デス・アイランド

汐川ヒロマサ

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 コカ島に着いた。
 船を止められそうな堤防は無く、浅瀬まで船で行ってもらいそこで降りた。
 船に最後まで残っていた卓也は、何かを思い出したように運転席の方へ行き、
 「お兄さんありがとう。また夕方に来てもらえますか?」
 卓也がそう言うと、男性は何も言わず頷いた。そして卓也が降りてすぐに去っていった。
 「帰りも来てくれるってさ。夕方にお願いしといた」
 そして一同は砂浜にままで歩いた。
「写真で見るよりぜんぜんきれいじゃん」
 由紀のテンションが上がる。
 「ほんとだー。綺麗」
 続いて京子も声を上げた。
 テンションの上がっている二人を見て運動着の半そで半ズボンにナイキのスリッパを履いた明が、
 「まずはペンション?山小屋?どっちでもいいけどそこに行かないと」
 はーい、と気分が少し下がったように京子と由紀口をそろえて返事をした。
 メールによれば、山の頂上にあるらしい。
 コカ島には大きな山が一つだけあり、その山が島の九割を占めていた。
 砂浜から茂みを見渡すと、山への入り口のような少し開けた山道があった。
 明たちはここをコカ山と呼ぶことにした。
 コカ山の登山道は、幾人もの登山者たちに踏みしめられたようなまっとうな道ではなかった。
 昨日の晩に雨が降ったのか、少しぬかるんでおり、じめっとした空気が漂っている。
 六人は心もとない山道を急いだ。
 田中明を先頭に、蓮と卓也、京子と由紀が並んで続き、しんがりは史帆が務めた。
 史帆は自分の前を歩く五人を見つめながら、四月のことを思い出した。
 三年生になってすぐの出来事だった。
 ある日の夜、クラスのグループラインに一つのラインが送られてきた。
 動画の内容は、京吾が試合前、ロッカールームである薬を飲んでいるところを撮影され、その薬がアップされると、飲んでいた薬はドーピングの薬。という内容だった。
 送ったのは、卓也だった。
 次の日、学校で京吾は明に問い詰めた。
 「昨日の動画、どういうつもりだよ」
 卓也は席から立ち上がり、
 「お前、ドーピングしていたんだな。そりゃエースになれるよな。頑張っても二番手の明が可哀そうだ」
 と半笑いで言っが目は笑っていなかった。
 「違う、あれはビタミン剤を飲んでいたんだ。ラベルが加工されていただけなんだ」
 すると明が登校してきて、京吾に気付くと、
 「最低だな。ドーピングでエースナンバーもらって嬉しいか?」
 明は呆れた顔でそう言った。
 「違うんだ、あれは……」
 京吾は周りの視線に気づき、教室を見渡した。
 ――ドーピングしてたんだってよ。
 ――最低。ありえない。
 クラスのあちらこちらで昨日の動画を見たクラスメイトが京吾を見ながら罵詈雑言を吐いていた。
 その日から、誰も京吾とは目も合わせようとせず、次の日京吾が登校すると机がぼろぼろにされていた。彫刻刀で大きく『死ね』と彫られ、そばには油性マジックで悪口が数えきれないほど書かれていた。
 京吾がドーピングをした噂は野球部の顧問の耳にも入り、京吾はエースを降格させられた。
 次第に京吾は練習に行かなくなり、五月一日の夕方、野球部の部室で首をつって死んでいるのを練習のため着替えに来た部員に発見された。
 史帆はみんなが京吾を無視する中で、唯一声をかけて家庭科の実習などペアでやらないといけない授業の時に一緒に組んだりした。
 それでも、「俺といるとみんなから嫌われるぞ。もう構うな」と言われ、その後は何も出来なかった。
 今でもクラスメイト、特にこの五人が楽しそうにしているところを見ると、腹が立つ。
 ちっ、と舌打ちをした。それが意外にも大きかったのか、前にいた京子がちらりと振り返った。その目はかすかに驚いていた。
