどれだけの力が秘められてるのかを確認しておいた方が良いかもしれない…。
意図せず、周りを傷つけるような力が出ようものなら…。取り返しがつかないことになるかもしれない。
そういや、東の魔女さんか。
かいつまんだ話を聞くに、多分その辺りとかも詳しそうだな。
会って話が通じるような人なら色々と聞くのも楽しいかもだな。

「西の大国からお越しの魔法使い2名様と戦士1名様のパーティの方~!ギルマスがお呼びです~!支給マスタールームにお越しください~!」

おや?もう裁判終わったのか。40分ほどしか経ってないみたいだが…。

「行くか。さて、水手紙がもう来てると良いんだけども…。」
「おそらく、魔法使いさんがあらかた決めちゃったからサッと終わったとかじゃないでしょうか?」
「なるほど。よくわからんけど案外軽く終わるんだねぇ。てっきり重要参考人とか証言人として出頭しないといけないかとおもってたよ。」

などと談笑しながらギルマスの部屋に向かう。
扉を開けてギルマスルームに入ると、細身にメガネのギルマスが俺らを待っていた。
が、なんかものすごく大慌てなのと、焦りと恐怖を感じるような状態なのが見て取れる。

「あぁっ!来てくれたか3人とも!とりあえずトレインジャック犯についてはそこの魔法使いさんの希望通りに早急に手続きを済ませて来たよ!
そっちはむしろもうほんとどうでも良い!問題は東の魔女からの連絡だ!」

大慌てで、僕の後ろを見てくれ!と言わんばかりに水手紙の前に立たされた。

「えーーーーっと………。うわぁお…。」

そこに表示されていたのは、彼氏からの連絡が一向に来なくて病んでる女の子のメールのようなものばかりであった。

『なんですぐへんじくれないの』
『いますぐへんじしてよ』
『きたらすぐしらせてよ』
『ちょっときいてるの』
『なんでむしするの』
『なんでむしするの』
『なんでむしするの』
『ねえ』
『はやく』
『へんじしてよ』

これはひどい。

「お願いだ!もうなんか怖くて僕は返事したくない!君から返事してくれ!
ここのまえに立って、水晶に触れて念じれば念じたものがそのまま言葉になるから!!」

ふむふむ、なるほど。面白い仕組みだな。

「こうかな?」

中央皇国ギルドに到着しました。魔法使いです。

『中央皇国ギルドに到着しました。魔法使いです。』

「おー!すごいすごい!表示された!これでもうあっちに届いてるのかな?」
「えぇ、届いていますが…今の文字はいったい…?」
「あっ…。俺の国の言葉と文字のまま送っちゃった…。」

『いまのなに』
『ふざけてるの』
『はやくへんじして』

「あの…私にはこの国の言葉がよくわからないので、やっぱあなたが送ってくださいよ。」
「うわぁぁあっ!いやだよぉおっ!あの人異世界人がらみの話になると目の色変わるからこわいんだよぉおっ!なぁんでぼくのことまきこむのぉぉ~!」

皇国ギルマスには大変申し訳ないが、俺はまだこの世界の言葉を全然学んでいない。
てなわけで、皇国ギルマスの言葉で「到着しました」のメッセージが送信される。

『おぉ!ついたんだね!
とりあえず君を私のいる場所にすぐにでも呼びたい。普通の方法なら鉄道を使って来てもらうんだけど、今回は私の権限により特別に受諾させた方法を用いて来てもらう。
方法とは中央皇国の王室に私が設置した、転移門を通って来て貰うというものだ。
これは本来、王家の物に緊急事態が発生した際に我がギルドにすぐさま転移してもらい保護するものとして開発したものだ。
鉄道の衰退を防ぐために、王族のみに使用を許された、我ら大国のギルドマスターのみに存在を知らされているアイテムだ。
使用後は君たちには当然ながらこの技術の漏洩を防ぐ為の念書を書いてもらう。
今回はこれと君と言う特別な存在が現れた事を条件に火球的要件として皇女殿下に許諾してもらった。
それほどに君が現れた事と君の存在は国家レベルでの重大事態というわけだ。
君が報告通り、本物であるならば特にだ。
君がすぐにここに来る準備は全て整えてある。
今すぐにでも王宮に向かい、皇女殿下に話をして私の元へとすぐに向かって欲しい。
良いかい?すぐにだよ?』

…………。

「あの、中央皇国のギルマスさん…。
1つ聞きたいんだけど…。」
「はい、なんでしょうか…?」
「この魔女さんって会っても大丈夫な人…?」
「あなたが報告のあったように本当に異世界から来た民だと言うのなら…正直逃げた方が良い気がします…。」
「だよねぇ…。」

『追伸。
中央のギルマス。余計な事を言って私の元へ彼が来ないような事があろうものなら、国家大罪人として貴様を爆裂四散させねばならなくなる。
女王の次に地位のある私の権限を持って。
それだけの事態である事を理解して如何なる任務よりも最優先で彼を王宮へと案内されたし。』

……………。

「怖そうな人ですね。」
「すぐにおうきゅうへいっしょにむがってぐだざいいい!!
いやだああああ!しにたくないいい!」

かくして俺たちは、中央皇国のギルドに着いたのもつかの間に、中央皇国の看板とも言える王宮へと急遽向かうことになるのであった。
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