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とても優しい母代わりの彼女は、敵討ちができない
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私はナタリア。黒髪の美しい人ばかりの住む村の孤児。私は外から来た父と優しい母の元に生まれて、父の血が濃く出た。村で一人、私だけが茶髪。当然変な目で見られてバカにされることが多かった。父と母が強盗に襲われ亡くなって、独りぼっちになってからはそれが顕著になった。
「貴女の髪の色って本当に変よね」
「なんで黒くないのかしらね」
「可哀想な子」
「…ごめんなさい」
「いやね、別に責めてるわけじゃないわよ!」
独りぼっちの私は、それでも村の人達の助けで大人になった。髪の色で差別はされたけれど、基本的には優しい人ばかりの村だったから。今も食堂のおばちゃんに雇ってもらって賄いも貰いなんとか生活している。そんなある日、村で見かけたことのない誰よりも美しい黒髪の少女を見つけた。
「貴女、そこの貴女。大丈夫ですか?」
「…お腹空いたぁ」
あの子はぼろぼろの服を着てお腹を空かせていた。私はあの子を連れて定休日の食堂に駆け込んで、おばちゃんに頭を下げてあの子にご飯を食べさせてもらった。おばちゃんはあの子の黒髪に感心していて、お代は無料にしてくれた。
「おばちゃん、ありがとうございます」
「別に、その子の髪に免じてさね。お嬢ちゃん、お名前は?」
「わからない。覚えてないの…」
「どういうことですか?」
あの子は記憶も名前もないという。気付いたらここにいたらしい。私はあの子にオリーヴという名前をつけた。
「じゃあ、今日から貴女はオリーヴです」
「オリーヴ?」
「良い名前じゃないか!オリーヴちゃん、どうする?うちで暮らすかい?このお姉さんと暮らすかい?」
「えっ」
「お姉さんがいい」
いきなりのことで戸惑ったが、オリーヴは結局私が引き取った。粗末な小屋に住む私と一緒に暮らすオリーヴは、けれどいつも笑顔だった。食堂のおばちゃんはオリーヴのためにいつもお持ち帰りのお弁当を作ってくれた。
「ほら、オリーヴちゃんのお弁当だよ!」
「ありがとうございます、おばちゃん!」
「オリーヴちゃんのためさね!」
私はオリーヴに救われていた。オリーヴは昔の私と同じ。孤独な少女。彼女を大切にすることで、まるで過去の自分を慰めているようで。
「お姉さん、お母さんって呼んでもいい?お姉さんが若いのはわかってるけど、私にとってはお母さんだから」
「…!もちろんです!」
「ふふ、お母さん大好き!」
「私もオリーヴが大好きですよ」
そんなオリーヴももちろん成長する。大きくなった彼女は、やはり村一番の美人になった。そんなオリーヴも恋をした。オリーヴは、領主の息子に見初められた。
「オリーヴ、愛してる」
「私もです…でも、母を一人にするのは忍びないです」
「なら育ての母というその人も連れて、みんなで一緒に暮らせばいいさ」
「…はい!」
しかしそれが悲劇の始まりだった。領主の息子は、生まれながらの婚約者がいた。その婚約者に婚約解消を願い出た領主の息子。しかし彼の婚約者はそれを許さなかった。オリーヴが一人で街に出た時、オリーヴは暗殺者に殺された。証拠はないけれど、犯人はみんなわかっていた。
「…ナタリア、あんた大丈夫かい?」
「…」
「ナタリア…あんた…なんて言ったらいいんだか…辛い、ね…」
「…」
村のみんなはオリーヴを愛していた。でも私はもっとオリーヴを愛していた。死ぬよりも辛い苦痛に衰弱していく私。村のみんなは、私の代わりにオリーヴの葬儀と埋葬を準備してくれた。葬儀にはなんとか出席して、埋葬も手伝って、それでも私はそれが限界で倒れた。
「ナタリア!!ちょっとあんた達、ナタリアを私の家に運ぶのを手伝いな!」
「わかってる!」
「ナタリアは大丈夫なのか!?」
「いいからまずは運びな!衰弱してるんだからせめて温かな布団に入れてやるんだよ!」
目が覚めたらいつもの小屋ではなく食堂のおばちゃんの家だった。小屋に戻るとオリーヴのことを思い出すだろうからしばらくここにいたら良いと言ってくれた。
