その辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。

風呂桶之水源餅

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ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。

第14話 最初の異世界人と力の継承者。

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みんなに見られながら数時間。
俺は自分の世界から持ち込んでいた充電式のハンドリューター(いわゆる電動ヤスリ)で木を下書きに合わせて削っていく。
このリューターはモバイルバッテリーにつないで使えるものなので、こちらの世界でも使えたのは助かった。
合わせて手回し発電の充電器も持ってたから事なきを得たのだ。
世の中何があるかわからないからなぁ~。
道具って大事。


ある程度の形を削り出してフレームの原型が出来上がって来ていた。

それを紙やすりを600、800、1000、1200、1500、2000番と順番に使い表面をとぅるとぅるに磨き上げていく。
そう、とぅるとぅるにだ。

だが、この段階ではま如何にも木って感じが残る。
この後にオイルと着色塗料を混ぜた木に染み込みやすいシャバシャバの塗料を使い塗装し、それが乾いたらアマニ油を使ってオイルフィニッシュ…。
この、オイルフィニッシュが根気がいるのだ。

このアクセを作っていて一番楽しいのがこの次の工程である塗装とオイルフィニッシュである。

どんな見た目に仕上がるかってのは、このオイルフィニッシュが完了するまでわからないし、オイルフィニッシュ作業中にも変化していく。

またアクセとして身につけてるうちにも、木に染み込んだオイルがゆっくりと酸化し色味が変わっていく。
いわゆるエイジングと言うものが起こるのだ。
それがまた味わい深い見た目に作品を変化させていく。

そう言う楽しさがあって、最近は一番作ってるシリーズがこのウッドフレームなのだ。

「しかし…、さっきから一言も発さず無言で作業してるねぇ…。
私たちは邪魔になってたりしないかい?」
「邪魔にはなってないよ。大丈夫。
作業しだすと自分がここまでやりたいってところまではどうしても手を止めずやりたくなるんだよね。普段は音楽を流しながら作業したりはしてるよ。」
「そうかそうか。でも、水分は取りたまえ。
君自身は作業中は気付いてないのかもだけど、本当に相当な量の魔力を作品に注ぎ込んでいるようだよ?
しかも驚くべき事に、その注がれた魔力は完全に作品に固着して失われることが無い力になっているみたいだ。
なるほどねぇ。だから君の作り出す作品にはとんでもない力が宿るわけだね。
そして、その作品を作ってる間に込めるイメージがそのままその作品の力になる…。
故に、使える者も自分専用と他の者でも使える物に別れるわけか…。
特に君自身の思い入れが強い物ほど君専用になるんだろうかね?」

魔女さんが俺の作業工程を見ながら色々と考察し、興味深げに手帳的なものに書き込みしている。

というかいつのまにか、他の俺がぶっ飛ばしてしまった魔導師さんや、昨晩俺が蘇生した冒険者さんも集まっていた。

夢中で作業してたとは言え、人の気配に全く気づかなかった…。

気付いたのは魔女さんに言われたようにのども渇いてたし、削り出しもある程度ひと段落した事で一服しようと気を緩めたからだ。

「あの…いつの間にこのギャラリーが集まって来たんですか…?ぶっちゃけびっくりしてんだけど…。」

当然ながら戦士ちゃんや妹ちゃんも居た。
妹ちゃんに至っては実にキラキラした目で尊敬の眼差しを向けてくれている。
ほんと、歳下の女の子の尊敬の眼差しってのは凄く心地よい。

「あの、魔女さんが午前の稽古が終わった私たちに声をかけてくれて、そしたらそれを聞いた皆さんが俺たちも一緒に見学させてくれーっ!って。
邪魔にならないようにコッソリと入ってずっと見てました。」
「にわかには信じ難かったけど、本当に手作りなのね…。それに見たことのない道具…。
改めて貴方が異世界人だと自覚させられたわ…。
ほんと、異世界人なんて私たちにはおとぎ話の中にしか居ない伝説か空想上の存在だったから。」

