君が好きだと彼は言った

下菊みこと

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そんな彼を愛してしまった

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「アニエス、君が好きだ」

「嘘よ」

だって私は誰にも愛されないのだから。

「アニエス、本当は分かっているんでしょう?お母さんの言ったことがこの世の全てではないって」

「嫌!聞きたくない!」

だってお母様は、私なんかが誰かから愛されることはないと仰ったもの。毎日毎日、眠るまで何度だって。

「アニエス、それでも僕は君を愛している」

「やめてってば!」

だから私は、今日も彼を突き放す。

「アニエス。…僕の可愛いアニー。君が何と言おうが、神の前で誓ったあの瞬間から君は僕のものだ。君を自由にする権利は、僕にあるよね?」

「ルイス、やめて!お願い!」

「愛してる。だから、その呪いは解いてしまおうね」

ルイスが治癒魔法を私にかける。途端に、モノクロだった世界に色が戻った。幼い頃、父に浮気され捨てられた母が私に掛けた呪い。誰も愛せなくなる呪い。誰にも愛されない私のために、母が掛けてくれた呪い。誰も愛さずに済むように、傷付かずに済むように。

でも、本当は分かってる。母は私のためにこの呪いを掛けたのではない。父との間に生まれた私が、幸せになるのが許せずにこんな呪いを掛けたのだ。最初からわかっていたのに気付かないフリをしていたのは、私の心の弱さだ。

そして、誰も愛せなくなる呪いが解けると分かってしまう。自分がいかにルイスに愛されているか。自分がいかにルイスを愛してしまっているか。世界に色が戻って、愛を取り戻すと同時に私は絶望する。

ー…こんなにも愛おしい人に裏切られたら、私はもう生きてはいけない。

けれど、私には浮気者の父と娘の将来に嫉妬するような母の血が流れている。いつ捨てられてもおかしくはない。絶望しか見えない。

「ねえ、アニー。愛している。僕の言葉を信じて。僕は絶対に君を捨てたりしない。僕は絶対に君を裏切らない。僕は絶対に君を幸せにする」

「ルイス…」

「アニー、君の本心を聞かせて」

「ルイス、私、貴方を…愛してる」

「アニー…!」

「だから、もし私を要らなくなったら何も言わずに殺してくれる?」

私の言葉に固まるルイス。けれど次の瞬間には優しく笑って言った。

「もちろんだよ。だって、そんな日は来ないからね」

ー…

その後、私は三男五女に恵まれて幸せに暮らしている。ルイスが私を殺す気配はない。裏切る気配もない。それどころかどんどん甘く優しくなる一方。私は母に妬まれた幸せを手に入れてしまった。

孤独だった母を裏切ってしまった気分になるが、それでもその罪悪感以上の幸せを毎日ルイスが運んでくれるから、私はどうしても世界で一番に幸せになってしまう。

「ルイス」

「どうしたの、アニー」

「…愛してるわ」

「僕もだよ、アニー!」

お母様、ごめんなさい。私、貴女の分の幸せまで吸い取ってしまったのかもしれません。許してくれなくていいから、もう少しだけこのままでいさせてください。

「大丈夫だよ、アニー。君は僕が守る。君が幸せであり続けられるよう、ずっとずっとね」

「…ルイス、大好き」

「僕もだよ、アニー」
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