「美味しいご飯を作ったから食べな。オリーヴちゃんはあんたが好きだった。衰弱死なんてさせたら、私がオリーヴちゃんに恨まれちまうよ」
「…はい」
無理矢理ご飯をお腹に詰める。味は正直わからなかった。
「散歩して気分転換してきな。動かなきゃ身体に悪いよ」
「はい」
歩いていて気付く。村のみんなが見当たらない。食堂に戻るとおばちゃんに聞いた。
「…おばちゃん、村のみんなは?」
「オリーヴのことで、領主様のお坊ちゃんの婚約者のところに抗議に行ったよ」
「…!」
「もちろん命がけさね。でも、私はあんたの見張り。あんたが死んだらオリーヴちゃんの墓守りが居なくなるからね」
「そんな…」
私はみんなが心配で心配で仕方なかったけれど、なんとかみんな無事に帰ってきた。領主の息子の婚約者は腐っていたけれど、その両親はまともだったらしい。
「俺たちは謝罪は受けた。後日ナタリアとオリーヴちゃんに直接謝りに来るらしい」
「…そうですか」
「このくらいしかできなくてごめん…」
「いえ、オリーヴのためにありがとうございました…」
「ナタリア…」
後日、その両親とやらが私の元に謝罪に来た。謝られてもオリーヴは帰って来ない。むしろ憎しみが募るだけ。彼等は娘を無一文で勘当したらしい。当然だ。お偉いさんの一人娘。甘やかされて生きてきたその女は、これから先一人では生きてはいけないだろう。いい気味だ。
「本当にバカ娘がすみませんでした…」
「許されなくて当然のことをしました…」
「…」
彼等はオリーヴの墓でオリーヴに謝罪してくれた。謝られても仕方がないけれど、オリーヴに直接謝る誠意は伝わる。彼等は金で解決する気はないが、と多額の慰謝料をくれた。出来る限りの償いをしなければ気が済まないからと押し付けられたそれを、私は村のみんなに平等に配った。オリーヴを可愛がってくれたお礼に。
「こ、こんな大金本当にもらっていいのか?ナタリアの将来に取っておいた方が…」
「いいんです。オリーヴを可愛がってくれた皆さんですから、受け取ってほしいんです」
「ナタリア…」
それでもなお持て余すほどの大金。私は彼女との思い出の詰まったここを捨てて村を出ることにした。彼女の墓を見るたびに辛くて、墓守りなんてとても出来ない。食堂のおばちゃんに正直にそう言うと、おばちゃんは言った。
「なら墓守りは私と私の娘に任せな。あの子もオリーヴちゃんが大好きだし、あんたの気持ちもちゃんとわかってる子だからね」
「ありがとうございます、おばちゃん」
「いいんだよ。あんたも私の可愛い娘さね」
おばちゃんの言葉に涙が溢れる。村を出る前にみんなにお別れを言ったが、みんな私にいつでも帰って来いと言ってくれた。
「ねえ、ナタリア。私ね、本当は個性的な貴女の茶髪が羨ましかったの」
「私も」
「私もよ。優しいナタリア、いつでも帰ってきてね」
「…ありがとうございます。私も、皆さんの黒髪がすごく綺麗で大好きでした」
もしかしたら、いつか心の整理がついたらまた村に帰って来る日もあるかもしれない。お墓詣りのための日帰りだろうけれど。
「さて、どこに行こうかな…街に出てみようかな。あの子、街が好きだったもの」
私はオリーヴの好きだった街の一つに住むことにした。もちろんオリーヴの殺された街とは別の街。
「街ってすごいよね…人がたくさん…教会はどこかな?」
街の教会に事情を話して持て余していたお金を全部寄付して、シスターとして身を寄せることにした。悲しみに沈む私に、教会のみんなはとても良くしてくれた。そんなある日、街で見かけたことのない誰よりも美しい金髪の女性を見つけた。
「貴女、そこの貴女。大丈夫ですか?」
「…お腹が空いただけよ。大丈夫」
彼女はぼろぼろの服を着てお腹を空かせていた。私は彼女を連れて教会に戻って、神父様に頭を下げて彼女にご飯を食べさせてもらった。
「…ご飯、ありがとう」
「いいんですよ。事情を聞いてもいいですか?」
「…いやよ」
「今どこでどうやって生活しているんです?」
「…スラム街で」
彼女は何か話せない事情があるらしく、スラム街で生活しているらしい。神父様は彼女をシスターとして引き取ることにした。