などと戦士ちゃんが言ったや否や、

「甘い!甘いよ戦士ちゃん!まだまだ学が足りないね!
良いかい?私の著書にもあるように異世界人はたしかに千年前に存在していたんだよ。
その異世界人は、数多くの霊的な力を持つ魔物を使役し、この世界においても様々な痕跡を残したとされている。
私はそう言った痕跡と証拠を一つ一つ集めて居たんだ。
きっと本当に存在していたと信じて沢山の証拠を、様々な土地に行って調べたんだよ。

その中で見つけた、一番大きな証拠がこれさ!

恐らくは星を模した記号だと思うんだけどね。」

と言って、魔女さんが自分の著書とその異世界人がこの世界に残したとされる木の板を見せてくる。

そこに描かれていたのは…。

「これは…。五芒星…。
まさか、安倍晴明のセイマン!?
おいおいおい、いやでも、そんなまさかなぁ…。
この世界に安倍晴明が居て、五芒星を描いたものを残したと…?
たしかに俺の居た土地にも、安倍晴明が鎮火の術を施した神社はあるけど…。
あの人、異世界入りしてた時期があったのか…。
でもたしか1000年前の平安時代には珍しく80歳近くまで生きたと記録にはあるし、とするとこの世界に居たのは一時的なのか…?
うううむ。
いや、清明という証拠はないか…。」
「うーん、多分だけど君のいうそのセーメーっていう人であってると思うよ。
たしかに、土地に残された記録でもそのような名前だと伝えられていた。
彼もまた紐を編んで作ったアクセサリーをこの世界で身につけていたという伝承もある。
彼が身に付けていたそれは、今は彼が立ち寄ったとされる村の神殿にて祀られている。
この木の板はその村の村長から一枚頂いたものだ。」

しかし…、まさか俺の前にこの世界に来たと思われる人が安倍晴明だったとは…。
今日一番の衝撃かもしれない。

「察するに君の世界でも相当有名なようだねその人は。また時間のあるときに色々聞かせてくれたまえよ。
興味深い話がたくさん聞けそうだ。
それに…私の研究は間違いではなかったと今正に君が証明してくれた!
これはようやく長年の研究が報われた最高の瞬間だよ!」

魔女さんがそう言うと当たりが湧き上がり歓声が上がる。
某アニメの最終回並みにおめでとうコールで湧き上がる。

「やっぱ、賢者さんってすっげぇんすねぇ!
知ってましたか?アンタが作業してるとき、この部屋にもの凄い魔力が集まるような感覚があったんすよ!
アンタはきっと周りからたくさんの魔力を集めてその作品に意図せず流し込んじゃってるんでしょうね。
そいつがどんな風に仕上がるか俺も楽しみっすよ!」

そう言われて調子の良くなった俺は、アクセサリーケースにしまっていたファイアークォーツとボルダーオパールを取り出す。
その二つの石をまだ未完成のフレームにはめ込みみんなに見せる。

「あくまでもイメージだけど、石をはめるとこんな感じになるよ。」

するとまた大歓声があがる。

「うぉぉおおおぉお!すげぇ!かっこいじゃねぇか大賢者様!まだ未完成だってのにものすげぇパワーを感じるぜ!!
完成した時の試運転はまた俺たちも付き合うからな!」

その言葉に他の魔導師が固まる。

「俺、たち!?ふざけんな!お前1人でやれ!!
お前も大賢者様の昨晩の無双っぷりと昼間の雷撃を浴び…、、あ、おまえあれか一番最初にぶっ倒されてそのまま退場したやつ…。」

どうやらそのようだったらしい。
ついでに昨晩の俺の無双っぷりは遠雷がなってる程度に思いながら遠くで見てたくらいだったらしい。

「いいか!この人の放つ雷は魔力無効のアーマードドラゴンの身体を消しとばしたんだ!
いいか!もう一度言うぞ!!魔力無効の相手を!消しとばしたんだ!!
また、未完成のアクセサリーの時もその雷で、我らが魔女様すら退けたんだぞ!
その時はそこの戦士のお嬢ちゃんの咄嗟の機転で事なきを得たんだがな。」
「えぇっ!?昨日のあの大魔法は賢者様だったんですかい!?俺はてっきり魔女様かと…。」

