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第二章
No.35 どうして
しおりを挟むギル、シン、リアムとララは車を降り、セルビリア総本部へと全速力で向かっていた。
やはりギルの体調はまだ戻っていないらしく(戻っていたところで然程変わらないかもしれないが)、少し距離を空けて何とか後ろをついてきている感じだ。
シンは流石に速かった。
リアムとララの全速力に、並びはしなくともしっかり着いて来ている。
やはり、予感が的中した。
嫌な予感がずっとしていたのだ。
チラリと後ろに目をやると、ギルは心配で気が気でないといった表情をしていた。
自分と同じだ。シンは強く拳を握り締めた。
ーーーと、その時気配を感じた。
リリィのものでは無いが、リリィのものだ。
大蜘蛛の操りを解いた時のリリィの気配。それを本当に微かにだが、感じた。
シンは足を止めた。
急に立ち止まったので、後ろから来ていたギルは危うくぶつかる所だった。
「シン、どうしたの?」
「疲れたんだろう、いい。先に行こう。」
少し先で足を止め、ララと、そして苛立った様子のリアムが言った。
シンはその二人に制止の手をやった。
荒く息をするギルの横で、シンは意識を限界まで集中させ、その気配をもう一度探った。
いた。西の方角だ。近い。
「リリィの気配が...西の方角です!」
「何?...確かなのか?」
リアムが疑り深い声を出した。
が、シンは強く頷いた。
自分が感じられなかったのに、入りたての新米が気配に気付くはず無い、間違いだろう。
そういった感情と、志願者時代からずっと連んで来た仲なのだから、自分達よりも気配を敏感に感じ取れるのかもしれない。といった感情が入り混じった。
顔を見合わせ、リアムとララは後者を取った。
「よし、向かうぞ。案内しろ。」
「はい。こっちです!ギル、行くぞ。」
「あ、ああ。」
腰を折っているギルの背中を軽く叩き、シンは西の方角へと走り出した。
「止まれ!!」
一番最初に辿り着いたリアムが、ガン・キューブを構えながら大きな声で言った。
次にララも到着し、同じくガン・キューブをその人物達に向ける。
リリィと、リリィの手を握って上機嫌で歩いていたアルビノはため息を吐いて立ち止まった。
「リリィ!!!」
シンとギルも遅れて到着し、二人同時に叫んだ。
やはり、シンの感じた気配はそうだった。数メートル先に見えるあの人物は、間違い無くリリィだ。
が、もう一人の気配はまるで感じなかった。
その事に関しては、リアムとララの方が内心驚いていた。今こうして目に映っている為その存在を捉えているが、それでも尚気配は感じられない。こんなにも近くにいるのに。
アルビノが振り向いた。
侵入者とはこの少女の事なのであろうが、とても想像していた人物像とは異なっていた。
だがクラドやマドズ、それにアランが追いかけて来ないという事は、その三人を突破したのであろう。かなりの強敵だと確信出来る。
「大人しく武器を捨てろ。拘束する。」
「武器なんて持ってない。目ぇ悪いの?」
あからさまに機嫌悪く、アルビノが言った。
確かに、この少女は武器を持っていないようだ。という事はナーチャーなのだろう。リアムとララは更に警戒して二人を睨み付けた。
そんな二人の後ろで、ギルは恐る恐るガン・キューブを手に取った。自分のやる事はわかっている。大丈夫、ただリリィに向けてこれを撃つだけだ。
その動きを感じ取ったらしく、ようやくアルビノの視線が後ろの二人を捉えた。
シンと、そしてギルを。
「ああー、君が噂の?そうでしょう?」
唐突に、アルビノが指をさして声を上げた。
その指はギルに向けられている。
ギルは驚いて目を見開いた。
「封印の、だよね?ギルだっけ、名前。」
「な、何で俺の名前を...」
「...やはり情報が出回っているのね。」
名前を当てられ混乱するギルと、顔を顰めるララ。その経緯は定かでは無いが、クラドの予想は当たっていたらしい。
そして、四人は身震いした。
アルビノがいきなり冷気を発し、そして殺気に満ち溢れた目を向けたからだ。その目も、何故かギルに向けられていた。
これがこの少女の持つ能力のオーラか。
リアムとララはそう思い、そして異様に感じた。様々なナーチャーを見て来たが、こんなにも歪なものはゾーイ以外に見た事は無いし、それにゾーイの能力よりも何故か二人には恐れるものに思えた。
