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第三章

No.41 同盟軍

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先進国とは、何処も息の詰まる暗い空と空気をしているのだろうか。

数十階建ての建物の屋上から、クラドはラギス国の暗い景色を見下ろしていた。

確かに現時刻は夜中ではあるが、それでもセルビナ国では星や空が光り輝き、昼間の景色とはまた違う美しさを楽しめた。
レイドール国の景色も好きにはなれないが、このラギス国の黒一色に塗られた景色には嫌悪感すら覚える。

そして、一つ不気味な事がある。
同盟軍がラギス国に潜入し、真ん中に聳え立つラギス軍の本基地が肉眼で確認出来る程まで距離を進んで来た。が、兵士どころか民の姿すら一人も見当たらなかったのだ。

周りの建物の中に気配も無い。
兵士達は基地の中にいるとしても、一般の民達は何処へ行ってしまったというのか。

嫌な考えが過り、目を細める。
すると、後ろから近付いて来る重い足音が聞こえた。


「...さすがに気付かれた。」

「上出来です。ありがとうブラグマ。」


振り返ると、褐色の肌をし、真っ黒の軍服に身を纏った大柄な男がいた。
ブラグマの低く唸る様な声にクラドは笑顔を(フルマスクの為それは届かないだろうが)浮かべてみせた。


「同盟軍の兵士一人一人の周囲に幻覚をかけて気配を乱す。ミジュラのナーチャーでなければ出来ない芸当ですね。」

「出来れば兵士達が基地へ突入するまで気付かれずにいたかったのだがな。相手も同種のナーチャーであれば、そう簡単にはいかぬ。」


不満そうに言い、クラドの横へ来て同じく屋上からの景色を見下ろすブラグマ。
基地の中の“気”が大きく揺れている。
我々に気付き、兵士達が動き出したのだろう。


「全兵士、聞け。敵に気付かれた。これから先頭部隊達の幻覚を解く。兵士も民も、ラギスの者は皆殺しにしろ。」

『了解、総隊長。』


そのやり取りを、クラドは黙って聞いた。
ラギス国は罪が重すぎる。皆殺し。

そしてそれはリリィも含め、だ。
仕方の無い事だが、その事を聞いた時の四人の顔は悲惨なものだった。


「...君達には本当に感謝している。」


不意に、ブラグマが言った。


「つい先日まで、終わらない悪夢をずっと見させられていた。その最悪の状態から救ってくれたのは君達だ。迷惑をかけてしまったな。ファルアロン軍の兵士達は皆、君達に命を捧げるつもりでここに来ている。囮にでも盾にでもどうにでもしてくれて構わん。」

「まあ、確かに迷惑はかけられましたけど、それも操られての事ですし。ありがとう。でも、皆生きて帰らなければ。ファルアロン国はまた幾らでもやり直せます。」


真っ直ぐにブラグマの目を見つめ、真っ直ぐな声でそう言ったクラド。
ブラグマは申し訳無さそうに目を伏せたが、やがてまたクラドを見た。その表情は穏やかなものだ。


「アラン殿は来ておられないのだな。もう一度ちゃんとお礼を申したかったのだが。」

「ああ、彼はセルビナ国に留まっていますよ。皆殺しならばお前達だけで充分だろうって。それにセルビナ国にいつラギス国や操られた国の兵士が攻め込んで来るかわからないですしね。」

「そうか...まあ、彼の言う通りだな。ガーディアンの力は凄まじい物だ。この戦も長引く事は無いだろう。」

「...どうですかね。敵はラギスだが、ラギスだけでは無い。ガーロンの者も紛れ込んでいるでしょうし、あの大蜘蛛だって出て来るでしょう。嫌な予感がする。」


操りの根元である大蜘蛛を抹殺し、ラギス国首領であるヒューラを殺し、そしてラギス軍とラギス国の民も全て皆殺しにする。

ここまで幻覚のお陰で何事も無く来れた。
もう勝利は充分に見えても良い頃だ。
が、クラドはどうしても、何かが起こる気がしてならなかった。とても嫌な、何かが。

遠くから銃声が聞こえる。
ついに、敵軍との戦いが始まった。
そろそろ、ガーディアン出動の時だ。

と、その時。クラドの無線が鳴った。
ガーディアン専用のものだ。


『クラドさん、来て下さい!』

「うん、わかった。すぐ行くよ。」


ギルの声だった。
少し焦っている様な声だったが、全軍では無くガーディアン専用の無線を使ったという事は。
クラドの頭の中にカレンの姿が浮かんだ。


「では、俺達も準備します。」

「ああ。無事にまた会おう。」


ブラグマに一礼し、クラドは飛んだ。
屋上から地面まで何十メートル、いや百メートル以上はあるだろう。
能力も使わずに、窓枠などの少しの足掛けだけを使ってみるみる小さくなって行くその姿を、ブラグマは最後まで見送った。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










先頭部隊の気配を探られた為、下で待機していた兵士達も殆どが戦場へと向かった。
ミジュラの幻覚はとても便利なものだが、こちらも仲間の気配を感じ取れない事は少し面倒だ。

数メートル先にいるカトレナの存在さえ、視界をぐるりと回して姿を捉えるまで気が付かなかった。


「クラド、こっちだ。」


そう小声で言って手招きをするカトレナ。
クラドはカトレナに続いて、民家らしき建物の裏へと連れられた。

マドズと、シン、ギル、ゾーイに囲まれる形でカレンが蹲っているのが見えた。
震えている様だ。表情は見えない。が、恐らく能力を発動させているのだろう。
クラドとカトレナに気付き、ギルが急いで立ち上がって近寄った。


「あの、少し前からカレンが...」

「だと思った。とりあえずカレンちゃんの意識がこちらへ戻るまでは静かにしていよう。」


そう言ってカレンを見据えるクラド。
カレンは能力を自分の意思で発動出来ない。
その為、この戦場へ加わる事にあまり気乗りしなかった。カレンの存在も、敵に知られているかもしれないのだし。

だがセルビナ国へ残る様にと幾ら言っても、カレンは頑として首を横に振った。リリィが行ってしまった時も、自分は安全な場所へと避難させられ、守られていた。そんな事はもう絶対に嫌だと。


今、何を見ているのかは知らない。
だが、それは本当に偶然なのだろうか?
我々ガーディアンは強い意思を持って覚醒する。それと同様に、リリィを想う強い意思がカレンの能力を発動させたのでは無いのか。
クラドはそう感じていた。


「カレン、大丈夫か?」


突如、息を吹き返した様にカレンの身体が大きく震え、肩で荒く息をした。意識がこちらへ戻った様だ。
ぼんやりとした表情のカレンに、その場の全員が近寄る。やがて息を整え、カレンは口を開いた。


「リリィがいた...本基地の中です。それに、あの化け物の気配もしました...」

「それは確かか、カレン。お前、基地の中をずっと見ていたのか?」

「リリィの居場所をと思って...ラギス国にある基地を全て覗きました。大蜘蛛もリリィも、多分ヒューラもあの中に居ます。」


そう言って、小刻みに震える腕を持ち上げて聳え立つ本基地を指差すカレン。
リリィの居場所がわかった、と歓喜の息を呑む三人を他所に、マドズ、カトレナ、そしてクラドは唖然とした。

あの一瞬で、ラギス国内を全て見据えた。
この能力を己の意思で発動出来るまでになれば、凄まじい戦力になる。マドズとカトレナの目線がこちらへ移された。同じ事を思っているのだろう。


「早く、向かわないと、リリィが...」


そう言ってふらふらと立ち上がるカレン。急いでゾーイとギルがその身体を支えた。
体力の消耗が激しい。素晴らしい能力だが、あまり多用するものでは無い様だ。


「...カレンちゃん、君の存在はラギス国に、もしかしたら闇組織ガーロンにも知られてしまっているかもしれない。」


カレンの肩に手を置きながら、クラドが静かに言った。


「君はきっと狙われる。このまま俺達と基地へ突入するのは危な過ぎる。出来れば連れて来たく無かったんだ。」


引き返すなら今が最後だよ。
真剣そのものの眼差しで言うクラド。
が、カレンはそれ以上に強い目をしていた。


「私は行きます。死んでも足手まといにはなりません。リリィをちゃんと自分で連れ戻したいんです。」

「俺からも、お願いします。俺達全員揃ってリリィを救いたい、操りを解きたい。リリィが殺されてしまう前に。」


カレンに続き、シンが言った。
その目も力強いものだった。後ろにいるギルも、ゾーイも同じくそうだ。
クラドが横にいるカトレナとマドズを見ると、二人共諦めた様に頷いて見せた。

甘い考え、危ない賭けだが、この少年達の意思はとても強いものだ。
やがて、クラドも浅く頷いた。


「いいだろう。」

「あ、ありがとうございます!」


その答えに、思わず飛び跳ねるカレン。
他の三人もホッとした様子だ。
クラドはそんな四人に優しく笑いかけ、そしてすぐに厳しい表情へと変えた。


「これから俺達も本基地へと乗り込む。俺達には幻覚がかけられたままだけど、能力を発動させてしまえばそれは解かれてしまう。周りの敵兵は全て他に任せて、基地に突入して敵と出くわした時に初めて発動させるんだ。」

「俺とマドズはヒューラを、カトレナや他のガーディアンは基地内にいる敵兵と大蜘蛛を全滅。君達四人もそうしながら同時にリリィを見つけ出せ。だけどゾーイ君、もしアルビノの気配を感じたらそちらへ行く事。いいね?」

「了解。」

「...リリィの操りが解けなかった場合は殺してしまわなければいけない。同盟軍の他の兵士が先にリリィに辿り着いた場合、問答無用に殺すだろう。そうはならないように祈っているよ。」

「はい。」


クラドの言葉に、四人共険しい表情をしてはいるが強く頷いた。クラドもまた、四人に強く頷いて見せる。


「全ガーディアン、突入開始。支部基地へ向かう者は全滅させ次第、本基地へと向かえ。いいね。」

『了解、副リーダー。』

『了解、突入します。』


次々と、他の場所で待機していたガーディアン達から応答が入る。遂に始動だ。
四人共顔を見合わせ、気を引き締めた。


「さあ、俺達も向かおう。」


その言葉を合図に、七人は一斉に本基地へと走り出した。











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