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妖精王は孫を悲しませたものを許さない
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「その娘を追い出しなさい。さすれば村はもっと栄えるでしょう」
そう言われた少女アンナは村で一番妖精達と仲が良く、彼女のおかげで村は妖精の加護を受けていると言っても過言ではなかった。だから、村人達は豊穣の巫女様の言葉に驚いたが。
「豊穣の巫女様が言うんなら仕方ねぇべな」
「アンナ、出てってくれっけ?」
豊穣の巫女様の言葉に従うことにした。
「…はい。みんな、お世話になったっぺよ」
村の近くに捨てられていた孤児だったのに、村人達の情でみんなに育ててもらったアンナは異議は申し立てなかった。
豊穣の巫女、リリスはほくそ笑んだ。リリスはアンナが邪魔だったのだ。豊穣の巫女である自分に従うはずの妖精達が何故か、アンナにばかり懐くから。これでは豊穣の巫女になった意味がない。
「ほんなら、またどこかで。今までありがとなぁ」
「…元気でなぁ」
「すまんなぁ…」
アンナは、なんの文句も言わず笑顔で村を立ち去った。村人達はそれに悲しげな雰囲気を感じ取り、罪悪感に俯く。
妖精達は、その背中を見送りながらコソコソと話をしていた。その中のひとりの妖精は、豊穣の巫女に見つからないよう村を出て森へ飛んだ。
アンナは、特に行くあてはない。手持ちの荷物もない。お金もない。食べ物もない。しかし、行くべき場所は知っていた。妖精達から聞いた、自分の出生の秘密。…妖精王セレスタンの末の子、人間と駆け落ちしたドリアーヌ姫の一人娘アントワネット。それがアンナだ。
「おら、本当に妖精國で受け入れてもらえるべか?」
不安はあるが、行き先などそこしかなく。村を出てすぐの森に入って行く。そこから先は、妖精の領域だった。
「ドリアーヌ様が帰ってきた!」
「違うよ、人間の血が入ってる。きっとアントワネット様だ!」
「アントワネット様、アントワネット様!」
妖精達がアンナを囲む。アンナは受け入れられたことにホッとしつつ、妖精達に言う。
「おらの名前、なげーべ。アンナでええよ」
「アンナ様!」
「アンナ様!」
妖精達は嬉しそうに飛び回る。
「おら、人間の血が入ってるけんどもここにいていいけ?」
「本来ならダメだよ」
「妖精王様!」
「あ…」
初めて見る祖父。人型の妖精。妖精達の王。
「けれど、可愛い孫が困っているんだもの。助けないわけにいかないだろう?」
「あ、えっと…」
「お爺ちゃん、と呼んでほしいな。可愛いアンナ」
「うっ…うぅ…爺ちゃーんっ!」
爺ちゃんと呼ぶにはあまりに年若く見える妖精王。けれどアンナは、その安心感に涙して抱きついた。勢いのいいアンナのタックルにも怯まずがっしり受け止めたセレスタン。
「いやー、村の妖精達が定期的にアンナの様子を報告してくれていて助かった。さっきもひとりの妖精が豊穣の巫女に見つからないようこっそり村を抜けて報告に来てくれてね。可哀想に、人間達に今まで散々協力してやっていたのに追い出されるなんて」
優しく孫の頭を撫でるセレスタン。泣いているアンナには見えないが、セレスタンの瞳には怒りが宿っていた。
「強力な魔力を扱う豊穣の巫女に妖精が従うものだと勘違いしている小娘には、本来豊穣の巫女が妖精に魔力を捧げて助けてもらっているという立場だと思い出させないとね」
アンナは顔を上げる。
「…爺ちゃん、怒ってんのけ?おら、やっぱり邪魔け?」
「まさか!アンナが邪魔なわけないじゃないか!ああ、でも、アンナ。君は二つに一つを選ばないといけないんだ」
「ん?」
セレスタンはアンナに優しく言い聞かせる。
「一つ。妖精姫としての力を完全にこの妖精國に返し、その見返りに金銀財宝を得てこの妖精國を出て行く」
