ぶどう畑の助監督 ~山好き野猫のその日暮らし~

すけどんmini

文字の大きさ
11 / 23

#10 粒間引き ~捨て猫と助監督~

しおりを挟む
ミュウ!・・・ミュウ!・・・。


早朝、子猫の鳴き声を聞きつけた助監督は、道路脇の草むらへやって来た。

『遅かったか・・・。』

助監督が駆け付けた時には、子猫は虫の息で横たわっていて、イタチが耳にかじりついて引っ張っていた。

『シャー!』

イカ耳になりながら助監督が威嚇すると、イタチは草むらの奥へ姿を消した。

ブドウ畑周辺には、桃や梨、リンゴなど様々な畑が集まっており、いくつかの人間の集落へ続く道路が整備されている。

昨今、捨て犬は見なくなったが、心無い人間が子猫や小動物を通り抜けがてら、ここらへ捨てて行く事がある。


助監督は、子猫が息を引き取るまで正座して見守った。

・・・そして、名残惜しそうに、その場を離れようとした瞬間。

バサバサッ!・・ザッ!

『うわっ!』

鷹のような肉食の鳥が、助監督の頭上をかすめて滑空、子猫の亡骸を掴んで飛び去った。

『果てれば我も、ああなる定めなのだろう・・・。』

派手に転げて、情けなく仰向けになった姿で、自然の摂理を痛感する助監督だった・・・。


ー 数刻後 ー

昇った太陽が、雲の隙間から顔を出したり、隠れたりしているのをウッドデッキで感じていた助監督。

ふと、畑の道に見知らぬ軽トラックが止まり、ガチャガチャと荷台の物を触る音がしたかと思うとすぐに去って行った。

後には、何やら猫の気配が感じられ、警戒した助監督はウッドデッキの屋根に昇って伏せる。

『どこだココ!どっち行ったら帰れるんだぁ?ぶら下がってた唐揚げ、罠だったなんてな・・・。全く、踏んだり蹴ったりだぜ。』

そこには、不安そうに独り言を言ってウロウロとするクロがいた。

言動から察するに・・・クロは、ケモノ用の箱罠に捕まって、ここへ放されたようだった。

ガサッ!ジャリッ!

『うおっ!やべぇ!』

深い草むらから飛び出して来た鹿に踏まれそうになり、転がりながら走り去るクロは、元居た集落の反対方面へ消えて行った。

『・・・クロの奴、どこへ行くんだ?』

クロが行ったのを確認してから顔を上げる助監督。

道に生えている草を食んでいた鹿がピッと首を上げ、草むらへ身を隠すと、軽トラックの音が響き、今度は長靴がやって来た。



長靴は、ウッドデッキに助監督の姿を確認すると、カリカリを皿の上に乗せてくれた。

助監督は、長靴がウッドデッキにいる間、柵の外へ避難して距離を保っていて、長靴が十分離れてからウッドデッキへ戻る。


湿気を帯びた温い風が吹き、強い日差しが時折照り付けるブドウ畑には、結果枝が生い茂り、ブドウ房へ爪楊枝の頭から小豆程度の大きさの粒がまばらに付いている。

長靴は、ブドウ房にハサミを入れ、ひと房50粒~60粒を目指して粒間引きを始めた。

最終的に品種毎で、ひと房30粒~40粒、400g~650g程度にしますが、それはもう少し粒が大きくなってから行います。


大きく重いブドウ房の方が単価が高いので、長靴が作ろうとしている適正サイズのブドウ房を作る生産者はあまり居ません。

また、小さい房より大きい房の方が良いモノだと云う認識が深く根付いているので、大きく作った方がたくさん売れます。


それが分かっていながら、どうして長靴はブドウ房を小さくするのでしょう・・・。

大前提として、ブドウは主に房より先の結果枝の葉で作られた養分で美味しくなります。

その反面で結果枝は、長さを制限しないで長く大きく仕立てると、枝を伸ばす為に養分を使ってしまうので、ブドウ房に集まる養分は少なくなってしまいます。

あと、樹の勢いにも左右されますが、養分の量は限られているので、効率良くブドウ房に集まるよう管理する必要があります。

別の事柄に例えるならば、ひとつの角砂糖をコップ一杯の水で溶かした場合と、コップ半分の水で溶かした場合、どちらが甘いか?と云った具合でしょうか。


つまるところ・・・儲けは少なくなるが、本当に美味しいブドウを作る為、長靴はブドウ房を小さく仕立てていました。


そう云った事情もあってか、カリカリは1日2袋までだし、そもそもカリカリしか買ってもらえない助監督は・・・。

本当に美味しいブドウを作りたい、と云う信念で粒を間引く長靴の姿を5メートル離れてカントクしていた。



次回 #11 ジベレリン処理2回目 ~監督一家と助監督~
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

処理中です...