異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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「どうせ大した悩みでもないんでしょう?」

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「どうせ大した悩みでもないんでしょう?そうやっていちいち構ってちゃんしないでください。今は彼女のことで忙しいんです」

そう言って旦那様は私を放って『彼女』の元へ行く。

「…だからこんな結婚嫌だったのよね」

「奥様…」

本当に、面倒な相手を押し付けられたものだ。












私と彼は幼い頃からの婚約者同士で、政略結婚の相手だった。

彼は美しく聡明な男だと誉めそやされるが、実のところ女の扱いをわかっていない。

婚約者がいるならそちらを優先すべきなのに、彼は極度のシスコンで妹ばかりを優先する。

だからこの結婚が私にとっては最悪のものであるのだが…周りはみんな素敵な旦那様ねと褒めてきて、私の本心など知らずに私を羨ましがる。

「愚痴を言えるのは貴女だけよ」

「本来なら私にもあまり愚痴を言ってはいけませんよ」

「わかってるわよ」

昔から支えてくれる侍女にしか愚痴は言えない。

…とはいえ、嫌な面だけではないのだ。

彼は私が「あること」を相談しようとしても妹を優先する男だが、金はある。

彼の妻としてのお小遣いだけで贅沢し放題!

…まあ、それすら虚しく感じるほど彼のシスコンぶりはすごいのだけど。

「…でもま、『この子』のために頑張らないと」

「ご立派です、奥様」

「お腹のこの子は間違いなく旦那様の子。だからこそ旦那様に相談しておきたかったのだけど…まあ、良いわ。聞いてくれなかったのは旦那様だもの。生まれてからびっくりすればいいわ」

「奥様…」

実のところ。

お腹の子の状態はあまり思わしくないらしい。

だから、母体ではなく子を優先して良いか聞いておきたかったのだけど。

ま、子供優先でいいわよね。

もし私に何かあってもお金だけはあるのだし育ててはいけるでしょう。

もちろん、私に何もないのが一番いいのだけど。

「…とはいえ、お腹の子のためにもあの妹さんはなんとかしないとね」

「なんとか、と言いますと?」

「何がなんでも健康にしてやるのよ!」

ということで、私は有り余る彼の妻として渡されるお小遣いを駆使して彼女に余計なお世話を焼くことにした。

「リリー様、こちら身体に良い薬草を食べやすくした漢方入りクッキーです」

「お義姉様、ありがとうございます…!」

「あと、身体に良いとされる生姜湯ですよ。甘くして飲みやすくしていますからね」

「まあ…!」

「あと、身体が冷えるといけないと聞きましたから湯たんぽもプレゼントです」

いらんお世話を焼き続け、なんとしてでも彼女を健康にしようとする。

「リリー様、部屋に篭ってばかりもいけませんから一緒にお庭をお散歩しましょう」

「はい、お義姉様」

「ほら、あんなところに蝶々が」

「あら、可愛いわ!」

「お散歩もいいものでしょう?今日から天気のいい日は一緒に散歩しましょうね」

「はい!」

私自身、お腹の子のためにもお散歩は大切なのでちょうどいい。

そうして過ごしていると、少しずつ彼女は元気になっていった。

旦那様はそれを大変に喜んだ。

「レミリア、君のおかげでリリーは毎日楽しそうですし、最近体調を崩さなくなりました。ありがとうございます」

「いえいえ」

「ところで最近、なにか変わりました?」

「え?」

「いえ、なんとなくそう思っただけなのですが…」

…私はお腹があまり大きくなっていない。

お腹の子は頑張っている様なのだが…だから子供を優先してとは医師にもう伝えてあるが、どうなるかは読めない。

それもあってまだ彼には、子供のことは知られていない。

お腹が大きくなっていないから。

「…お気になさらず」

「そう、ですか…」

今更言う気はない。

悩みを聞いてくれなかったのは、貴方だ。

私の相談より、彼女を優先したのは、貴方。

だからもう、私も貴方を頼らない。












そして出産間近。

彼女はもうすっかり元気になり、もうすぐ良い人に嫁ぐ。

私にしきりにお礼を言ってくれる可愛らしい彼女に、今更ながらなんとなくあのシスコンぶりにも納得した。

彼女は決して私の世話焼きを邪険にせず、いつもお礼を忘れない。

その可愛らしい笑顔を思えば、旦那様の気持ちも今ではわかる。

が。

「…お腹が、痛い」

「お、奥様!」

「生まれる、かも、」

「すぐに医師を呼びます!」

医師はすぐに駆けつけた。

何も知らせていなかった旦那様と義妹は、なんだなんだと目を回していたらしいが知らない。

私は命懸けで、子供を産んだ。

…結果。

「おぎゃー!おぎゃー!」

小さいけれど、元気な子が無事生まれてくれた。

「…僕の、子供?」

「そうですよ、旦那様。ほら、魔術回路を見れば貴方の子だと一目瞭然でしょう?」

「いやそれは疑っていませんよ。君の言うとおり一目瞭然ですし」

「ではなに?」

「なぜ言わなかった」

何故も何もお前のせいじゃい!

と言いたかったがその前に横槍が入った。

「お兄様のバカ!今は責めるのではなくお義姉様に感謝するのが先でしょう!?お義姉様、ごめんなさい。元気な甥っ子を産んでくださってありがとう!とても可愛い子だわ!」

「ふふ、ありがとうございます」

「…ああ、もう。母子共に無事で良かった…遅くなりましたが、元気な子をありがとう」

「…」

ツンと澄まして無視。

「…とりあえず、今はゆっくり休んでくださいね」

「…」

「…あとで話し合いもしましょう」

話し合い。

確かに、私も子供も助かったのだからこれからの話は必要だ。

子供を迎える準備は、密かに完璧に整えてあったけど…それは、私が居なくなった場合を想定したものだったし。












「…つまり、あの時の僕の失言が今に繋がると」

「そうですね」

「…すみませんでした」

話し合いは、彼が私の愚痴を聞くという形で進んだ。

彼は相当反省しているらしく、顔色が悪い。

とはいえ、ただで許すつもりはない。

「これからは」

「はい」

「私とこの子を優先してもらいますから」

「…はい!」

それからは生まれ変わった様に私とこの子を大切にするようになった旦那様。

まあ、妹が他所に嫁いだからというのもあるのだろうけど。

とりあえず大切にされているので、まだ様子見中。

もし次に蔑ろにされたら、この子を連れて実家に逃げるつもりだけど。

「…大切にし続けてくださいね、旦那様」

「もちろんです」

まあ、今は信じてあげましょう。

だから、裏切らないでくださいね。
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