はてんこう

妄想聖人

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一一四年目の挑戦 2

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 自室のベッドに座って、タブレットでニュースを読んで真結は安堵した。出航日である今朝まで冒険団に関するニュースは一つもないのだ。どこかで情報が漏れるのではないかと、内心では不安だったのだ。もし父親の耳に入っていたら、強権を発動するまでもなく、自室に軟禁されて詰んでいた。その不安からようやく解放された。
「お嬢様。出発のお時間です」雅は言った。その隣には、いくつものトランクケースが乗ったカートがある。ほぼ真結の荷物だ。雅の隣の佳代は床に置いてある、大きなナップザックを肩にかけた。
「もうそんな時間?」夢中になってニュースを見ていたことに気が付いた。真結たちは部屋を出た。廊下には使用人の姿を見かけなかったのだが、すぐに理由が判明する。玄関ホールで父と姉を始め、使用人たちが整然と並んで見送ろうとしている。
「心配はないと思うけど、気を付けて行ってらっしゃい」結良は言った。
「求婚の話だが…、出張から帰ってきたら改めて話そう」伊具は穏やかな口調で言った。
 真結はこの二人に、新規事業を立ち上げるため、長期出張に行くと伝えてある。会社のことは副社長に任せてきた。
「いいよ。私も頭が冷えたし」と口では言ったが、内心では舌を出して、絶対に嫌。と答えていた。
 娘の本心と計画を知らない父親は胸を撫で下ろした。「無事に帰ってきてくれ」
「わかった」その言葉は素直に受け取った。
 真結たちがリムジンに乗るとゆっくり発進した。父子が話している間に、荷物の積み込みは済んでいた。
 真結は車窓から見える街の景色を眺める。見慣れた光景なのだが、暫く目にすることがないと思うと、流石に寂しいものがある。だからと言って、目に焼き付けようとはしない。無事に帰ってくると父と約束したのだから。見飽きるほどに、また見るのだから。
 リムジンは宇宙港に到着し、プライベートシャトルに乗り換えた。乗客は真結と雅と佳代の三人だけだ。機内アナウンスが流れてから、シャトルは上昇していく。雲一つない青空を進んでいくと、徐々に夜の空へと変わっていき、遥か先には満点の星々が輝いている。シャトルは、衛星軌道上に建造された宇宙ステーションに、無事に入港した。
 重力制御が正常に作動しているステーションには多様な民族、多様な人種がいる。これから他領に向かう人がいれば、月見里領へ降下しようとする人もいる。出発時間に余裕がある人は、売店や喫茶店などで時間を潰している。
真結は専用ドッグに真っ直ぐ向かわなかった。
「どちらに行かれるのですか?」トランクケースを乗せたカートを押している雅が訊いた。
「やれることをやりに」
 ステーションに併設されてある神社へ向かった。古臭いという印象は受けないが、背筋が自然と伸びるような雰囲気を醸すこの神社には、航海の無事を司る古い神様が祀られている。時代が変わった現代では、海の航海だけでなく、宇宙の航海も司る神様として、船乗りたちから崇められている。
 プライベートで航宙船を出すときですら、こんなことはしない。だが今回は根本的に訳が違う。死者が出るかもしれない。最悪、全滅するかもしれない危険な旅路になる。無事に帰って来るためなら、神様にだって頼る。
真結は財布から百帝国円札を抜いて、賽銭箱へ入れた。主人に倣い、雅と佳代も百帝国円を賽銭箱へ入れた。三人は二礼二拍一礼をして航海の無事を祈願した。
 祈り終えてから、今度こそ専用ドッグへ向かう。ここに入れるのは、月見里家の人間か、月見里家から許可を貰った人たちだけだ。月見里家四女である真結は、手続きなしの顔パスで入れる。長い通路を抜けると、とても広い空間に出た。首を限界まで上げないといけないぐらい高い天井。幅と奥行きは陸上競技の主だった種目を同時にできるぐらいある。ドッグには空きがあり、係留されてある艦は六隻。領主専用艦。姉のプライベート船。真結の航宙船三隻。最後の一隻こそ、真結が注文した航宙艦だ。ちなみに、空いている個所は、次女と三女の係留所だ。その二人は、よその家に嫁いでいった。
 三人は新造艦の元へ向かった。船の前では、嘉兵衛たちが呑気に談笑していた。ざっと見た感じでは三十人ぐらいいる。真結の登場に、和やかだった雰囲気が張り詰めた物に変わり、誰も号令を出していないのに、半分以上の人が休めの姿勢を取った。これだけで、元軍人の参加人数がわかる。そして彼らからすれば、真結は忠誠と献身を捧げる主君の娘になる。
「積み込みは?」嘉兵衛に訊いた。
「昨日の内に済ませておいた」今は商談ではないので、二人は砕けた口調で会話する。「後は真結様の号令を待つだけだ」
 真結は参加者たちを見た。総舵手と哨戒長がまだ到着していない。単純に遅れているのだろう。あの二人以外にも応募者がいたのだが、採用まで行ったのはあの二人だけだった。誓約書の存在に尻込みしたり、サインしたとしても、冒険団に参加するなど冗談ではないと辞退した人ばかりだった。
「到着が遅れている人がいるからまだ待って」
 嘉兵衛は頷いてから、自分のタブレットの画面に目を落とした。
「しかしこの艦のスペックを改めて見たが、外観こそ客船だが中身は立派な戦闘艦だな」
 真結は艦を見上げた。火器は全て内蔵されてあるので、白を基調に塗装された外観は、無駄がなく美しい。これが戦闘航宙艦と思う人はいないだろう。艦体の左舷には帝国の国旗である九陽光条太陽が、右舷には月見里家の家紋である、銀光三日月が描かれている。射出孔や格納庫や自動生産組み立て工場を増設した影響で、元のサイズから五倍ぐらい大きくなったが、加覧造船は、依頼主が満足する、良い仕事をしてくれた。次に船を購入する際は、また利用しようと心に決めた。
「積み荷に関してだが、一部変更して戦闘機を搬入した」嘉兵衛は真結にタブレットを見せた。積み込んだ兵器は、赤備(あかぞなえ)一機。飛翔(ひしょう)十機(内二機は予備機)。尖鳥(せんちょう)十二機(内二機は予備機)とあった。
「軍事は素人だから、その辺は任せるけど、理由は聞かせて」
 嘉兵衛は傍に控える男に目を向けた。男は一歩前に出た。この男性のことは既に知っている。嘉兵衛が集めた人材名簿の中にいたのだ。名前はカムイシト。赤ら顔のスキンヘッドが特徴的で、大柄で三十歳の人物だ。元月見里航宙軍の戦闘隊に所属していたので、戦闘隊長に任命していた。
