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見た目も大事だけど、中身だってとても大事

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お姉様は、正直言ってとてもモテる。人誑しの才能がある。それは、異性に限らず同性に対してもそう。

なのに。

「僕の可愛い一番星。僕は君以外何もいらない」

そのお姉様に想いを寄せられる私の婚約者は、何故かお姉様の誘惑に靡かない。










「ヴィヴィアンヌはヴィクトリア様の双子の妹なのに、なんでそんなに似てないのかしらね」

「見た目は一緒のはずなのに、なんでかパッとしないのよね」

「ドレスだっていつも色違いの同じデザインなのにね」

みんな口々にそう言う。そんなの私が一番わかってる。

「そんなはるか高みにいるお姉様と、色違いの同じデザインの服を押し付けられる私の気持ちわかる?」

「…地獄だわ」

「でしょ?もう人生諦めたわ」

「早い早い早い。まだ私たち十八歳よ?」

「その十八歳にして完成されているお姉様を見てみなさいよ…」

そう言って肩を落とす私に、みんな励ましの言葉をくれる。

「…見た目は貴女も最高よ!中身を磨けばいいじゃない!」

「もうすり減るほど磨いたつもりなんだけどな」

「…今何を言っても無駄ね。負のオーラしか出てない。でもその気持ち、少しくらいは分かるわ。あまりにもモテる姉のそばにいると、引き立て役みたいで嫌よね」

「まさにそれ!!!」

もう泣きそう。

「まあ、ほら。いつか素敵な人が見つかるわよ」

「もう見つけてますー。叶わないだけで」

「またロマン様の話ー?」

「そう!ロマン様は素敵な殿方なのよ!」

私がそこまで言うと、何故かみんなが私の後ろを見て固まった。私は小首を傾げる。

「へえ、どこが?」

「え、どこがって何度も言ってる通り中身よ」

「中身?見た目とか爵位とかじゃなくて?」

「そんなの、たしかに重要といえば重要だけどロマン様を構成する要素の一つでしかないわ!それよりロマン様は中身が可愛いのよ!」

「可愛い」

後ろから話しかけてくるのは、どうせ冷やかしの男子だろうと振り向きもせず話す。百戦錬磨のお姉様と同じ顔で、叶わぬ恋を語るのを見られるのはさすがに恥ずかしい。

「だってね、ロマン様ったら普段すごく王子様キャラなのに、人目がないとダウナーな感じになるのよ!」

「待って何で知ってるの」

「そりゃもうストーカーレベルで見つめていたからよ!」

「それストーカーレベルじゃなくてストーカーだから」

呆れた声に少し不貞腐れる。

「だって好きなんだもん」

「好きは免罪符じゃないからね?」

「でね、そのくせ捨て猫とか捨て犬とかを見捨てられなくて必ず連れて帰っちゃうの。保護猫と保護犬の里親募集、私も一匹引き取らせていただいたわ。今じゃ我が家のアイドルよ」

「へえ、じゃああのブサイクな犬幸せにやってるんだ」

「世界一幸せな犬かもしれないわ。あとあの子はブサイクなんじゃなくてクチャっとした顔が可愛いのよ」

声はしばらく押し黙って、再び質問してきた。

「他に好きなところあるの」

「意外と器が小さいところ!」

「は?」

「だって、だってね?嫌いになった相手にちまちま仕返しするの可愛くない?公爵様の一人息子なのだから相手を潰そうと思えば大抵幾らでも手段はあるのに、蛇のおもちゃで脅かしたり、購買で相手のお気に入りのお弁当を買い占めるだけなのよ?器小さくない?可愛くない?」

