一国の姫として第二の生を受けたけど兄王様が暴君で困る

下菊みこと

文字の大きさ
11 / 34

俺の可愛いお姫様③

しおりを挟む
今日はリンネの婚約者を決めてやろうと思い朝早くからリンネの部屋に行く。しかし侍女に、まだリンネは寝ていると言われた。仕方がないのでリンネのベッドでリンネが起きるのを待つ。

「…おう。起きたか」

「おはよう、ティラン兄様!」

朝から元気だな。よかった。

「おはよう、我が愚妹よ」

「どうして腕枕してくれてるの?」

「せっかく来てやったのに、朝早くからだからってお前がいつまで経っても起きないから、特別に添い寝してやろうと思ってな」

「わあい、嬉しい!ティラン兄様大好き!」

俺にじゃれつくように抱きつくリンネ。好きにさせてやる。

「ティラン兄様、三つ編みいじっていい?」

「いいけど、あとで編み直せよ」

俺の長い三つ編みを解いて楽しそうに髪をいじるリンネ。

「ティラン兄様ポニーテール似合うね!」

「ふうん。俺の髪いじるの好きなの?」

「うん!好きだよ!」

「あっそ」

そんなに気に入ったなら好きにさせてやろう。

「じゃあ三つ編みするね!」

「おう」

「ティラン兄様の髪さらさらきらきらで綺麗!」

「今更かよ」

思わず笑う。本当に可愛いこと。

「それで、何か用事?」

「ん。お前の婚約者を決めてやろうと思って。どれがいい?」

「えっ!?婚約者?」

不安そうなリンネ。大丈夫、お前を守るためだから。

「そんな顔するなよ。なにもお前を王城から追い出すためじゃない。ちゃんと年頃になって結婚するまでは置いておいてやるよ」

気が変わらなければな、と付け足す。リンネは暴君の俺に家族を奪われて王城で閉じ込められている可哀想なお姫様なのだから。

「でも私、ティラン兄様と離れたくないよ」

「…!ばか、いつだって里帰りできるだろ。それに、当分先のことだよ」

余りにも可愛いことを言われ、照れ隠しにリンネの頬をむにむにと摘んだり伸ばしたりする。

「とりあえず、ほら、釣書。みんなこぞってお前を欲しがってるぞ」

なんたってエルドラドの王女だからな、と言う。でも、実際にはリンネ自身の可憐さに惹かれる貴公子が多い。

「まあ、お前に対して色無しなんて要らないなんて生意気なことを言う奴も中にはいたが、そいつらは全員潰しておいた」

まあ、さすがに殺すわけにもいかないから爵位的な意味でだけど。

「ティラン兄様、色無しって?」

「うん?ああ、教えてなかったか。王族なのに、髪が白銀でもなくて、瞳がアメジストでもない子のことだよ」

「ああ、そうなんだ…」

「…安心しろ、ちゃんと俺がこの目で見て選んでやった奴らばかりだ。変なのは混じってない」

ついでに変なのは潰してきたしな、と言う。少しは安心したか?

「そ、そっかー。じゃあ見てみるね」

リンネが選ぶのを待つ。

「ティラン兄様、この人がいいな」

リンネが選んだのはヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥーム。ハイリヒトゥーム国の第一王子で時期王太子と目される男。性格は穏やか。ハイリヒトゥームはエルドラドの同盟国で、エルドラドほどではないが広い領土と高度な文化を持つ。エルドラドと違い精霊の力を借りずに魔法を使う魔法学の先駆者でもある。ハイリヒトゥームはエルドラドと違い一夫一妻制だ。悪くない。…まあ、言って俺はハーレムを作る気はないけれども。

