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魔獣の森での実習の夜。
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予期せぬ量の魔獣に襲われた魔獣の森での実習だったが、
無事に鎮静化したということでそのまま実習は続けられ、
その日は予定通り野営のテントで一夜を過ごすことになった。
一つのテントの中に複数人が寝ていて、俺とエルは隣同士だった。
照明はわずかに光る程度に落とされ、
クラスのヤツらの寝息が聞こえてくる。
しかし俺はまだなんとなく寝付けずにいた。
そして隣のエルもまだ起きているような気がして、声をかけてみた。
「なあ、エル、起きているか?」
するとすぐに、
「うん、起きてるよ。」
とエルの声がした。
「ちょっと外で話さないか?
寝付けそうにないんだ。」
と俺が言うと、
「いつも真面目なラルフくんが珍しい!
いいよ、二人で抜け出そうか。」
とエルが小声で言った。
俺達は寝てるヤツらを起こさないようにそっと抜け出し、
テントのそばに並んで腰を下ろした。
昼間の大騒ぎがウソのように静寂が広がり、
満天の星がかがやいていた。
「今日は改めてありがとう。
エルの的確な指示とフォローがあったから、
クラスのヤツらもたいしたケガもなく無事に実習が終わったんだと思う。」
俺が改めてお礼を言うと、
「そんな、オレなんてたいしたことしてないって。
お前の強さがクラスのみんなを守ったんだよ。」
エルにそう言われて、
今度は俺の胸のあたりがぽかぽかする。新たな発作だ。
「それにしても、
今年の実習はなんだか変だったな。
魔獣の数、多すぎだろ。」
俺がそう言うと、
エルも同じように思っているみたいだった。
「そうだな、
教師たちも想定外って感じで慌ててたもんな。」
「他の学年も無事に終わっていたらいいんだけどな。」
「まあ無事じゃなかったら強制撤収だろうから、
そうはなってないってことで、無事だったんだろうけど。」
その後、しばらく二人とも黙っていた。
そして俺はエルに語りかけた。
「俺達がこの魔法騎士学院に入学した頃、
エルが俺にレグルス兄さんと比較されることは苦になったりしないのか?って
聞いてきたことを覚えているか?」
「ああ、そんなこともあったな。」
「あのとき、本当は言いかけたことがあったんだ。」
「言いかけたことって?」
「本当は、俺自身が勝手に比べて劣等感をもっているヤツがいるんだ。」
「へぇ、ラルフにそんなヤツが。誰?」
「俺の幼馴染のジークハルトだ。」
「ジークハルトってオレたちの1コ下のすんごい強いヤツ?アルベルト先輩の弟の。」
「そう。そのジークハルト。
学院に入学する前まで、
俺は魔法もろくに使えないような、
魔法の名門ゲーゲンバウアー家の落ちこぼれだった。
鍛練しても鍛錬しても周りの期待に応えられるレベルにならず、
何より自分とは比較にもならないほどすごすぎる兄がいて、
自分の夢も家族に言えないほど劣等感に苛まれていた。
そんな俺と似たような環境で育ってきたはずのジークハルトは
ただ自身の兄であるアルベルトさんの強さを純粋に目指して厳しい鍛錬を積んでいて。
腐ることなく自暴自棄になることなく上を目指し続けられるジークハルトに
未だに俺は勝手に劣等感を持ち続けているんだよ。」
独白を続ける俺に、
エルは、
「そうだったのか。それは知らなかったな。」
と静かに答えてくれた。
「でも今日の魔獣の森での実習で、
俺は確かにみんなと戦えた。
エルと一緒に戦って、魔獣の脅威を退けることができた。
兄さんたちやジークハルトもこの森のどこかで戦っていたんだろうけど、
この区域は確かに俺たちの力だけで制圧できたんだ。
少しだけ、少しだけだけど、俺自身を誇りに思っていいかなと思えたんだ。」
するとエルは、
「ラルフ、お前は十分強いよ。身体も心も。」
とだけ言った。
また二人の間に少しだけ沈黙が流れた。
「なあ、
エルって卒業したらどこの騎士団に入りたいか、
入学したときはまだ決めてないって言ってたよな。
もう決めたのか?」
すると少し間があいて、
「うーん、まだ、かな。」
とエルが返してきた。
「俺は、卒業してからもずっとエルといたい。
ずっと相棒でいたい。
ずっと親友でいたい。
一緒に、金獅子騎士団に来てくれたら、うれしい。」
実はずっと考えていたことだった。
エルと一緒に鍛練するのは本当に楽しいし、
今日エルと一緒に戦えたのは本当に頼もしかった。
ずっとこの時間が続いてほしい。
騎士団に入ってからも二人で強くなりたい。
そしてエルと一緒に王太子殿下の専属護衛騎士になれたら本望なのに。
「そうだな、一緒に金獅子騎士団に行けるといいな。」
とエルが小さな声で答えた。
「ごめん、オレ、もう寝るわ。おやすみ。」
とエルがテントの中に戻っていった。
夜空の光だけでは暗くてエルの表情までは見えなかったが、
なんだかいつものエルの声とは違うような気がした。
無事に鎮静化したということでそのまま実習は続けられ、
その日は予定通り野営のテントで一夜を過ごすことになった。
一つのテントの中に複数人が寝ていて、俺とエルは隣同士だった。
照明はわずかに光る程度に落とされ、
クラスのヤツらの寝息が聞こえてくる。
しかし俺はまだなんとなく寝付けずにいた。
そして隣のエルもまだ起きているような気がして、声をかけてみた。
「なあ、エル、起きているか?」
するとすぐに、
「うん、起きてるよ。」
とエルの声がした。
「ちょっと外で話さないか?
