異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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オメガバースの世界にベータな悪役令嬢として異世界転生しましたが、運命の番に出会ったアルファな婚約者がやらかしました

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コランティーヌ・デルフィーヌ・エドウィージュ。七歳。エウローパ大陸のサルペドン帝国の筆頭公爵家の一人娘である彼女は、ちょっと変わっていた。

…前世の記憶があるのである。箪笥の角で頭を打って思い出した。

地球という世界の日本という島国で「女子高生」として生きていた彼女は、ある工事現場の近くを通った際に不運な事故に巻き込まれた。そして意識を取り戻した…かと思えば、何故かこの「乙女ゲーム」の世界で目が覚めた。

大好きな乙女ゲーム「運命の番と宿命の恋」の世界。オメガバースを取り入れた世界観の中繰り広げられる純愛物語の乙女ゲームだ。最初に攻略対象を選べて、その相手が『運命の番』となる。この世界における運命の番とは遺伝子的に惹かれあってしまうめちゃくちゃ相性の良い相手で、出会える確率は限りなく低い。

彼女はその世界の、王太子の弟である第二王子「フェリシアン・エドメ・サルペドン」の婚約者…つまりはフェリシアンルートを選ばれた際の悪役令嬢なのだ。ちなみにフェリシアンはアルファ、コランティーヌはベータ、ヒロインはオメガである。

「うふふ、わたくしったらなんて幸運!!!これで最推しであるフェリシアンを幼い頃から愛でられますわ!!!!!」

彼女はくふくふと笑い、喜びを隠さない。前世ではオタク全開だった彼女は、数いる推しの中でも最も愛おしいフェリシアンのそばにいられることをなによりの幸福と考えた。

例え、ヒロインがフェリシアンルートを選べば捨てられる運命だとしても。

コランティーヌの幸せは、フェリシアンそのものなのだ。

「ヒロインがフェリシアン様を選ぶなら、フェリシアン様の運命の番はヒロインということになる…その時には、運命の番であるヒロインには勝てない。それならば!全力で!幼いうちに愛でておくべきですわ!!!」

まだまだ幼いコランティーヌは、自分の欲望に素直だった。




















「フェリシアン殿下、ごきげんよう!」

「コランティーヌ、ごきげんよう。また来てくれて嬉しいよ。でもいいの?僕なんかにかまけて」

「え、それどういう意味ですの?」

「コランティーヌは神童で、将来の女公爵様なんでしょう?」

それは事実だ。

コランティーヌは前世の知識チートのおかげで神童と讃えられ、勉強はほぼほぼ免除されている。

そして公爵家の一人娘として、将来は爵位を継ぐ。

第二王子であるフェリシアンはあくまで婿入りに来る約束で、コランティーヌこそが女公爵となるのだ。

そしてフェリシアンは、それにひそかに劣等感を抱いていた。アルファとして生まれたにも関わらず、アルファである兄ばかりかベータである婚約者にも敵わないなんてと。

…コランティーヌは、それを知っている。

フェリシアンの持つ、自分への劣等感。そして、王太子への劣等感も。

だから、コランティーヌは………

「ええ、そうですわ。たしかにわたくしは神童と呼ばれるほど優秀で、将来公爵家を継ぐ跡取りです」

「…っ」

「ですから、フェリシアン殿下」

コランティーヌはフェリシアンの両頬にそっと手を添えて、目線を無理やり合わせる。

そして言った。

「フェリシアン殿下、ここで腐らず、ご自身を磨きなさいませ」

「え…」

「最初から『勝てない』と諦めるのは、フェリシアン殿下の悪い癖ですわ。諦めないでください。無理矢理にでも、たとえ誰かに笑われようと、自分を磨きなさいませ。その先に、『本当の』貴方様の魅力があるはずですわ」

