21 / 34
僕の愛しい婚約者
しおりを挟む
僕はヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥーム。ハイリヒトゥーム国の第一王子で時期王太子。今日は、同盟国であるエルドラドの姫君の釣書を受け取った。リンネアル・サント・エルドラド王女殿下。ブロンドの髪と碧瞳が綺麗な、中性的な美しさを持つ愛らしい姫君だ。
…釣書をみて、一目惚れしてしまった。いや、僕はハイリヒトゥームの第一王子であり、恋愛結婚なんて難しいし、政略結婚をしなければならないのだが。…好きになってしまった。どうしようか。とりあえず父と母に相談してみる。
すると父と母は思いの外喜び、もし王女殿下に選ばれたらすぐに教えると言ってくれた。…そんな両親の態度に、喜びを隠せない。上手くいけば、この美しい姫君と…。
そして、エルドラドへ挨拶へ向かう道の途中、後もう少しでエルドラドへ着くというところで、報せが入った。エルドラドの王女殿下が、僕を婚約者に選んだと。
ー…
「は、初めてお目にかかります。ヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥームと申します。ティラン・フロワ・エルドラド国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「堅苦しい挨拶はいい。これからも同盟国としてよろしく頼む」
「ありがたき幸せ!」
僕は今、エルドラドで憧れの国王陛下と対面している。ああ、姫君の話はいつ出るんだろう。会わせていただけるかな。国王陛下は姫君をすごく大切にされているとのことだし、会わせていただけなかったらどうしよう。
「ありがたき幸せなら、もう一つあるぞ。特大級のがな」
「え?」
「我が愚妹よ、いい加減恥ずかしがってないで玉座の後ろから出てこい」
「は、はい、ティラン兄様!」
ギチギチと音がしそうなほどガチガチに固まりつつもなんとか国王陛下の横に立つ姫君。ああ、本物の方が写真より可愛いな。
「は、はじめまして。リンネアル・サント・エルドラドです、えっと、よろしくお願いします!」
「こ、こちらこそはじめまして。僕はヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥーム。リンネアル・サント・エルドラド王女殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」
お互いに緊張しつつも、なんとか挨拶を交わす。
「多分報せは受けただろうがな。お前は今日から我が愚妹の婚約者だ。くれぐれも丁重に扱えよ?」
「っ!は、はい、もちろんでございます!」
こんなに素敵な人を、蔑ろにするわけない。
「愚妹よ。ヴァイスに王城を案内してやれ」
「は、はい、ティラン兄様!」
こうして僕達は、二人きりになった。
「リンネアル王女殿下」
「は、はい!ヴァイスハイト様!」
…緊張する。断られたらどうしよう。
「お互いの仲を深めるために、愛称で呼びあいませんか?」
「い、いいと思います!」
よかった…!
「あと、敬語もやめましょう」
「う、うん。…ヴァイス様」
「ええ、…リンネ」
「…」
「…」
き、気まずいな。
「えっと…薔薇園に行ってみよっか」
「ああ。リンネは薔薇が好きかい?」
イメージは百合だったのだけど。
「とっても!可愛くて美しいもの!」
「そっか。僕の姫君は薔薇が好きなんだね」
覚えておこう。
「でもどちらかといえば百合の方が好きかな。白くて可愛くて綺麗」
「そうか。リンネは百合が好きなのか。覚えておくね」
ああ、やっぱり。イメージ通りだ。
「さ、着いたよ!」
「これは見事な薔薇園だね」
「香りもすごくいいよね!」
「そうだね。…リンネ、薔薇を一輪貰ってもいいかい?」
美しいリンネの髪に飾りたい。
「うん、いいよ!ちょっと待ってね、棘を切って貰わなくちゃ。庭師のお爺ちゃーん」
「はいはい、なんですかな姫さま。…おや、これは失礼致しました。ハイリヒトゥームに栄光あれ」
「ああ、いや、気にしないでくれ。今の僕はハイリヒトゥームの王子ではなく、リンネの婚約者兼恋人だ」
「であればなおのこと丁重におもてなししませんとな」
「はは。それもそうか。ごめんごめん、本当に気にしないでくれ」
人の良さそうな庭師だな。
「ねえ、お爺ちゃん、この薔薇一輪ちょうだい!」