「私から説明させていただきます」
 敬礼してから答えたカムイシトは、休めの姿勢を取った。
「能拡機だけでは編成バランスが悪く、作戦行動に柔軟性を持たせることができないからです」
「具体的にはどういうこと?」
「単純な速力を比較した場合、戦闘機の方が速く、速度を有する作戦が必要な場合は、戦闘機の編隊を組んだ方が効率的です。想定される敵について、我々はほとんど知りません。能拡機だけでは、対応し辛い状況も想定されます」
「つまり、人材は色取り豊富に揃えて、状況に応じて使い分ける。ということね?」真結は自分が理解しやすい言葉に直した。
「その通りです」団長の理解力の高さに満足しつつ頷いた。
「貴方の仕事に期待するよ」
「持てる力をもって応じます」
 カムイシトは敬礼した。
 真結はこの人物に好感を抱いた。今の説明は十分、納得がいくものであった。広い視野を持ってことに当たってくれるので、頼りになりそうだ。まあ、こちらが素人だから、そう思うのかもしれない。
 金属の床を鳴らしながら、キャリーバッグを乱暴に引っ張る音が、真結たちの耳朶に届いた。全員が目を向けた。ソライヤーとジャーが走って近づいてきた。ソライヤーは、何かを喋ろうとしたが、呼吸が荒いせいで言葉を発せなかった。全身に汗を掻き、黒髪が頬に張り付いている。
「済みません。道に迷って遅れました」ジャーが変わりに謝罪した。彼は僅かに呼吸が乱れている程度だ。
「これで全員揃った」真結は佳代に向かって頷いた。
「整列」佳代は一歩前に出て号令を出した。
嘉兵衛たちは整然と並んだ。まだ呼吸が落ち着かないソライヤーは、ジャーに手を引かれて隅に並んだ。
「お嬢様が――」
「団長って呼んで」真結は注文した。この集まりが組織である以上、肩書は重要だ。世の中には、肩書よりも人間性が重要だ。という人もいるが、それは肩書が持つ力を知らない人の戯言だと身を持って知っている。これも父親の教育から学んだことだ。例えば、真結から貴族と社長という肩書を抜いたら、ただの小娘でしかなく、世間に対する影響力はないに等しい。
「団長より御言葉を頂く。傾聴するように」
 真結はソライヤーに目を向け、聞く姿勢ができてから言葉を発する。
「まずは、私の計画のために集まってくれたことに感謝します」
 真結は深々と頭を下げた。社交辞令ではなく、本当に心の底から感謝しているのだ。人材が集まらなかった場合、全てを機械任せにするつもりだったのだ。そしてこれは、できればやりたくない手段でもある。機械である以上、何らかの理由で故障したらそれまでであり、緊急時の応用が利きづらい。という難点がある。といっても、これだけしか集まらなかったので、ところどころで機械に頼らないといけない。ただ、ちゃんと管理監督できる人間がいれば問題はない。
「この中には、この冒険を無謀だと思う人もいるでしょう。ですが、果たしてそうでしょうか?最後の冒険団が旅立ったのは百十四年前。その間にも、知識は蓄えられ、技術は進歩しました。当時は、夢物語として語られたことも、現在では可能になりました。それらは、私たちの生活を便利かつ豊かにしました。それだけではありません。軍事技術も発達し、兵器はより強力になりました。当時と比較すると、冒険が成功する確率は、格段に上がっているのです。加えて、皆さんの協力があれば、成功する確率は更に上がります。この冒険は決して無謀な挑戦ではないことを、心に留めといてください」
 自分の言葉が全員に染み渡るのを待ってから雅に向かって頷く。
「こちらが皆さんの部屋の割り当てになります」雅は列の先頭の人に、人数分の紙を渡していった。割り当て表が全員に行き渡り、それぞれ自分の部屋を確認する。
「変更を希望する人は申し出てね」
 真結は言った。
「私たちは同じ部屋だね」
「ほんとだ。良かったよ」
 ソライヤーとジャーは喜んだ。
 しばらく待ったが、希望者がいなかったので、最後に号令を出す。
「総員乗艦せよ」
 各員は自分の荷物を持って、桟橋を渡り艦へと乗り込んでいく団員たち一人一人の顔を、真結は観察した。嘉兵衛やソライヤーといった一部の人を除き、不安や緊張はだいぶ和らいだように見えた。中には、この冒険が成功するのではと、期待する人もいる。
 真結は満足感を得た。出発前に団員の士気を挙げることに成功した。これでますます、成功する確率が上がる。
「お見事でした。団長」佳代が賞賛した。
「ありがとう」本番はこれからであり、まだまだ気は抜けないのだが、幸先のいいスタートを切れたことに、今はその言葉を素直に受け取った。
「さあ。私たちも乗ろう」真結たちも桟橋を渡り艦に乗り込んだ。
 通路を暫く歩いてから、エレベーターに乗り込み、目的の階で降りた。通路を暫く歩いて自室の扉の前に到着した。
「自分のことは自分でするから、二人も自分の荷下ろしをして」
「わかりました」と、佳代は頷いて左隣の部屋に入っていった。
「私は団長の侍従です。私に仕事をさせてください」雅は拒否した。ちなみに、彼女の部屋は右隣だ。
「それじゃあ、お願い」
「はい」
 二人は部屋に入った。そこは艦長のための部屋であるため、船員の部屋と比べると当然広いが、無駄な物を省いた殺風景な印象は拭えない。
「小物は私がするから。雅は服をお願い」
「畏まりました」
 二人はトランクケースを開いた。雅は木製のクローゼットを開き、ハンガーを取って一着一着を皺にならないように丁寧に入れていく。
真結はまず、家族全員で映っている集合写真の写真立てをどこに置くか、軽く悩んでから机の上に置くことにした。
絶対に帰って来るからね。
 物言わぬ家族に向かって静かに、だが断固たる思いを告げた。他に愛用しているシャンプーとリンスとボディーソープをバスルームに置いたり、時間がある時に読もうと思って購入した本を本棚に入れたりと、殺風景だった部屋は、真結の色に染め上げられていった。
「それでは、私も荷下ろしをしてまいります」
 雅は自分のトランクケースを引いて部屋を後にした。勿論、感謝の言葉を伝えるのは忘れていない。
 一人になった真結。雅の荷造りの手伝いに行く。という、選択肢はない。そんなことをしたら、お嬢様に手伝ってもらうなど、侍従として恥ずかしい。と迷惑がられ怒られるからだ。友人に不快な思いをさせたくない。それに団長はそんなに暇ではない。艦内電話の受話器を取った。「全団員に告げる。荷下ろしが済んだら、各自持ち場に着いて」