寝付けそうにないんだ。」
と俺が言うと、
「いつも真面目なラルフくんが珍しい!
いいよ、二人で抜け出そうか。」
とエルが小声で言った。
俺達は寝てるヤツらを起こさないようにそっと抜け出し、
テントのそばに並んで腰を下ろした。
昼間の大騒ぎがウソのように静寂が広がり、
満天の星がかがやいていた。
「今日は改めてありがとう。
エルの的確な指示とフォローがあったから、
クラスのヤツらもたいしたケガもなく無事に実習が終わったんだと思う。」
俺が改めてお礼を言うと、
「そんな、オレなんてたいしたことしてないって。
お前の強さがクラスのみんなを守ったんだよ。」
エルにそう言われて、
今度は俺の胸のあたりがぽかぽかする。新たな発作だ。
「それにしても、
今年の実習はなんだか変だったな。
魔獣の数、多すぎだろ。」
俺がそう言うと、
エルも同じように思っているみたいだった。
「そうだな、
教師たちも想定外って感じで慌ててたもんな。」
「他の学年も無事に終わっていたらいいんだけどな。」
「まあ無事じゃなかったら強制撤収だろうから、
そうはなってないってことで、無事だったんだろうけど。」
その後、しばらく二人とも黙っていた。
そして俺はエルに語りかけた。
「俺達がこの魔法騎士学院に入学した頃、
エルが俺にレグルス兄さんと比較されることは苦になったりしないのか?って
聞いてきたことを覚えているか?」
「ああ、そんなこともあったな。」
「あのとき、本当は言いかけたことがあったんだ。」
「言いかけたことって?」
「本当は、俺自身が勝手に比べて劣等感をもっているヤツがいるんだ。」
「へぇ、ラルフにそんなヤツが。誰?」
「俺の幼馴染のジークハルトだ。」
「ジークハルトってオレたちの1コ下のすんごい強いヤツ?アルベルト先輩の弟の。」
「そう。そのジークハルト。
学院に入学する前まで、
俺は魔法もろくに使えないような、
魔法の名門ゲーゲンバウアー家の落ちこぼれだった。
鍛練しても鍛錬しても周りの期待に応えられるレベルにならず、
何より自分とは比較にもならないほどすごすぎる兄がいて、
自分の夢も家族に言えないほど劣等感に苛まれていた。
そんな俺と似たような環境で育ってきたはずのジークハルトは
ただ自身の兄であるアルベルトさんの強さを純粋に目指して厳しい鍛錬を積んでいて。
腐ることなく自暴自棄になることなく上を目指し続けられるジークハルトに
未だに俺は勝手に劣等感を持ち続けているんだよ。」
独白を続ける俺に、
エルは、
「そうだったのか。それは知らなかったな。」
と静かに答えてくれた。
「でも今日の魔獣の森での実習で、
俺は確かにみんなと戦えた。
エルと一緒に戦って、魔獣の脅威を退けることができた。
兄さんたちやジークハルトもこの森のどこかで戦っていたんだろうけど、
この区域は確かに俺たちの力だけで制圧できたんだ。
少しだけ、少しだけだけど、俺自身を誇りに思っていいかなと思えたんだ。」
するとエルは、
「ラルフ、お前は十分強いよ。身体も心も。」
とだけ言った。
また二人の間に少しだけ沈黙が流れた。
「なあ、
エルって卒業したらどこの騎士団に入りたいか、
入学したときはまだ決めてないって言ってたよな。
もう決めたのか?」
すると少し間があいて、
「うーん、まだ、かな。」
とエルが返してきた。
「俺は、卒業してからもずっとエルといたい。
ずっと相棒でいたい。
ずっと親友でいたい。
一緒に、金獅子騎士団に来てくれたら、うれしい。」
実はずっと考えていたことだった。
エルと一緒に鍛練するのは本当に楽しいし、
今日エルと一緒に戦えたのは本当に頼もしかった。
ずっとこの時間が続いてほしい。
騎士団に入ってからも二人で強くなりたい。
そしてエルと一緒に王太子殿下の専属護衛騎士になれたら本望なのに。
「そうだな、一緒に金獅子騎士団に行けるといいな。」
とエルが小さな声で答えた。
「ごめん、オレ、もう寝るわ。おやすみ。」
とエルがテントの中に戻っていった。
夜空の光だけでは暗くてエルの表情までは見えなかったが、
なんだかいつものエルの声とは違うような気がした。
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