「ちょっとナタリア!洗濯してたら手が荒れたんですけど!」
「ハンドクリームを塗るのでちょっと待ってくださいね」
「塗るくらいなら自分で出来るわよ!ハンドクリームを渡してくれればいいわよ!」
「そのハンドクリームを自分で買えるようになれば成長を認められるんですがねぇ」
「くぅっ!」
彼女とはすぐに仲良くなった。何もできないところが、引き取ったばかりの頃のオリーヴに似ていて可愛かった。
「ナタリア」
「なんです?」
「その…色々教えてくれて、ありがとう…」
「ふふ。ええ、こちらこそ仲良くしてくれてありがとうございます」
「そ、そんなのナタリアが優しいんだから当たり前じゃない!」
そんなある日、私は彼女の懺悔を偶然にも聞いてしまった。彼女はオリーヴを暗殺者に殺させたあの女だった。
「神様、私は許されない罪を犯しました…どうか罰を与えてください。ここでの生活は、ナタリアとの生活は罪人の私には幸せ過ぎます…」
「…」
教会の懺悔室で一人、泣いて赦しを乞う彼女。私は彼女の首を締め上げようと、オリーヴから貰った髪を縛るリボンを解いた。後ろから近付いて、そして。
ー…結局は、何も出来なかった。何もせずに気付かれないようにその場を去った。
「うっ…ぐすっ…うう…ごめんね、オリーヴ。ごめんね…敵討ちできなくてごめんね…」
彼女はどうしてだか、オリーヴに似ている。シスターとして教会で神に奉仕して、少しずつ色々なことを覚える度に笑顔を見せるところがとても。
オリーヴを奪った憎い子なのに、オリーヴに似ている彼女を恨みきれない。憎みきれない。私は結局、敵討ちなんて向いてないみたい。あの子の成長を見守ったように、彼女の成長を見守る。懺悔室で、毎日あの子に何度も謝った。
「オリーヴ、敵を討てなくてごめんなさい。彼女を貴女にしたように愛してしまってごめんなさい…」
でもその度に、あの子が嬉しそうに笑顔を向けてくれた気がした。あの子はいつも私の幸せを願ってくれたからなぁと思う。
今日も複雑な感情を持て余しつつ、彼女に色々なことを教える。彼女は笑顔を私に向ける。いつか、お互いに懺悔をしなければいけない。彼女の懺悔を聞いてしまったこと。彼女が私のオリーヴにしたこと。でも、いつかのその時には赦し合える気がしている。今はまだ、無理だけれど。
「貴女の髪の色って本当に変よね」
「なんで黒くないのかしらね」
「可哀想な子」
「…ごめんなさい」
「いやね、別に責めてるわけじゃないわよ!」
独りぼっちの私は、それでも村の人達の助けで大人になった。髪の色で差別はされたけれど、基本的には優しい人ばかりの村だったから。今も食堂のおばちゃんに雇ってもらって賄いも貰いなんとか生活している。そんなある日、村で見かけたことのない誰よりも美しい黒髪の少女を見つけた。
「貴女、そこの貴女。大丈夫ですか?」
「…お腹空いたぁ」
あの子はぼろぼろの服を着てお腹を空かせていた。私はあの子を連れて定休日の食堂に駆け込んで、おばちゃんに頭を下げてあの子にご飯を食べさせてもらった。おばちゃんはあの子の黒髪に感心していて、お代は無料にしてくれた。
「おばちゃん、ありがとうございます」
「別に、その子の髪に免じてさね。お嬢ちゃん、お名前は?」
「わからない。覚えてないの…」
「どういうことですか?」
あの子は記憶も名前もないという。気付いたらここにいたらしい。私はあの子にオリーヴという名前をつけた。
「じゃあ、今日から貴女はオリーヴです」
「オリーヴ?」
「良い名前じゃないか!オリーヴちゃん、どうする?うちで暮らすかい?このお姉さんと暮らすかい?」
「えっ」
「お姉さんがいい」
いきなりのことで戸惑ったが、オリーヴは結局私が引き取った。粗末な小屋に住む私と一緒に暮らすオリーヴは、けれどいつも笑顔だった。食堂のおばちゃんはオリーヴのためにいつもお持ち帰りのお弁当を作ってくれた。
「ほら、オリーヴちゃんのお弁当だよ!」
「ありがとうございます、おばちゃん!」
「オリーヴちゃんのためさね!」
私はオリーヴに救われていた。オリーヴは昔の私と同じ。孤独な少女。彼女を大切にすることで、まるで過去の自分を慰めているようで。