「失礼します」佳代が入室した。「私の荷下ろしは済みました。すぐに艦橋へ向かいますか?」
「雅が来てから一緒に行く」
「わかりました」
 真結はベッドに座ってタブレット画面に今後のスケジュールを映し出した。出発前の最終確認だ。計画は二つに分かれており、泰安城に到着する前と泰安城を出発した後だ。団員への負担を減らすために、どちらも余裕を持たせた計画を立案した。万事が計画通りに行くとは思ってないが。
 タブレットをベッドの上に置き、佳代に顔を向けた。
「これから出発するけど、佳代はドキドキしているんじゃない?」
「ある意味、ドキドキしています」佳代は渋い顔になった。「人類領域外に向かうわけですから、団長の御身に万一があったらと思うと、不安で胸が高鳴ります」
「そうは言っても、その腕を存分に振るえるんだよ。そう考えたら、悪いことばかりじゃないでしょう?」
 帝国や月見里領の治安はとても安定しているため、貴族に対して狼藉を働こうとする輩は、滅多にいない。佳代がその役目を果たすために刀か拳銃を抜いたところを、これまで一度も見たことがない。
「いいですか」諭すように喋る。「刀や拳銃は抜かないに越したことはないのです。護衛(私)という存在は、抑止力であることが最上なのです」
「私は、護衛としての佳代に聞いているんじゃないの。友人として聞いているの」
しばし葛藤があった。「……認めたくはないのですが、この腕を振るう機会があることに、少なからず興奮している自分がいます」
 武士としての本音を聞けて、真結は満足した。この冒険に仕事としてただ従うのではなく、彼女なりの楽しみを持ってもらいたかった。その方が、真結としても嬉しい。例えそれが、戦闘行為であっても、何もないよりはましだ。
 雅が部屋に入ってきた。「私の荷下ろしは終わりました」
「それじゃあ、艦橋に向かおう」真結は二人を従えて部屋を出た。廊下を歩いてエレベーターに乗り、目的の階で降りた。廊下を真っ直ぐに歩いて、扉を抜けて艦橋に到着した。艦体のサイズから考えると、二階構造の艦橋は驚くほど狭い。十五人も入ったら、息苦しさを感じるだろう。だが、この艦は客船なので、ただ動かすだけなら、二、三人もいれば十分なのだ。なので、これで問題ないのだ。
 艦橋には真結たち以外の全員――総舵手のソライヤー。哨戒長のジャー。戦闘隊長のカムイシト。分析官兼通信手兼整備長の嘉兵衛が揃っていた。お互いの自己紹介は済ませていたみたいで、お喋りをしていたのだが、真結が入室したことで会話は中断され、全員が立ち上がって出迎えた。
 真結は艦長席――団長席に座る前に、全員の顔を見回した。出航前とあって、必要以上に気負った印象は受けなかった。団長席に座りながら、イヤホン型の通信機を装着し、備え付けてあるモニターを引き寄せた。
「出港準備に取り掛かれ」
 それぞれが自分の持ち場に着いた。
「機関始動」と、自然と手に力が籠るソライヤーの声が僅かに上擦った。
「焦らなくていいから、落ち着いて」真結は総舵手の気持ちを和らげようと声をかけた。
「はい」
 正面の二百七十度モニターが、外部カメラを通して外の映像を鮮明に映し出した。
「出力順調に上昇中。――出力最大値に到達」
「機関に異常なし」モニターを見ながら嘉兵衛が報告した。「生命維持装置。及び、艦内重力制御異常なし」
「火器管制。全て異常なし」ジャーが報告した。
 全ての報告を聞き終えてから真結は、イヤホンに手を当てた。「管制室。こちら破天荒丸(はてんこうまる)。出航許可を求める」
「破天荒丸か……。ぴったりの名前だな」嘉兵衛が呟いた。
「――こちら管制室」若い男性の声が通信機を通して、彼女の耳朶に届いた。「進路上に障害物なし。出航を許可します。良い航海を」
「ありがとう」
 通信を切った。正面に目を向けると、スクリーンを通して、巨大な内扉がゆっくりと開いた。
「破天荒丸。出航」真結は号令を下した。
「係留アーム解除。出力最低。微速前進」
 破天荒丸がゆっくりと前進した。内扉を抜けて一旦、停止すると扉が閉まった。今度は外扉がゆっくり開いた。その先には、無数の星々が、競い合うように輝く、雄大な宇宙空間がどこまでも続いている。真結が目指すのは、宇宙全体から見れば、点景に過ぎないたった一つの惑星。
 宇宙に出た破天荒丸は、徐々に加速していく。
 月見里領は太陽を中心とした六つの惑星から構成される星系で、彼女たちが暮らしているのは、第二惑星だ。これ以外の惑星は、人類が手を加えないと、生存には適していない。
 真結は正面のモニターの左端に映った月を通り過ぎたところで、次の指示を出す。「高速洞路航法に入る」
 まずは星系から出ないといけない。
「高速洞路形成装置を起動させます。生成完了まで五分」ソライヤーは装置を操作してから報告した。
 破天荒丸の正面の空間が、渦を巻く鳴門のように歪んでいく。目視できない速度に達したと思ったら、いきなり黄昏色の巨大な洞がその姿を現した。
「最大速度で入洞(にゅうどう)せよ」
 破天荒丸の全ての推進器が火を噴き、黄昏色の洞の中へ入って行こうとする。艦首が触れた瞬間、一瞬だけ全身が前に引っ張れる感覚に襲われた。真結の背後で立っている、雅と佳代は、前のめりになったが、共に踏ん張った。破天荒丸は、黄昏色の空間を、凄まじい速度で前進していく。
 これこそ人類が外宇宙への進出を可能とし、その領域を広げることにした成功した技術だ。もし、通常航行だけで泰安城を目指した場合、数年かかる。高速洞路航法を用いれば、その日数を大幅に減らし、最短で二週間程度で到着することが可能となる。この空間は引っ張る力が凄まじく強い。例えば、時速百キロを万倍に引き上げる。足の速い艦であればあるほど、航続距離を伸ばし超長距離移動を可能とする。
「高速洞路の形成時間は、一時間四十五分三十九秒」嘉兵衛が報告した。
 この航法の特徴で、唯一の欠点は、引っ張る力が洞路そのものにも作用する点だ。目に見えて、空間が凄まじい速度で収縮しているのだ。だからどこかの時点で、高速洞路から通常空間に出ないといけない。入ったり出たりを何度も繰り返して目的地を目指すのだ。少しでも移動距離を伸ばそうとすれば、できるだけ大きな洞路を形成しないといけないが、その分、装置に負担がかかり故障する可能性が高まる。
「一時間二十分後に出洞(しゅつどう)する」モニターに時刻を設定し、全員の画面にも映るように操作した。情報の共有は大切だ。
「出洞時間を設定」ソライヤーは装置に入力した。