「ふうん。ハイリヒトゥームね。いい選択したな」

リンネの頭を軽く撫でる。さすがは俺の妹。賢いな。

「じゃあ、早速明日顔合わせするか」

「え!?明日!?」

「ん。明日ちょうどハイリヒトゥームから俺に会いにくるんだよ。その王子」

「なんで?」

「そりゃあお前、同盟国だからだよ。立場はこっちのが上だから、その王子が挨拶に来るのは当然だろ?」

リンネが驚いている。こういうところは年相応だな。

「じゃあ、楽しみにしてるね!いい人紹介してくれてありがとう、ティラン兄様!」

「はいはい、どういたしまして」

ハイリヒトゥームにはリンネを泣かせるようなことがあったら同盟国でも許さないって釘を刺しておかないとな。

ー…

今日はヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥーム第一王子とリンネの初顔合わせ。緊張しきりなリンネが可愛い。

「は、初めてお目にかかります。ヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥームと申します。ティラン・フロワ・エルドラド国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」

「堅苦しい挨拶はいい。これからも同盟国としてよろしく頼む」

「ありがたき幸せ!」

幼い割に、しっかりしている。…こいつが将来、リンネの夫になるのか。

「ありがたき幸せなら、もう一つあるぞ。特大級のがな」

「え?」

「我が愚妹よ、いい加減恥ずかしがってないで玉座の後ろから出てこい」

「は、はい、ティラン兄様!」

ギチギチと音がしそうなほどガチガチに固まりつつもなんとか俺の横に立つリンネ。学問に関しては優秀過ぎるが、やっぱりこういう場では年相応だな。

「は、はじめまして。リンネアル・サント・エルドラドです、えっと、よろしくお願いします!」

「こ、こちらこそはじめまして。僕はヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥーム。リンネアル・サント・エルドラド王女殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」

お互いに緊張しつつも、なんとか挨拶を交わす二人。…いい夫婦になってくれればいいんだが。

「多分報せは受けただろうがな。お前は今日から我が愚妹の婚約者だ。くれぐれも丁重に扱えよ?」

「っ!は、はい、もちろんでございます!」

「愚妹よ。ヴァイスに王城を案内してやれ」

「は、はい、ティラン兄様!」

二人きりの時間を作ってやる。まあ、後ろに侍女は控えているが。…さて、ヴァイスハイト。見極めさせてもらおう。

ー…

「よかったな、我が愚妹よ」

「え?」

「“庭師のお爺ちゃん”から聞いた。早速ヴァイスの奴といい仲になったんだろう?お前やるな」

まあ、俺の妹を気に入らない奴の方が珍しいとは思うが。

「い、いや、そんな…」

「さすがは我が妹だ。将来有望だな?」

「あ、あはは」

可愛いリンネ。大切にしてくれる相手が見つかってよかった。

「それで?魔法学の方はどうだ?」

「えっとねー、今使い魔を使えるようになったところ!」

見せてあげるね、といって使い魔を呼び寄せるリンネ。リンネの使い魔は…怪猫シャパリュ。シャパリュ!?

「お前…シャパリュと契約したのか!?」

「うん!」

「やられた…お前、実は結構ちゃっかりしてるな」

「えへへー」

シャパリュは契約者が死なない限り他の人とは契約しない。また、契約者のことは死んでも守ろうとする。…俺が近々契約するつもりだったんだが。まあ、リンネを守るためなら悪くはないか。

「でも、あんまり調子に乗るなよ。シャパリュは下手をするとお前の魔力を喰い尽くす。特にお前はアメジストの瞳を持ってないんだから…」

「はーい!」

リンネは適当に返事をしてシャパリュを可愛がる。

「まったく…やっぱりまだまだ子供だな」

呆れつつもシャパリュをブラッシングしてやるリンネを見守る。

「あれ?」

突然リンネがぱたりとその場に倒れこむ。

「…おい、我が愚妹よ。変な冗談は止めろ」

リンネを抱き起こす。まずい。魔力が枯渇している。

「…おい、おい!リンネ!くそ、マジか!こんなに魔力が…!リンネ、今すぐこの化け猫を還すか殺せ!お前の命令なら聞き入れる!」

「にゃー…」

心配そうにシャパリュが顔を舐める。シャパリュが悪いわけじゃないが、頼むから還ってくれ。

「シャパリュ、小さくなあれ」

「…!そうか、小さくすれば魔力の減りは少なくなる!」

…ああもう!

