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#10 粒間引き ~捨て猫と助監督~
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ミュウ!・・・ミュウ!・・・。
早朝、子猫の鳴き声を聞きつけた助監督は、道路脇の草むらへやって来た。
『遅かったか・・・。』
助監督が駆け付けた時には、子猫は虫の息で横たわっていて、イタチが耳にかじりついて引っ張っていた。
『シャー!』
イカ耳になりながら助監督が威嚇すると、イタチは草むらの奥へ姿を消した。
ブドウ畑周辺には、桃や梨、リンゴなど様々な畑が集まっており、いくつかの人間の集落へ続く道路が整備されている。
昨今、捨て犬は見なくなったが、心無い人間が子猫や小動物を通り抜けがてら、ここらへ捨てて行く事がある。
助監督は、子猫が息を引き取るまで正座して見守った。
・・・そして、名残惜しそうに、その場を離れようとした瞬間。
バサバサッ!・・ザッ!
『うわっ!』
鷹のような肉食の鳥が、助監督の頭上をかすめて滑空、子猫の亡骸を掴んで飛び去った。
『果てれば我も、ああなる定めなのだろう・・・。』
派手に転げて、情けなく仰向けになった姿で、自然の摂理を痛感する助監督だった・・・。
ー 数刻後 ー
昇った太陽が、雲の隙間から顔を出したり、隠れたりしているのをウッドデッキで感じていた助監督。
ふと、畑の道に見知らぬ軽トラックが止まり、ガチャガチャと荷台の物を触る音がしたかと思うとすぐに去って行った。
後には、何やら猫の気配が感じられ、警戒した助監督はウッドデッキの屋根に昇って伏せる。
『どこだココ!どっち行ったら帰れるんだぁ?ぶら下がってた唐揚げ、罠だったなんてな・・・。全く、踏んだり蹴ったりだぜ。』
そこには、不安そうに独り言を言ってウロウロとするクロがいた。
言動から察するに・・・クロは、ケモノ用の箱罠に捕まって、ここへ放されたようだった。
ガサッ!ジャリッ!
『うおっ!やべぇ!』
深い草むらから飛び出して来た鹿に踏まれそうになり、転がりながら走り去るクロは、元居た集落の反対方面へ消えて行った。
『・・・クロの奴、どこへ行くんだ?』
クロが行ったのを確認してから顔を上げる助監督。
道に生えている草を食んでいた鹿がピッと首を上げ、草むらへ身を隠すと、軽トラックの音が響き、今度は長靴がやって来た。
長靴は、ウッドデッキに助監督の姿を確認すると、カリカリを皿の上に乗せてくれた。
助監督は、長靴がウッドデッキにいる間、柵の外へ避難して距離を保っていて、長靴が十分離れてからウッドデッキへ戻る。
湿気を帯びた温い風が吹き、強い日差しが時折照り付けるブドウ畑には、結果枝が生い茂り、ブドウ房へ爪楊枝の頭から小豆程度の大きさの粒がまばらに付いている。
長靴は、ブドウ房にハサミを入れ、ひと房50粒~60粒を目指して粒間引きを始めた。
最終的に品種毎で、ひと房30粒~40粒、400g~650g程度にしますが、それはもう少し粒が大きくなってから行います。
大きく重いブドウ房の方が単価が高いので、長靴が作ろうとしている適正サイズのブドウ房を作る生産者はあまり居ません。
また、小さい房より大きい房の方が良いモノだと云う認識が深く根付いているので、大きく作った方がたくさん売れます。
それが分かっていながら、どうして長靴はブドウ房を小さくするのでしょう・・・。
大前提として、ブドウは主に房より先の結果枝の葉で作られた養分で美味しくなります。
その反面で結果枝は、長さを制限しないで長く大きく仕立てると、枝を伸ばす為に養分を使ってしまうので、ブドウ房に集まる養分は少なくなってしまいます。
あと、樹の勢いにも左右されますが、養分の量は限られているので、効率良くブドウ房に集まるよう管理する必要があります。
別の事柄に例えるならば、ひとつの角砂糖をコップ一杯の水で溶かした場合と、コップ半分の水で溶かした場合、どちらが甘いか?と云った具合でしょうか。
つまるところ・・・儲けは少なくなるが、本当に美味しいブドウを作る為、長靴はブドウ房を小さく仕立てていました。
そう云った事情もあってか、カリカリは1日2袋までだし、そもそもカリカリしか買ってもらえない助監督は・・・。
本当に美味しいブドウを作りたい、と云う信念で粒を間引く長靴の姿を5メートル離れてカントクしていた。
次回 #11 ジベレリン処理2回目 ~監督一家と助監督~
早朝、子猫の鳴き声を聞きつけた助監督は、道路脇の草むらへやって来た。
『遅かったか・・・。』
助監督が駆け付けた時には、子猫は虫の息で横たわっていて、イタチが耳にかじりついて引っ張っていた。
『シャー!』
イカ耳になりながら助監督が威嚇すると、イタチは草むらの奥へ姿を消した。
ブドウ畑周辺には、桃や梨、リンゴなど様々な畑が集まっており、いくつかの人間の集落へ続く道路が整備されている。
昨今、捨て犬は見なくなったが、心無い人間が子猫や小動物を通り抜けがてら、ここらへ捨てて行く事がある。
助監督は、子猫が息を引き取るまで正座して見守った。
・・・そして、名残惜しそうに、その場を離れようとした瞬間。
バサバサッ!・・ザッ!