 黄昏色の空間を見つめながら、真結は背もたれに全身を預けた。泰安城に到着するまで、やるべきことは山積している。一つ一つ片付けていかないといけないのだが、今は問題らしい問題が起きていないことを静かに喜んだ。


 真結は朝のシャワーを浴びる。温かい水が全身に当たり、寝汗が洗い流されるだけではなく、気持ちが良く自然と力が抜けていく。このままずっと浴びていられそうだ。本当は、浴槽一杯にお湯を張って、肩まで浸かるのが好みなのだが。やるべきことがある、今の状況でそこまでの贅沢はする気はない。ちなみに、使用された水は、艦内にある浄化水槽に集められ、再利用される。シャワーを止め、脱衣所に出ると、バスタオルを持った雅が待機していた。
「御体を拭かせていただきます」
「お願い」
雅は主人の体を、丁寧かつ優しい手つきで綺麗にしていく。多量の水を含んだ長い黒髪は、タオルだけでは吸収しきれないので、可能な限り水気を取ってから、ドライヤーで乾かす。
「今日もお嬢――団長の御髪は御綺麗です」
「雅の髪も綺麗だよ」
「御言葉は嬉しいのですが、見ての通り私の髪は癖が強くて綺麗とは程遠いです」一瞬だけ、表情が曇った。
「そんなことを言わないでよ。私はその癖の強さも含めて好きなんだから」と言うより、羨ましいとさえ思っている。綺麗な黒髪。と言えば字面は良さげに見えるが、社交界では掃いて捨てるほどいる。真結はその内の一人に過ぎない。それどころか、美容に気を遣いまくっている令嬢や夫人と比べると、真結の髪は絶賛されるほど、綺麗という訳ではない。そのせいか、真結の目から見ると、雅の髪の癖の強さは、個性的で可愛らしく映る。彼女としては、雅のような個性的な髪質の方が良かった。ただし、雅本人は、とても気にしているため、口には出さない。
いつも通り大人しく髪の手入れをされている真結は、良く知る友人が優しい手つきで髪に触れていることに、大きな安心感を得る。小さい頃から一緒にいるので、雅も家族と言っても差し支えはなさそうだが、まるで家族といるような感覚になる。ふと、鏡面に映る雅を見た。心から楽しそうに髪を乾かしている。その表情を見ていた真結は不思議そうに見つめる。
「どうかされましたか?」主人の変化に気付いた。
「あのさ。私の髪を弄るのってそんなに楽しいの?」その身分故に、真結は自分の髪を自分で乾かすことをしないのだが、雅がいつも楽しそうにやるので、これは人生に置いて、一度は体験しないと損をすることだと思い、一度だけ隠れてやったことがある。ドライヤーを用意し、わざと髪を濡らした。その時のことは、今でもはっきり覚えている。全然、楽しくないし、面倒な作業であった。
「勿論です」と、即答した。
「どうして?」
「団長の御役に立っているのが嬉しいからです」
「そういうものか……」つまり、あの時は利他の精神ではなかったから、面白くなかった訳だ。「それなら私も雅の髪を乾かしたい」
「お気持ちだけ受け取っておきます」
「どうしてもやってみたいんだけど。駄目?」甘えるように訊いた。
「私の仕事を取らないでください。それに、団長の御手をこのような雑事で、煩わせたくありません」
 真結は今の言葉を聞き逃さなかった。
「私の髪を乾かすのは雑事なんだ」心底、意地の悪い顔になった。
「あっ、いえ。今のは言葉の絢と言いますか……」慌てて弁明する。
「うわぁ。ショックだなぁ。傷ついたなぁ」大根役者が名優と思えるぐらい酷い演技で、雅を弄る。
 落ち着きを取り戻した雅は、息を吐いた。「団長。意地が悪いですよ。そのように私を困らせないでください」
「もうちょっと乗ってもよくない?」若干の不満から口を尖らせた。
「御自身の姿を理解しておいでですか?」
 真結は鏡面に映る自分の姿を見た。一糸纏わぬ生まれたままの姿だ。雅には毎日見られているので、今更恥ずかしいとは思わない。
「時間をかけては、風邪を引いてしまいます」
「それはそれでありだよ。風邪を引けば、雅にずっと看病してもらえるし。ご飯の時は、あーん。してもらえるし。私としては嬉しいよ」
「お望みならいつでもどこでも、あーん。をしますが、健康に気を付け御自愛ください。私は団長が元気でいることが望みなのですから」
「はーい」大人しくすることにした。
 雅は髪を乾かし終え、ポニーテールにまとめた。次に、ブラジャーとパンツを穿かせた後に、主人のお気に入りの服を手に取る。
「朝食はどちらで摂られますか?」雅は行燈袴の帯を締めながら訊いた。
「食堂で摂るよ」
「畏まりました」
 最後にレースアップブーツを履かせてもらい着替えが完了した。雅を伴って浴室を出た。
「お待たせ」
 浴室に通じる扉の横で、直立不動で待機していた佳代に声をかけた。護衛は頷いて返事をした。
「ただ待っているのは暇じゃない?」
「暇以前に、それが仕事です」
「そういう割には、一緒にお風呂に入ってくれないよね」
「どこの世界にも、主君と風呂を共にする護衛はいません」
 風呂に入るということは、丸腰になるということだ。そのような状態では、護衛対象を満足に守り切れないので、普通はしない。勿論、真結はその辺を理解して言っている。
「だったら、佳代が世界で初めて風呂を共にする護衛になればいい」
「勘弁してください。そのような不名誉など欲しくありません」
「大丈夫。私が名誉にしてあげる」
「名誉以前に、団長に何かあれば、私は自分を許せなくなります」
「今の状況で何かあるとは思えないけど」
 あるとすれば、破天荒丸が故障したぐらいだろう。その程度によっては、宇宙を漂流するかもしれないが。
佳代は呆れたように溜息をついた。「いいですか。限られた空間に多数の男性が居るのです。そして団長は年頃で魅力的な女性です。間違いが起こるかもしれないじゃないですか」
「あー。うん。そうだね」気のない返事をした。極端に偏った情報に毒されているのではないかと心配になってきた。仮に、誰かと恋仲になったとしても、それは私の自由ではないかと思うのだが。大昔と比べると、貴族の恋愛もかなり自由になっている。今時、平民と結婚する貴族も珍しくない。
「御屋形様より、団長の護衛に任命される際に、安易に異性を近づけるな。と口を酸っぱくして言われました」
 それは知っていた。誰かに言われたのではなく、自分も含めて姉たちを見ていると、自然と気付く。だから、真結の側近たちも同性で固められている。例外は会社だ。有能な人材に性別は関係ないので、男性も数多く採用している。だがここで、一つの疑問が生じる。もし、私が同性愛者になっていたらどうしたんだろう?というものだ。勘当は間違いないだろう。
