運命は空回った

下菊みこと

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そして正しい形に

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私の方が貴方をもっと大好きなのに。

私はセレスト・モンフォール。伯爵令嬢。私には片思いの相手がいる。子爵令息、エルネスト・ノアイユ。幼馴染で、婚約者。今は婚約者とはいえ片思いだけれど、ずっとずっと一緒にいたし、これからもずっとずっと一緒にいられるのだから問題ないと思っていた。…あの子が現れるまでは。

お父様の隠し子が見つかった。私とは似ても似つかない、とても可愛らしい女の子。私の一つ下の子だった。ちょうど私が生まれる頃に作った子供らしい。

けれど妹には罪はない。母親を亡くし頼れるのはうちだけという彼女を、私は受け入れた。お父様は彼女が目に入れても痛くないほど可愛いらしく、私に感謝していた。お母様は泣いていたが、それでも彼女を邪険にはしなかった。

妹、クレールはその見た目の愛らしさはもちろんのこと、頭も良くすぐに貴族の令嬢として相応の知識を吸収していった。今ではその優しい性格も相まってどこに出しても恥ずかしくない自慢の妹だ。だから、将来の義兄になるエルを紹介した。それが間違いだった。

エルとのいつもの二人きりでのお茶会の席にクレールを呼んだ。エルはクレールを見て頬を染め目を逸らした。その瞬間私は絶望した。紹介なんてしなければよかった。いや、いつかは紹介せざるを得ないのだから、時間の問題だっただろうけれど。

クレールは無邪気に「お義兄様」と呼んでエルに懐いた。エルは誠実に、大切そうにクレールに接する。ぶっきらぼうに、でも優しい私への態度とは大違い。

大切に抱えていたエルとの思い出の全てが、壊れていく気がした。

ある日クレールに婚約者が決まった。テオドール・シャロン様。公爵令息。顔合わせの席でお会いしたが、とても美形で強気な方だった。なんでも女に興味はないと婚約の話を全部蹴っていたが、最近クレールに一目惚れして今回の婚約を持ち掛けたらしい。

「お姉様!テオドール様が素敵な方でとても嬉しいです!」

「よかったわね、クレール」

私からエルを奪ったくせに。

「お姉様には可愛がっていただいていますし、お義兄様もお優しいし、その上こんな素敵な婚約者まで!私、こんなに幸せでいいんでしょうか?」

「いいに決まっているじゃない。貴女は幸せになるべき人間なのよ」

貴女さえいなければよかったのに。

「お姉様も、これから先もっともっと幸せになってくださいね!お姉様と一緒になら、幸せが何倍にもなるんです!」

「クレールは本当に優しい子ね。お姉様も誇らしいわ」

死んでしまえ。

「えへへ。お姉様、だーい好きです!」

「私も大好きよ、クレール」

貴女なんて大っ嫌い。

エルにクレールの婚約者が決まったことを伝えた。エルは途端に死にそうな顔をした。けれど私には気丈に振る舞う。なんでもない、と。隠せているつもりなのかしら。馬鹿な人。でも、貴方に気持ちを伝えることすらできない私はもっと馬鹿ね。…そうでしょう?

クレールとテオドール様はとても仲睦まじく過ごしている。私はそれをエルに嬉々として伝える。最初こそエルを気遣って話さないようにしていたけれど、ある日ぽろっと二人の話をエルの前でしてしまった時、絶望に打ちひしがれる彼の顔を見て、彼を傷付ける快感を知ってしまった。

私だって、貴方がクレールを好きになった時とても傷付いたの。私だって、貴方がクレールと仲良くしている時とても苦しかったの。だから貴方も味わってよ。

私なんてもっとずっと前から貴方を大好きなのよ?貴方の心の傷なんて比じゃないのよ?ねえ、もっと私の方をみてよ。

ふと、貴方が言った。

「お前がそばにいてくれてよかった。…なんのことかわからないよな、ごめん。でも、お前がいなきゃ俺、きっと死んでたよ」

私が貴方を傷つけているのに。馬鹿な人。…馬鹿なのは、どっちよ。

「ねえ、エル」

「なんだよ、セーレ」

「クレールに告白してきたら?」

ぶっとエルが紅茶を吐き出す。

「は、な?…おま、え?」

「好きなんでしょう?玉砕して諦めて来なさい」

「…。わかった。ごめん、セーレ。行ってくる」

「はいはい」

エルが走り出した。多分おそらく確実にエルは振られる。さらに言えば私というものがありながらとエルに軽蔑される。けれど、ねぇ。そろそろ決着をつけるべきでしょう?

「セーレ」

「エル。…ああ、やっぱり」

エルは頬に紅葉を貼り付けてきた。こっ酷く振られてきたらしい。

「…。なあ、いつから気付いてた」

「最初からよ」

「なんで」

「貴方がずっと好きだったから」

「…それなのに、俺に二人の話を振ってたんだな」

「ええ。私が傷付いた分貴方も傷付けばいいと思って」

「お前最低だな」

「…ふふ。うん」

「…でも、俺はもっと最低だな。優しいお前にそんなことさせた。ごめん」

「…うん」

「なあ、まだ…やり直せるか?」

「わからない。私の気持ちも、もう純粋なだけじゃなくなっちゃったし」

「そっか」

「でも、私はやり直したいわ」

「…俺も」

「まずは幼馴染からやり直しましょ」

「そうだな」

それから、私達はいっぱい話して、いっぱい遊んだ。デート、ではなくただ遊びに行った。クレールが「お義兄様はお姉様に相応しくありません!」とか言って婚約破棄しようと頑張り出したり色々とトラブルはあったけど、元の仲のいい幼馴染には戻れたと思う。クレールも、最近では私達の関係をようやく理解したらしく私に土下座する勢いで謝ってきた。どんなに憎たらしくても、それでも可愛い妹に土下座なんてさせられないので全力で謝罪を受け止めて素早く許した。私の妹はやっぱり可愛い。

「義姉上」

「テオドール様」

「…全部、クレールから聞きました」

「そうでしたか…クレールを巻き込んでしまってすみません」

「…最終的に解決したのですし、俺達は元々ラブラブなので問題ありません」

「そ、そうですか。それは良かった」

「義姉上は、大丈夫ですか?…御心は決まっているのですか?」

「…まだ、結局どうしたいのかわからないです。エルのことは好きだけど、わざと傷付けるようなことをしてしまった私が言えたことじゃないし」

「…意地を張らずに、それこそ玉砕してきたらどうですか?」

「…」

「その方が後悔しないかと。義兄上のようにね」

「…。ありがとうございます、テオドール様。行ってきます!」

私はエルの元に走り出す。テオドール様は笑って送り出してくれた。

「これでいいのか?クレール」

「ええ。お姉様には幸せになって欲しいんですもの」

「お前は本当に姉が好きだな。妬くぞ」

「あら、うふふ。テオは私の特別よ?」

「ん」

ー…

「エル!」

「セーレ!どうした、走って!」

「好き!私やっぱり、貴方がまだ好き!愛してる!」

「!…俺も」

「え?」

「今は、ずっと一途に居てくれたお前が好き。…これからも、そばにいさせてくれるか?」

「…うん!もちろん!」

運命は空回った。そして、いつか正しい形に。これはただ、それだけのお話。
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