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ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。

第17話 寝る前になると人は色々と語りたくなる

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「今日の晩御飯も美味かったなぁ…。」
「だなぁ…ご主人様…。オレはあんたの奴隷になれて幸せだぜ…。」

部屋に戻ってきてソファに腰掛け2人でうだーーーっとくつろぐ俺たち。

ん…?

「なぁ、盗賊ちゃん。さも当たり前のように俺の部屋にいるが、君も戦士ちゃんや妹ちゃんの部屋に行った方が楽しいんじゃないのか?年も近いんだし。」
「ばっか!ふざけんな!勘弁してくれ!
あんな親の幸せを一身に受けて育ってきたみたいなやつらと一緒に居られるかよ!
他人の幸せを見てると反吐がでるぜ!
ぺっぺっ!」
「それを言われたら、俺は普通に長い間母子家庭で育ってきてるし、親が居ないとか親に苦しめられるとか、そんなのは無縁で生きてきてるぞ…?」

そういうと、盗賊ちゃんはこてんっと俺の膝に膝枕してこっちを見てくる。
愛らしい…。

「そもそも、あんたは大人だろ?
あいつらもオレも子どもだ。
だからなおさら接し方がわからないし、多分あっちにも気を使わせちまう…。
それに妹の魔法使いの方は、魔女さんに多分母親を重ねてた…。
親を恨んでるようなオレと違って、親の愛が欲しくて仕方ないようなアイツと居るのは…お互いに辛いと思う。」
「なぁ、盗賊ちゃん。嫌じゃなかったら聞かせてもらっても良いか?君の過去の話を…。
俺が君に対して間違ってしまう前に、知っておきたいんだ。」

そういうと、盗賊ちゃんは体勢を立て直し、俺の肩にもたれかかってきた。

「優しい性格のあんたには…もしかしたら聞くのは辛いかもしれないぞ…。
それでも聞くか…?」
「君が話したいと思うなら。」

盗賊ちゃんがキュッと俺の服の裾を掴んでくる。

「話したい…。あんたには聞いておいてもらいたい。
まぁ、うちの盗賊団の連中ならみんな知ってるような身の上話だ。
あっと…今は盗賊団じゃなかった。
明日からはあなたの町の便利屋さんになるんだったな。」

その通り。
ドラゴスケイルの構成員はみんな非常に多彩だったのだ。
職人系や力仕事系に料理人に裁縫系にかなり多岐に渡る。
それなら、町の便利屋さんとして今後は活動してみては?という事で冒険者に依頼するには規模がしょぼいような依頼を受ける、町の便利屋さんになってもらうことにしたのだ。
話し相手や、バイトの助っ人、害虫駆除やペット探しに身辺調査などなんでもござれだ。

「さて、オレの過去といってもまだ13年くらいしか生きちゃいねぇからそんなにたくさん語れるほどじゃあねぇけどさ…。まぁ、酷いもんだぜ…。

オレはな、父親が誰かわからないんだ。
まず、オレの母親は娼婦だった。
だから、妊娠しちまえば当然仕事は辞めざるを得ない。
母親はオレを産むために仕事を辞めた。
そのあとは適当に貯金で食いつなぎながら生活して、また仕事に戻ろうとした。
だが娼館は、母親が再び娼婦になるのを拒んだ。
当然と言えばそうかもだが…。

それでもひとまず、母親は自分が産んだオレを最初のうちは育てようとはしてくれたんだろう。

物心ついたときはバーで働いてた。
まぁ、家にゃほとんどいねぇよ。
だいたいいつも、パンと簡単な付け合わせ程度の生野菜が二食分おいてあったくらいだ。
もしかしたら、死なれちゃ困るくらいのものだったのかもな…。

そんでいつからか、家に男を連れ込んで帰ってくるようになった。
当然家の中で娼婦の仕事をする為だったんだろうよ。
それなりに金になるからな。
母親はむしろ、生きるための方法なんて体を売るくらいしかしらなかったんだろうさ。

ただ、女も歳をとれば醜くなって誰も買わなくなる。
オレが8つくらいになった時だったな。

連れ込む男は母親じゃなくオレを抱きたがるようになってきた。
オレは当然必死に抵抗した。
身体中の傷がその名残の跡だよ。
爪を立てられたり棒やムチで叩かれたり刃物を突きつけられたり、タバコを押し付けられたりな…。

男ってのは怖いな…。
こんなガキ相手でも遠慮なく胸や尻を触ろうとしてきたりなめ回そうとして来やがる…。
そんで、それに抵抗するオレを見るのが興奮するんだとよ。

あぁ、心配するな。オレはまだ清い乙女だぜ?
誰にも身体を触らせちゃいねぇよ。

とりあえずまぁ、そんな生活が嫌になってオレは家を出た。

でも、生きなきゃいけない。
死にたくはなかったから、盗みに手を出していった。

そんな時だよ。

前のボスに会ったのは。
はぁ…。思い出したら…ちょっと辛くなって来た…。

なぁ、また優しく頭…なでてくれねぇか?

あんたに撫でられると、スッゲェ気持ちいいんだ…。」

そういうと、盗賊ちゃんが俺の胸元へとスリスリしてくる。
俺はそれを優しくなでなでしてやる。
ぴくんっと身体を震わせるので罪悪感の方が半端ないんだけどな…。

「俺がボスと会ったのは、そうとは知らずドラゴスケイルのアジトに入り込んで、俺がドラゴスケイルの金庫から金を盗もうとした時だ。

当然最初はあっさりと捕まった。

今でも覚えてるよ。縄で縛り上げられてボスの前に吊るされてさ。

そしたら、それを見てボスは俺に何かするわけでもなく部下たちに大激怒した。

こんなガキ相手に何やってやがるって怒って俺にかけた縄を解いた。
そんで、さっさとどこにでも行けって金まで渡して逃してくれた。

俺はそれに味を占めて何回もアジトに侵入しては金を奪った。
最初のうちは見つかるたびにボスの元へ縄で縛られて運ばれて、その都度ボスが縄を解いて俺を逃した。

次第にアジトに仕掛けられたトラップのレベルが上がったりしていった。
俺はそれを難なく潜り抜け、金を奪い、そして次第に見つかることもなく逃走出来るようになってた。

今思えば、前のボスは俺が盗みで生きられるように、自分の盗みのテクをこうやって叩き込んでくれたんだろう。

盗賊団の他の連中曰く、ボスの作ったトラップ全てを潜り抜けて金を盗めるのはボス以外にはいねぇって言われたな。

そんで、ある日のことだ。
さっきも聞いてたかもだが、そのボスが盗掘者避けのトラップに引っかかり死んだ。

オレがいつものように金を盗みに入ったら珍しく静かで…。
そりゃ本当の意味でお通夜のような状態だった。

オレはもう見つかっても良いって思って、そのまま仲間たちの居る場に出て行くと、連中はみんなしてオレを迎えた。
お前もボスに花を手向けてくれってな…。

オレは…知らないうちにこの人に育てられて、ありがとうも言えないままにこの人を失ったんだ。

わんわん泣いた。

はじめて泣いた。

そしてその日、オレはドラゴスケイルの2代目のボスになったんだ。
みんなから聞いたのは、前のボスが、「自分の身に何かあったらあのガキを2代目に添えろ。奴はオレよりも盗みが上手い。
確実にお前らを導く頭領になる」って言ってたらしい。

それからは、前のボスの意思を継いで、金持ち連中を相手に盗みや不正を暴くような仕事を繰り返した。
当然、恨みを買うこともあった。
捕まる時はガキのオレが捕まって仲間がオレを助ける。
基本はそのスタイルでずっとやってきた。

こんなガキ相手でも恨みを込めてオレを拷問する奴もいたよ。
あとで自分の身も危うくなるってのにな。
そんで、そうやって返り討ちにしていくうちに、あんたの噂を聞きつけた。

こんな短期間で大賢者と呼ばれるような男だ。
悪いやつに違いない。
そう思って盗みに入って、そんで今に至る。

これでオレの過去話は終わり。
ご静聴ありがとうございました。ってな。」

俺は盗賊ちゃんを優しく抱き寄せる。

「今は、どう思ってる?」
「はっ、わざわざそれをオレに聞いて言わせたいってのか?
さっき言ったろう?すっっっげぇ好き。大好き。愛してる。
どうだ?満足したかご主人様?幼気な少女にこんなに好きって言わせて興奮したか?
隠そうしても隠せないって何度も言ってるだろう?うりうりっ」

盗賊ちゃんは俺の脂肪の詰まったフニフニの胸板をウリウリしてくる。
うう…。この中肉中背の体…。せっかくの良い機会だし引き締めないとな…。

「なぁ、ご主人様…。わかってんだぜ?溜まってるの全部出しちまえよ。
オレが相手してやるからよ…?ほらほら。」
「やめなさい。仮にお前を襲いたくなっても、一線越える前に一人で処理してくる。」

そう言って盗賊ちゃんをベッドに放り投げる。

「コーヒーと甘いもの食いたくなってきたな…。
魔女さんにお店教えてもらって夜の街でも繰り出すか…。」
「おい!オレと言う手近な女がありながら娼館とか言ったらオレ…泣くからな!」
「行くかよ!!金もないのに!!
はっ…!そうだ!お金…。よく考えたら俺、この世界でのお金…まだ一銭も持ってなかったんだ…。」

ごそごそと盗賊ちゃんがお尻の辺りからお金を出してくる。

「使うか?」
「おい今どっからお金出した。」
「パンツ。盗賊が盗まれやすい場所に金入れて持ってるわけねぇだろ?」

いやまぁ確かにその通りなんだが、その…。
このお金は色々とまずい。
この世で最も受け取っちゃいけないお金の気がした。

「………。お気持ちだけもらうよ。
さて…。魔女さんにお小遣いもらってコーヒーと甘いもの食べられるお店教えてもらって行ってこよう…。
よくよく考えれば、せっかくの異世界だってのに、俺はまだ異世界らしいところを大して楽しんでいなかったからな。」

と言って部屋を出ようとすると盗賊ちゃんが俺の服の裾を掴んでくる。

「まさか…。俺を置いて行ったりしないよな…?ひとりぼっちになんか…しないよな…?」

潤んだ瞳で上目使いでこっちを見てくる…。
くっ…!なんて破壊力だ…!ただでさえ3日も溜めてていろいろつらいのに!