「もし何かあっては、私を任命してくれた御屋形様に合わせる顔がなく、腹を切って詫びるしかありません」
「わかった。わかったから。気を付けるから」
 真結は慌てて宥める。佳代は真面目が服を着ているような性格なので、間違いが起きたら、本当に腹を切る。それだけは何としても、阻止しないといけないため、事実上の恋愛はしません宣言をした。
「わかってくれてありがとうございます」
 胸を撫で下ろす佳代とは対照的に、真結は頭を抱えたくなった。もう二十歳なのに、過保護過ぎる親の存在に、息苦しさを感じる。そのくせ、家格が上の相手とは結婚しろと強く迫って来る。一体全体、私にどうしろっていうの?と愚痴を零したくなる。
 真結は気を取り直した。今は家のことを気にしないで済む自由の身だ。それが束の間だとしても、この自由を味わわないのは損だ。家の問題は後回しにすればいい。
「ご飯に行こう」二人を伴って部屋を後にする前に、一つだけ注意する。「会社に居る時と同じように過ごしてね」
 二人の返事を聞いてから食堂へと向かう。廊下を歩いて、エレベーターに乗り、目的の階で降りて、暫く廊下を歩いて目的地に到着した。
 破天荒丸の艦体サイズから考えると室内は狭く、大型客船でもあることを考えると、殺風景であるが、ここはスタッフのための食堂なのでこれで問題ない。食堂には既に先客たちがいる。カムイシトを含むパイロットたちが、談笑しながら食事をしている。真結の登場に気付いた戦闘部隊の面々は、立ち上がって出迎えようとしたが、そのままでいいから。と手で制した。
 真結は積み重ねられたクリーム色のお盆を一つ取り、カウンターに並べられている汁物、主菜、副菜を自分で取り、お盆の上に乗せた。主食であるご飯は自分で好きなだけ盛る仕様だ。雅と佳代も主人に倣う。ちなみに、料理と配膳は全て全自動である。
 その身分故に、真結の舌は肥えている。その彼女からしても、機械で自動調理された料理は普通に美味しいので抵抗なく食べられる。
「一緒してもいい?」真結はカムイシトたちに訊いた。
 想像もしていなかった申し出だったようで、カムイシトたちは心底、驚いて真結を凝視した。
 今の反応からわかったことがあった。この人たちも、貴族に対して偏見を持っている。それ自体は珍しいことではない。逆に、貴族が平民に対して偏見を持っているのだから。この点に関しては、お互い様だと考えている。それもこれも、お互いを全くといっていいほど知らないのが原因だ。彼らからすれば、一番身近な貴族は、忠誠を捧げる主君――伊具になるだろうが、直接対話する機会はまずない。単純に、父親は真面目に領地経営をしているので、忙しいのだ。一パイロットでは、大きな武勲でも挙げない限り、直接声をかけてもらうこともないだろう。
「どうぞ」と、カムイシトが了承した。断る理由がないと言うより、元主君の娘の申し出であるため、断れないというのが正しい反応だろう。パイロットたちは、いそいそと真結たちの席を空けた。
「ありがとう」笑みを浮かべて席に座った。和気藹々としていた空気は、いきなり張り詰めたものに変わった。この状況では、神経が図太いか阿呆でもない限り、リラックスして食事などできない。こうなることをわかった上で、真結は同席を願い出た。
 この冒険団は、それぞれの思惑で参加した寄り合い所帯に過ぎない。これを統制の執れた組織に生まれ変わらせないといけない。と言っても、真結が一言命令すれば、従うのはわかっているが、それは貴族や団長という肩書で従っているに過ぎない。これを月見里真結だから従うようにしないといけない。会社を経営してわかったことだが、人は肩書に従うより、信頼に基づいて仕事をした方がやる気と効率が揚がる。会社に居る時は、社員たちと同じ部屋で仕事をし、同じ社員食堂を利用し、同じ物を食べて、同じ席に着いて一緒の時間を過ごして信頼を築いている。一人離れた席に座り、傍には護衛と給仕が控え、違う物を食べていては、住む世界が違うと敬遠され、信頼を築くのは不可能だ。だからここでも、会社に居る時と同じように過ごして、偏見を解消し信頼関係を築かないといけない。そうすれば、団の生存率が上がることにも繋がる。真結が考える理想は、一人の死亡者を出さずに、全員を生きて連れ帰ることだ。
「貴方の名前は?」名簿リストの中身は、丸暗記しているので既に知っていたが、真結は会話のきっかけを作るためにあえて訊いた。
 指名された男性は慌てて立ち上がった。「自分の名前は、小栗(おぐり)史利(しり)と言います。元月見里航宙軍能力拡張機隊に所属していました。冒険団では能拡機隊一番隊隊長を拝命しました」
 土台無理な話だが、座ったまま普通に自己紹介してもらいたかった。欲を言えば、友達と接するような感じだ。それを口で言うのは簡単だが、元軍人である彼らからすれば、お願いを命令と受け取るだろう。そうなっては、本末転倒だ。それに最初は、だいたいこういう反応だ。ここから心の距離感を近づけるのは、真結の努力次第だ。
「そう。パイロットなの。ありがとう」
 いきなり感謝されたことに、史利を始め脈絡を理解できない全員がきょとんとした。
「貴方は、お父様を。ひいては我が領のために、体を張って働いてくれたのでしょう。その忠誠と献身には感謝しかない」
「あっ、いえ、それが、仕事ですので」
 恐縮しながらも、満更でもなさそうに照れた。
「謙遜することない。私は事実を言ったのだから、胸を張りなさい。そしてそれは、貴方たち全員に言えること。お父様に変わって感謝します。ありがとう」
 主家の人から直接、感謝の言葉を贈られたのは初めての経験らしく、皆が照れくさそうに黙ってしまった。
「貴方の名前は?座ったままでお願い」真結は次に女性に訊いた。今のやり取りで、心の緊張感は解れたと判断した。
「はっ。自分は小谷(こたに)笠(かさ)と言います。伯爵様の元、月見里航宙軍航空隊に所属していました。冒険団では航空隊一番隊隊長を拝命しました」胸を張り、誇らしげに自己紹介した。
「戦闘機から見える宇宙の景色ってどうなの?艦から見る景色とは違うの?」
「全然違います」僅かに興奮した口調で言う。「分厚い装甲で守られているわけではありませんから、宇宙をより身近に感じます。そして、単機で宇宙を飛ぶと、宇宙を独り占めしているように感じ最高です」
 うんうん。と飛行隊の面々は力強く頷いた。
「それいいな。私もその景色を見たいから、今度、乗せてくれる?」」宇宙は身近な存在だと思っていたが、話を聞くと俄然興味が湧いた。きっとそこには、見たことがない景色が広がり、とても贅沢な時間を過ごせそうだ。
