やっぱり貴族なんてのはクソだった。唯一の宝物を壊された平民は、彼等の真実を公にする。

下菊みこと

文字の大きさ
4 / 11

俺が侍従になってから

しおりを挟む
侍従になってからわかったことがある。ブランシュはわがままなところがある。

花瓶の花が気に入らなければすぐに別のものと交換する。まあそれは普通だとしても、それが日に五回も続けば十分わがままだろう。

自然が好きで、昆虫を良く捕まえては虫かごに入れて飼う。虫嫌いな奥様が捨ててこいといっても御構い無しである。大体数日後には飼い猫の餌食になってるが。

食べ物が好みでなければ絶対食べない。好みも気分によるのでシェフがどう頑張っても無駄。

紅茶を出されても、今日は熱々が飲みたい気分、今日はぬるめの気分と好き勝手を言い俺を困らせる。以前はメイドの仕事だったのだろう。可哀想に。

それでもブランシュは屋敷でとても愛される。何故なら、わがままを叶えてもらった後に必ず満面の笑みでありがとうを言うからだ。貴族が使用人に礼を言うなどあまりない。それもあの可愛いふわふわした笑顔付き。誰もブランシュを憎めなかった。

それに、ブランシュはわがままなくせに優しい。使用人たちが何か困っていれば父親に直談判しに行くし、使用人たちの実家の家族が病気になったと聞けば宝石を一つプレゼントして治療費に当てさせようとする。ブランシュはわがままで世間知らずだけど、その分無垢だった。

そんなブランシュはある時俺に言った。

「そういえば貴方お名前は?」

いや遅ぇーよと思ったが名無しだと正直に答えた。ちょっとだけ、恥ずかしかった。意味くらい、俺にだってわかる。

「それは名前ではないわ!私が考えてあげる」

ブランシュはどこまでも純粋だった。命名図鑑を図書室にわざわざ寄って引っ張り出してきたブランシュに俺は早々に白旗を揚げた。わがままブランシュに名無しの俺が叶いっこないのだ。

しばらくうーんうーん、と悩んでいたが、ピタリと止まった。

「リオネル!貴方は今日からリオネルよ!意味は小さなライオンですって!」

語感が気に入っただけなんだろうなー。でもまあ、目の前のブランシュがあまりにも嬉しそうだから、俺もつられて笑ったのだ。獣人の俺にはお似合いの名前だしな。

「リオネル!貴方は私だけの大切な人よ!ずっと側にいてね」

「もちろんです、ブランシュお嬢様」

たとえこの身が朽ちようと、ずっと側にいる。そう誓った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~

日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。  彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。  一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。

処理中です...