「お姉さん、お母さんって呼んでもいい?お姉さんが若いのはわかってるけど、私にとってはお母さんだから」
「…!もちろんです!」
「ふふ、お母さん大好き!」
「私もオリーヴが大好きですよ」
そんなオリーヴももちろん成長する。大きくなった彼女は、やはり村一番の美人になった。そんなオリーヴも恋をした。オリーヴは、領主の息子に見初められた。
「オリーヴ、愛してる」
「私もです…でも、母を一人にするのは忍びないです」
「なら育ての母というその人も連れて、みんなで一緒に暮らせばいいさ」
「…はい!」
しかしそれが悲劇の始まりだった。領主の息子は、生まれながらの婚約者がいた。その婚約者に婚約解消を願い出た領主の息子。しかし彼の婚約者はそれを許さなかった。オリーヴが一人で街に出た時、オリーヴは暗殺者に殺された。証拠はないけれど、犯人はみんなわかっていた。
「…ナタリア、あんた大丈夫かい?」
「…」
「ナタリア…あんた…なんて言ったらいいんだか…辛い、ね…」
「…」
村のみんなはオリーヴを愛していた。でも私はもっとオリーヴを愛していた。死ぬよりも辛い苦痛に衰弱していく私。村のみんなは、私の代わりにオリーヴの葬儀と埋葬を準備してくれた。葬儀にはなんとか出席して、埋葬も手伝って、それでも私はそれが限界で倒れた。
「ナタリア!!ちょっとあんた達、ナタリアを私の家に運ぶのを手伝いな!」
「わかってる!」
「ナタリアは大丈夫なのか!?」
「いいからまずは運びな!衰弱してるんだからせめて温かな布団に入れてやるんだよ!」
目が覚めたらいつもの小屋ではなく食堂のおばちゃんの家だった。小屋に戻るとオリーヴのことを思い出すだろうからしばらくここにいたら良いと言ってくれた。
「美味しいご飯を作ったから食べな。オリーヴちゃんはあんたが好きだった。衰弱死なんてさせたら、私がオリーヴちゃんに恨まれちまうよ」
「…はい」
無理矢理ご飯をお腹に詰める。味は正直わからなかった。
「散歩して気分転換してきな。動かなきゃ身体に悪いよ」
「はい」
歩いていて気付く。村のみんなが見当たらない。食堂に戻るとおばちゃんに聞いた。
「…おばちゃん、村のみんなは?」
「オリーヴのことで、領主様のお坊ちゃんの婚約者のところに抗議に行ったよ」
「…!」
「もちろん命がけさね。でも、私はあんたの見張り。あんたが死んだらオリーヴちゃんの墓守りが居なくなるからね」
「そんな…」
私はみんなが心配で心配で仕方なかったけれど、なんとかみんな無事に帰ってきた。領主の息子の婚約者は腐っていたけれど、その両親はまともだったらしい。
「俺たちは謝罪は受けた。後日ナタリアとオリーヴちゃんに直接謝りに来るらしい」
「…そうですか」
「このくらいしかできなくてごめん…」
「いえ、オリーヴのためにありがとうございました…」
「ナタリア…」
後日、その両親とやらが私の元に謝罪に来た。謝られてもオリーヴは帰って来ない。むしろ憎しみが募るだけ。彼等は娘を無一文で勘当したらしい。当然だ。お偉いさんの一人娘。甘やかされて生きてきたその女は、これから先一人では生きてはいけないだろう。いい気味だ。
「本当にバカ娘がすみませんでした…」
「許されなくて当然のことをしました…」
「…」
彼等はオリーヴの墓でオリーヴに謝罪してくれた。謝られても仕方がないけれど、オリーヴに直接謝る誠意は伝わる。彼等は金で解決する気はないが、と多額の慰謝料をくれた。出来る限りの償いをしなければ気が済まないからと押し付けられたそれを、私は村のみんなに平等に配った。オリーヴを可愛がってくれたお礼に。
「こ、こんな大金本当にもらっていいのか?ナタリアの将来に取っておいた方が…」
「いいんです。オリーヴを可愛がってくれた皆さんですから、受け取ってほしいんです」
「ナタリア…」
それでもなお持て余すほどの大金。私は彼女との思い出の詰まったここを捨てて村を出ることにした。彼女の墓を見るたびに辛くて、墓守りなんてとても出来ない。食堂のおばちゃんに正直にそう言うと、おばちゃんは言った。
「なら墓守りは私と私の娘に任せな。あの子もオリーヴちゃんが大好きだし、あんたの気持ちもちゃんとわかってる子だからね」
「ありがとうございます、おばちゃん」