それを聞いて魔女さんもばつが悪そうな顔をする。

「いやぁ…わたしも魔力無効能力者相手の戦い方をまた思い出して考えていかないとねぇ…。
これではメンツが立たないからね。
さて、今回はファイアークォーツ…すなわち炎の力を持つ石だね。
いったいどんな面白い力を見せてくれるんだろうね?」
「うーん、俺のイメージではライトニングクォーツみたいに俺を炎の魔人に変えるイメージで作ってみてる。
また、ライトニングと違って魔神化しなくても炎の魔法や武器への炎の付与とかそんな能力を持ってるイメージかな?」
「ほほう?いいねぇ。どうだい猫。
完成したら、爆裂猫娘の異名を持つ者としていっちょ試運転に付き合ってあげては?」

話を振られたギルマスちゃんのしっぽがウキウキにユラユラ揺れる。

「もちろんにゃ。後悔するほどに叩きのめしてやるにゃ…。覚悟しておけにゃ。げへへ…。」

顔が怖いよギルマスちゃん…。

「なぁ、おいご主人様。
他にもやっぱ色々とあるのか?作ってきたもの。」
「そりゃ沢山あるよ?ただ、そうだね。
俺にとっては失敗品ってものだって沢山あるし、そう言うのもあって今の作品ができているとも言えるかなぁ。
これらを作れるようになってきたのはこの1年間継続してるうちにって感じだよ。」

そう言って、かばんからタブレット端末を取り出しみんなに今まで作った作品の写真を見せていく。

「おぉぉぉぉ…。本当に最初の作品は今と比べて不格好だったんだねぇ。
ほうほう、これはもしや賢者のブレスのプロトタイプとかかな?最初のうちはこんなのだったんだね。
ふむふむ…これは木枠アクセサリーの最初の頃…。今とは完成度が段違いだね…。見た目もあまり美しくない…。
しかし、今の完成度に至るまでにたった一年とは…。
天然の才能ってやつかもしれないね。
しかしこの君の世界の文明品もすごいねぇ…。
私たちには夢の中の産物だよ…。」
「俺も流石にこいつの作り方とかまではわからないけど、俺もすごい技術だと思うよ。」

タブレット端末をカバンにしまい、俺はアクセサリーボックスから剣になら(以下略 ネックレスを取り出した。

「戦士ちゃん、こっちへ。」

俺の呼びかけに戦士ちゃんがこっちへ近づいてくる。
俺はその戦士ちゃんの首にネックレスをつけてあげる。

「俺のせいで剣を無くしちゃったからね…。
代わりと言ってはなんだけど、これを君に。
戦士ちゃんならきっと俺なんかよりも誰よりもそいつを使いこなせると思うから。」

すると周りから

おぉぉぉぉぉっ!!大賢者様が力を継承されたぞおぉぉおっ!!

祝え!異世界人の力を受け継ぎ、過去と未来を知らしめす時の戦士!
彼女が大賢者の力を1つ…受け継いだ瞬間である!

とか言いだされた。

流石に照れ臭そうである。

「あ、ありがとう!賢者!大事に…するねっ」

賢者さんから賢者に呼び方が変わった。
はにかんだ笑顔がまたクソ可愛いこと。

するとそれを見ていた魔法使いちゃんが耳打ちしてきた。

「実はあの剣はお父様の形見だったんです…。
それで昨日はすごく落ち込んでて…。
でも、今のお姉さまの顔見たら、きっと死んだお父さんのメッセージなのかなって思えてきました。」