「…仕方ない。リンネ、緊急事態だから俺の魔力を少し分けてやる。有り難く思えよ」

リンネの胸の辺りに手を翳すと、魔力を注ぎ込む。

「ありがとう、ティラン兄様!」

「まったく…次はないぞ」

「はあーい!シャパリュ、これからは緊急事態以外はこのサイズでいてね」

「おい、こら。まさかずっと呼び出したままにする気か?」

「うん!」

「…はあ。次はないからな!」

シャパリュに手を翳す。魔力を俺の限界まで注ぎ込む。

「…これでしばらく大丈夫だ。お前はアメジストの瞳を持たないんだから、あんまり調子に乗るなよ」

「?シャパリュになにしたの?」

「さあね。お前にとって悪いことじゃないさ」

「…ふうん?ティラン兄様ありがとう!」

「どういたしまして」

ぽんぽんとリンネの頭を撫でる。これからもたまにシャパリュに必要な魔力を調整してやらないとな。

ー…

「おい、我が愚妹」

「ティラン兄様!どうかしましたか?」

…うん、小さいシャパリュは魔力をそんなに使っていない。まだ補充しなくても大丈夫そうだな。

「いや、ただ単に確認に来ただけだ」

「?なんの?」

「なんでもない。…なんだ?その手紙」

「あ、ヴァイス様からもらったの!」

「見せてみろ」

「え?あ!」

リンネから強引に手紙を奪い取る。どれどれ。

「うわなんだこれ砂糖吐きそう」

あの王子リンネに傾倒してるな。まあ当然か。こんなに可愛いもんな。

「へー、マジでベタ惚れじゃん。よかったな」

「う、うん」

「で?」

「え?」

「お前から愛するティラン兄様への感謝の手紙は?」

「すぐ書きます!」

ははははは!と笑う。まさか本気にするとは。可愛い奴。

「はい、ティラン兄様!」

「おー。…愛するティラン兄様?お前あざといなぁ…へぇ、殊勝なことだな…ふーん、あの化け猫を庇うわけね…へえー、ヴァイス様の次に愛してるってか。なーるほど?」

リンネの手紙を魔法で加工して、俺が死ぬまで劣化、破損しないようにする。宝物にしよう。

「ティラン兄様、だーいすき!」

「ほーん。まあいいや。これで見逃してやるよ。おやすみ、我が愚妹」

「おやすみなさい、ティラン兄様。…あの」

「うん?」

「もうリンネって呼んでくれないの?」

「…」

帰ろうとしていた俺は、振り返ってリンネに歩み寄る。

「ティラン兄様?」

もういいや。暴君の兄に家族を奪われて王城で閉じ込められてる可哀想なお姫様とか。そんな設定なくても、俺が守ってあげればいい。

「おやすみ、俺の可愛いリンネ」

そういうとリンネの額にキスをして、なにもなかったかのように帰る。…百合姫の称号、ね。貴族どももうるさいし、そろそろ考えないとな。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら
恋愛
「どうしてよりによって、18歳で破滅する悪役令嬢に生まれてしまったのかしら」  こうなったら引きこもってフラグ回避に全力を尽くす!  そう決意したリアナは、聖女候補という肩書きを使って世界樹の塔に引きこもっていた。そしていつしか、聖女と呼ばれるように……。  うまくいっていると思っていたのに、呪いに倒れた聖騎士様を見過ごすことができなくて肩代わりしたのは「18歳までしか生きられない呪い」  これまさか、悪役令嬢の隠し破滅フラグ?!  18歳の破滅ルートに足を踏み入れてしまった悪役令嬢が聖騎士と攻略対象のはずの兄に溺愛されるところから物語は動き出す。 小説家になろうにも掲載しています。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...