「姫さまは本当に薔薇が好きですなぁ。…はい、どうぞ。棘も切りましたよ」
「ありがとう!はい、ヴァイス様!」
「おや、王子殿下への贈り物でしたか。若いですなあ。それでは老いぼれはここで失礼致します」
「お爺ちゃんありがとー!」
「ありがとうございます、庭師さん」
それにしても先程の態度。リンネは、日頃から庭師と仲良しみたいだ。
「…リンネは、使用人にも別け隔てなく接するんだね」
「あ、は、はしたなくてすみません…」
「そんなことない」
「え?」
「それはとても、大切なことだよ。王家は、国民の力あってこそ成り立つのだから」
「ヴァイス様…」
こんなに心の美しい姫君の婚約者になれるなんて、僕は幸せ者だな。
「…リンネは、国王陛下によく似ているね」
「え?ティラン兄様に?」
「国王陛下も、下々の民にとても良く接しているそうだよ。陛下の打ち立てた新しい施策も、国民達から多く支持されている。国王陛下は、僕の憧れなんだ」
さあ、リンネの髪に薔薇を飾ろう。
「リンネ…ちょっと失礼…。うん、やっぱり似合う」
「ヴァイス様…」
「ふふ、リンネ…これは内緒の話なんだけど」
「?はい」
「国王陛下はね。僕が婚約者に決まった際に、リンネを泣かせるようなことがあったら同盟国でも許さないって釘を刺してきたそうだよ」
「ティラン兄様が?」
目を丸くするリンネ。可愛いな。
「僕は国王陛下の気持ちがわかるな」
「え?」
「こんなに素直で可愛い人、他にいないもの」
言っちゃおうかな。
「実はね、僕、釣書を見たとき、リンネに一目惚れしちゃったんだ」
「…!」
「だから、リンネが僕を選んでくれて嬉しい」
「ヴァイス様…」
「僕の姫君。僕は君を一生をかけて愛することを誓います」
跪き、リンネの手を取って手の甲にキスを落とす。
「…!嬉しい!ヴァイス様、私も、一生をかけて貴方を愛することを誓います!」
「ふふ。両思いだね」
「はい、両思いです!」
幸せ過ぎて、天にも昇る心地だ。
ー…
月日は流れ、それでも僕達は手紙でのやり取りを続けていた。そして今日は、エルドラドへ挨拶に行く日。リンネに会える!
「失礼します」
謁見の間にはリンネが居た。はやくリンネの声が聞きたい!逸る気持ちを押さえてティラン義兄上に挨拶する。
「お久しぶりです。ヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥームです。ティラン・フロワ・エルドラド国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「堅苦しい挨拶はいい。これからも同盟国としてよろしく頼む」
「はい、よろしくお願い致します!」
「それよりも、お前の本命はこっちだろう?」
リンネの方を向くティラン義兄上。ばればれでしたか。
「リンネ。久しぶり。元気そうで何よりだよ」
「…っ!ヴァイス様!会いたかったです!」
リンネが僕に抱きついてくる。可愛いな。
「リンネ。ふふ、僕もだよ」
腕の中を覗き込めば、笑顔のリンネ。手紙だけのやり取りだったから、本物に会えて幸せだ。
「…っ!王女殿下!」
「…?なに、フォルス?」
ちょっと困った様子で言葉を選ぶ騎士風の男の子。代わりに、とばかりに貴族風の男の子が言う。
「リンネ様。婚前の男女が抱き合うのは、ちょっと…」
余計なことを。もっと抱きしめて居たかったのに。
「…っ!ご、ごめんなさい!」
「もっと抱きついてくれてもいいのに」
「もう、ヴァイス様!」
「見せつけておきたいからね」
リンネの周りの男の子たちに。
「…君たちとは、初めましてだよね。僕はヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥーム。ハイリヒトゥームの王子だよ。リンネの『婚約者』だ。リンネ同様、よろしくね」
「…王女殿下の護衛騎士、フォルス・トラディシオンです。僭越ながら、王女殿下の護衛のためご一緒させていただきます」
なるほど、この子がリンネの手紙にあった護衛騎士。…ちゃんと自分の身も弁えている様子だし、大丈夫かな。
「そうか。よろしく」
「はい」
「お初にお目にかかります。ノブル・ターブルロンドと申します。リンネ様のお話相手を務めさせていただいております」
「そう、リンネの。…これからもリンネをよろしくね」
この子も、ちゃんと自分の立場を分かっているようでなにより。問題は僕を睨んでくるあの子だけかな。…僕じゃなきゃ不敬罪で首落ちてるからね?