「乗りたいのなら、帰宅してからにしてくださいね」佳代が注意した。
「って怒られたから、こっそり乗せてね」茶目っ気たっぷりに言った。
「任せてください。能拡機では見られない景色をお見せします」笑顔で答えた。彼女は意味深に言ったわけではないのだが、能拡機隊の面々が過敏に反応した。
「異議ありだ」声を挙げたのは史利。「能拡機から見える景色のほうが最高だ」
 うんうん。と能拡機隊の面々は頷いた。彼らからすれば、喧嘩を売られたような感覚に近いのだろう。
「能拡機は全天周囲モニターを採用しているので、三六〇度宇宙を見回せます。能拡機だと全身で宇宙を感じ取れ絶景と言えます」史利は真結に対して熱く語った。「能拡機と比べれば、戦闘機は限られた世界しか見えず、最高とは言い難いでしょう」
 彼からすれば、単なる対抗意識から言ったに過ぎないのだろうが、飛行隊の面々は敏感に反応した。彼女らからすれば、侮辱に近い言葉だったのかもしれない。
「能拡機なんてゴテゴテした乗り物だ。それに比べれば、戦闘機は無駄を排した美しい造形をしている」
 真結は瞬時に嘉兵衛を探した。見つからなかったことに、内心で安堵した。間違っても今の言葉は、彼には聞かせられない。民間用にしろ軍事用にしろ、彼の会社はそれを家業としているのだ。今の言葉を聞いたら、彼の努力や彼の家族が否定されたように受け取られ、ブチギレしてもおかしくない。
 史利のこめかみにうっすらと青筋が浮かんだ。彼を筆頭に能拡機隊の面々は売られた喧嘩を買い取った。
「わかってないな。能拡機は機能的な構造をしているんだ。用途に合わせて柔軟に対応できる。それに比べたら、戦闘機は限定的な機能しか持たない。あっても無くても変わらないような乗り物だろ」
 笠のこめかみにうっすらと青筋が浮かんだ。彼女を筆頭に航空隊は、能拡機隊に好戦的な視線を向ける。
 両者の間で静かに、だが激しい火花が散る。
「止めないかお前たち」カムイシトが仲裁に入る。「真結様の前で見苦しいぞ」
 注意されたことで、両者は表面上は矛を収めた。
「御見苦しいところをお見せして、申し訳ありません」カムイシトが謝罪した。
「見苦しくないよ」真結は言った。「お互いに自分の仕事に誇りを持っているから、ぶつかるのは自然なことだよ。それよりも、皆の仕事に対する意識の高さを称賛したい。ここに集まったパイロットたちは最高の人材だとわかって、却って私は嬉しいけど」
 すかさず史利が身を乗り出した。「敵が現れたら我々が撃退して見せます。我々に任せてください」
 負けじと笠も身を乗り出した。「敵が現れたら我々に任せてください。能拡機隊以上の働きをしてみせます」
「だから、いい加減に止めろ」カムイシトは注意した。だが効果はなかった。どちらも真結にいいところをアピールしようと、競い合っているような状態だ。
「貴方たちの忠誠と献身には、本当に頭が下がる思いだよ」真結は悲しそうに眼を伏せた。「でもね。敵と戦う前に仲良くしてくれる方が嬉しいな。軍隊って仲間を大切にする組織だと思っていたけど、功を競って仲間を陥れる組織だったの?」
 パイロットたちは、自分たちの言動を恥、気まずそうに眼を逸らした。
「どうなの?」と、真結が訊いた。
「違います」囁くような感じに史利が否定した。
「だったら、どうすべきか知ってるよね?」
真結は史利と笠を交互に、意味ありげりに見た。
「……すまなかった」最初に史利が謝罪した。
「いや。こちらこそ言い過ぎた」笠も謝罪した。
「仲良きことは美しい」真結は、ぱんと両手を打ち鳴らした。「仲直りも済んだところで、食事を再開しましょう。今度は皆が笑える話題で楽しみましょう」
 真結の提案に気まずさが和らぎ、そうですね。と満場一致で賛同者が現れた。その後は、身分差をあまり感じさせない楽しい朝食になった。


 真結一行が通路を歩いていると、ソライヤーとジャーが、楽しく話している後姿が視界に入った。恋人たちの仲睦まじい一時に割って入るのは、少し気が引けたが、確認したいこともあったので、声をかけることにした。
「ソライヤー」
 二人は後ろに顔を向けた。真結一行だと知ると、体を向けた。
「はい?どうしました?」ソライヤーは普通に返事をした。
「艦内の生活を不便に感じていない?」
「それはないです。思っていたよりも、部屋は広くて豪華です。それこそ、実家の私の部屋よりも上質なぐらいです」
 彼女なりに笑いを取りに来たのが伝わったので、真結は微笑を浮かべた。だがそれは、真結的には当然なのだ。団員たちが気持ちよく過ごし、あまりストレスを感じないように、住環境には気を遣って注文した。団員たちが使用する部屋は、一等客室にかなり近い造りにしてもらった。満足しているのなら何よりだ。
「それにご飯も美味しいし、娯楽施設も充実しているで、言うことなしですよ」
「艦内生活を楽しんでいるようで何よりね」
「はい」
 満足そうに返事をしたソライヤーから、横に並ぶジャーへと目を向けた。
「貴方は艦内生活に不便を感じていない?」
「特にありません」
 ああ。やっぱり。
 ジャーの言葉を聞いて真結は一人で納得した。棘などが含まれていたわけではないのだが、言葉に感情が乗っていないのだ。パイロットたちとは違う意味で、心の距離感があるのを察した。自業自得としか言えないので、受け入れるしかなかった。彼からすれば、騙されて冒険団に参加した。という思いだろう。真結に対して好印象を抱くわけがない。それを表に出さないのは、ソライヤーへの体裁や佳代の存在があるからだろう。
 だが、彼氏の言い方に、彼女の方が気に障った。「ちょっと、そんな風に言わなくてもいいじゃん」
 やめて。と真結は心の中で、折角の助け舟を迷惑がった。恐らく、彼にとっては、逆効果になる可能性がある。
「別に何も含んでないよ」弁明するジャー。
「だったら、ちゃんと答えなよ」
「僕は艦隊に所属していたので、下っ端の部屋がどういうものか知っています。その頃と比べると、現在の住環境は雲泥の差で住み心地が良いです」
「私は軍には詳しくないけど、そんなに酷いの?」真結は訊いた。
「えっ、ええ、まあ」話に乗って来るとは思っていなかったらしく、少し戸惑った。「幹部以上じゃないと、プライバシーは存在しませんし」
「プライバシーが欲しいのなら、部屋を移そうか?」真結が望んでいたよりも、団員が集まらなかったので、部屋は余っているのだ。
