異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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悪役令嬢に転生しましたが、私の影響で俺様系に育つはずの可愛い婚約者がラブリー系に育ってしまいました。可愛いのでヨシ!

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「ジゼルー、疲れたー」

「アダモったら。ほら、次の授業を頑張れば帰れるわ。もうひと頑張りよ」

「ジゼル、頑張れるように甘やかしてー」

「もう、仕方のない人。ほら、あっちのベンチで少しだけ膝枕してあげるからその後は頑張りなさい」

「わーい!」

この国の貴族の子女の通う学園。

そこでイチャイチャしているカップル。

ジゼル・フェリシエンヌ・アンセルム。

そしてアダモ・ダニエル・エヴァリスト。

学園でも一番の熱々カップルだ。

「ふふ、ジゼルの膝枕気持ちいい」

「アダモは本当にこれが好きね」

「だって、一番ジゼルの近くにいられるから」

「はいはい」

仲良く膝枕でイチャイチャする二人。

それを遠くから見て、呆然とする少女が一人。

「どうして悪役令嬢が、アダモ様に膝枕なんて…まさか、転生者!?原作改変なんて、許せない!」

ヒロインであるリルに転生した元日本人のその少女は歯軋りをする。

そう、この世界は乙女ゲーム【百合の花は咲き誇る】の世界…に、似せて作られた地球とはまた別の世界。

そしてリルの予想通り、ジゼルは悪役令嬢に転生した元日本人である。














まだ幼いある日、ジゼルはアダモとの婚約を親に告げられる。

そしてアダモとジゼルは初めての顔合わせをした。

その時にジゼルは頭を押さえて蹲った。

「…い、痛いっ」

「え、あ、君大丈夫!?」

「う、ぅううううう…思い、出した…」

「え?」

「…アダモ」

アダモを見たことで前世の記憶が蘇り、そのあまりの衝撃に頭痛が起こったのだ。

そしてジゼルは、前世の推しであるアダモに再び恋をした。

幼いアダモもまた、ジゼルの推しセンサーに引っかかったのである。

「可愛い…」

「え」

「アダモ、可愛い」

「え!?あ、そ、それより少し休ませなきゃ…ジゼル、あの、大丈夫?ベッドで休む?」

「ううん、もう頭痛は大丈夫。それより一緒に遊びましょう?」

幸いすぐに頭痛は治り、その後は心配してくれたアダモと仲良く過ごした。

そこからジゼルは、可愛い幼いアダモをとてもとても愛した。

アダモは可愛い系の見た目に反して俺様系というギャップ属性に育つはずなのだが、それまでの間は可愛がってもいいだろうとジゼルはひたすらにアダモを甘やかした。

「アダモ、あーん」

「あーん、ん、美味しい!」

「わたくしの手作りクッキー、お気に召したかしら?」

「すごく美味しいよ!ありがとう、ジゼル!」

「ふふ、アダモは本当に可愛いわね」

こうして甘やかして甘やかして甘やかした結果、俺様系に育つはずのアダモは見た目通りのラブリー系に育った。

アダモは幸い、本人の素質からか甘やかしてもハイスペックな部分は原作と変わらなかったが…ギャップ属性は完全に失われた、とジゼルは学園に通い出す頃ようやく気づいた。

しかし可愛いのでヨシ!と開き直ったジゼル。

そして現在に至る。













「ジゼル様」

「あら、確か特待生の…」

「リルです」

「何か御用かしら」

「アダモ様のことで…ちょっと」

その言葉でジゼルはリルが転生者だと察した。

リルとアダモは目に見えた関わりがないのに、そんな声かけを受けたからだ。

「…わかったわ。空き教室を少し拝借して、二人きりで話しましょう」

「はい」

そしてジゼルは、リルと共に空き教室に向かった。

空き教室に入り、ドアを閉めた瞬間リルが怒鳴った。

「あんた転生者よね!?どういうつもりよ!」

「どういうつもりって?」