「いいんだよ。あんたも私の可愛い娘さね」
おばちゃんの言葉に涙が溢れる。村を出る前にみんなにお別れを言ったが、みんな私にいつでも帰って来いと言ってくれた。
「ねえ、ナタリア。私ね、本当は個性的な貴女の茶髪が羨ましかったの」
「私も」
「私もよ。優しいナタリア、いつでも帰ってきてね」
「…ありがとうございます。私も、皆さんの黒髪がすごく綺麗で大好きでした」
もしかしたら、いつか心の整理がついたらまた村に帰って来る日もあるかもしれない。お墓詣りのための日帰りだろうけれど。
「さて、どこに行こうかな…街に出てみようかな。あの子、街が好きだったもの」
私はオリーヴの好きだった街の一つに住むことにした。もちろんオリーヴの殺された街とは別の街。
「街ってすごいよね…人がたくさん…教会はどこかな?」
街の教会に事情を話して持て余していたお金を全部寄付して、シスターとして身を寄せることにした。悲しみに沈む私に、教会のみんなはとても良くしてくれた。そんなある日、街で見かけたことのない誰よりも美しい金髪の女性を見つけた。
「貴女、そこの貴女。大丈夫ですか?」
「…お腹が空いただけよ。大丈夫」
彼女はぼろぼろの服を着てお腹を空かせていた。私は彼女を連れて教会に戻って、神父様に頭を下げて彼女にご飯を食べさせてもらった。
「…ご飯、ありがとう」
「いいんですよ。事情を聞いてもいいですか?」
「…いやよ」
「今どこでどうやって生活しているんです?」
「…スラム街で」
彼女は何か話せない事情があるらしく、スラム街で生活しているらしい。神父様は彼女をシスターとして引き取ることにした。
「ちょっとナタリア!洗濯してたら手が荒れたんですけど!」
「ハンドクリームを塗るのでちょっと待ってくださいね」
「塗るくらいなら自分で出来るわよ!ハンドクリームを渡してくれればいいわよ!」
「そのハンドクリームを自分で買えるようになれば成長を認められるんですがねぇ」
「くぅっ!」
彼女とはすぐに仲良くなった。何もできないところが、引き取ったばかりの頃のオリーヴに似ていて可愛かった。
「ナタリア」
「なんです?」
「その…色々教えてくれて、ありがとう…」
「ふふ。ええ、こちらこそ仲良くしてくれてありがとうございます」
「そ、そんなのナタリアが優しいんだから当たり前じゃない!」
そんなある日、私は彼女の懺悔を偶然にも聞いてしまった。彼女はオリーヴを暗殺者に殺させたあの女だった。
「神様、私は許されない罪を犯しました…どうか罰を与えてください。ここでの生活は、ナタリアとの生活は罪人の私には幸せ過ぎます…」
「…」
教会の懺悔室で一人、泣いて赦しを乞う彼女。私は彼女の首を締め上げようと、オリーヴから貰った髪を縛るリボンを解いた。後ろから近付いて、そして。
ー…結局は、何も出来なかった。何もせずに気付かれないようにその場を去った。
「うっ…ぐすっ…うう…ごめんね、オリーヴ。ごめんね…敵討ちできなくてごめんね…」
彼女はどうしてだか、オリーヴに似ている。シスターとして教会で神に奉仕して、少しずつ色々なことを覚える度に笑顔を見せるところがとても。
オリーヴを奪った憎い子なのに、オリーヴに似ている彼女を恨みきれない。憎みきれない。私は結局、敵討ちなんて向いてないみたい。あの子の成長を見守ったように、彼女の成長を見守る。懺悔室で、毎日あの子に何度も謝った。
「オリーヴ、敵を討てなくてごめんなさい。彼女を貴女にしたように愛してしまってごめんなさい…」
でもその度に、あの子が嬉しそうに笑顔を向けてくれた気がした。あの子はいつも私の幸せを願ってくれたからなぁと思う。
今日も複雑な感情を持て余しつつ、彼女に色々なことを教える。彼女は笑顔を私に向ける。いつか、お互いに懺悔をしなければいけない。彼女の懺悔を聞いてしまったこと。彼女が私のオリーヴにしたこと。でも、いつかのその時には赦し合える気がしている。今はまだ、無理だけれど。
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白ノ娘を思い出すなぁ
感想ありがとうございます。ゲームか何かでしょうか?素敵なお話なのでしょうね。