「初めまして。俺はレーグル・オロスコープ。…ヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥーム王子殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」
なんだ、ちゃんと出来るじゃない。
「うん。よろしくね。ところで君はリンネの何かな?」
「…今はまだ友達です」
今はまだ、ね。戦線布告ととっていいのかな。
「そう。言っておくけど、僕も本気だから。譲らないよ」
「気が合いますね、俺もです」
にこにこし合いながら牽制しあう。ティラン義兄上は玉座で大笑いしている。分かってて僕たちを会わせましたね?
「もう!二人とも喧嘩しないでください!」
「はーい」
「ふふ。ごめんね、リンネ。わかったよ」
なるべく自然にリンネの頬へ手を寄せる。
「でも、婚約者が男に囲まれているんだもの。心配させて?」
「…!す、すみません!」
あら、困らせちゃった。
「ふふ。リンネはなにも悪くないよ」
「ヴァイス様…」
「ティラン義兄上は意地悪ですね」
「ん?何がだ?」
にまにましながら僕を見つめるティラン義兄上。リンネも苦労してるんだろうな。
「ティラン兄様!」
はははははと笑うティラン義兄上。そんなにリンネを取られるのが嫌ですか。
「ティラン義兄上はよほど僕にリンネを取られるのが面白くないのですね」
「可愛い妹だからな」
「だからといってさすがに男ばかりをリンネに近づけられると困ります」
「俺に言われてもなぁ。美しい花に虫が近寄るのは道理だろう?」
…。まあ、確かにそれはそうだけれど。
「もう!意地悪しかしないならティラン兄様なんて知らない!ヴァイス様、みんなも行こ!」
また玉座で高笑いをするティラン義兄上。敵わないな。
「では、失礼します。ティラン義兄上」
「…ああ、束の間の逢瀬だ。楽しめよ」
「もう!変な言い方しないでよ!」
「ははははは!」
…その後ティラン義兄上以外のみんなでお茶会をした。正直、リンネにはそろそろ同性のお友達を作ってほしいかな。賢い子ならこの三人への歯止めになるかもしれないし。
…釣書をみて、一目惚れしてしまった。いや、僕はハイリヒトゥームの第一王子であり、恋愛結婚なんて難しいし、政略結婚をしなければならないのだが。…好きになってしまった。どうしようか。とりあえず父と母に相談してみる。
すると父と母は思いの外喜び、もし王女殿下に選ばれたらすぐに教えると言ってくれた。…そんな両親の態度に、喜びを隠せない。上手くいけば、この美しい姫君と…。
そして、エルドラドへ挨拶へ向かう道の途中、後もう少しでエルドラドへ着くというところで、報せが入った。エルドラドの王女殿下が、僕を婚約者に選んだと。
ー…
「は、初めてお目にかかります。ヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥームと申します。ティラン・フロワ・エルドラド国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「堅苦しい挨拶はいい。これからも同盟国としてよろしく頼む」
「ありがたき幸せ!」
僕は今、エルドラドで憧れの国王陛下と対面している。ああ、姫君の話はいつ出るんだろう。会わせていただけるかな。国王陛下は姫君をすごく大切にされているとのことだし、会わせていただけなかったらどうしよう。
「ありがたき幸せなら、もう一つあるぞ。特大級のがな」
「え?」
「我が愚妹よ、いい加減恥ずかしがってないで玉座の後ろから出てこい」
「は、はい、ティラン兄様!」
ギチギチと音がしそうなほどガチガチに固まりつつもなんとか国王陛下の横に立つ姫君。ああ、本物の方が写真より可愛いな。
「は、はじめまして。リンネアル・サント・エルドラドです、えっと、よろしくお願いします!」
「こ、こちらこそはじめまして。僕はヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥーム。リンネアル・サント・エルドラド王女殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」
お互いに緊張しつつも、なんとか挨拶を交わす。
「多分報せは受けただろうがな。お前は今日から我が愚妹の婚約者だ。くれぐれも丁重に扱えよ?」
「っ!は、はい、もちろんでございます!」
こんなに素敵な人を、蔑ろにするわけない。
「愚妹よ。ヴァイスに王城を案内してやれ」
「は、はい、ティラン兄様!」
こうして僕達は、二人きりになった。
「リンネアル王女殿下」
「は、はい!ヴァイスハイト様!」
…緊張する。断られたらどうしよう。
「お互いの仲を深めるために、愛称で呼びあいませんか?」
「い、いいと思います!」
よかった…!