「ここで殺しちゃおうかな。君達。戦うのももう飽きちゃったしね...」
「ララ!」
微かにアルビノの肩が動き、リアムはララに呼び掛けた。そして殆ど同時に、二人はガン・キューブの引き金を引いた。
アルビノは避けもしなかった。
「あーあ、また捕まっちゃった。」
「大人しくしていろ、もう何をしても無駄だ。」
最も簡単に拘束出来た。後はリリィだけだ。
だが、何故だろう。この異様な少女への恐れは一向に取れる気配が無い。拘束され、もう何も出来ないはずなのに。
それに何故、この少女はこんなにも余裕のある笑顔を浮かべられるのだろうか。ただの狂気なのであれば、それでいいのだが。
「ギル、今の内に。」
「あ、はい!」
戸惑いながら、ギルが前に出た。
立ち竦むリリィに銃口を向ける。
リリィに動く気配は無い。その目は、何処か遠い場所を見ているようだ。
この距離なら外す事は無い。大丈夫。
ギルが能力を発動させた。
白いオーラがギルを包み、リリィへ構えたガン・キューブが白く輝く。
そして、撃った。
閃光がリリィの左胸に突き刺さった。
やった!ギルは安心し、後ろにいるシンを見た。
が、シンの表情はギルとは正反対のものだ。
何故、とギルは疑問に思い、もう一度リリィの方へ視線をやった。そして、理解した。
リリィは未だ、変わらず立ち竦んでいた。
何も変わらない。何も起こらない。
「ど、どうして...」
「ギル、もう一度撃て!」
焦ったようなリアムの声。
ギルはもう一度、リリィに撃ち込んだ。
だが、やはり変わらない。
リリィの横で、アルビノがクスクスと笑った。
「ギル、諦めるな!何度でもやれ!」
「で、でも...」
「いいから!」
シンの言葉に、戸惑いながらもギルは何度も引き金を引いた。が、やはり変わらない。操りは解かれない。
もう一度、もう一度。
だが何度やっても同じだった。
絶望の色が見え始める四人の顔に、アルビノは笑い涙を浮かべて大笑いした。
「畜生、どうしてだよ!!」
「確かにギルの能力は発動しているはずだ、何故操りが解かれない!?」
項垂れるギル、絶望するシン。
リアムとララも目を見開いていた。
どうして、何故。それは誰もわからなかった。
「なぁに、知らないの?」
可笑しくて仕方が無い、といった様子のアルビノが馬鹿にした様に言った。
一斉に四人の視線がアルビノへと移った。
「君のせいでもあるけど、まあこの場合は相手のせいかなぁ?その能力って凄く便利だけど、万能じゃないんだよぉ。」
「何...?貴様、何を知っている!?」
その言葉に、リアムが声を荒げた。
ギルとシンは顔を見合わせている。この女はギルよりもずっとギルの能力に詳しいらしい。
しょうがないなぁ、と言った顔をしながら、アルビノは口を開けた。
「相手の力があまりにも強大過ぎる場合、封印は弾かれるの。後はそうだなぁ、気持ちの問題もあるよね。人の感情の中で何が一番強い力を秘めるか知ってる?愛だとか友情だとかそんな生温い感情じゃ駄目。」
「答えは“殺意”だよぉ。だからギル君はもっと強くなって、もっと非情にならなきゃね。」
そう言って、アルビノはギルにとびきりの笑顔を向けて見せた。ギルは最早ガン・キューブを構えてすらいなかった。
駄目だ、自分にはどうにも出来ない。
「...だけど、ゾーイが今大蜘蛛を探している。ギルの能力が効かなくても、ゾーイが操りの根元である大蜘蛛を倒せば良い事なんだ。」
シンが言った。そうだ、とギルは項垂れていた頭を上げて暗い顔を取っ払った。
が、リアムとララはそうはならなかった。
ゾーイは大蜘蛛の気配を探れる。
自分達よりもずっと早くセルビナ国に到着しているはずなのに今もリリィが操られているという事は、ゾーイが倒されてしまったのか。いや、そんな事は無いだろう。
そうで無ければきっとーーー
「あの気持ち悪い蜘蛛はいないよぉ。」
続きは、アルビノが代わりに言った。
ギルとシンは目を見開いた。リアムとララは、やはりそうか。と目を細めた。
「あの蜘蛛が操ってるなら、簡単に君の能力で封印出来るはずでしょう?違うよ、このお人形さんはもっともっと強い糸に縛られているの。何年間もね。」
「何...!?」
「はあ、飽きた。そろそろ行こうかな。」
唐突に。アルビノが一歩前へ出た。
あまりにも自然過ぎて、それがどういう事か四人共すぐには理解出来なかった。
違う、拘束シールドは?