アンナは目をぱちくりとする。
「二つ。人としての命を引き換えに妖精姫として覚醒し、この妖精國で僕の孫として永劫に続く幸せを享受する。僕としては、二つ目がおすすめ。君は汚らわしい人間の血を捨てられるし、僕は孫とずっと一緒にいたいんだ。息子達は自立してしまって別の領域に自分たちの領地を探しに行ったし、女の子はドリアーヌだけだったし」
アンナは頷く。
「おら、二つ目がいい。爺ちゃんと一緒にいてぇ」
セレスタンは喜ぶ。
「なら、決まりだね!アンナは妖精姫…ひいては未来の僕の後継、妖精女王の候補として大切にしなければ!ああ、でも人としての命を終わらせるのは人として生きてきたアンナには怖いだろう…しばらく寝ていてごらん。起きたら、君は人の血と肉を捨てた完全な妖精姫だ。でも、魂は変わらないから安心おし。君の魂は元々妖精よりだからね」
「そうかあ…おら、死ぬのこえぇから寝てるだよー…でも…おら…爺ちゃんと一緒の妖精…に…なれて…嬉しい…」
「おやすみ、アンナ。今人としての身体を殺してあげるね。そうしたら君の魂は、自由になるからね」
アンナが完全に寝入ると、セレスタンが何処からか持ってきた大きな剣を振る。容赦ない一撃にアンナの首が飛んだ。一面に血が飛び散る。すると次の瞬間には、あれだけ派手に散ったアンナの血液を含めた身体全てが瞬時に土に還った。そしてアンナの魂だけが取り残された。いや、自由になった。
「さあ、妖精姫として覚醒しようか。僕の涙を一雫受け取って。これは魔力の塊だからね」
アンナの魂にセレスタンの涙が滴り落ちる。すると光がアンナの魂から溢れて、やがてアンナは妖精姫として覚醒した。妖精としての肉体を手に入れたアンナ。人間だった頃から美人ではあったが、今では段違いに美しい。
「まだ、眠っているね。なら、今のうちにアンナの妖精姫としての覚醒をお祝いするお祭りの準備をしなくちゃ。お前たち、アンナのためだ。頼むよ」
「わーいわーい!」
「姫さまのため!姫さまのため!」
妖精達はわいわいとお祭りの準備をする。
セレスタンは…。
「僕はアンナが目覚める前に、ちょっとだけ出掛けてくるよ」
可愛い孫の、人間時代の敵の仇討ちに乗り出した。
仇討ちといっても、何をするわけでもない。ただ、妖精らしいことをする。
悪戯だ。
妖精王の力で、悪戯程度に、呪いを生み出し村にばら撒く。
その姿を見た者たちは自分たちの過ちを知る。
豊穣の巫女なんて制度、あってはいけなかった。
よりにもよって妖精國の近くで、妖精を操ろうとしてはいけなかった。
妖精王に見つかってはいけなかった。
まあ、本当はその程度の傲慢はムカつくけれど許してあげてもいいと見逃されていたのだけど。
本当の罪は、妖精姫の娘を悲しませて追い出したことだけど。
村は、一夜にして崩壊した。特に豊穣の巫女は、それは無残な姿で発見された。
「いやー、おら、こんな歓迎されてええがかね?」
「当たり前じゃないか!僕の自慢の孫だもの!いやー、まさかここまで妖精女王の素質があるとは!さすが僕の孫!」
アンナはセレスタンの魔力を受けたため、妖精姫としても破格の資質を開花させていた。これにはセレスタンもニッコリである。…と言っても、実はセレスタンの予想通りなのだが。孫可愛さというやつである。
「まあ、いつかはアンナにふさわしい妖精も現れるだろう。妖精の国はなにも妖精國だけではないし、他の領域からいくらでもお婿さん候補は来るからさ。アンナは今はお爺ちゃんと仲良く妖精國を満喫しようね?」
アンナが混じりっ気なしの妖精姫になったことで格段に可愛くなったセレスタンは甘々に甘やかしている。アンナはそれがくすぐったいけど心地がいい。
「爺ちゃん、おら、妖精國が一晩で大好きになっただよー。爺ちゃんとずっと妖精國にいっぺ」
「ウチの子可愛い!」
そんなこんなでお爺ちゃんはいつまでも孫にベタベタであった。