「あと、敬語もやめましょう」
「う、うん。…ヴァイス様」
「ええ、…リンネ」
「…」
「…」
き、気まずいな。
「えっと…薔薇園に行ってみよっか」
「ああ。リンネは薔薇が好きかい?」
イメージは百合だったのだけど。
「とっても!可愛くて美しいもの!」
「そっか。僕の姫君は薔薇が好きなんだね」
覚えておこう。
「でもどちらかといえば百合の方が好きかな。白くて可愛くて綺麗」
「そうか。リンネは百合が好きなのか。覚えておくね」
ああ、やっぱり。イメージ通りだ。
「さ、着いたよ!」
「これは見事な薔薇園だね」
「香りもすごくいいよね!」
「そうだね。…リンネ、薔薇を一輪貰ってもいいかい?」
美しいリンネの髪に飾りたい。
「うん、いいよ!ちょっと待ってね、棘を切って貰わなくちゃ。庭師のお爺ちゃーん」
「はいはい、なんですかな姫さま。…おや、これは失礼致しました。ハイリヒトゥームに栄光あれ」
「ああ、いや、気にしないでくれ。今の僕はハイリヒトゥームの王子ではなく、リンネの婚約者兼恋人だ」
「であればなおのこと丁重におもてなししませんとな」
「はは。それもそうか。ごめんごめん、本当に気にしないでくれ」
人の良さそうな庭師だな。
「ねえ、お爺ちゃん、この薔薇一輪ちょうだい!」
「姫さまは本当に薔薇が好きですなぁ。…はい、どうぞ。棘も切りましたよ」
「ありがとう!はい、ヴァイス様!」
「おや、王子殿下への贈り物でしたか。若いですなあ。それでは老いぼれはここで失礼致します」
「お爺ちゃんありがとー!」
「ありがとうございます、庭師さん」
それにしても先程の態度。リンネは、日頃から庭師と仲良しみたいだ。
「…リンネは、使用人にも別け隔てなく接するんだね」
「あ、は、はしたなくてすみません…」
「そんなことない」
「え?」
「それはとても、大切なことだよ。王家は、国民の力あってこそ成り立つのだから」
「ヴァイス様…」
こんなに心の美しい姫君の婚約者になれるなんて、僕は幸せ者だな。
「…リンネは、国王陛下によく似ているね」
「え?ティラン兄様に?」
「国王陛下も、下々の民にとても良く接しているそうだよ。陛下の打ち立てた新しい施策も、国民達から多く支持されている。国王陛下は、僕の憧れなんだ」
さあ、リンネの髪に薔薇を飾ろう。
「リンネ…ちょっと失礼…。うん、やっぱり似合う」
「ヴァイス様…」
「ふふ、リンネ…これは内緒の話なんだけど」
「?はい」
「国王陛下はね。僕が婚約者に決まった際に、リンネを泣かせるようなことがあったら同盟国でも許さないって釘を刺してきたそうだよ」
「ティラン兄様が?」
目を丸くするリンネ。可愛いな。
「僕は国王陛下の気持ちがわかるな」
「え?」
「こんなに素直で可愛い人、他にいないもの」
言っちゃおうかな。
「実はね、僕、釣書を見たとき、リンネに一目惚れしちゃったんだ」
「…!」
「だから、リンネが僕を選んでくれて嬉しい」
「ヴァイス様…」
「僕の姫君。僕は君を一生をかけて愛することを誓います」
跪き、リンネの手を取って手の甲にキスを落とす。
「…!嬉しい!ヴァイス様、私も、一生をかけて貴方を愛することを誓います!」
「ふふ。両思いだね」
「はい、両思いです!」
幸せ過ぎて、天にも昇る心地だ。
ー…
月日は流れ、それでも僕達は手紙でのやり取りを続けていた。そして今日は、エルドラドへ挨拶に行く日。リンネに会える!