『うわっ!』
鷹のような肉食の鳥が、助監督の頭上をかすめて滑空、子猫の亡骸を掴んで飛び去った。
『果てれば我も、ああなる定めなのだろう・・・。』
派手に転げて、情けなく仰向けになった姿で、自然の摂理を痛感する助監督だった・・・。
ー 数刻後 ー
昇った太陽が、雲の隙間から顔を出したり、隠れたりしているのをウッドデッキで感じていた助監督。
ふと、畑の道に見知らぬ軽トラックが止まり、ガチャガチャと荷台の物を触る音がしたかと思うとすぐに去って行った。
後には、何やら猫の気配が感じられ、警戒した助監督はウッドデッキの屋根に昇って伏せる。
『どこだココ!どっち行ったら帰れるんだぁ?ぶら下がってた唐揚げ、罠だったなんてな・・・。全く、踏んだり蹴ったりだぜ。』
そこには、不安そうに独り言を言ってウロウロとするクロがいた。
言動から察するに・・・クロは、ケモノ用の箱罠に捕まって、ここへ放されたようだった。
ガサッ!ジャリッ!
『うおっ!やべぇ!』
深い草むらから飛び出して来た鹿に踏まれそうになり、転がりながら走り去るクロは、元居た集落の反対方面へ消えて行った。
『・・・クロの奴、どこへ行くんだ?』
クロが行ったのを確認してから顔を上げる助監督。
道に生えている草を食んでいた鹿がピッと首を上げ、草むらへ身を隠すと、軽トラックの音が響き、今度は長靴がやって来た。
長靴は、ウッドデッキに助監督の姿を確認すると、カリカリを皿の上に乗せてくれた。
助監督は、長靴がウッドデッキにいる間、柵の外へ避難して距離を保っていて、長靴が十分離れてからウッドデッキへ戻る。
湿気を帯びた温い風が吹き、強い日差しが時折照り付けるブドウ畑には、結果枝が生い茂り、ブドウ房へ爪楊枝の頭から小豆程度の大きさの粒がまばらに付いている。
長靴は、ブドウ房にハサミを入れ、ひと房50粒~60粒を目指して粒間引きを始めた。
最終的に品種毎で、ひと房30粒~40粒、400g~650g程度にしますが、それはもう少し粒が大きくなってから行います。
大きく重いブドウ房の方が単価が高いので、長靴が作ろうとしている適正サイズのブドウ房を作る生産者はあまり居ません。
また、小さい房より大きい房の方が良いモノだと云う認識が深く根付いているので、大きく作った方がたくさん売れます。
それが分かっていながら、どうして長靴はブドウ房を小さくするのでしょう・・・。
大前提として、ブドウは主に房より先の結果枝の葉で作られた養分で美味しくなります。
その反面で結果枝は、長さを制限しないで長く大きく仕立てると、枝を伸ばす為に養分を使ってしまうので、ブドウ房に集まる養分は少なくなってしまいます。
あと、樹の勢いにも左右されますが、養分の量は限られているので、効率良くブドウ房に集まるよう管理する必要があります。
別の事柄に例えるならば、ひとつの角砂糖をコップ一杯の水で溶かした場合と、コップ半分の水で溶かした場合、どちらが甘いか?と云った具合でしょうか。
つまるところ・・・儲けは少なくなるが、本当に美味しいブドウを作る為、長靴はブドウ房を小さく仕立てていました。
そう云った事情もあってか、カリカリは1日2袋までだし、そもそもカリカリしか買ってもらえない助監督は・・・。
本当に美味しいブドウを作りたい、と云う信念で粒を間引く長靴の姿を5メートル離れてカントクしていた。
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