やっぱり貴族なんてのはクソだった。唯一の宝物を壊された平民は、彼等の真実を公にする。

下菊みこと

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治験後

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ブランシュは治験の後、物言わぬお人形さんになった。幸い死に至らなかったが、あまりの苦しみに廃人になったらしい。

そもそも今回の薬はそういう薬で、治験は大成功。ブランシュは伯爵家に帰れた。

でも、公爵家への多額の賠償金を払った伯爵家に当の本人ブランシュを守るような余力はなく。

「どうすればいい?どうすればブランシュを守れる?」

「どこか遠くに身を隠してあげたいけれど、お金がないどころか借金まみれの私達ではもう…」

「ブランシュ…ブランシュ…」

頭を抱えた当主様、悲しげに涙を流す奥様、何か策はないかと青ざめた顔で必死になって考えブランシュの名前を呼ぶ若様。俺は覚悟を決めた。

「俺がブランシュお嬢様を連れ出します」

「リオネル?」

「幼い頃ブランシュお嬢様が良く使用人たちを連れて泊まり込みで遊びに行った山奥にある立派な小屋。あそこなら誰もこないです。ブランシュお嬢様を守りつつ療養もできます」

「リオネル、貴方何を言ってるの?」

「ブランシュお嬢様を勘当して追い出したという体にして、療養させてあげてください。その方がブランシュお嬢様のためです。いつかお嬢様が正気に戻られた時、伯爵家が潰れていては元も子もない」

「それは…しかし…」

「俺という見張り役をつける、という体で。ブランシュお嬢様のお世話は任せてください」

「だが…」

「若様。今は、ブランシュの帰って来る場所を守ってください」

「…わかった」

俺という見張り役…という体でなんとか侍従だけは側に置かせて、廃人となったブランシュを追い出す。…というのも、振りだけだが。本当は療養のためである、という事実はもちろん伏せる。当主様も奥様も若様も、ブランシュを失うのは辛いみたいでずっと泣いていた。こっそりと手紙を寄越すように促され、頷く。

俺とブランシュの新居は、伯爵家の最後の情け…という体で与えられた山奥にある立派な小屋。二人暮しには充分な広さで、頑丈だ。生活に必要なものは一応一通り揃っている。周りには誰もいないし、静かに暮らせる。ブランシュの療養にはぴったりだ。元々自然の大好きなブランシュのことだ。案外、ひょっこり笑顔を見せて現実世界に戻ってきてくれるかもしれない。

そんな希望を持ちながら、俺は今日もブランシュの世話をする。一人ではなにも出来ないブランシュに、無理矢理食事をとらせて、粗相を片付け、風呂に入れる。家事もこなさないといけないし、寝付かせないといけないのでこれだけでも結構な重労働だが、深夜まで時間を削ってある作業に集中する。

呪いだ。俺たち獣人は、白魔術か黒魔術を親から継承できる。これは獣人だけが知るシークレット中のシークレットだ。俺は父だった人から白魔術を、母だった人から黒魔術を選んで継承した。継承できるのは親が死んだ時だったりするが、元々捨て子の俺にはどうでもいい。

白魔術でブランシュを少しでもケアして、黒魔術でモーリス、ブリジット、ナゼールを呪っておく。といっても、相手は聖女候補とその周りの男達。些細な変化も気取られないように、注意して隠蔽しながら掛け続ける必要がある。発動まで一年は掛かるだろう。ブランシュへの白魔術は何も考えずに魔力の半分全部ぶっ放せるから楽なんだけどな。まあ、ブランシュだもんな。

そんなことを考えてブランシュの頬を撫でる。ブランシュは昔のように微笑んでくれない。無性に虚しくなった。
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