「現状に不満はありません」
「それなら良かった」真結はここで話を切り上げることにした。「不満や不便。何か気が付いたことがあったら言ってね。できる限り改善するから」
 そう伝えてから、真結が歩き出すと、雅と佳代も付いて行く。
 最初から積極的だったソライヤーとの信頼関係は簡単に築けそうだが、彼氏の方は難しそうだ。と言うか、感情を数字に直したら、マイナス表記だろう。彼との信頼関係を築くには、少し時間をかけないといけない。


 艦橋には全員が揃っていた。必要最低人数未満で操船している破天荒丸で、誰かが休憩に入る場合は自動設定にする。
 団長席に座っている真結に、ジャーが視線を送った。真結は静かに頷いて許可を出した。それと同時に、モニターで時間を計測する。
「――レーダーに感あり。右舷方向三十二度。上方十四度より敵艦が高速で接近中」
 ソライヤーは突然、訳の分からないことを言い出した彼氏に顔を向けて首を傾げた。何故なら、レーダーには何も映っていないからだ。その意図を理解できたのは、ソライヤー以外の全員だ。
「戦闘用意」真結は即座に号令を発した。
「戦闘用意。警報発令」
「戦闘隊長より全パイロットへ告げる。各員搭乗せよ」
「全火器起動を確認。砲弾及びミサイルの装填を確認。攻撃準備整いました」
「破天荒丸を敵と相対させて」
「は、はい」
ソライヤーは慌てて艦首を回頭した。
「能拡機一番隊より艦橋へ報告。一番隊出撃準備整いました」
「同じく二番隊も出撃準備整いました」
「飛行一番隊出撃準備整いました」
「同じく二番隊も出撃準備整いました」
「飛行一番、二番隊が出撃。直掩に着け」
 射出孔より尖鳥が順番に宇宙へと飛び立った。各飛行隊が破天荒丸を守るように展開した。
「飛行隊配置に着きました」
 カムイシトからの報告が入ったところで、真結はモニターの時間を止めた。「……戦闘準備が整うまで、十四分五十四秒。これって速いの?遅いの?」
 真結はカムイシトとジャーの二人に訊いた。破天荒丸には元軍人が多く乗っているとはいえ、同じぐらいの素人(真結も含める)も乗艦している。人類領域外に到達する前に、一端の軍事組織に育てないといけない。これは、そのための抜き打ち訓練なのだ。敵はこちらの事情を無視して襲い掛かって来る。
「遅いです」まるで条件反射のようにジャーが答えた。「艦隊に居た頃の最速記録は、四分五九秒です」
「あのなぁ」カムイシトは呆れ顔で反論する。「俺たちは『元』軍人だ。軍から離れて気の抜けた生活を送ってたんだ。加えて、乗員の半数は素人だぞ。手際が良い訳ないだろ。最初の訓練で、いきなり五分を切れるわけないだろ」
ジャーはカムイシトに顔を向けた。「そんな言い訳が敵に通じるわけないだろ。こっちとしては、鈍間な亀のせいで艦を沈められたら、たまったもんじゃない」
「そうならないための訓練だろう」
「だからってのっけから、十五分近くもかかるか?常日頃から自主的に訓練してれば、こんなにかからないだろう。そしてそれは、戦闘隊長である貴方の責任でもある。隊長は僕たちがどこに向かっているのか、本当に理解しているのか怪しいぞ」
「不備があったのなら認めるし謝罪もする。だがな、俺だってどこに向かっているのか理解している」
「それが疑わしいから言っているんだ。少なくとも、僕が見た範囲では、パイロットたちが訓練しているところを見たことがない。これを旅行と勘違いしているんじゃないのか?」
 喧嘩腰のジャーに対して、冷静に受け答えをしているカムイシトであったが、口論が徐々にヒートアップしてくると、こめかみにうっすらと青筋が浮かんだ。
「それ以上の侮辱は許さんぞ。戦闘隊(俺たち)がいなかったら、艦はただの動く的だろう」
「それを言ったら、艦隊(僕たち)がいなかったら、貴方たちは目的地に到着できないだろ」
 両者の間で静かに、だが激しく火花が散る。
彼ら以外は、黙ってことの成り行きを見守る。艦の運用に関しては、この二人を除き素人だからだ。ただ、あまりにも攻撃的な彼氏の姿に、ソライヤーは驚いている様子だ。ジャーが攻撃的なのは、最愛の人が関係しているのは間違いない。
 真結は内心で顔も名前も知らない世界中の艦長たちに敬意を抱いた。というか、抱かずにはいられない。パイロットたちもそうだったが、対立する部下を一つに纏め上げ、従えて統率するという大変なことを成し遂げて、仕事をするのだから。
 真結は二人のやり取りを好意的に受け取った。それぞれの仕事に誇りと遣り甲斐を感じているから、ぶつかり合っているのだと。
「つまり、お互いに必要な存在。ということね」ようやく真結が口を開いた。全員の視線が団長に集まった。「訓練を繰り返せば、時間を大幅に短縮できるんでしょう?」
「勿論です」カムイシトは力強く頷いた。
「だ。そうよ」真結はジャーに顔を向けた。「まだ不満がある?」
「やることをやってくれるのなら、不満はありません」と、ジャー。
 真結は頷いた。「訓練を続ける。飛行隊と能拡機隊の出撃と着艦を交互に繰り返して」
「了解」
 カムイシトは飛行隊に着艦命令を出す。
「ソライヤー」真結は声をかけた。
「はい」
「初めての訓練とはいえ、私が思っていたよりも冷静に操艦したのは見事だったよ」
「ありがとうございます」
 褒められると思っていなかったソライヤーは恐縮した。
 彼女は褒めて育てることにした。


 佳代は皆が寝静まった通路を歩いていた。これから日課であり、いざという時に備えての、鍛錬をしに行く。普段は、主君の護衛があるので、やる暇がないので、寝静まった後にしかできない。
 彼女は破天荒丸の構造に、一つだけ不満があった。練武場がないことだ。元が、大型客船だということを考慮すれば、当然なのだが、お願いしていれば良かったと後になって後悔した。救いがあるとすれば、艦体のサイズに対して団員が少ないので、空き部屋が沢山ある。その中から適当に見つけた空き部屋を勝手に使用している。
 ここ二週間ほどの主君の行動を思い返した。それは、見事と。しか言えなかった。団員たちと積極的に交流したことで、彼らからの好感度は鰻上りで、絶大な信頼を勝ち得た。どちらかと言えば、真結に対して負の感情を持っていたジャーでさえ、今では好意的に会話をするようになった。この冒険団は、真結の命令で忠実に動き、彼女の意思で統制された組織になっている。戦闘能力に関しては、まだ不安な点はあるが、それも数回行えば、気にならなくなるだろう。この短い期間に寄り合い所帯を、一つの組織に纏め上げた手腕には脱帽する思いだ。