それを聞いて俺も少し救われた気がした。
正直そんな予感はしていたんだ。
あの剣を俺が打ち溶かすその瞬間、たしかに俺の中に「娘達を頼む…。」と言う声が響いていた。
おかげさまで俺はあの暴走を抑えられたのだから。

「とすると、妹ちゃんの杖も?」
「はい、これはお母様の物です。
私たちの両親が亡くなった後、私たちは両親の武器と装備品で冒険者になる決意をしました。」

なるほど…。だから妹ちゃんの着てる服は大きさがツンツルテンで、戦士ちゃんは男性用をつけれる部位が少なかったせいなのかビキニアーマーのような状態になっていたわけか…。

「2人の装備は体型に合わせて作り直さないのかい?」
「お金が…ありませんでしたから…。家も失いましたし…。
そこをギルマスさんに拾っていただき今に至ります。」
「そっか…。沢山苦労したんだね。」

俺は妹ちゃんを優しくなでなでする。

「はにゃ!!お金!そうだ!お金にゃ!!
2人ともよく任務を成し遂げたにゃ!
これはその報酬にゃぁぁぁ!」

と言って、テーブルの上に大量の金貨の入ったクソ重そうな袋をどんっっっと置くギルマスちゃん。

「はへ…?こ、こんなに…?」
「にゃんせ、護衛対象が護衛対象だったからにゃ。
報酬は皇女殿下様とも話し合いがっぽり上乗せにゃ。
これだけあれば家も買えるしその装備も自分たち用に作り直せるだろうにゃ。
西の国のギルドの部屋もそのまま無料で使わせてあげるし、なんなら大賢者様の城下町に家を建てても良いし好きにするにゃ。
土地はすでに確保済みにゃ。」

おいおい、色々と準備が良すぎるだろ…。

「大賢者様にもお城の他に城下に別宅をご用意しておりますにゃー。逃がさないと言うか、そこの腹黒美魔女にはそう簡単にくれてやるものかにゃ!
なにせ君は我が西の国の管轄のダンジョンに現れたのだから!」
「ほほぉー?いうねぇ、猫ぉ…。相手が誰かわかっているのかいー?
なんなら、私の権限で彼を私のものにしても良いんだよぉ~?」
「そっちこそ何言ってるのかにゃぁ~?すでに皇女殿下が西の国の城主様兼研究室所長に据えると決まっているのにゃ~?覆ることはそうそうありえないにゃ~?」

全くこの2人は仲が良いのか悪いのか…。

「とりあえず、作業に集中しすぎて俺は腹が減って来たよ…。
そろそろ食事にしないか…?」

それを聞くと、いつのまにかそこにいた皇国ギルマスが

「あぁそうだね。そうした方が良いでしょう。
午後からは私が貴方達に剣♂の扱いと稽古をつけることになっておりますので。
剣♂を使わせたら右に出るものはいないと言われた私に直々に教えを請うなどそうそうできるものではありませんよ?
楽しみにしておいてください。
みっちりしごいてあげますからね。」

すみません。やっぱ、貴方が剣と言うと所々に♂の記号が見え隠れするのは気のせいでしょうか…。

「皇国の。下手なことをしてみな~。その股間の剣をもぎ取るよ。
こう、ギリギリギリバッツーンッと。」
「はっはっはっはっ。嫌だなぁ魔女さん。
冗談ですよ冗談。私は美少年なショタっ子にしか興味ありませんから。
彼のようなおっさんにはみじんも興味はございませんよ。」

それを聞いて冒険者と魔導師とその他全員が、皇国ギルマスから距離をとった。

「うわぁ…。まじ引くわぁ…。キッショ…。」

女の子だがこの中で誰よりも美少年ショタのような見た目の盗賊ちゃんの一言が皇国のギルマスを襲う!!

「うぐっふぅぅぅぅっ!!!」

そして、盗賊ちゃんの放ったその一言により皇国ギルマスのトラウマスイッチが押されたのか、皇国ギルマスは胃酸をぶちまけてその場に失神した。

無論、午後の稽古が中止になったのは言うまでもなかった…。
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