「ねえそれ褒めてる?貶してるよね」

「だってそういうダメなところも含めて好きなの!」

私がそう叫べば、後ろの彼は何故か息を飲む。そして言った。

「相手もフリーだよね?告白しないの?」

「しないしない!だっていつだって愛されるのは私ではなくお姉様だもの!」

「ヴィヴィアンヌ嬢」

後ろの彼は私の正面に躍り出る。その彼は…。

「…え、ロマン様?」

「僕の婚約者になってくださいませんか」

とんでもないことになった。













「いやー、まさかヴィヴィアンヌがヴィクトリアより先に婚約者を見つけるとは」

「驚いたわねぇ、旦那様」

「あはは…」

うちの親はなんというか、野心がない。野心がないというか、一応侯爵位を賜っていて広大な領地もあり、それ以上を求めていない。

そして子供のことは基本放任主義だ。これで貴族をやれているのだからすごい。

「ヴィヴィアンヌ、幸せになるのよ」

「ヴィヴィアンヌが公爵家に嫁ぐなら、ヴィクトリアには婿を取ってもらわないとな」

お姉様は、いつもはお喋りなのに珍しく黙り込む。

「お姉様?」

「ねえ、ヴィヴィアンヌ。私にロマン様を譲ってくれない?」

「え?」

「こら、ヴィクトリア。その冗談は笑えないぞ」

「冗談じゃないわ」

お姉様は真剣な表情で言う。

「だって、ロマン様のような高スペックな男にはヴィヴィアンヌなんかより、私の方が似合うでしょう?」

さも当然かのようなその言葉に、私は固まり両親は頭を抱えた。

「放任主義が仇となったか…」

「自由にさせ過ぎたわ…人としてダメな子に育つなんて…」

それから私は平穏な日々とおさらばすることになる。










「僕の可愛い人。一緒にお昼でもどうかな?」

「は、はい。ありがとうございます、ロマン様」

ロマン様に誘われて、学園の庭にある東屋でゆっくりお昼…と思うと、必ずお姉様もやってくる。

「ロマン様!そんな出来損ないより私とご一緒しましょう?」

「悪いけど僕は君に興味はないから。しっしっ」

本当に嫌そうな顔であっち行けとお姉様を追い返すロマン様。こっそり控えていたロマン様の執事に強制退場させられるお姉様。

「あの。ロマン様はお姉様じゃなくていいんですか?もし婚約者を取り替えたいなら…」

「あんな女よりヴィヴィの方が可愛い。僕の一番星、今更逃がさないよ」

「逃げる気はありませんけど…」

「それは良かった。逃げるなら無理矢理捕まえてしまうから、気をつけて」

「ええ?」

他にも、ロマン様と二人で歩いていると途中で無理矢理迫ってきてロマン様に豊満な胸を押し当てようとしては追い払われたりと、お姉様は失敗続き。そして、そんなお姉様の奇行は段々と学園で有名になる。お姉様の扱いは学園のマドンナから「妹の婚約者を誘惑する痴女」という扱いになった。そんなお姉様の周りからは、異性も同性も離れていく。それに焦ったお姉様はますます必死になる。

「ヴィヴィアンヌ。貴女私の邪魔をしないでよ!」

「いや、そうは言われても…」

当のロマン様は私を選んでくださるのだから仕方がない。

「貴女みたいな格下が私を出し抜いて幸せになるなんて絶対許さないわ」

お姉様は天真爛漫な天使のようで、それが人気の理由だったけど。案外、天使様ではなくちゃんとした人間だったらしい。












「ねえ、僕の可愛いヴィヴィ。いい加減あの女目障りだから、他の男を紹介してもいい?」

「え、いいですけど」

「ということで、サロモン。そろそろ僕の将来の義姉上が来られるから、相手してあげてよ」

「オッケー!」

サロモン様。たしかロマン様の従兄。かなりの美丈夫だが、色々危ない噂のある方。なんでも、女の子を誘惑して魅了してはお金を巻き上げるとかなんとか。本当かどうかは知らないけれど。そのサロモン様は、私達の間に入ろうとしたお姉様を言葉巧みに誘いどこかへ行った。

「えっと…大丈夫なんでしょうか…?」

「噂ほど酷い男じゃないから大丈夫。義姉上の婿になるなら、ちゃんと侯爵家のために働くだけの甲斐性もあるよ。仮にもヴィヴィの家族のことだし、そこは保証する」

ということなので、とりあえず様子見することになった。











結果的に、何もかもが上手くいった。サロモン様はうちの両親に気に入られ、爵位の継承にも異論はなくむしろ意欲的。お姉様もいつのまにかサロモン様にメロメロで幸せそう。サロモン様も、お姉様を気に入っているようで笑顔で過ごしている。お姉様の評判はガタ落ちのままなのが痛いけど。

私は私で大好きなロマン様と好きなだけイチャイチャ出来るので毎日が幸せ。まさかこんなに幸せな毎日を過ごすなんて、昔の私では考えられなかった。

ロマン様はお姉様の誘惑にも負けない強い人だともわかって、私としてもますますロマン様にメロメロだ。そしてロマン様は何故かこんな私を愛してくださる。この幸せはずっと続くのだろうと、何故か確信している私がいる。

「ロマン様」

「なあに?可愛いヴィヴィ」

「ずっとお側にいさせてくださいね」

「もちろんだよ。死んでも離さない」

お姉様と双子に生まれたことを呪った日もあるけれど、お姉様と双子で良かったかもしれない。
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