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双子

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それから数百年が経ち、お山の近くの村で双子が誕生しました。双子の子らはとても仲が良く、毎日日にち一緒に過ごしていました。ある日双子の子らの兄の方は、たぬきを追いかけて誤ってお山に入ってしまいます。しかし兄は死にませんでした。山神様は兄の前に現れます。

「これ、お前が探していたのはこのたぬきか?」

たぬきを兄に手渡す山神様。

「は、はい。えっと…」

「私はこの山の頂上にある神社の宮司。お前は?」

「福といいます」

「そうか、今世は福というのか」

「え?」

「せっかくお山に来たのだ。神社に寄って行きなさい」

「あ、でも、お山には近寄ってはいけないって…」

「なに、気にすることはあるまいよ。近寄ってもなんともないだろう?」

「はい」

「ちょっとだけ、寄っておいで」

そうして兄を神社に連れてくると、山神様は少しずつ少しずつ神気を兄に吸わせながら、前世の話をたくさんします。兄は少しずつ前世を思い出します。

「ああ、ぐうじさま。思い出しました。ぐうじさまは山神さまだったんですね」

「そうだ、私の双子。ここで片割れを私と共に待とう」

「でも、僕には牡丹が…」

「今世の兄妹か」

「はい」

「ならその子も連れてくればいい」

「…山神さま。ここに残るということは、人であることを捨てるということですよね」

「ああ」

「なら、牡丹は連れて来ません」

「…なぜだ」

「牡丹には人として幸せに生きて欲しい」

「人でなくなるのは辛いか?」

「…。僕は、平気です。山神様が好きだから。けれどあの子はわからない。あの子は、牡丹は花の生まれ変わりとは限らない。だから、いいんです。僕だけここに、山神様の元に残ります」

「そうか。ならば共に花を待とう」

「ええ、いついつまでも…」

こうして山で初めて神隠しが起こります。残された双子の妹の方は、いつまでたっても兄が見つからないことを苦に衰弱して死んでしまったとか。
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