そう言われた少女アンナは村で一番妖精達と仲が良く、彼女のおかげで村は妖精の加護を受けていると言っても過言ではなかった。だから、村人達は豊穣の巫女様の言葉に驚いたが。
「豊穣の巫女様が言うんなら仕方ねぇべな」
「アンナ、出てってくれっけ?」
豊穣の巫女様の言葉に従うことにした。
「…はい。みんな、お世話になったっぺよ」
村の近くに捨てられていた孤児だったのに、村人達の情でみんなに育ててもらったアンナは異議は申し立てなかった。
豊穣の巫女、リリスはほくそ笑んだ。リリスはアンナが邪魔だったのだ。豊穣の巫女である自分に従うはずの妖精達が何故か、アンナにばかり懐くから。これでは豊穣の巫女になった意味がない。
「ほんなら、またどこかで。今までありがとなぁ」
「…元気でなぁ」
「すまんなぁ…」
アンナは、なんの文句も言わず笑顔で村を立ち去った。村人達はそれに悲しげな雰囲気を感じ取り、罪悪感に俯く。
妖精達は、その背中を見送りながらコソコソと話をしていた。その中のひとりの妖精は、豊穣の巫女に見つからないよう村を出て森へ飛んだ。
アンナは、特に行くあてはない。手持ちの荷物もない。お金もない。食べ物もない。しかし、行くべき場所は知っていた。妖精達から聞いた、自分の出生の秘密。…妖精王セレスタンの末の子、人間と駆け落ちしたドリアーヌ姫の一人娘アントワネット。それがアンナだ。
「おら、本当に妖精國で受け入れてもらえるべか?」
不安はあるが、行き先などそこしかなく。村を出てすぐの森に入って行く。そこから先は、妖精の領域だった。
「ドリアーヌ様が帰ってきた!」
「違うよ、人間の血が入ってる。きっとアントワネット様だ!」
「アントワネット様、アントワネット様!」
妖精達がアンナを囲む。アンナは受け入れられたことにホッとしつつ、妖精達に言う。
「おらの名前、なげーべ。アンナでええよ」
「アンナ様!」
「アンナ様!」
妖精達は嬉しそうに飛び回る。
「おら、人間の血が入ってるけんどもここにいていいけ?」
「本来ならダメだよ」
「妖精王様!」
「あ…」
初めて見る祖父。人型の妖精。妖精達の王。
「けれど、可愛い孫が困っているんだもの。助けないわけにいかないだろう?」
「あ、えっと…」
「お爺ちゃん、と呼んでほしいな。可愛いアンナ」
「うっ…うぅ…爺ちゃーんっ!」
爺ちゃんと呼ぶにはあまりに年若く見える妖精王。けれどアンナは、その安心感に涙して抱きついた。勢いのいいアンナのタックルにも怯まずがっしり受け止めたセレスタン。
「いやー、村の妖精達が定期的にアンナの様子を報告してくれていて助かった。さっきもひとりの妖精が豊穣の巫女に見つからないようこっそり村を抜けて報告に来てくれてね。可哀想に、人間達に今まで散々協力してやっていたのに追い出されるなんて」
優しく孫の頭を撫でるセレスタン。泣いているアンナには見えないが、セレスタンの瞳には怒りが宿っていた。
「強力な魔力を扱う豊穣の巫女に妖精が従うものだと勘違いしている小娘には、本来豊穣の巫女が妖精に魔力を捧げて助けてもらっているという立場だと思い出させないとね」
アンナは顔を上げる。
「…爺ちゃん、怒ってんのけ?おら、やっぱり邪魔け?」
「まさか!アンナが邪魔なわけないじゃないか!ああ、でも、アンナ。君は二つに一つを選ばないといけないんだ」
「ん?」
セレスタンはアンナに優しく言い聞かせる。
「一つ。妖精姫としての力を完全にこの妖精國に返し、その見返りに金銀財宝を得てこの妖精國を出て行く」
アンナは目をぱちくりとする。
「二つ。人としての命を引き換えに妖精姫として覚醒し、この妖精國で僕の孫として永劫に続く幸せを享受する。僕としては、二つ目がおすすめ。君は汚らわしい人間の血を捨てられるし、僕は孫とずっと一緒にいたいんだ。息子達は自立してしまって別の領域に自分たちの領地を探しに行ったし、女の子はドリアーヌだけだったし」