「原作改変しすぎなのよ!あの甘い顔立ちで俺様系のアダモ様が大好きだったのに、なんで見た目通りのラブリー系になってんのよ!」

「いやぁ…あまりにも幼い頃のアダモが可愛すぎてつい甘やかしていたら…こうなっちゃった…というか…」

目を逸らして言い訳するジゼルに、リルは地団駄を踏む。

「なによ、つい甘やかしてたらって!俺様系のアダモ様を返して!あと幼い頃からアダモ様と一緒にいられたとか羨ましすぎ!」

「ですよねー」

「腹立つ!」

「でも俺様系のアダモが好きなら、今のアダモには興味ないの?」

「あるわよ!だってそもそもの見た目がめちゃくちゃ好みだもの!」

リルは地団駄をやめない。

ジゼルはその地団駄をみっともないなと思いつつも、気持ちはわかるのでそっと頷く。

「アダモのビジュ、良いわよね」

「ええ、最高よね」

そこだけ意見が一致する二人。

「ともかく!だからアダモ様はヒロインである私に返して!」

「返せと言われても、わたくし悪役令嬢だもの。いやよ」

「きーっ!!!」

「奇声を上げても返さないわよ。というか返すも何も、今はわたくしがアダモの婚約者だもの」

「このーっ!!!」

激しい怒りに任せ、ジゼルに手をあげようとするリル。

ジゼルは、まあヒロインから攻略対象…それも恐らく推しを奪ったのだからさもありなんと暴力を受け止めようとした。

しかし。

「ちょっと!君何してるの!」

そこにアダモ本人が現れてジゼルは事なきを得た。

「アダモ様っ」

「アダモ」

「ジゼル、怪我してない?大丈夫?」

「わたくしは平気よ」

「よかったぁ…」

半泣きになってジゼルの無事を喜ぶアダモ。

アダモはそのままジゼルを背に庇い、リルと対峙する。

「それでお前、どういうつもり?」

「え」

「俺の可愛いジゼルが怪我をしたらどうするつもりだったわけ?」

「いや、あの」

「土下座したって許さないから」

珍しくガチギレするアダモに、ジゼルもリルも大混乱。

ガチギレしたアダモの言動と雰囲気が本来の攻略対象としての俺様アダモに似ていたため、二人とも不覚にもときめいてしまう。

大混乱とときめきの間で、リルより先にジゼルが冷静になって言った。

「まあまあ、いいじゃない」

「え、でもジゼル…」

「わたくしは怒ってないの。だからこれでこの話はおしまい。行きましょう?」

ジゼルはアダモを連れ出した。

空き教室に一人残されたリルは、やっぱりアダモ様はカッコいいとときめきつつ焦る。

これはもしかして、惚れ直した瞬間嫌われたやつでは?

まさにその通りである。

後日アダモに会いに行ってそれを自覚したリルは、それ以降意気消沈して学園で恋愛ごっこをしようとは思わなくなった。

リルはその後他の攻略対象の貴公子に手を出すこともなく、学業だけに励み良い就職先を見つけて普通に卒業したのだとか。

ついでに言うと、リルはその就職先でイケメンの先輩と恋に落ちて幸せになったので後で思い返せばこれでよかったと思うことになる。

一方でジゼルとアダモは。

「ねえ、ジゼル」

「なに?」

「本当にあの子に制裁を与えなくていいの?」

「いいのよ、あれはわたくしにも原因があったの」

「むー、ジゼルがそう言うなら大人しくしとくけど…」

相変わらずお互いがお互いにゾッコンで、ラブラブカップルのままだ。

「それより、アダモ。貴方あんな風に怒れるのね」

「ジゼルのこと限定でね」

「ふふ、あらまあ。それは頼りになるわ」

「ふふん、ジゼルの幸せは俺が守るよ」

「なら、アダモの幸せはわたくしが守るわ」

ジゼルは気付いていない。

アダモの本質は原作改変をされても変わっていないということに。

こういう振る舞いをすればジゼルが甘やかしてくれるとわかっているから、アダモは敢えてジゼルに甘えたラブリー系男子として振る舞っているのだが…その後も俺様系として振る舞うことはなかったため、終ぞバレることはなかったらしい。
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