「…っ!?え、あ、あの…君は僕を兄上の搾りカスとは思わないの…?努力しても無駄と言わないの…?」

「あら?わたくし一度でもそんなことを言ったかしら?」

わざとらしく小首を傾げてやれば、フェリシアンはぶんぶんと首を横に振る。

「君は…君だけは言わなかった!」

「でしょう?だってわたくし、フェリシアン殿下の才能を信じていますもの。貴方様は努力の天才ですわ。腐らず頑張れば、報われますのよ」

「…コランティーヌ!」

フェリシアンはコランティーヌを抱きしめる。

そして泣きじゃくった。

「こんな僕を、信じてくれてありがとう…っ」

「こんな、なんて言わないでくださいませ。わたくしの最愛の婚約者ですのよ」

「…っ、愛してる、コランティーヌ!」

「たまには愛称で呼んでくださいまし」

「ココ!僕のこともフェリスと呼んで!」

こうして退廃的な雰囲気のダウナーなチャラ男になるはずだったフェリシアンの運命は、書き換えられた。















「…ココ、聞いて!最近先生達に、勉強が身についてきたと、よく頑張りましたねと褒められることが増えたんだ!」

「まあ!さすがフェリス殿下ですわ!!!」

「特にあれだけ苦手だった魔術がすごく得意になってきたんだよ!ココのおかげだ!」

本来、乙女ゲームでは。

全てを諦めて退廃的な生き方をするフェリシアンが、ヒロインと出会いもう一度努力を始めると魔術の才能が開花する。

…のだが、今回はコランティーヌがそれを塗りつぶしてしまった。

既に幼少期から、魔術の才能を開花させたフェリシアン。

彼は心の底からコランティーヌに感謝して、自分に自信も取り戻し、そのことで兄王子との関係も良くなり、そして心の底からコランティーヌを愛することとなった。

ヒロインは他の攻略対象を選ぶのか、それとも…。






























そして時は過ぎ、コランティーヌ十八歳。

前世の記憶を取り戻したあの日から十一年の時が経ち…ヒロインとフェリシアンの出会いの日を迎えた。

コランティーヌはそれを受け入れる。

今日、ヒロインとフェリシアンが出会うのであればヒロインがフェリシアンルートを選んだということなのだから。

この世界線において、ヒロインとフェリシアンは運命の番なのだ。

それに自分…悪役令嬢コランティーヌはベータ。

フェリシアンとは婚約者だが、結婚はできても『番』にはなれないのだ。

勝ち目がない戦はしない。

それに、ヒロインとフェリシアンには幸せになって欲しい。

だから、貴族の子女の通うこの学園の中庭で。

出会った二人を、そっと見守ってから身を引くためにその場を離れた。

そして、校舎の裏でひっそりと泣いて泣いて泣き続けた。


















「…あ、あの!すみません!」

「なに?君誰?」

「あの、私、ガハリエ男爵家の娘のエレーヌと申します!エレーヌ・ロラ・ガハリエです!」

ヒロインエレーヌは、フェリシアンに話しかけて元気に挨拶をする。

それをフェリシアンは怪訝そうに見ていた。

「…それで、何の用?」

「あの、この芳しい香りでわかりますよね!私たち、運命の番なんです!」

嬉々とした表情でそう言い放つエレーヌを、フェリシアンは憎々しげに睨みつけた。

「いや、僕には愛する婚約者がいるから。無理」

「え、でも運命の番なんですよ!?」

「だからなに?僕には関係ない」

「え…」

呆然としてフェリシアンを見つめるエレーヌ。

そんなエレーヌになおもフェリシアンは冷たく接する。

「じゃ、さようなら。二度と僕に話しかけないでね」

「ま、待ってください!その婚約者の方はオメガなんですか?もう番になっちゃったんですか!?」

「…彼女はベータだ。結婚はできても番にはなれない」

「なら…っ」

なおのこと言い募るエレーヌに、フェリシアンは言った。

「アルファとオメガじゃないと番になれない。そんなの僕だってわかってる。目の前に運命の番がいるのがどれだけ奇跡的なことかも、分かってるんだ」

「じゃあなんでっ」

「でもね。僕はココを愛してる。唯一、僕の可能性を信じてくれた人なんだ。そして僕は魔術の才能が開花した。全部ココのおかげ。ココ以外なんていらない。ココだけを愛していたい。だから僕は番はいらない。勝手な運命なんて知ったこっちゃない。そんな運命があるなら殺してやる」

殺してやる、という物騒な発言にエレーヌは途端に震え上がる。

この人、どこかがおかしい。

「わかったら二度と僕に近づかないことだ。じゃあね」

「…あ」

もはやエレーヌに、やっと出会えた運命の番への憧れはなく。

ただただ、射殺すような視線が恐ろしくて堪らなかった。

踵を返してどこかに行く『運命の番』に心底ほっとして、へたり込んで震える体を抱きしめる。

まあ所謂、バッドエンドである。

…けれど余談だが、このあとエレーヌは『お助けキャラ』であるジルという庭師の少年と出会う。

本来攻略できないお助けキャラなのだが、庭師は世を忍ぶ仮の姿であり実は隣国ミノス皇国の第三皇子で、そのジル…ジルベール・セシル・ミノスと恋に落ちることになった。ちなみにジルもアルファである。

ということで、後々エレーヌはこのバッドエンドに感謝することになった。













その後愛しのコランティーヌを探して校舎裏まできたフェリシアン。

やっとコランティーヌの姿を見つけたが、そこには泣き崩れたコランティーヌがいた。

「コランティーヌ!こんなところでどうしたの?どうして泣いてるの!?言って、僕がココを泣かせた不届者を成敗してやるから!」

「ち、違うんです、フェリス殿下」

「違うって何が!?」

コランティーヌは焦る。

フェリシアンは普段はとても優しいが、コランティーヌに何かあるとすごくすごく怖くなるからだ。

「あの、その。たまたま!たまたまフェリス様が運命の番と出会ったところを見てしまって!」

「え」

「それでその…わたくし、」

「もしかしてそれでヤキモチを焼いて泣いてくれたの!?」

パッと表情を輝かせるフェリシアンに、コランティーヌは目を瞬かせる。

「え、あの」

「安心して!二度と僕に近づくなと言っておいたから」

「え!?運命の番ですよ!?」

「うん、でも僕の最愛はココだから」

フェリシアンはコランティーヌを優しく抱きしめる。

「だから間違っても、僕のそばから離れようとしちゃダメだよ。責任は取るし、愛人とかも作らないし、大事にする。だからこれからも、僕の婚約者でいてね」

「…っ」

コランティーヌはコクコクと何度も頷き、フェリシアンの胸の中で今度は嬉し涙を流す。

そんなコランティーヌのおでこに、フェリシアンは優しくキスをした。

そして泣き止むまでしばらく、二人で抱きしめ合いお互いがどれだけ大切か再認識した二人であった。
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