 「どうしたの?」
 「ううん。蚊が耳元でうるさかったからイラついただけ」
 「史帆って意外と短気なんだね」
 と言って京子は前を向いた。
 この人たちと関わるのは今日で最後にしよう。そう心の中で呟いた。
 史帆は肩をすくめて身震いをした。
 少し風が出てきた。奥へと進むと入り口付近で感じたじめっぽさは多少残るが、わずかに肌寒くもなってきた。史帆は白色の半そでのシャツに黒のスキニーという軽装だった。背中のリュックには上着が入っているが、まだまだ歩きそうで、暑くなるもしれないので着るのをやめた。
 六人は、山を登るとは思ってもいなかったのでおよそ山を登るにはふさわしくない格好をしていた。
 先頭の明が立ち止まり、北の空を指さした。
 「見ろよ、少し曇って来た。雨降るかもな」
 卓也が眉間に皺を作った。
 「本当だ。到着するまでに降らなきゃいいけど」
 「海で遊びたかったのにー」
 由紀が残念そうに声を上げた。
 明がスマホを見ながら言った。
 「って、圏外じゃねえか。この島電波入んないのかよ」
 「いや、浜辺にいたときは電波入っていたよ。何かあれば下山すればいい」
 その言葉に一同がほっとした。
 それからしばらく歩いても建物らしきものは見えてこない。
 「道に迷ったのかな」
 「怖いこと言わないでよ」
 明の言葉に京子は少しおびえた顔で言い返した。
 再び空を見上げた。向かいの空一面んが灰色に染まってきた。
 「ペースを上げよう」
 明がそう言って歩くスピードを上げた。
 卓也と蓮がそれに続き、京子と由紀、史帆も後を追った。
 コカ山の山道は緩やかに曲がりくねっており、先を見ても木々が鬱蒼としているだけで永遠に終わらない歩行をしている気分になった。
 さっきまで肌寒かった風も、今は吹き止み今度は体のあちこちから汗が噴き出てきた。
 やがて小さな橋が見えてきた。長さは十メートルほどで下を覗くと、谷になっていた。六人はなるべく下を見ないようにして橋を渡り切った。
 そこから五分ほど歩くと、ようやく建物が見えてきた。
 それは、船で由紀が言っていたように、ペンションというよりは山小屋といった方がイメージしやすい建物だった。
 明の「やっとだ」という声に続いて、蓮や卓也、京子、由紀も「疲れた」とか「遠すぎ」などとぼやいた。
 「京吾ぉー。なんでこんなとこに呼び出したんだー」
 明だった。その声は森中に広がったが、やまびこのように帰ってくることはなかった。
 皆疲れているのか、明の声に反応する人はいなかった。
 そもそも、京吾が呼び出したわけがない。もう死んでいるんだから。そう心の中で呟きながらリュックからタオルを取り出し、額の汗を拭った。
 小屋の前まで来て、蓮がスマホを見た。朝七時にこの島に着いたのに時刻はもう十時になっていた。この道を帰りも歩かないといけないと思うと気が滅入りそうだった。
 小屋の周りは切り開かれた平地になっていて、広場の中にポツンと二階建ての山小屋のような建物が建っていた。
 「これは山小屋だろ」
 明がそう言うと五人も「だな」とうなずいた。
 玄関までは十数段の階段を上らないといけない。地上から少し浮いたところから二階建てになっているのでわずかながら大きく見えた。
 建物の周りは砂利が敷かれており、ところどころ雑草が生えている。一か所だけ黒く焼け焦げた石が集まっているところがあり、おそらくキャンプファイヤーでもしたのだと思われる。この山小屋は誰かの持ち物だろうか。時々誰かが訪れているような雰囲気があった。
 玄関にたどり着き、明が扉に手をかけた。ふうっと一息ついてのぶを引っ張っり扉が開いた。
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