「へっ…。やっぱ素人童貞はちょりぃな!すーぐ、その気になっちまって♪
お可愛いいこと…。」
「くっ…。大人をからかいやがってからに…。ぐぬぬ…。
はぁ…。でもあれだな。俺は戦い慣れてもいない。
夜の街で変なやつに狙われたらって考えると、戦いの心得がある子がいた方が心強いか…。
男としては情けないけど…。」

そう言うと…。

「情けない?あーんな立派なもんぶら下げといてよく言うぜ。あの立派すぎる剣は飾りかー?」
「女の子がそう言う下品なこと言うんじゃありません。」

そういえば…。全員全裸だったんだったな…。あの場では…。
二次元でよくある湯気が濃すぎて見えないなーーーんてこともなかったから、
ほんとお互いにはっきりみえてたんだよな…。
あーーもうーーームラムラする…。
こいつ…。わかっててやってるな…。

「ご主人様はロリコンだけど、女にすぐ手は出さない紳士だからな。
安心して一緒に眠れるぜ。」

そして俺は盗賊ちゃんの手を引き魔女さんとギルマスちゃんがいるお部屋へ。

「魔女さん、ちょっと良いかな。少し教えて欲しいことがあるんだが。」

部屋がバタバタと騒がしくなってしばらくしたら魔女さんが出てきた。

「おまたせ。すまない。服を着替えている途中だったのでね。」
「へぇー?そう言って部屋で本当は何してたんだろうかねぇ…?」
「何もしているわけないだろう…。
まぁ確かに…あれが目に焼き付いてて顔を直視出来ないのは否定しないが…。
大人のものをまともに見たのは生まれて初めてだから、もう本当どう言う顔で君を見て良いかわからないよ…。」
「俺もどう言う顔で明日からみんなに会えば良いかワカラナイヨ。」
「お互いに全裸だったからな…。なんか…すまねぇな…。」

ぴょこっと魔女さんの後ろからギルマスちゃんが顔をのぞかせてくる。

「にゃにゃ?賢者~。どうしたにゃ?何かお話があるって言ってたけど。」
「あぁ、それな。本題に戻るが、えーっと、魔女さん。俺の記憶を見たなら俺が好き好んで飲んでたコーヒーって飲み物わかる?あれに近いものと甘いプリンが食べたいんだが、この時間で良い店ないかな?」
「あぁ、こーひーとぷりんか…。君の記憶を見たときに味も一緒に見て覚えたんだが、近いものはたくさんあるよ。我が城下町にもそう言う店はいくつかある。一緒に行くかい?」
「あぁ、頼むよ。
ほら、俺お金持ってないし。」

そう言うと魔女さんがギルマスちゃんの方を見る。

「おい、猫?」
「にゃにゃー!色々ゴタゴタしててすっかり忘れてたにゃ!ごめんなさいにゃ!ほい、ここの世界の共通通貨とお札にゃ。」
「お金は5の単位でまとまっていく。お金の単位は【エニシ】と言うんだ。
由来は異世界人、セーメーの残した言葉みたいだよ。」

【エニシ】…。なるほど。
【縁】か…。いい響きだな。この漢字は【円】と同じでエンとも読むし。

俺は自分の財布の中身をエニシに入れ替える。
え?て言うか多すぎない?
俺の給料の総支給額より明らかに多いぞ…。

「プリン的なもののセットなら大体は1000エニシあれば食べられるよ。
さぁ、一緒に行こうか。せっかくだし戦士ちゃんと魔法使いちゃんも誘おう。」

魔女さんがいつものように二人を呼びに行き、寝巻きから魔女さんが用意した夜の街を歩く服に着替えるように促す。
俺と盗賊ちゃんにも魔女さんから服が渡される。

「ささ、二人も着替えておいで。私は先に玄関ホールで待っているよ。」

俺たちは再び部屋に戻り、服を寝巻きから着替えることにした。

「ご主人様、なんならオレの着替えるところじっくり見てもいいんだぜ?」
「あーはいはい。もうその手にはのらねぇよ。」
「ちっ…。急につまんねぇ男になりやがって…。」

俺たちは着替えを終えて玄関ホールに向かいみんなと合流した。

「ふむ、揃ったね。お店はここから歩いて15分程度の距離にある。それじゃぁ行こうか。」

側から見ればなかなかにとんでもないパーティが夜の城下町に繰り出して行った瞬間であった。
この世界のプリン!楽しみだ!
俺はプリンが大好きなのだ!
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