 雅と違い、佳代は生まれも育ちも月見里領ではない。生まれも育ちも花の武士団領(女系武士のみで構成された軍事組織)だ。訳あって月見里伊具に引き取られ、年齢が比較的、近かったために真結の護衛に任命された。月見里家譜代の家臣ではないのが関係あるのか、主君をより客観的に見ることができる。
 真結の護衛に任命された時は、本当に私で良いのか疑問に思った時期もあったが、御屋形の御恩に報いるために、誠心誠意仕えることにした。良い意味で予想外だったのは、知れば知るほどに自然と頭が下がる主君だということだ。そんな人物に仕えることができるのは幸福だ。だから、主君の刃として恥じぬように、鍛錬は欠かせない。
目的の部屋の前に到着し、扉を開けて中へと入った。部屋の中には何も置いていない。どういう目的で使用するのかわからないが、ありがたく使用させてもらっている。
 柄を握って打刀――花の不二アクラムを抜いた。彼女は千変流剣術(せんぺんりゅうけんじゅつ)を修めている。これを簡単に説明すると、女のための剣術だ。生物学的な観点から、腕力では男に敵わない。一撃必殺を狙うような剣術では不利なため、手数の多さで勝負する剣術だ。花の武士団では、千変流が主流だ。ただ月見里家に仕える武士の間では、主流ではなかったので、伊具に頼んで師範皆伝を有する武士を招聘してもらい、鍛錬を積んで免許皆伝を授かった。
 花の不二アクラムを正眼に構えて瞼を閉じた。鍛錬と言っても、素振りをするわけではない。それよりも、より実戦に近い鍛錬をするのだ。頭の中で、無数の線を繋ぎ合わせて、本人と寸分の狂いもない立体的な像に結びあげる。そこに自分が知る情報――身長、体重、性格、体の動き、足捌き、呼吸、癖などを組み込んでいった。そうして出来上がった人物は、これまで手合わせした仲で一番強い人物であり、皆伝を授けてくれた師匠だ。そして相対する相手として自分を映し出した。場所は道場を選んだ。
 両者共に正眼に打刀を構える。足の動きで間合いの攻防を繰り広げつつ攻撃の機会を狙うも、お互いの癖を知り尽くしているため、迂闊に相手の間合いに踏み込まない。じりじりと時間が過ぎていく。
 今日は私から踏み込んでみるか。
 佳代が師匠の間合いに侵入した。その瞬間、師匠が動いた。佳代の刀を弾いてから斬りかかろうとする。佳代は足の動きだけでかわしつつ反撃に転じようとする。師匠はそれを読んでおり、佳代の間合いさえも支配し、攻撃に転ずることを許さない斬撃を放ち続ける。強制的に防戦を強いられる佳代。息つく暇もない猛攻を前に、反撃の隙を見出すことができずにいた。そんな中でも、佳代は当然ながら冷静さを失っていない。まずは相手の攻撃の流れを止め、間合いを取り戻さないといけない。機会を待ち続け、その時が来た。刃を鍔で受け止めようとした。だが、それも読まれていたのか、それとも咄嗟に反応した結果なのか、佳代の喉元に切っ先が突き付けられていた。
 沈黙すること数秒経ってから、佳代は敗北を認めた。「参りました」
 師匠は刀を鞘へと納めた。
 ここで佳代は瞼を開いた。額にはうっすらと汗が滲んでいた。細長く息を吐きながら、花の不二アクラムを鞘へと納めた。今日はここまでにするつもりだ。この鍛錬は疲れるので、やり過ぎると次の日に支障をきたす。
 師匠にまた勝てなかったことが、素直に悔しい。それでも勝てる時はあるが、十回挑んで二回しか勝てない。才能の差だとは思っていない。師匠は自分のことを、凡庸な剣士と評していた。これは謙遜でもなんでもなく事実だ。帝国全土で見れば、師匠よりも優れた剣士は掃いて捨てるほどいる。かくいう佳代も自分を凡庸な剣士と評価している。では努力の差かといえば、これも違う。努力量だけで明確な差が出るのなら、師匠に勝てるはずがないからだ。
「経験の差か……?」
 この答えに落ち着いてしまうが、本当のところはまだ明確な答えが出せない。まだまだ未熟だからだと思っている。とりあえず、今日の手合わせを振り返り、反省点を洗い出しつつ部屋を後にした。
 いつもなら、自室に直行してシャワーで汗を流してから就寝するところだが、寄り道することにした。現在の予定では、一週間以内に泰安城へ到着する。そこから先は、未だ誰も踏破したことのない人類領域外だ。周りは敵だらけと思っても差し支えはないだろう。初めて実戦を経験できるため、自然と気が昂る。
 エレベーターに乗り目的の階で降りた。通路を歩いて、扉の前に到着した。人感センサーが反応し、自動で扉を開くと真っ暗な空間が出迎えた。部屋に足を踏み入れた瞬間、体が軽くなり重力に逆らって宙に浮いた。人の侵入を感知して全ての明かりが灯った。そこは破天荒丸の中で一番広い空間だ。搬入された戦闘機や能力拡張機が固定された状態で待機している格納庫だ。ここだけ無重力なのは、整備士たちの意向だ。なんでも、重い物を移動させるには無重力の方が、作業がやり易いらしい。
 佳代は壁を蹴って手すりに捕まった。何となく格納庫全体を見回す。空間を有効活用すべく、尖鳥は壁に固定されている。戦闘機のパイロットたちには申し訳ないが、その姿は壁に留まった蝿みたいだ。そして、床面には鋼の巨人たちが並べられている。能力拡張機と呼ばれている機械であり、ここにあるのは全て軍事兵器だ。
名前の由来は、生身では持ち上げられないような重いものでさえ持ち上げ、生身では視認することができない遠くの物を見たり、本来であれば見えない物――例えば体温――さえも見えるようにする。人間が持つ生来の能力を拡張する機械。だから能力拡張機と呼ばれている。
 佳代は一番奥に片膝を付いた状態で固定されている能拡機に顔を向けた。メタリックカラーの飛翔と違い、それは赤を基調としたカラーリングされた機体。彼女の専用機である赤備だ。
「ようやくお前を戦わせてやることができる」
 これまでは、整備と鍛錬のためだけに乗っていたが、ついに実戦に出る時が刻一刻と近づいている。赤備が戦場で戦う姿を想像すると、気がますます昂っていく。嬉しさのあまり、口角が自然と上がった。今夜は興奮で寝られないかもしれない。
 ふと、急に冷静さが戻り、自己嫌悪に陥った。自分の仕事は護衛であることを思い出した。主君の身の安全を考えれば、何もない方がいいに決まっている。自分の欲求は明後日の方に投げ捨てた。
土台無理な話ではあるが、こう呟かずにはいられない。
「何も起こらないのを祈るばかりだな」

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