アンナは頷く。
「おら、二つ目がいい。爺ちゃんと一緒にいてぇ」
セレスタンは喜ぶ。
「なら、決まりだね!アンナは妖精姫…ひいては未来の僕の後継、妖精女王の候補として大切にしなければ!ああ、でも人としての命を終わらせるのは人として生きてきたアンナには怖いだろう…しばらく寝ていてごらん。起きたら、君は人の血と肉を捨てた完全な妖精姫だ。でも、魂は変わらないから安心おし。君の魂は元々妖精よりだからね」
「そうかあ…おら、死ぬのこえぇから寝てるだよー…でも…おら…爺ちゃんと一緒の妖精…に…なれて…嬉しい…」
「おやすみ、アンナ。今人としての身体を殺してあげるね。そうしたら君の魂は、自由になるからね」
アンナが完全に寝入ると、セレスタンが何処からか持ってきた大きな剣を振る。容赦ない一撃にアンナの首が飛んだ。一面に血が飛び散る。すると次の瞬間には、あれだけ派手に散ったアンナの血液を含めた身体全てが瞬時に土に還った。そしてアンナの魂だけが取り残された。いや、自由になった。
「さあ、妖精姫として覚醒しようか。僕の涙を一雫受け取って。これは魔力の塊だからね」
アンナの魂にセレスタンの涙が滴り落ちる。すると光がアンナの魂から溢れて、やがてアンナは妖精姫として覚醒した。妖精としての肉体を手に入れたアンナ。人間だった頃から美人ではあったが、今では段違いに美しい。
「まだ、眠っているね。なら、今のうちにアンナの妖精姫としての覚醒をお祝いするお祭りの準備をしなくちゃ。お前たち、アンナのためだ。頼むよ」
「わーいわーい!」
「姫さまのため!姫さまのため!」
妖精達はわいわいとお祭りの準備をする。
セレスタンは…。
「僕はアンナが目覚める前に、ちょっとだけ出掛けてくるよ」
可愛い孫の、人間時代の敵の仇討ちに乗り出した。
仇討ちといっても、何をするわけでもない。ただ、妖精らしいことをする。
悪戯だ。
妖精王の力で、悪戯程度に、呪いを生み出し村にばら撒く。
その姿を見た者たちは自分たちの過ちを知る。
豊穣の巫女なんて制度、あってはいけなかった。
よりにもよって妖精國の近くで、妖精を操ろうとしてはいけなかった。
妖精王に見つかってはいけなかった。
まあ、本当はその程度の傲慢はムカつくけれど許してあげてもいいと見逃されていたのだけど。
本当の罪は、妖精姫の娘を悲しませて追い出したことだけど。
村は、一夜にして崩壊した。特に豊穣の巫女は、それは無残な姿で発見された。
「いやー、おら、こんな歓迎されてええがかね?」
「当たり前じゃないか!僕の自慢の孫だもの!いやー、まさかここまで妖精女王の素質があるとは!さすが僕の孫!」
アンナはセレスタンの魔力を受けたため、妖精姫としても破格の資質を開花させていた。これにはセレスタンもニッコリである。…と言っても、実はセレスタンの予想通りなのだが。孫可愛さというやつである。
「まあ、いつかはアンナにふさわしい妖精も現れるだろう。妖精の国はなにも妖精國だけではないし、他の領域からいくらでもお婿さん候補は来るからさ。アンナは今はお爺ちゃんと仲良く妖精國を満喫しようね?」
アンナが混じりっ気なしの妖精姫になったことで格段に可愛くなったセレスタンは甘々に甘やかしている。アンナはそれがくすぐったいけど心地がいい。
「爺ちゃん、おら、妖精國が一晩で大好きになっただよー。爺ちゃんとずっと妖精國にいっぺ」
「ウチの子可愛い!」
そんなこんなでお爺ちゃんはいつまでも孫にベタベタであった。
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姫になっても田舎弁丸出しなのがなんか可愛いですね
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感想ありがとうございます。可愛い子ですよね!続き…書いてみたいですね!