まさか、知らぬ間に解いてしまっていたのか。
が、拘束シールドはアルビノの後ろに今も抜け殻となって存在していた。アルビノが出て来た場所から全体にかけて、微かに波打っている。
それを見たリアムとララの脳内に、感知シールドの不具合の事が過ぎった。まさか、まさかこの少女だったのでは無いのか。
「もういいや、バイバイ。」
「ま、待て!!」
リリィの手を取り、もう片方の手を四人に向けて小さく振るアルビノ。
四人が一斉に二人の方へ走り出した。が、それと同時にアルビノが振っていた手を前へと出した。
突如、息が出来ない程の衝撃が襲った。
四人は避ける事も出来ずに勢い良く後ろへ吹き飛ばされ、打ちつけられて血を吐いた。
「く、そ...リリィ...!」
「お兄ちゃんが気を遣ってくれたし、お礼に殺さないであげるねぇ。」
薄れ行く意識の中で、アルビノの声がぼんやりとシンの耳に聞こえた気がした。
そして、シンの意識は深い暗闇の中へと落ちて行った。
next
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暗い。寒い。
誰もいない。何も見えない。
自分が生きているのか、死んでいるのかも定かでは無かった。
ああ、私の最後の望みは叶わなかったらしい。それを最初から知っていれば、こんな苦痛を長い間感じなくても済んだのに。
もう、もういい。もう眠ってしまおう。
既に閉じていた瞼を、更に閉じた。
そのまま、全てを閉ざしてしまおうとした。
が、その時、身体が冷たい床から浮いた。
誰かに上半身を抱きかかえられている。
それを理解し、最後の力を振り絞って瞼を開けた。
「クラド...」
シャリーデアはその姿を見て微笑んだ。
神に感謝した。最後に願いを叶えてくれた。
薄暗い部屋でその表情はあまり見えないが、どんな顔をしているかは大体想像が付いた。
悲しんでいる。私の為に悲しんでくれている。
シャリーデアはそれだけで充分満たされた。
「シャリーデア、どうして...」
どうして、の後の言葉は、口には出せなかった。
が、シャリーデアにはそれに続く言葉が何なのかも理解出来ていた。
助からないとわかっていて、もう手遅れだとわかっていて、何故治癒を施して今まで苦痛に耐えていたのか?
きっとそうだろう。自分だって、誰かがそんな馬鹿な事をしていればそう疑問に思う。
「最後に...あなたの顔を見たかった...」
そう掠れた声で言って、クラドの頬を撫ぜた。
もう肌の温かさも感じない。もう彼を何も感じられなくなっている。
シャリーデアは途端に悲しくなり、涙を浮かべた。
「それに...伝えたい、事が...」
クラドが聞き取ろうと、顔を寄せた。
こんなに間近に顔を見る事は今まで無かった。
ああ、何て幸せなんだろう。
「あなたの事が、ずっと...ずっと」
もう最後の方は、声にすらならずに息が漏れただけだった。
伝わっただろうか。伝わっていて欲しい。
視界に映るクラドの悲しそうな顔が、だんだんと暗闇に消えて行く。
ああ、あんまり望んではいけないな。
こうして顔を見られただけでも、私は充分幸せなんだから。
「ありがとう。」
彼の言葉が聞こえた。
現実か、幻聴か。
そのどちらでも良かった。
微かに微笑みながら、クラドの腕に抱かれ、シャリーデアは眠った。
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