「失礼します」
謁見の間にはリンネが居た。はやくリンネの声が聞きたい!逸る気持ちを押さえてティラン義兄上に挨拶する。
「お久しぶりです。ヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥームです。ティラン・フロワ・エルドラド国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「堅苦しい挨拶はいい。これからも同盟国としてよろしく頼む」
「はい、よろしくお願い致します!」
「それよりも、お前の本命はこっちだろう?」
リンネの方を向くティラン義兄上。ばればれでしたか。
「リンネ。久しぶり。元気そうで何よりだよ」
「…っ!ヴァイス様!会いたかったです!」
リンネが僕に抱きついてくる。可愛いな。
「リンネ。ふふ、僕もだよ」
腕の中を覗き込めば、笑顔のリンネ。手紙だけのやり取りだったから、本物に会えて幸せだ。
「…っ!王女殿下!」
「…?なに、フォルス?」
ちょっと困った様子で言葉を選ぶ騎士風の男の子。代わりに、とばかりに貴族風の男の子が言う。
「リンネ様。婚前の男女が抱き合うのは、ちょっと…」
余計なことを。もっと抱きしめて居たかったのに。
「…っ!ご、ごめんなさい!」
「もっと抱きついてくれてもいいのに」
「もう、ヴァイス様!」
「見せつけておきたいからね」
リンネの周りの男の子たちに。
「…君たちとは、初めましてだよね。僕はヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥーム。ハイリヒトゥームの王子だよ。リンネの『婚約者』だ。リンネ同様、よろしくね」
「…王女殿下の護衛騎士、フォルス・トラディシオンです。僭越ながら、王女殿下の護衛のためご一緒させていただきます」
なるほど、この子がリンネの手紙にあった護衛騎士。…ちゃんと自分の身も弁えている様子だし、大丈夫かな。
「そうか。よろしく」
「はい」
「お初にお目にかかります。ノブル・ターブルロンドと申します。リンネ様のお話相手を務めさせていただいております」
「そう、リンネの。…これからもリンネをよろしくね」
この子も、ちゃんと自分の立場を分かっているようでなにより。問題は僕を睨んでくるあの子だけかな。…僕じゃなきゃ不敬罪で首落ちてるからね?
「初めまして。俺はレーグル・オロスコープ。…ヴァイスハイト・ファイン・ハイリヒトゥーム王子殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」
なんだ、ちゃんと出来るじゃない。
「うん。よろしくね。ところで君はリンネの何かな?」
「…今はまだ友達です」
今はまだ、ね。戦線布告ととっていいのかな。
「そう。言っておくけど、僕も本気だから。譲らないよ」
「気が合いますね、俺もです」
にこにこし合いながら牽制しあう。ティラン義兄上は玉座で大笑いしている。分かってて僕たちを会わせましたね?
「もう!二人とも喧嘩しないでください!」
「はーい」
「ふふ。ごめんね、リンネ。わかったよ」
なるべく自然にリンネの頬へ手を寄せる。
「でも、婚約者が男に囲まれているんだもの。心配させて?」
「…!す、すみません!」
あら、困らせちゃった。
「ふふ。リンネはなにも悪くないよ」
「ヴァイス様…」
「ティラン義兄上は意地悪ですね」
「ん?何がだ?」
にまにましながら僕を見つめるティラン義兄上。リンネも苦労してるんだろうな。
「ティラン兄様!」
はははははと笑うティラン義兄上。そんなにリンネを取られるのが嫌ですか。
「ティラン義兄上はよほど僕にリンネを取られるのが面白くないのですね」
「可愛い妹だからな」
「だからといってさすがに男ばかりをリンネに近づけられると困ります」
「俺に言われてもなぁ。美しい花に虫が近寄るのは道理だろう?」
…。まあ、確かにそれはそうだけれど。
「もう!意地悪しかしないならティラン兄様なんて知らない!ヴァイス様、みんなも行こ!」
また玉座で高笑いをするティラン義兄上。敵わないな。
「では、失礼します。ティラン義兄上」
「…ああ、束の間の逢瀬だ。楽しめよ」
「もう!変な言い方しないでよ!」
「ははははは!」
…その後ティラン義兄上以外のみんなでお茶会をした。正直、リンネにはそろそろ同性のお友達を作ってほしいかな。賢い子ならこの三人への歯止めになるかもしれないし。
12
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」
氷雨そら
恋愛
「どうしてよりによって、18歳で破滅する悪役令嬢に生まれてしまったのかしら」
こうなったら引きこもってフラグ回避に全力を尽くす!
そう決意したリアナは、聖女候補という肩書きを使って世界樹の塔に引きこもっていた。そしていつしか、聖女と呼ばれるように……。
うまくいっていると思っていたのに、呪いに倒れた聖騎士様を見過ごすことができなくて肩代わりしたのは「18歳までしか生きられない呪い」
これまさか、悪役令嬢の隠し破滅フラグ?!
18歳の破滅ルートに足を踏み入れてしまった悪役令嬢が聖騎士と攻略対象のはずの兄に溺愛されるところから物語は動き出す。
小説家になろうにも掲載しています。
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる